Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

少女と冬の妖怪

2007/01/23 13:58:08
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警告
 劇中に書き手の《趣味的独自設定》及び《独自設定登場人物》が登場します。
 その手の独自設定やオリジナルキャラクターが許せない性質の方は、
 これ以上ご覧にならない様、お願い申し上げます。













































『――――次の冬が来るまでどこかで隠れているらしい』

九代目阿礼乙女稗田阿求著 幻想郷縁起より抜粋




「――――だって。気付かれてないみたいだよ、ばあ様」
「ばあ様は止めなさい」

庵。
そう、庵。
小屋でも家でも屋敷でもなくて、多分これは庵と、そう思う。
住んでいる私をしてこんな曖昧な表現を下してしまう、取り敢えず庵らしき小さな建物の中、
この時期に致命的なまでの薄着をした小娘が一人、分厚い本を読んで笑い転げていた。

小娘、と本人に言ったら怒るかも知れない。
でも女だとか女性だとか言うにはまだまだ幼い。主に背丈と胸と性格が。
だからと言って女童と呼ぶには流石に大きい。主に背丈と性格が。

そんな理由から小娘。少女と言うにはどこか違う。主に性格が。


「友好度 低、だって。言いたい放題言われてるよ、ばあ様」
「ばあ様言わない。良いのよそれで」


この失礼な小娘が読んでいるのは昨今流行の幻想郷縁起。
最近やっと生まれたらしい九代目が書き記した最新版。
今回のは今までの物とは違って、こんな小娘が気軽に読める楽しい書物になっていた。

幻想郷に住む妖怪変化全般から代表的で有名な数名を選出して、その姿や特徴を書き出してある。
写真も載っていたから、多分あの天狗娘が奔走させられたんじゃないかな、と思う。

当然、特徴の大きな私の事も載っていた。
目の前で笑い転げる小娘が読んでいるのは、その私の項目。
何がそんなに面白いのか、自分の年齢や服装や容姿やその他諸々を綺麗に忘れ去った風情の笑いぶり。


ああほら、裾が肌蹴るから転がり回るのを止めなさい。
嫁入り前の娘が大きな口を開けて笑わないの。ただでさえ相手が居ないのに。

ついつい世話焼きの母親みたいな事を思い浮かべてしまってから、私は一つの事を思い出した。




――――そう。あれは確か半日ほど前。

私の仮住まいと言って良いのかどうかは分からない庵だと思う建物に、一通の手紙が投げ込まれた。
住んでいるのは私一人。住所は知りたくても分からない筈の適当な位置にある建物に、一体誰が。

その手紙(幻想郷では珍しくない縦書きの一枚封筒)にはこう在った。

『幻想郷母の会』





――――余計な事を思い出してしまったかも知れない。

結局その手紙は適当に流し読んだ後に適当に仕舞ったと思うけれど、一体全体何だったのやら。
筆跡は間違いなく年に二度ほどお世話になる、そして今時分は眠っている筈の妖怪のもの。

親交浅くない相手からのものでもあるし、返事だけでも書いておかないと。




違う違う。今は目の前で笑い転げる小娘への教育的指導が先。
まあ見ているのが私だけだから多少肌蹴ても大口開けて笑っても問題は全然無いのだけれど。
……あの娘チルノで見慣れているところはあるし。

取り敢えず母親的で教育的な指導の基本は 『お尻百叩き』 と勝手に指定。
そう決めた私は気配を悟らせず静かに立ち上がり、
笑い転げ過ぎて同性でも目のやり場に困るか理性の処置に困る姿になった目の前の小娘に
『昔ながらの躾の風景』を容赦なく実行した。











「ばあ様、酷い」
「酷くないわ。私は人間への友好度が低い妖怪なんだからこれで当然。それからばあ様言わない」

実に見事な教育的指導を終えて四半刻(30分)。
未だにぴすぴすと嘘っぽく泣いている小娘に数枚の上着を被せ、どうにか庵っぽい建物から出す事に成功はした。

外は寒いと解っているから分厚い防寒着を大量に用意するだけの理性を持っているのに、
どうして出かける先が此処なのか理解に苦しむ前に頭痛がして来るのはきっと気の所為なんかじゃない。
気の所為なんかじゃないんだから――――気の所為にしたい。

「とにかく。寒いし危険なんだからもう来ない、良いわね?」
「言うほど寒くないし、危険でもないと思うよ?」

何を言ってもこの通り。
何の為に私がわざわざ天狗経由とは言え九代目に

『人間に対する友好度を低めに書いておいて。それから冬の雪山に近付かない様に警告も』

と頼んだと思ってるのかしら。


確かに静かに暮らしたいと言うのは勿論当然の事だけど、
一応私の子孫―――少し変だけど取り敢えず多分そんな存在が危険な雪山に来ない為だと言うのに、もう。


「でも、さ」
「なに?」

いい加減真っ直ぐ帰るかと思った小娘は、くるっと振り向いて話を続行する構えを見せた。
反射的に応えてしまったのが運の尽きなのか私の甘さなのか例の手紙の意味なのか……。

「いい加減じい様に操立てて一人暮らしはどうかと思うよ。ばあ様って色白で綺麗だし」
「――――え」

見抜かれた。そう思った。
私には種族的、と言うより伝承的―――それが妖怪わたしたちの基本だけど―――な逸話がある。

大抵の妖怪は、自分のテリトリーに迷い込んだ人間を良く殺したり傷付けたりする。
それ自体は妖怪の本能に根差す物だから言い訳も何も無い普通の事。
私や私の同系列の妖怪もまた、自分の棲家に迷い込んだ人間を殺す事がある。


ただ、時々、稀に、本当に極々稀に。
迷い込んだ人間と所帯を持ってしまう妖怪も、居る。


あれは何十年―――もっと前かも―――昔の事だったのか。
一人の同族が住処に迷い込んだ二人の人間の内の一人を殺し、もう一人を逃がした。

殺さなかったのはただの気紛れで、別に温情をかけたとかそんな事じゃなかったと、そう当事は言い訳した。


気紛れでも温情でもなく、私を見詰めたその瞳に心を溶かされたなんて。
そんな事は恥ずかし過ぎて、その時の私は誰にも言えなかったから。


――――そう、その 『一人の同族』 は、私だった。



結局私は人間のフリをして人里に下り、恥ずかしながらも一目惚れをした男と暮らし始めた。
その後の出来事は外の世界でも幻想郷でも有名なので割愛。

私は夫と子供を残して山に帰り、やがて天狗かぜの噂で子供の成人や夫の死を知った。

そして私の子供が代を経て、いま此処で私の目の前に立っている……と。



だからこの小娘―――私から見て雲孫うんそんに当たる一応多分人間―――は、私を 『ばあ様』 と呼ぶ。
勿論正確には祖母どころかもっと遠い関係なのだけど、言ったらもっと失礼な事を言われそうなので口チャック。



「人を近付け無いようにする為に、わざわざ 『あまり友好的じゃない』 って書かせたんでしょ?」
「どうしてそう思うの?」
「ほら、巻末に 『妖怪からのアピールも』 とか 『若干妖怪の危険度を水増しして』 って」

そう言って実家から持って来た新品の本のある頁を掲げて見せた。
成程、確かに書かれている……って、あの九代目、余計なところで正直者なんだから。

だからと言ってそれとこれとを結び付けるのは正直どうかと思いたい。
実際のところ 『操を立てる』 なんて古い事を今の今まで意識していなかった……筈。
――――もし仮に無意識にやっていたら重症も良いところ。最悪、妖怪の沽券に関わりかねない。

ただその的も見当も大外れな推理じみた事を聞いて驚いたのは事実だった、かも知れない。
ああ私も乙女してるのねー……なんて柄にも無さ過ぎる事を考えて――――違う違う。
私は妖怪、妖怪。人間に怖がられてナンボの商売―――じゃなくて人生―――でも無くて妖怪生。
深呼吸して気を鎮めてしまわないとほら吸って吐いて吸って吐いて吸って吸って吸って吸って……けほけほ。


「ばあ様?」

立派な挙動不審者になっていた私の顔を覗き込むその暢気な表情に、私は迷わず凸ピンを撃ち込んだ。
どこかで狼が吼えた気がした。

それとばあ様って言うな。












「痛い痛い痛い。すっごく痛い」

真っ赤になった額を押さえてぴすぴすと嘘っぽく泣いている雲孫を今度こそ家に帰らせるべく、
私は努めて怖く見える表情を作り、できるだけ冷たく聞こえる声で対応に当たった。
……何処からとも無く 『丸顔丸声で怖く冷たくは難しいと思う』 と言う失礼な幻聴が聞こえたけど無視無視。

「とにかく帰りなさい」
「はぁい。それじゃあ、ばあ様。また来るね」
「――――また来たんじゃ意味が無いでしょう」


きゃはははは、と年相応なのか実年齢より下なのか胸相応なのか判別し辛い笑い声を上げて、
白い毛玉みたいな格好になった小娘は、転がる様に白い斜面を駆け下りていった。

ああもう、転ぶから走らない。毛玉が雪玉になるでしょう。

それからばあ様言うな。













「ふぅ……」

騒がしい雲孫を見送ったまま何するでもなくぼんやりしていると、人知れずに溜息が零れた。

別にあの雲孫が帰ったから寂しいなんて、そんな理由じゃない。
単に疲れただけ。何て言えば良いのか、無性に疲れる。
いつもの様に遊びに来る大抵二人組の妖精たち―――片方は付き添いだけど―――と比べて騒ぐでもないのだけど
それでも何故かぐったりと疲れる。

とは言えこのぐったり状態を万が一にでも見られた日には 『ばあ様』 呼ばわりを否定できなくなる。
それはいけない。


年寄り臭い掛け声をかけない様に注意しながら伸びをして、いつもの仕事をしに雪山の上空へ。






さあ、今年の降雪量はどうしようかしら?
初めまして、藤村たかのと申します。
かなり長い間読み手専門で居たのですが、耳元で白い騒霊に囁かれたらしく書き手側にも足を突っ込みました。

東方初書き……でも無いのですが、初投稿でいきなり独自要素全開は拙かったと反省してます。



語り手はこの季節大人気、ふっくらふかふか太ましい冬の妖怪レティ・ホワイトロック。
何故か反射的に書きたくなった為に何も考えずに書いてしまいました。
……多分良く似た話は探せば山の様に発見されると思います。

劇中で 『小娘』 『小娘』 と呼ばれている人物はレティに言わせた通りです。
多分何代か前に雪女の血が入った所為で寒さに強いのでしょう。
冬になると時々 『ばあ様』 の住処まで土産片手に押し掛けます。
名前も何も考えてません。

またレティが 『あの娘(こ)』 と呼んでいたのはチルノの事です。
付き添いのもう一人は当然、大妖精。

なお劇中の 『雲孫』 ですが、これは玄孫の玄孫の事です。
だとするとレティが 『雪女』 したのはどれだけ前なのやら……。



また誰かに何か囁かれたら送り付けたいと思います。
それではどうか宜しくお願いします。


追記
 劇中、伏線に似た何かが隠れているかも知れません。
藤村たかの
http://folklore.bufsiz.jp/
コメント



1.蝦蟇口咬平削除
人間に化ける、ねえ。春の間とか我慢できたのか?
というか、母の会ってどんな面子か気になったり
2.手スタメンと削除
これは非常に浪漫溢れる設定であり端的に言って続編は難しめながらも、
別SSへの設定移植を希望。
普段描かれていない妖怪のおはなしが読めるのは良いことだ。
3.藤村たかの削除
ひー、今朝の昨夜でもう感想が付いてるっ!
ありがたやありがたや……。

蝦蟇口咬平さん
 感想、有難う御座います。
 人間に~のくだりは、怪談“雪女”そのままのイメージでした。
 母の会は……じ、次回をお楽しみにっ(逃走)

手スタメンとさん
 感想、有難う御座います。
 公式設定や共通二次創作的設定を巧く掴めない為の悪足掻きですが、
 どうにか繋がった感じになる様に書き連ねてみます。
 
4.名無し妖怪削除
俺の中の雪女のイメージがほっそりした絶世の美女から太ましくて可愛い娘に変わっていく…!
>呼んでいる
読?
5.削除
この発想はなかった。

ええい、雪女民話のせいか、レティがやたら可憐で慎ましげな表情に脳内変化をっ
6.名無し妖怪削除
これはいいおばあちゃんレティ。幻想郷母の会には間違いなく美鈴も入ってるはず
7.藤村たかの削除
名無し妖怪さん(下側)
 感想、有難う御座います。
 新説、雪女は雪ダルマだった! ですね(氷結)
 誤字報告感謝です。修正しました。
翼さん
 感想、有難う御座います。
 新説、レティは儚げでお淑やかな恋する乙女だった!
 ……そう考えるとチルノが淑女への階段を上り出しそうです。何故か。
名無し妖怪さん(上側)
 感想、有難う御座います。
 何故か妖々夢で見た時から『レティは優しい』と言うイメージが。
 そうですねぇ……美鈴は優しくて温かくて何より胸が……けほけほ。
8.名無し妖怪削除
雪山の集落