「なあ霊夢、新しい蜜柑取って来てくれ」
「自分で取って来なさい。そのついでにお茶を淹れ直してくれないかしら?」
魔理沙が蜜柑の皮でできた山に新たな皮を積み上げ、廊下に向かって親指を立てながら言うと、
それに対し霊夢は空っぽの湯呑みを魔理沙に見せつけて、台所に親指を向けて返した。
廊下と台所なんて暖房器具が存在しないので当然寒い。
今二人が炬燵の中に入って温んでいる部屋とは温度差がかけ離れている。正に雲泥の差。天国と
地獄。神社の年間賽銭量と永遠亭の年間収益並みに隔絶した差がある。
炬燵から出るなど言語道断である。
「炬燵から出たくないからイヤだぜ」
「私も炬燵から出たくないから嫌だわ」
しかも自分の為とはいえ、それに加えて相手のパシリなど以ての外だ。
いや、そんなものは建前だ。ただ単に、せっかく炬燵という温もりに浸かってるのに、どうして
わざわざそこから出て少しの間とはいえ寒い思いをせにゃならんのか。
「炬燵からちょっと出るくらいいいじゃないか」
「その台詞、そっくりそのまま返すわ」
「お茶を淹れるついでに蜜柑取って来るだけだぜ?」
「蜜柑取って来るついでにお茶を淹れるだけよ?」
「………」
「………」
お互いの顔に『面倒だからお前やれよ。いや、頼むからやってくれ』的な感情が貼り付く。
「これじゃあ埒が明かないな。いっそのこと弾幕で決めるか?」
「寒いし面倒だから嫌だ」
そんな元気があるんならやってくれてもいいじゃない、という顔をする霊夢。
「そんなに炬燵から出るのがイヤか!?」
突如、魔理沙がそれなりに大きな声を上げて机を叩く。
いつもならきっとここで『あんたもだ!』とツッコミを入れるのだろうが、
今の霊夢にとってはそれすらも面倒だった。
半眼で『人のこと言えねーだろビーム』を放つだけにしておく。
だが、残念なことに厚顔無恥の代名詞である魔理沙に対して非難がましい視線など、
チルノに向かって雪玉をぶつけるのと同じくらいに効果が無い。
なんかもう、喋ることすら面倒に思えてきた。
「………」
「………」
「不思議だよな」
「んー」
とりあえず相槌だけついておく。
「炬燵に入ってると」
「うん」
「全てが面倒に思えてくる」
「そうね」
「………」
「………」
「………」
「………」
「なあ、霊夢」
「んー」
「頼みがある」
「んー?」
「蜜柑取って来てくれ」
「もう帰れ!!!」
霊夢は蜜柑の皮を手に取り、文字通り魔理沙の目の前で潰して皮の汁を飛ばした。
「みぎゃあああああああああああああああ!?」
霊夢酷いよ霊夢wwww
特に、蜜柑装備は。