――少し、私の部屋で飲みませんか?
そう言われた咲夜は返事こそしなかったが、黙ってうなだれたまま美鈴の後に続いていった。
―◇―◇― ◇◇◇― ―◇◇◇―
「それじゃ、ちょっと待っててくださいね。私、グラス持ってきます」
「…………」
「あ、咲夜さん、椅子にかけてください。私がベッドに座りますから――」
「……いい」
「えっ?」
「ここで、いい」
「――そうですか」
「はい、どうぞ」
「…………」
「――ちゃんと持ってますか? 手、放しますよ?」
「……ん」
「さあ、飲みましょう。明日も元気にお仕事ができるように――乾杯、っと」
「……いただきます」
「どうです? わりと可愛い味のお酒でしょ?」
「…………」
「これ、私が作ったんですよ。金木犀の花を摘んできて、白ワインに――」
「……あなたまで……」
「えっ?」
「あなたまで、一緒に怒られることなかったのに……」
「……咲夜さん、それは、」
「どうして?」
「ど、どうしてって……その、ほら。私って怒られるのには慣れてますから。あ、あはは……」
「理由になってない」
「うっ……だ、だって、気付かなかった私にも責任があるじゃないですか」
「……そんなの、私の責任に比べれば無いようなものだわ」
「で、でも、」
「どう考えても全面的に私が悪いのよ。お嬢様にお出しする料理にニンニクを入れるなんて」
「……あぅ……」
「あ、でもあなたの気持ちが嬉しくないわけじゃないのよ。ごめんね」
「は、はい」
「……美鈴、もう一杯もらえるかしら?」
「――はいっ!」
「今更こんなことを言うのもなんですけど、料理は本当においしかったんですよ?」
「……ええ。それは、食べるあなたを見ていれば訊くまでもなかったわ」
「私はニンニク、大好きなんですけどねー」
「……だから入れちゃったのよ……」
「え? 咲夜さん、なにか言いました?」
「言ってない」
「……でも、もうやめた方がいいのかもしれませんね」
「なにを?」
「咲夜さんの料理の味見ですよ」
「えっ……」
「体が丈夫でよく食べるからって理由で私が任されてますけど、私、いつもおいしいって言って食べるばっかりでなにも――ってなんで泣きそうな顔してるんですか咲夜さん」
「べ、別にしてないわよそんな顔! 美鈴、もう一杯頂戴」
「は、はい」
「――ふぅ。とにかく、あなたは気にせず食べてくれればいいの。細かいことは私が気にかけるべきなんだから」
「でも、だとすると私が味見する意味ってあるんですか? 咲夜さんの料理だったら味はいつだって完璧ですよ。そりゃ私はこのお役目、楽しみにしてますけど……」
「わ、私だって――」
「え?」
「あ、いや……こほん。いい? お嬢様のお口に入るものなんだから、万が一のこともあってはならないの。だからあなたは毒味役でもあるのよ」
「……はぁ。そういうことでしたら」
「わかった? これもれっきとした従者の務めよ。美鈴おかわり」
「あの、咲夜さんそろそろ、」
「おかわり」
「……はい、どうぞ」
「……ぷは」
「あ、咲夜さん。いつのまにかこんな時間――」
「大体ねぇ!」
「ひっ!?」
「私が誰のためにいつもいつも頑張って料理してると思ってるのよ!」
「お、おおお嬢様のためでは?」
「そうなのよっ!」
「……あの。言いたいことがよく、」
「そうなんだけど……はぁ……しっかりしなきゃ駄目よね。お嬢様のための料理を作ってるときにあなたの――」
「――私の?」
「…………なんでもない」
「え、えっ? なにか言いかけましたよね。私がなんですか? 気になりますよー」
「あー、うるさいうるさい。もう寝るっ」
「ちょっ……咲夜さん、こんなところで寝たら服がしわになっちゃいますよ?」
「んー? ああ……そうね。……んしょ……」
「い、いやいやここで脱げって意味じゃなくて!」
「いちいち注文が多いわねぇ……一体どうしろっていうのよ」
「うわ、いつの間にか服がきっちりたたまれてるっ」
「んー……美鈴の匂いがする~」
「へ、変なこと言わないでくださいよ!」
「なによー。美鈴のベッドだから美鈴の匂いがするんでしょー。どこが変なのよぅ」
「そういう意味の変ではなくっ!」
「あ、それともベッドからするのはあくまでベッドの匂いであって、美鈴の匂いは美鈴からするものだと言いたいのかしら。あなたも意外に細かいわね」
「いや、わけわかりませんよ!」
「……よっ、と。では改めて」
「――へっ? ひゃああ!」
「んんー……まさしく美鈴の匂い……」
「か、顔を埋めないでください! ふぁ、い、息がくすぐった――」
「…………めーりーん……」
「さ、さくやさ――」
「…………」
「……咲夜、さん?」
「…………くぅ」
「……はぁ」
「…………」
「しょうがないなあ。下手に動かして起こすと怒りそうだし、ここで寝てもらいますか」
「…………」
「よいしょっ……わ、軽い……」
「…………」
「……よし、と。咲夜さん、おやすみなさい」
「…………」
「さて、私はどこで寝ようか、なっ――?」
「…………」
「さ、咲夜さーん? 放して~」
「…………」
「ぐぬぬ……」
「…………っ」
「咲夜さん起きてますね? 起きてるんですね?」
「寝てるー……」
「起きてるじゃないですか!」
「でももう寝る……」
「わ、私はもう少し後で寝ますから、」
「上司が部下より先に休むわけにはいかないわ……だからあなたも寝るのよ今ここで」
「なにその逆転の発想!?」
「……あなたは次に『服がしわになる』と言う……」
「こ、このまま寝たら私の服だってしわになっちゃいますよぅ。――はッ!?」
「そうよねしわになるわよね着たまま寝たら。さあ脱ぎましょう可及的速やかに」
「きゃ、きゃあ! ちょ、まっ、あわわわ……」
「時間止めて脱がして欲しい? 止めないで脱がして欲しい?」
「ぬ、脱がさないで欲し――って、ひいぃっ! すでにたたまれてる!?」
「ほら、いつまでも騒いでないで寝るわよ」
「うぅ……この状況で眠れる自信が……」
「あら、まだ脱ぎ足りないのかしら? なんならその色気のないシャツとパンダの」
「わ、わーっ! 寝ます! 寝ますって可及的速やかに!」
「……よろしい」
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ詰めてもらえますか?」
「……んっ……」
「あ、そうだ。咲夜さん、空間をいじって屋敷を広くできるんだから、ベッドも広くなりませんか?」
「……なるかもねー」
「それなら――」
「……おやすみ」
「――――……」
「…………くぅ」
「……おやすみなさい」
―◇―◇― ◇◇◇― ―◇◇◇―
「おはよう。美鈴」
「お、おはよう……ございます……」
「……なんか、すごい顔してるわね。よく眠れなかったの?」
「ほ……」
「?」
「本当に、ただ寝るだけだったんですね……」
「はぁ? ――あ、当たり前じゃない! 一体なにを考えてたのよっ!」
「い、いえその、すみませんっ!」
「まったく……」
「二人そろって怒られた翌朝に、二人そろって寝坊するわけにはいかないでしょ?」
「――へっ?」
「ところで美鈴。あなた、次の非番はいつだったかしら」
~おしまい~
そんな時は、美鈴の出番なのです
その福与かな体で咲y(ザ・ワールド
なかなか素敵なさくめーでした、GJ!
--◇ ◇---
これがモールス信号だったとは…!
--◇ ◇---
可及的速やかにGJ。
コミケのためのとても良質なエネルギー源になった!(笑)
さくめーさくめー!