それは紅魔館の門前で、十六夜咲夜が門番である紅美鈴に声をかけようとした時の事である
あ、との一声は出たがそれから言葉が続かなかったのだ
咲夜は混乱していた、普段どのように話し掛けていたかが全く思い出せない
『ちょっと其処の門番』と言って話し掛けていた気もすれば、『ねぇ美鈴』と呼びかけていた記憶もある
うー、咲夜の口からもれ出た二言目はそんな言葉ではなく唸り声に近いものだった
そんな咲夜を見ていた美鈴も困っていた
咲夜が自分へと用があるのだろうと近づいていたのは気が付いていたが、『あ』と呟いてそのまま固まってしまった
時間ではなく咲夜が止まってどうするのか、そう考えながらも相手が用件を述べるのを大人しく待つ
けれども咲夜は思案げな顔つきで悩んでいたかと見守っていれば『うー』と言い出す、何処の歌うお嬢様か
だが其処で美鈴は、咲夜が何故混乱しているのかに気が付いた
「咲夜さん」
「何よ、えっと、その、何かしら? 」
「今の咲夜さん、シリアスギャグになってますよ」
「・・・・しりあすぎゃぐ? 」
残念、伝わらなかった
美鈴はこの一言で解決しない事に戸惑いつつも、もしかすると咲夜は幻想郷では誰もが知るこれを知らないのではないかと考える
「咲夜さんは、ギャグキャラ特性って知ってます? 」
「聞いた事があるような気がしますわ」
「知らないんですね」
誰かが教えずとも幻想郷に住む限り、自分で気が付きそうな事なのにと溜息を吐く美鈴
目の前で溜息を吐かれて少しむっとする咲夜だが、実際は聞いた事もないので大人しく話を聞く事にした
「さて、これはやはり実際に見てもらった方が説明しやすいです」
「何を見せてくれるのかしら」
「それでは咲夜さん、ちょっと私に向かってナイフ投げてみてください」
美鈴が言い終える前に、咲夜はすでにナイフを投げていた
素晴らしい速度で投擲されたナイフは、スコーンと言う軽い音を立てて美鈴の額に突き刺さる
「あ痛ー」
「投げたわよ」
「いたたた、っと」
突き刺さったナイフをスポンと額から抜いて、美鈴はバッテン印に絆創膏を貼り付ける
血は出なかった、それどころか絆創膏を剥がした後には傷一つ見当たらない
数秒で完治させたのかと、見ていた咲夜は感心する
「これがギャグ状態です」
「普段通りね」
「それでは、ナイフをもう一度お願いします」
紅美鈴が言い終える前に、十六夜咲夜は何処からともなく取り出したナイフを既に投げ放っていた
風を切り裂く音と共に突き進むナイフが、美鈴の額へ突き刺さらんと迫り飛ぶ
避けきれぬ距離、防ぐ事の出来ないだろう事を刹那に理解した美鈴は覚悟を決めた
己の肌へナイフの切っ先が触れた瞬間に気を持って防ぐ、それは皮を切らせて骨を断つとの言葉から美鈴が編み出した妙技である
一瞬であっただろう、けれども限界まで集中力を高めた美鈴にとっては長い一瞬
まだか、まだなのかと急かすほどの短い時間
チクリと額に針が刺さったかのような痛みが走り、美鈴の集中力は限界を超える
ナイフが止まり思考が加速する、額にあたるナイフを止める為に体が動き出した
だが、鈍い肉を裂く音を立てながら直進するナイフに驚愕する
止まらない、ナイフが止まらない
止めろと体に念ずる、止まれとナイフに念じる
けれどもナイフは止まらない、その刃を埋めるまで止まらぬのだと言わんばかりに止まらない
美鈴は奥歯をかみ締める、最早このナイフを止めることは不可能なのだと理解したからだ
ナイフが突き刺さる激痛、突き抜ける衝撃、だがこの程度は美鈴にとって致命傷ではない
額へと突き刺さったナイフへと手をかける、それだけで痺れる様な痛みが走るが気にもしない
己の矜持が許さないのだ、今すぐこの忌々しいナイフを引き抜けと叫ぶのだ
十六夜咲夜が感じたのは、右肩から左腰にかけて真っ直ぐ走る熱であった
咲夜が見たのは、美鈴が自分の額に突き刺さったナイフを抜いただけ
いや、咲夜は自分の考えを否定する
美鈴はナイフを抜いたのではない、抜き放ったのだと
それは咲夜との因縁浅からぬ半霊の庭師が使っていた技に似ていた、抜き斬りもしくは居合い
だが自分と美鈴の立ち位置からそれさえも否定する、三歩分の歩幅はナイフを振るうだけでは届かない
方法を考えることを一時的に諦め、いまだ感じる熱に咲夜は己の体を見おろす
自慢でもある白きエプロンに紅い一直線が入っていた、思わずその紅い線に指を這わす
指に感じたのは確かに紅い命の液体である血、けれどもこれは自分の血ではない
ならば、そう気が付いて咲夜は美鈴へと視線を戻す
美鈴の手にあるナイフには血の一滴たりとも付いていないに違いない、何故ならばその付いているであろう血は此処にあるのだから
美鈴の額から鼻にかけて血が流れ、それが口元へと流れ着いた時に咲夜は身震いした
その流れる己の血を美鈴は舌で舐め取るように掬い、その舌から唇へと移る一連の動作に見惚れてしまった
紅く染まった唇から視線が外れない、斬られた訳ではないはずの己の体に走る紅い線から熱が引かない
あぁ、それはきっと
「で、これがシリアス状態ですね」
「はぅ!? 」
咲夜は正気に戻った、気が付けば美鈴の傷も跡形もなく自分のメイド服も普段通りだ
化かされた気分に陥る、はっきり言って全く意味が分からなかった
「全く分からないわ」
「あれ? えっと、あぁ丁度良い時に」
美鈴が振り向いた先に視線をやれば、箒に乗った黒色が目立つ魔法使いである霧雨魔理沙
「いいですか? やりますよ? 」
「何をよ? 」
美鈴は咲夜の疑問に返事をせずにしゃがみ込み、立ち上がるというより伸び上がると言う表現が正しい感じで飛び上がって叫ぶ
「の○ぴょ○ょーん!! 」
咲夜はこけた、魔理沙もこけた
だから箒からこけ落ちた
「きゃぁーーーーーーー!? 」
意外と可愛いのかもしれない悲鳴を上げながら魔理沙が落ちるのを、呆然と咲夜は見届けて地面に落ちた瞬間を見て正気に戻る
「あれは死んだわね」
正気な咲夜はくーるびゅーてぃー、血はあるけど涙なし
「ふざけるなぁ! 」
「あべしっ! 」
死んだかと思われた魔理沙が立ち上がり箒を美鈴に叩きつけると、世紀末的な断末魔を叫び美鈴の残機が減った
「ふぅ、危うく死ぬかと思った」
「普通は死んでるわよ」
「普通だぜ」
「それで、分かりました? 」
「全然」
美鈴は溜息を吐いた、咲夜も溜息を吐いた、魔理沙がそんな二人の吐いた溜息を吸ったがあまり意味はない
「何の話だ? 」
「かくかくしかじかな訳でして」
「なるほどなぁ」
「それで通じるの!? 」
十六夜咲夜は突っ込むがこれもやはり意味はない、意味を成さない
「あれだな、咲夜にはもっと身近な例で教えてやらないと伝わらんだろ」
「えっと、お嬢様ですかね? 」
「あぁ、鼻血だな」
「どういう会話の流れなのかしらね」
力なく呟いたぼやきに近い言葉に、美鈴と魔理沙は咲夜へと視線を向ける
「咲夜さん、一昨日位に鼻血を噴出してましたよね」
「まぁね」
「何で誇らしげなんだよ」
胸を張る咲夜に魔理沙は突っ込んでみるが意味がない
そんな誇らしげな咲夜に、まるで言い辛い事を告げるかの様に美鈴がそっと言った
「人間の鼻血は垂れる物なんです、噴出したりしません」
「普通は出血多量で死ぬぜ」
「愛があれば死んだりしないわ」
突っ込みどころか常識が意味を成さない
「愛ですか、本当にそれならしょうがないですね」
「そうだな、本当に愛だったらしょうがないよな」
「何? 私の愛を疑う気? 」
美鈴が、民族服のスリットの切れ目を指で少し持ち上げる
「私、今日は下着を履くのを忘れてまして」
咲夜の鼻に張ってあった結界が崩壊した、紅い雨が降る
魔理沙は冬場なのにドレスの胸元を指でつまんで、パタパタと服の中で風を通す
「急に暑くなってきたな、エプロンドレスとドロワーズ意外は着た憶えは無い筈なんだが」
咲夜の視界に肌色の何かが見えて、紅い川が出来た
「「嘘(ですけどね)(だけどな)」」
「・・・・・・・あぁ、なるほど」
咲夜は自分が生きている事から、美鈴や魔理沙が伝えたかったことを理解した
「私は、貴女達も愛しているわ」
箒と拳が炸裂、こうして十六夜咲夜は敢然たるギャグキャラと成ったのであった
あ、との一声は出たがそれから言葉が続かなかったのだ
咲夜は混乱していた、普段どのように話し掛けていたかが全く思い出せない
『ちょっと其処の門番』と言って話し掛けていた気もすれば、『ねぇ美鈴』と呼びかけていた記憶もある
うー、咲夜の口からもれ出た二言目はそんな言葉ではなく唸り声に近いものだった
そんな咲夜を見ていた美鈴も困っていた
咲夜が自分へと用があるのだろうと近づいていたのは気が付いていたが、『あ』と呟いてそのまま固まってしまった
時間ではなく咲夜が止まってどうするのか、そう考えながらも相手が用件を述べるのを大人しく待つ
けれども咲夜は思案げな顔つきで悩んでいたかと見守っていれば『うー』と言い出す、何処の歌うお嬢様か
だが其処で美鈴は、咲夜が何故混乱しているのかに気が付いた
「咲夜さん」
「何よ、えっと、その、何かしら? 」
「今の咲夜さん、シリアスギャグになってますよ」
「・・・・しりあすぎゃぐ? 」
残念、伝わらなかった
美鈴はこの一言で解決しない事に戸惑いつつも、もしかすると咲夜は幻想郷では誰もが知るこれを知らないのではないかと考える
「咲夜さんは、ギャグキャラ特性って知ってます? 」
「聞いた事があるような気がしますわ」
「知らないんですね」
誰かが教えずとも幻想郷に住む限り、自分で気が付きそうな事なのにと溜息を吐く美鈴
目の前で溜息を吐かれて少しむっとする咲夜だが、実際は聞いた事もないので大人しく話を聞く事にした
「さて、これはやはり実際に見てもらった方が説明しやすいです」
「何を見せてくれるのかしら」
「それでは咲夜さん、ちょっと私に向かってナイフ投げてみてください」
美鈴が言い終える前に、咲夜はすでにナイフを投げていた
素晴らしい速度で投擲されたナイフは、スコーンと言う軽い音を立てて美鈴の額に突き刺さる
「あ痛ー」
「投げたわよ」
「いたたた、っと」
突き刺さったナイフをスポンと額から抜いて、美鈴はバッテン印に絆創膏を貼り付ける
血は出なかった、それどころか絆創膏を剥がした後には傷一つ見当たらない
数秒で完治させたのかと、見ていた咲夜は感心する
「これがギャグ状態です」
「普段通りね」
「それでは、ナイフをもう一度お願いします」
紅美鈴が言い終える前に、十六夜咲夜は何処からともなく取り出したナイフを既に投げ放っていた
風を切り裂く音と共に突き進むナイフが、美鈴の額へ突き刺さらんと迫り飛ぶ
避けきれぬ距離、防ぐ事の出来ないだろう事を刹那に理解した美鈴は覚悟を決めた
己の肌へナイフの切っ先が触れた瞬間に気を持って防ぐ、それは皮を切らせて骨を断つとの言葉から美鈴が編み出した妙技である
一瞬であっただろう、けれども限界まで集中力を高めた美鈴にとっては長い一瞬
まだか、まだなのかと急かすほどの短い時間
チクリと額に針が刺さったかのような痛みが走り、美鈴の集中力は限界を超える
ナイフが止まり思考が加速する、額にあたるナイフを止める為に体が動き出した
だが、鈍い肉を裂く音を立てながら直進するナイフに驚愕する
止まらない、ナイフが止まらない
止めろと体に念ずる、止まれとナイフに念じる
けれどもナイフは止まらない、その刃を埋めるまで止まらぬのだと言わんばかりに止まらない
美鈴は奥歯をかみ締める、最早このナイフを止めることは不可能なのだと理解したからだ
ナイフが突き刺さる激痛、突き抜ける衝撃、だがこの程度は美鈴にとって致命傷ではない
額へと突き刺さったナイフへと手をかける、それだけで痺れる様な痛みが走るが気にもしない
己の矜持が許さないのだ、今すぐこの忌々しいナイフを引き抜けと叫ぶのだ
十六夜咲夜が感じたのは、右肩から左腰にかけて真っ直ぐ走る熱であった
咲夜が見たのは、美鈴が自分の額に突き刺さったナイフを抜いただけ
いや、咲夜は自分の考えを否定する
美鈴はナイフを抜いたのではない、抜き放ったのだと
それは咲夜との因縁浅からぬ半霊の庭師が使っていた技に似ていた、抜き斬りもしくは居合い
だが自分と美鈴の立ち位置からそれさえも否定する、三歩分の歩幅はナイフを振るうだけでは届かない
方法を考えることを一時的に諦め、いまだ感じる熱に咲夜は己の体を見おろす
自慢でもある白きエプロンに紅い一直線が入っていた、思わずその紅い線に指を這わす
指に感じたのは確かに紅い命の液体である血、けれどもこれは自分の血ではない
ならば、そう気が付いて咲夜は美鈴へと視線を戻す
美鈴の手にあるナイフには血の一滴たりとも付いていないに違いない、何故ならばその付いているであろう血は此処にあるのだから
美鈴の額から鼻にかけて血が流れ、それが口元へと流れ着いた時に咲夜は身震いした
その流れる己の血を美鈴は舌で舐め取るように掬い、その舌から唇へと移る一連の動作に見惚れてしまった
紅く染まった唇から視線が外れない、斬られた訳ではないはずの己の体に走る紅い線から熱が引かない
あぁ、それはきっと
「で、これがシリアス状態ですね」
「はぅ!? 」
咲夜は正気に戻った、気が付けば美鈴の傷も跡形もなく自分のメイド服も普段通りだ
化かされた気分に陥る、はっきり言って全く意味が分からなかった
「全く分からないわ」
「あれ? えっと、あぁ丁度良い時に」
美鈴が振り向いた先に視線をやれば、箒に乗った黒色が目立つ魔法使いである霧雨魔理沙
「いいですか? やりますよ? 」
「何をよ? 」
美鈴は咲夜の疑問に返事をせずにしゃがみ込み、立ち上がるというより伸び上がると言う表現が正しい感じで飛び上がって叫ぶ
「の○ぴょ○ょーん!! 」
咲夜はこけた、魔理沙もこけた
だから箒からこけ落ちた
「きゃぁーーーーーーー!? 」
意外と可愛いのかもしれない悲鳴を上げながら魔理沙が落ちるのを、呆然と咲夜は見届けて地面に落ちた瞬間を見て正気に戻る
「あれは死んだわね」
正気な咲夜はくーるびゅーてぃー、血はあるけど涙なし
「ふざけるなぁ! 」
「あべしっ! 」
死んだかと思われた魔理沙が立ち上がり箒を美鈴に叩きつけると、世紀末的な断末魔を叫び美鈴の残機が減った
「ふぅ、危うく死ぬかと思った」
「普通は死んでるわよ」
「普通だぜ」
「それで、分かりました? 」
「全然」
美鈴は溜息を吐いた、咲夜も溜息を吐いた、魔理沙がそんな二人の吐いた溜息を吸ったがあまり意味はない
「何の話だ? 」
「かくかくしかじかな訳でして」
「なるほどなぁ」
「それで通じるの!? 」
十六夜咲夜は突っ込むがこれもやはり意味はない、意味を成さない
「あれだな、咲夜にはもっと身近な例で教えてやらないと伝わらんだろ」
「えっと、お嬢様ですかね? 」
「あぁ、鼻血だな」
「どういう会話の流れなのかしらね」
力なく呟いたぼやきに近い言葉に、美鈴と魔理沙は咲夜へと視線を向ける
「咲夜さん、一昨日位に鼻血を噴出してましたよね」
「まぁね」
「何で誇らしげなんだよ」
胸を張る咲夜に魔理沙は突っ込んでみるが意味がない
そんな誇らしげな咲夜に、まるで言い辛い事を告げるかの様に美鈴がそっと言った
「人間の鼻血は垂れる物なんです、噴出したりしません」
「普通は出血多量で死ぬぜ」
「愛があれば死んだりしないわ」
突っ込みどころか常識が意味を成さない
「愛ですか、本当にそれならしょうがないですね」
「そうだな、本当に愛だったらしょうがないよな」
「何? 私の愛を疑う気? 」
美鈴が、民族服のスリットの切れ目を指で少し持ち上げる
「私、今日は下着を履くのを忘れてまして」
咲夜の鼻に張ってあった結界が崩壊した、紅い雨が降る
魔理沙は冬場なのにドレスの胸元を指でつまんで、パタパタと服の中で風を通す
「急に暑くなってきたな、エプロンドレスとドロワーズ意外は着た憶えは無い筈なんだが」
咲夜の視界に肌色の何かが見えて、紅い川が出来た
「「嘘(ですけどね)(だけどな)」」
「・・・・・・・あぁ、なるほど」
咲夜は自分が生きている事から、美鈴や魔理沙が伝えたかったことを理解した
「私は、貴女達も愛しているわ」
箒と拳が炸裂、こうして十六夜咲夜は敢然たるギャグキャラと成ったのであった
この調子だと何又かかるのだろうか?
ヨコシマ、横島じゃないかっ(www
これはいい相手がずっこけて妖刀が折れる叫びですね
流石メイド長!全てを愛でまとめやがった!
何故だろう