Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

perfect free

2006/12/30 23:27:31
最終更新
サイズ
4.69KB
ページ数
1
注意:あるショートショートが原作。ごく微量の求聞史紀ネタ含有。






 カレンダーをめくりながら、パチュリーは思い出したようにつぶやいた。
「たしか、そろそろ黒ネズミが本を持って返しにくる期限のはず」
 少し前に、パチュリーは魔理沙にまとまった量の本を持っていかれた。魔法店の運営が思わしくないので、仕事の幅を広げるためと押し切られた。
 記録を出して調べてみると、返済の期限をもう三時間も過ぎている。それなのに、彼女はいまだにやってこないし、連絡もない。パチュリーは腹をたてた。魔法使いが約束を破るなんて。文句のひとつでも言い、催促をしなければならない。直接押しかけてやろう。
 外套を呼び出そうと手を伸ばしかけたが、それをやめ、机の上にある「電話機」というものを使うことにした。
 その電話機と呼ばれるものは、黒く角の取れた形状の箱に穴の開いた円盤と螺旋状の紐でつながれた手で握る部品という構成で、魔方陣を印した布の上に置かれている。部品、受話器と呼ばれるそれを持ち上げて耳にあて、穴の空いた円盤、ダイヤルと呼ばれるそれに指を入れ金属のストッパーに当たるまで時計回りに回す行為を数回繰り返すと、不自然な音が続き、やがて相手が気づいたのか音が止んだ。
「聞こえているんでしょう? そして用件も判っているはず」
「留守だぜ」
 煙に巻く言葉で時間をかせいでいる。頭の中では、うまい言いわけを考え出そうとあわてているのだろう。
 その時、受話器から、パチュリーでも魔理沙でもない、第三の声が流れた。若い女性の魅力的な声だ。
<この電話は、妖狐広告社が一切の術式を制御し、無料でございます。ご遠慮なく、ごゆっくりと通話をお楽しみ下さい。しかし、そのかわり、途中で広告を入れさせていただきます>
 魔方陣の上の黒い電話機とは、つまりそういうわけなのだ。外の世界の遠隔通話術。必ず聞くことになるから、広告に用いれば効果は大きいだろうとの算段のもとにこのサービスが実現した。
 先日、広告社の使いがやってきて、電話機を置かせてほしいと持ち込んだ。メイド長は、別に金を出すわけでも、損になるわけでもない、むしろ珍しくて面白そうだったので承知した。そして今、なぜか図書館に置かれることとなったこの電話を利用してみることにした。貸した本の催促に、わざわざ外出するのは馬鹿馬鹿しいように思えたのだ。
 広告の声が終わるのを待って、パチュリーは本題にとりかかった。
「ねぇ、貸した本はどうしたのかしら、約束の期日はもう過ぎている。魔法を使役する者が誓いを守れないなんて」
「………Zzz」
「なんとか言ったらどうなの。聞いているの、そもそも起きているの」
 パチュリーはもっとしゃべり続けていたかったが、中断せざるを得なかった。コマーシャルが始まったのだ。
<さわやかで確実な目覚めをお約束。あなたの背中にモゾモゾカサカサ、モーニングコールは蟲の知らせサービスに……>
 それがすむと、魔理沙はやっと弁解をはじめた。
「誠実さが箒に乗って飛んでいるこの私が約束を忘れるわけがない。本を参考に精油とか作るのは早くなったが、どうにも商売としては売り上げが伸びなくてな」
 先を続けようとしたが、通話の中へCMが割り込んできた。
<ご商売についてのご相談でしたら、イナバ経営相談所のご利用を。店頭の飾りつけ、商品陳列、労務管理、すべてを診断して、お店の繁栄を二十倍にしてさしあげます……>
 三十秒ほどでそれが終わると、パチュリーは少し強く言ってやろうと、受話器に向かって声を高めた。
「だいたい、貴方は性格がいいかげんよ。やることが無鉄砲で、だらしない」
「いやぁそれほどでも」
「死んでから回収してもらおうなんて気の長いこと考えないで。貴重な本なんだから、こっちにだって覚悟がある」
 またもCMがはじまった。
<武器をおもとめの際は、カグ武器店へおいで下さい。バルカン砲から爆弾まで月の一流品を取り揃えてございます……>
 魔理沙は少し早口で答えた。
「いやー、怒るのはもっともだがもう少し待ってくれ。実は急に萃香が来たので宴会が始まるとかでな、その準備もしなくちゃならん」
 CMが入る。
<宴会場には、永遠亭『銀河の間』のご利用をおすすめします。上品で豪華なムード。そして、お値段のほうは、ご予算に応じて……>
 パチュリーは言う。
「それは知らなかったわ。でも、それならそれで約束の期日前、宴会の連絡ついでに事情説明に来たっていいじゃない」
 CMソングが流れ込んでくる。
<♪冷めてもおいしい焼き八目鰻~ ♪手みやげに持ち帰り~ そういうのもあるのか~♪>
 魔理沙は、行けなかった弁明をする。
「伝えようとは思ったんだが、最近ブレイジングスターで飛ばしすぎてな。疲れがなかなか抜けなくて」
 また、そこで中断される。再びCMソングだ。
<強力ホーライ、強力ホーライ。八意印の栄養剤。粒の中には若さがいっぱい、コラーゲンたっぷり、患部で止まってすぐ溶ける……>
 さっきからだいぶ当り散らしたが、パチュリーの腹の虫はまだおさまらない。
「直接来れないなら、なんのための電話機よ。魔法使いたるもの、仕事だけでなく契約や約束事に対してもっとしっかりすべきではなくて」
 貴重品を貸しているので言いたい放題。魔理沙のほうは攻められっぱなしで、言いわけが泣き言じみてきた。
「しっかりやってはいるんだが、経営は楽じゃないぜ。寿命の短い生き物に幻想郷は生きにくいんだ。里の人間に余裕が出来れば、こっちにも客がまわってくるんだが」
 またもCMが入った。今度は少女の声で、名前を繰り返し叫んだあと言った。
<住みよい幻想郷のため、神社は日夜精力的に働いています。なにとぞ、皆様の熱烈なるご支援と寄付をお願い申しあげます……>
 原作はSS(ショートショート)の巨星、星新一の「無料の電話機」。右にある「■この作品の著作権は~」の表示がむず痒くて仕方がない…
 ダイヤル式の黒電話がいつか時代から消えるのを見越して、星氏は「電話をまわす」という表現を「電話をかける」というように表現を直し、作品をより永く普遍的なものにしたそう。だというのに拙作のなんと時事ネタの多いこと。そして原作の「ギャラクシー会館」というセンスにも頭が上がらない。
 間を埋めるネタがすっと決まらず、求聞史紀を入手してから誕生日にあわせて公開しよう、と思ったら度重なる延期で奇しくも命日に。先達あっての二次創作と感謝の念をあらたにして、本棚を清めて新年を迎えるとしましょう。(現状では冬の戦利品が入らない…)
ショイン
コメント



1.CACAO100%削除
永遠亭働き過ぎww星新一氏の作品は捻りが素晴らしく。
毎回毎回、騙された訳ですよ。
星新一氏のご冥福を・・・