その特別でもなんでもない一日
幻想卿と外界との両方に位置する博麗神社。そしてこの神社から強大な結界が張られており、幻想卿全体を包み込んでいるのだ。世に言う博麗の大結界というやつだ。
その結界の維持を任されているのが、博麗神社の巫女こと私、博麗霊夢である。
外の世界からは隔離されたこの幻想卿であるが、どこぞの境界を操るスキマ妖怪の気まぐれで結界が弱くなる、なんてこともしばしば…。そんなときは私が直々に出向いて、その妖怪をとっちめているのだ。
さて、そんな幻想卿にも正月が訪れた。博麗神社もその例外ではなく、正月だ。
「ま、正月って言ってもこの神社にわざわざ初詣に来る人間なんて居ないわね」
ふぅ~っと溜息を1つついて、箒を片手に神社の境内を掃除中。
実はこの博麗神社は、幻想卿では端っこに位置しているので人里からわざわざ人間がきてお参りに来るなどということは滅多にない。その代わりに変な人間や妖怪、吸血鬼なんぞが集まって来るという変な神社だ。よって賽銭もほとんどない。
「今年のお正月もいつもと変わらない日になりそうね」
ぱっさぱっさと箒で掃く。1月というのにいつまでたっても枯れ葉が落ちてくる。
何時もどおりの生活なら、魔理沙やレミリア辺りが来そうだけど、昨日あれだけドンちゃん騒ぎしてたから今日は来ないかもね。
年越し宴会などというものを私の許可なく境内でおっぱじめたもんだから、ゴミがそこかしこに…。で、結局誰も片付けずに帰っちゃうんだから始末に終えないわ。
などとぶつくさ言ってもしょうがないか…
掃く手を止めて縁側に座る。もちろんお茶付きだ。
「あー、お茶がおいしいわー」
我ながら年寄りくさい言葉だ。
空を見上げると青色が一面に広がっている。そんな中で東の方角には薄っすらと下弦の月が見えている。冬になると見えるのだ。
「月ねぇ。さすがにあれは本物よね…」
ちょっと前に本物の満月を隠してしまう、なーんていう事件があったもんだから。
「ま、平穏が一番ね」
神社の境内の掃除がだいたい片付いた昼下がりの午後。
「あら、珍しいのが来たわね…」
普段、ちょっとやそっとの妖怪が来たって驚かない私だが、今回ばかりはちょっとびっくりした。こんな日に来るとは思いもしなかったのだから。
「よっ、久しぶりだな」
片手を軽く上げてこちらに挨拶してきたのは…
「あんたがこの神社に来るなんて…、午後から雨でも降るのかしらね?」
「いやいや霊夢。私とて藤原貴族なんだ。正月の初詣ぐらいするさ」
…藤原妹紅。
うーん、珍しい。藤原の家系は1300年ほど前に栄えた貴族だ。外の世界の話だが…。
「まぁ、誰が来たって参拝客として歓迎するわ。あ、お賽銭箱はそこよっ!」
ビシッ!っと指差す方向には、叩けばいい音が響きそうなほど空っぽな賽銭箱がある。ホントに空だわ…。
「残念だが、お金は一銭も持ってないよ? その代わりに…」
と左手の物を差し出した。
「けーねからのお土産と村からの奉納物だ」
見ると、お酒やら大きな魚やら野菜やら果物やらがたくさん入った風呂敷だ。
(じゅるり…)
「んあ?」
しまった! ついついよだれが…
「まままぁ、しょうがないわね。神代に奉げとくわ」
「ん、よろしく」
そう言って受け取った風呂敷は…
ガクンと腕が抜けそうなほどの重さだった。
「うあっ。おもっ。こんな重いものを良く一人で持ってこれたわね…」
仕方がないので妹紅に持たせて神代まで運んでもらうことに。
「あっはっはっ。1000年以上も生きていると無駄に力が付くんでね」
なーんてことを言ってたけど、マジか…
午後、夕方ちょっと前の時刻。
「しっかし本当にこの神社は人がこないな…」
縁側で隣に座ってお茶を啜ってる妹紅が一言。
「いやぁ。まぁ、しょうがないんじゃないの? もっとアピールしたほうがいいのかしら?」
「そーだねー。村の者の中には『あの神社は既に妖怪に乗っ取られてる』なーんて言ってる人もいるぐらいだからね…」
そんな神社にあなたはよく来る気になったわね…
「それはちょっと困るわね…。ってそういえば妹紅」
「ん?」
「村にもご神体や社ぐらいあるんじゃないの? 今年はどうしてこの神社に来たのかしら?」
たぶん妹紅の住んでる村の近くにも神社はあるはずだ。先ほど言ってたけーね、ワーハクタクの上白沢慧音が守護していると思うが…。
「んー、まぁ簡単に言えば。来てみたかった、かな」
「へー、ホントに簡単な理由ねって、それは理由にならないし…」
ずずずーっとお茶を一口。
「この私、不死身の肉体を持った私に勝った巫女がいるなんて、どんだけすごい神社なのかと知りたくなって来たのさ」
妹紅は蓬莱の薬を服用して不老不死の力を手に入れた人間だ。
「そして、来てみたらこの有様だったっと」
私自身でとどめを刺してみる。
それを聞いた妹紅は、くすくすと笑い出した。
「ん? 何よ」
「いやー、予想通りだったよ。ふふっ」
「あー! また笑った!」
「ははっ、ごめんごめん」
それでも笑う妹紅。ま、いいけどね。
「それにしても、不老不死ってどんな気分なの?」
うっすらと茜色になりつつある西の空を見上げて。
「?」
最初、妹紅は頭に?マークを乗せていたが…
「突然妙な事を聞くなぁ。
たいして普通と変わらないよ。怪我をすれば痛いし、お腹も空く。たしかに病気になったり死ぬなんてこともないけど。
一番苦しいのは毒だね」
「毒?」
ほー、意外だなぁ。
「ちょっと前に輝夜に一杯盛られた時は酷かったわ。三日三晩ずーっと魘されてたよ。全身から毒が抜けるまでに何度死にそうになったことか…。死なないけど」
輝夜っていうのは、こっちも蓬莱の薬を飲んだ不老不死で妹紅とは文字通り永遠の宿敵ってやつかしらね。何度もお互いに死闘を繰り広げてる犬猿の仲だ。
「うっわー、それは悲惨ね…」
この前の弾幕バトルでもちょっとの怪我なら一瞬で治ってたしなぁ。さすがに五体バラバラにしたら「痛いー、死ぬー」って言ってたな…。
「霊夢と紫にも相当なコトをされたけどね!」
「あはははー」
笑って誤魔化した。
一年の始まり、いつも通り落ち着いて縁側でお茶を啜るのもいいと思っていたけど、たまには変化も必要だぁね。
幻想卿と外界との両方に位置する博麗神社。そしてこの神社から強大な結界が張られており、幻想卿全体を包み込んでいるのだ。世に言う博麗の大結界というやつだ。
その結界の維持を任されているのが、博麗神社の巫女こと私、博麗霊夢である。
外の世界からは隔離されたこの幻想卿であるが、どこぞの境界を操るスキマ妖怪の気まぐれで結界が弱くなる、なんてこともしばしば…。そんなときは私が直々に出向いて、その妖怪をとっちめているのだ。
さて、そんな幻想卿にも正月が訪れた。博麗神社もその例外ではなく、正月だ。
「ま、正月って言ってもこの神社にわざわざ初詣に来る人間なんて居ないわね」
ふぅ~っと溜息を1つついて、箒を片手に神社の境内を掃除中。
実はこの博麗神社は、幻想卿では端っこに位置しているので人里からわざわざ人間がきてお参りに来るなどということは滅多にない。その代わりに変な人間や妖怪、吸血鬼なんぞが集まって来るという変な神社だ。よって賽銭もほとんどない。
「今年のお正月もいつもと変わらない日になりそうね」
ぱっさぱっさと箒で掃く。1月というのにいつまでたっても枯れ葉が落ちてくる。
何時もどおりの生活なら、魔理沙やレミリア辺りが来そうだけど、昨日あれだけドンちゃん騒ぎしてたから今日は来ないかもね。
年越し宴会などというものを私の許可なく境内でおっぱじめたもんだから、ゴミがそこかしこに…。で、結局誰も片付けずに帰っちゃうんだから始末に終えないわ。
などとぶつくさ言ってもしょうがないか…
掃く手を止めて縁側に座る。もちろんお茶付きだ。
「あー、お茶がおいしいわー」
我ながら年寄りくさい言葉だ。
空を見上げると青色が一面に広がっている。そんな中で東の方角には薄っすらと下弦の月が見えている。冬になると見えるのだ。
「月ねぇ。さすがにあれは本物よね…」
ちょっと前に本物の満月を隠してしまう、なーんていう事件があったもんだから。
「ま、平穏が一番ね」
神社の境内の掃除がだいたい片付いた昼下がりの午後。
「あら、珍しいのが来たわね…」
普段、ちょっとやそっとの妖怪が来たって驚かない私だが、今回ばかりはちょっとびっくりした。こんな日に来るとは思いもしなかったのだから。
「よっ、久しぶりだな」
片手を軽く上げてこちらに挨拶してきたのは…
「あんたがこの神社に来るなんて…、午後から雨でも降るのかしらね?」
「いやいや霊夢。私とて藤原貴族なんだ。正月の初詣ぐらいするさ」
…藤原妹紅。
うーん、珍しい。藤原の家系は1300年ほど前に栄えた貴族だ。外の世界の話だが…。
「まぁ、誰が来たって参拝客として歓迎するわ。あ、お賽銭箱はそこよっ!」
ビシッ!っと指差す方向には、叩けばいい音が響きそうなほど空っぽな賽銭箱がある。ホントに空だわ…。
「残念だが、お金は一銭も持ってないよ? その代わりに…」
と左手の物を差し出した。
「けーねからのお土産と村からの奉納物だ」
見ると、お酒やら大きな魚やら野菜やら果物やらがたくさん入った風呂敷だ。
(じゅるり…)
「んあ?」
しまった! ついついよだれが…
「まままぁ、しょうがないわね。神代に奉げとくわ」
「ん、よろしく」
そう言って受け取った風呂敷は…
ガクンと腕が抜けそうなほどの重さだった。
「うあっ。おもっ。こんな重いものを良く一人で持ってこれたわね…」
仕方がないので妹紅に持たせて神代まで運んでもらうことに。
「あっはっはっ。1000年以上も生きていると無駄に力が付くんでね」
なーんてことを言ってたけど、マジか…
午後、夕方ちょっと前の時刻。
「しっかし本当にこの神社は人がこないな…」
縁側で隣に座ってお茶を啜ってる妹紅が一言。
「いやぁ。まぁ、しょうがないんじゃないの? もっとアピールしたほうがいいのかしら?」
「そーだねー。村の者の中には『あの神社は既に妖怪に乗っ取られてる』なーんて言ってる人もいるぐらいだからね…」
そんな神社にあなたはよく来る気になったわね…
「それはちょっと困るわね…。ってそういえば妹紅」
「ん?」
「村にもご神体や社ぐらいあるんじゃないの? 今年はどうしてこの神社に来たのかしら?」
たぶん妹紅の住んでる村の近くにも神社はあるはずだ。先ほど言ってたけーね、ワーハクタクの上白沢慧音が守護していると思うが…。
「んー、まぁ簡単に言えば。来てみたかった、かな」
「へー、ホントに簡単な理由ねって、それは理由にならないし…」
ずずずーっとお茶を一口。
「この私、不死身の肉体を持った私に勝った巫女がいるなんて、どんだけすごい神社なのかと知りたくなって来たのさ」
妹紅は蓬莱の薬を服用して不老不死の力を手に入れた人間だ。
「そして、来てみたらこの有様だったっと」
私自身でとどめを刺してみる。
それを聞いた妹紅は、くすくすと笑い出した。
「ん? 何よ」
「いやー、予想通りだったよ。ふふっ」
「あー! また笑った!」
「ははっ、ごめんごめん」
それでも笑う妹紅。ま、いいけどね。
「それにしても、不老不死ってどんな気分なの?」
うっすらと茜色になりつつある西の空を見上げて。
「?」
最初、妹紅は頭に?マークを乗せていたが…
「突然妙な事を聞くなぁ。
たいして普通と変わらないよ。怪我をすれば痛いし、お腹も空く。たしかに病気になったり死ぬなんてこともないけど。
一番苦しいのは毒だね」
「毒?」
ほー、意外だなぁ。
「ちょっと前に輝夜に一杯盛られた時は酷かったわ。三日三晩ずーっと魘されてたよ。全身から毒が抜けるまでに何度死にそうになったことか…。死なないけど」
輝夜っていうのは、こっちも蓬莱の薬を飲んだ不老不死で妹紅とは文字通り永遠の宿敵ってやつかしらね。何度もお互いに死闘を繰り広げてる犬猿の仲だ。
「うっわー、それは悲惨ね…」
この前の弾幕バトルでもちょっとの怪我なら一瞬で治ってたしなぁ。さすがに五体バラバラにしたら「痛いー、死ぬー」って言ってたな…。
「霊夢と紫にも相当なコトをされたけどね!」
「あはははー」
笑って誤魔化した。
一年の始まり、いつも通り落ち着いて縁側でお茶を啜るのもいいと思っていたけど、たまには変化も必要だぁね。