ぱたぱたと優しい風が頬を撫でて、本を読むにも心地よい。
机の上の紅茶の湯気は、風に運ばれて消え散っていく。
頭上にさしかけられた傘は、あまりに可愛い柄で気に入らなかったけど、そこはまぁ本を読み始めたら気にならなかった。
「たまには環境を変えるのもいいものね」
私は独語する。
いつもいつも暗い図書館にこもって本を読んでいると、本当にもやしになっちゃうんだから…と、私の大切なおも…げほげほ…お友達がいってくれやがったのは昨日の話だ。
私は、そんな心配性な友人に、特製ニンニク紅茶十字架飾りのスプーン付きをふるまったあと、素直に彼女の言うことに従った。
長い長い時の中、たまには気分を変えてみるのもいいかもしれない。そんなちょっとした気まぐれだった。
一瞬だけ風がやむと、紅茶の香りに混じって、ほのかな土の匂いが鼻に届き、そこからのびる小さな葉が、私の目を和ませてくれた。
「まぁ…たまにはいいわね」
一瞬本から視線をずらし、私は言った。
私は、一度物語の中へと入り込んだのなら周囲の状況は気にならない。
紅茶が降ろうが、本が降ろうが、ごくまれに槍がふってこようが頓着は…最後は少しするけど…しない。
だけど、物語の世界に入るまでのわずかな時間、一冊の本を読み終え、次の本を手にとるまでのささやかな現実、そんな時の為に、雰囲気というのは大事なのだ。
そんな一瞬の思考の後、私は再び物語の世界へと戻った。
物語はやがてクライマックスへと進み、最後の戦いへと向かう。
そこで、今までの努力が試されるとき、私も胸を高鳴らせる。
すべてをやり遂げた主人公が、虚しさに囚われてしまったとき、私も争いの無情さに考え込んだ。
長い長いお話の果てに、世界はやがて薄くなり、終末へと向かう。
ぱらりとページをめくったら、そこが物語の終わりだった。
「…全八巻を16時間、こんなものかしら」
私は、そう言って顔をあげた。
世界が…元に戻る。
物語の登場人物達は、みな本の中へと戻り、そして次の出番までの休みをとる。
心地よい風が、充実した疲れを癒してくれた。
私は目をつぶり、物語の余韻に浸る。もしもあの時、別な結末が用意されていたとしたら…?もしもあの登場人物がいなかったら…?
私は、記憶の本棚にしまわれた物語を呼び出して、その別なありかたを検討する。
お話を読み終えてのこの時間、それは、本を読んでいる時間の延長でもある。
本の世界は無限に広がる。一人一人の心の中で、いくつものパラレルワールドを生み出して、そしてそれぞれが発展を遂げる。
一冊の本には一つの世界がある。そして、それを読んだ人の心の中にも、無数の世界を生み出していく。
どんな強い妖怪も、どんな強い武器も、世界の創造者が力を与えなければ、その中では何の力も持たないのだ。
心の中の世界、そのなんと強いことか…
そして、それを生み出す『本』の、なんと偉大なことか…
私は、本の偉大さをかみしめながら、思考を再開させ…
「ねぇパチェ、もう読み終わったんならいいでしょ?もう羽根であおぐの疲れたんだけど…」
「パチュリーさま、テーブルの上にあるハエトリソウどうしましょう?お菓子置くのに邪魔なんですけど」
ようとして二つの声に引き戻された。
周囲を見てみれば、基本はあまり変わらない我が図書館が視界を埋める。
机の上のハエトリソウの鉢植えと、どこからか持ってこられた傘、そして、疲れ切った表情のレミィだけが、ちょっとした違いだった。
もう、せっかくの余韻が台無しじゃない!
「…レミィ、あなたはわかってないわ。本は読み終わった後に余韻に浸るのも大切なのよ?私が本を読んでいる間、ずっと黙ってあおいでくれる約束でしょ?ペナルティーとしてあともう一度ね」
「え…パチェ?あの…ちょっ!?」
「小悪魔、ハエトリソウは後で巨大化魔法の実験に使うから第七実験室へ」
「はいっ♪」
私は、首を振りながらそう言って二人を見た。慌てるレミィと、陽気に答える小悪魔が対照的だ。
「レミィ、友達の健康を気遣ってくれたあなたなら、ちょっと羽根であおいでくれる位してくれるわよね?なんてったって友達だしね」
「え…あ…」
私が言うと、レミィは真っ青になって沈黙する。
「環境を変えてみたらと言ってくれたのはレミィだものね。これからも気が向いたら頼もうかしら…」
私はそう言って微笑む。
「あ…あの…ちょ…」
「次は…そうね。確か外の世界のやたら長い歴史書があったわね、本棚いくつかうめてたはずだけどそれを…」
「パチェ!?」
ようやく言葉を取り戻したレミィを見ながら私は思う。
本の中の世界もなかなかに楽しいけれど、こちらの『世界』もなかなかに楽しいものだと。
『おしまい』
机の上の紅茶の湯気は、風に運ばれて消え散っていく。
頭上にさしかけられた傘は、あまりに可愛い柄で気に入らなかったけど、そこはまぁ本を読み始めたら気にならなかった。
「たまには環境を変えるのもいいものね」
私は独語する。
いつもいつも暗い図書館にこもって本を読んでいると、本当にもやしになっちゃうんだから…と、私の大切なおも…げほげほ…お友達がいってくれやがったのは昨日の話だ。
私は、そんな心配性な友人に、特製ニンニク紅茶十字架飾りのスプーン付きをふるまったあと、素直に彼女の言うことに従った。
長い長い時の中、たまには気分を変えてみるのもいいかもしれない。そんなちょっとした気まぐれだった。
一瞬だけ風がやむと、紅茶の香りに混じって、ほのかな土の匂いが鼻に届き、そこからのびる小さな葉が、私の目を和ませてくれた。
「まぁ…たまにはいいわね」
一瞬本から視線をずらし、私は言った。
私は、一度物語の中へと入り込んだのなら周囲の状況は気にならない。
紅茶が降ろうが、本が降ろうが、ごくまれに槍がふってこようが頓着は…最後は少しするけど…しない。
だけど、物語の世界に入るまでのわずかな時間、一冊の本を読み終え、次の本を手にとるまでのささやかな現実、そんな時の為に、雰囲気というのは大事なのだ。
そんな一瞬の思考の後、私は再び物語の世界へと戻った。
物語はやがてクライマックスへと進み、最後の戦いへと向かう。
そこで、今までの努力が試されるとき、私も胸を高鳴らせる。
すべてをやり遂げた主人公が、虚しさに囚われてしまったとき、私も争いの無情さに考え込んだ。
長い長いお話の果てに、世界はやがて薄くなり、終末へと向かう。
ぱらりとページをめくったら、そこが物語の終わりだった。
「…全八巻を16時間、こんなものかしら」
私は、そう言って顔をあげた。
世界が…元に戻る。
物語の登場人物達は、みな本の中へと戻り、そして次の出番までの休みをとる。
心地よい風が、充実した疲れを癒してくれた。
私は目をつぶり、物語の余韻に浸る。もしもあの時、別な結末が用意されていたとしたら…?もしもあの登場人物がいなかったら…?
私は、記憶の本棚にしまわれた物語を呼び出して、その別なありかたを検討する。
お話を読み終えてのこの時間、それは、本を読んでいる時間の延長でもある。
本の世界は無限に広がる。一人一人の心の中で、いくつものパラレルワールドを生み出して、そしてそれぞれが発展を遂げる。
一冊の本には一つの世界がある。そして、それを読んだ人の心の中にも、無数の世界を生み出していく。
どんな強い妖怪も、どんな強い武器も、世界の創造者が力を与えなければ、その中では何の力も持たないのだ。
心の中の世界、そのなんと強いことか…
そして、それを生み出す『本』の、なんと偉大なことか…
私は、本の偉大さをかみしめながら、思考を再開させ…
「ねぇパチェ、もう読み終わったんならいいでしょ?もう羽根であおぐの疲れたんだけど…」
「パチュリーさま、テーブルの上にあるハエトリソウどうしましょう?お菓子置くのに邪魔なんですけど」
ようとして二つの声に引き戻された。
周囲を見てみれば、基本はあまり変わらない我が図書館が視界を埋める。
机の上のハエトリソウの鉢植えと、どこからか持ってこられた傘、そして、疲れ切った表情のレミィだけが、ちょっとした違いだった。
もう、せっかくの余韻が台無しじゃない!
「…レミィ、あなたはわかってないわ。本は読み終わった後に余韻に浸るのも大切なのよ?私が本を読んでいる間、ずっと黙ってあおいでくれる約束でしょ?ペナルティーとしてあともう一度ね」
「え…パチェ?あの…ちょっ!?」
「小悪魔、ハエトリソウは後で巨大化魔法の実験に使うから第七実験室へ」
「はいっ♪」
私は、首を振りながらそう言って二人を見た。慌てるレミィと、陽気に答える小悪魔が対照的だ。
「レミィ、友達の健康を気遣ってくれたあなたなら、ちょっと羽根であおいでくれる位してくれるわよね?なんてったって友達だしね」
「え…あ…」
私が言うと、レミィは真っ青になって沈黙する。
「環境を変えてみたらと言ってくれたのはレミィだものね。これからも気が向いたら頼もうかしら…」
私はそう言って微笑む。
「あ…あの…ちょ…」
「次は…そうね。確か外の世界のやたら長い歴史書があったわね、本棚いくつかうめてたはずだけどそれを…」
「パチェ!?」
ようやく言葉を取り戻したレミィを見ながら私は思う。
本の中の世界もなかなかに楽しいけれど、こちらの『世界』もなかなかに楽しいものだと。
『おしまい』
見ただけでヤムチャを連想してしまった
このレミリアは間違いなくヘタレミリア
>名無し妖怪様
乾杯♪
>SETH様
それはもう間違いなく観光名所になりま…ん?何をするやめろ!?うわー(通信不能)
>CACAO100%様
日を追う事にヘタレ化が進行する不治の病なのですww
>都様
ふふふ…こっちゃこ~いこっちゃこ~い(orz)
ご感想ありがとうございます。
小話シリーズは真面目に終わらないのです♪
そう…それは運命を操るレミリアですら抗することができない、巨大な時代のうねりなのです…orz
って今更ですが様つけ忘れorzとうとうやらかしてしまいました。申し訳ありませんorz