紅い不夜城・紅魔館。
そこには様々な者達が様々な想いを抱えながら今日を生き、働いています。
今回は入館式までの3日間、紅魔館の者達を思い思いに取材しました。
彼らの心中にあるモノとは―
4月11日 (水) PM10:00
紅魔館までやってきた私を最初にお出迎えしてくれたのは、門番の紅美鈴さん。
「あ、おはようございまーす! 今日もいい天気ですね!」
急なカメラの前でも動じず、彼女は「んっ」と背伸びをして見せます。
流石、「門番」の肩書きは伊達ではないようです。
軽やかな風体とは相反するほどに、その気はどっしりと腰を落ち着かせています。
―今日から3日間、ドキュメントの撮影を。
「あ、そうなんですかー。3日間も大変ですね~。
・・・・でもそんなに見るとこありますか?」
―えぇ。隅々まで見させて貰いますよ。
「なんかちょっと恥ずかしい気分ですね・・・。」
―後でまた来ますので。ではまた後ほど。
「はい、ごゆっくりしていってくださいね。」
門番とは拒むだけにあらず。
彼女の言動1つ1つが、私を優しく迎え入れてくれるようでした。
―こんにちは。
「あ、はい。こんにちは。」
―何をしているのですか?
「見ての通り、床掃除ですよ。」
彼女は名無しのメイドさん。
紅魔館に来て20年ほど経つといいます。
「メイド長ですか? 今なら多分館主様のところじゃないですか?
メイド長とは行き違うことがしょっちゅうありますから、行動パターンを覚えないとついていけませんよ。」
―ご苦労なさってますね?
「まぁ。 それに迂闊に陰口も叩けないでしょ? いつ後ろに居るかわかったものじゃないわ。
気がついたらもう磔られているんだもの。 あー恐。」
―そうですか(笑) では、また後ほど。
「ん? ああ。
お節介だろうけど、迷わないようにね。」
「あら、いつぞやの鴉じゃない。」
「お嬢様、鴉天狗ですよ。」
「まぁ、どっちでもいいわ。
それにしても、ここ自体を取材しようだなんて物好きが・・・この世にはいるものなのね。」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットさんと、そのメイド長、十六夜咲夜さんです。
スカーレットさんはその容姿に似合わず、齢500年という貫禄溢れる方。
決して威張りはしないものの、その威厳の高さは長年培ってきた強さと畏怖と信頼を象徴するようです。
例えるなら「歴戦の覇者」とでも言えば良いでしょうか。
「煽てたって無駄よ。・・・まぁ、悪い気はしないけど。」
「お嬢様、私はここで・・・」
「えぇ。
射命丸文、存分に取材していきなさいな。」
―ありがとうございます。
十六夜さんは人間でありながら、メイド長という従者の頂点まで上りつめた実力者です。
その性格、能力は他の追随を許さない、まさに完全無欠なメイドさんです。
瀟洒な従者とはよく言ったものです。
―メイドになる条件とは?
「何でも出来るに越したことはないけど・・・ある程度汎用性がないと厳しいかしら。
逆に言えば、たとえ能力が低くても汎用性があればやっていけるわね。」
―なるほど。
「もちろん何かに特化していれば、それなりに待遇は良くなるわ。
血の気が多くて攻撃的なら近衛隊として館内警備に配属されるし、
情報処理能力が高ければ図書館に、打たれ強ければ門番に、といった具合にね。」
―人気のある職業は?
「花形は近衛隊かしら。そこらの野良妖怪なんかよりよっぽど強いし、何より派手ね。
逆に門番は人気がないわ。生存率が低いからかしら。」
―聞いておいてなんですが、よく把握してますね。
「現場の最高責任者ですからね。何事でも知っておかないと、仕事に支障が出かねないもの。」
汎用性があって尚且つ全てに長けている十六夜さん。
もはや口の出しようもありません。
「ここがセントラルホールで、ここから右手行けばに西館、左手に行けば東館があるわ。
西館を奥に行けば図書館が、東間の奥には私達の宿舎があるわ。」
―・・・正直ここまで迷わずに貴女の所まで行けたのが不思議なくらいです。
「それはお嬢様が貴女を導いたお陰よ。
この館にいる者は皆お嬢様に全て把握されているもの。」
―私も対象に入るんですか?
「もちろん。
そんなに心配しなくても、貴女の言論その他は保障されているわ。
お嬢様は、そういうのにはむしろ消極的だから。」
―なるほど。
「まぁ、口で何かが出来るほどここは甘くはないけれど。」
―大分苦労したようですね?
「そういうのは他に者に聞きなさい。 何のための紅魔館取材なの?」
―ごもっとも。
そう言って、十六夜さんはさっさと仕事に戻っていきました。
本当は十六夜さんのことも聞きたかったのですが、それはまたの機会に・・・
紅魔館・西館奥、魔法図書館。
膨大な書物と共にここで生活をしているのは、紅魔館の頭脳・魔女のパチュリー・ノーレッジさん。
「邪魔さえしなければ何でもいいわ。」
空間操作をして外日が一切入らないようにしてあるこの図書館で、
ノーレッジさんは日課である読書に耽ります。
「案内がいるんなら、それに頼みなさい。」
そう言って、パチュリーさんは1人の悪魔を指差します。
「ご紹介に預かりました、小悪魔にございます。
どうぞ、何なりと御申しつけください。
自らを小悪魔と名乗った悪魔は、いくつかの注意点を教えてくれました。
「本は勝手に持ち出さないで下さい。私が怒られますから。
そのカメラはフラッシュ撮影は出来ますか? 出来てもやらないで下さいね?」
―何故ですか?
「ここには光に弱い者たちがおります故。
それに、本が焼けたり倒れたり飛び出したりしないこともありませんし。」
―物騒なんですね。
「面白いでしょう? 私、ここが気に入っているんですよ。」
漆黒の衣を纏った「小悪魔」さんの笑顔は、
何となく覇気がなくてやつれている様に見えました。
―お疲れのようですね。
「いえいえ、これが普通ですよ。」
―何故「小悪魔」なんですか?
「契約者であるパチュリー様に預かってもらっています。
契約というのは、その者から名を奪うことでセイヤクするんです。」
―仕事に何か不満はありますか?
「ありません。
こう在る事が私の存在理由であり、使命であり、生きがいなんです。
他に何かご質問は?」
私は一度ここから離れることにしました。
この空間は、耐え難い何かが心を蝕むようでありました。
私にはノーレッジさんも「小悪魔」さんも、他とはまた違う逸脱感を覚えました。
その話は、また後ほどに・・・・
4月12日 (木) AM10:00
紅い不夜城は寝ることを知りません。
朝から門番の方々は周回警備や草むしりなどに精を出しています。
紅さんはどこにいるのでしょうか?
見当たらないので、巡回中の方に聞いてみました。
「今日もたしか夜勤だから、夜にならないと会えませんよ?」
―そうですか。 それにしても、朝から大変ですね。
「そうですね(笑) でも、頑張らないと、ですね。」
明るい「名無し」さんは紅魔館に勤めて3年目。
まだまだ新米ですが、元気で明るい、良い方です。
―それにしても、ここには名前のない人が多いんですね。
「ええ。『自然発生』に名前なんてありませんから。」
―名前もある方もいますよね?
「そう、そうなんです! すごいですよね~、憧れます~。」
聞けば、特に優秀な者にはスカーレットさんが直々に名前を与えてくれるそうで、
紅魔館での例外はノーレッジさん位だそうです。
「私、体力は良かったんで館外警備に回されたんですけど、まだ10番目なんですよね~」
―10番目?
「はい。
門の正面を0番として、そこから左右に1番、2番・・・てゆう風に配置されるんですね。」
―真ん中に近いほど優秀だと。
「そう!
0番を任されるってことは並大抵のことじゃないんです!」
―でも3年で10番は結構な早さですよね?
「はい、特にここは入れ替わりが激しいもので。
私なんかが今日まで来れたのは奇跡的ですよ!」
「東の10番」さんは活き活きと語ってくれます。
確かに、日中にも関わらずにこれだけ活発に動けるというのは門番向きでしょう。
「今、自分のスペルを考えているんですよ。
早く美鈴さんみたいに華やかで綺麗な弾幕を作ってみたいです!」
背番号0はエースの証。
何時か自分の背中にも名前を背負いたいというのが、彼女の夢です。
柔らかい日差しが差し込む紅魔館。
日の光が入り込み徐々に暖かくなっていく廊下で、昨日のメイドさんに会えました。
名前がないのは不便なので、私はその方に「硯」と勝手に呼ぶことにしました。
「硯・・・・ですか。」
―気に入りませんか?
「いえ。 ただちょっと驚いてしまいまして。」
―昼間から何をしているんですか?
「ああ、これ?
飾ってた花が枯れていたんで、それの交換を。」
―それだけでこんな時間まで?
「いえ、本当は窓拭きをやっていたんですけど、ついでに・・・と思って。」
―気が利くんですね。
「『これくらいやって当然』、とメイド長も言ってましたし。 面倒だけど。」
ややふて腐れ気味でしたが、花を生ける「硯」さんの顔は優しそうでした。
―十六夜さんをどう思いますか?
「・・・それ、答えなきゃ駄目ですか?」
―何かあったら私が弁護しますから、ね?
「・・・・・・・」
「確かに厳しい人ですよ。
人間のクセに下手な妖怪よりよっぽど強いし、恐い噂も絶えないし。」
―噂ってー、一体どんなことでしょう?(ワクワク
「・・・私は聞いただけですけどね。
出来の悪いメイドをナイフで刻んで弄るとか、夜な夜なお嬢様を食っているだとか。
本当は人間じゃなくて異世界から来た化け物っていうのもありますね。」
―磔とか?
「磔は事実ですから。
・・・・・でも正直、そういうのって私好きじゃないんですけど。」
―何故?
「有能な者ほど疎ましがられるのは世の常です。
相手が人間なら尚更でしょう?
でも私は、その『世の常』っていうのが嫌いで。」
「硯」さんは花を生けながら話し続けます。
「・・・それに、メイド長は厳しいだけじゃないんです。
いつか妹様がお暴れになったとき、メイド長は真っ先に駆けつけて対処してくれました。
手馴れたものだってみんなは言いますけど、
でも、頑丈な紅魔館の東館が半壊するほどの被害だったのに犠牲者はいなかったんです。
怪我すらも、なかったんです。」
―十六夜さんのお陰だと?
「みんなそれが当たり前だって思っているけど、でも・・・・」
言葉に詰まったようで、「硯」さんは口が止まりました。
それに釣られてか、話の間も動き続けていた手も止まります。
―尊敬、ですか。
「そういうことにしてください。
まぁ、私1人がどうこう言ったところで、何がどうなるものでもないでしょうけど。
さ、もういいですか?」
「硯」さんはさっさと立ち去っていきました。
私はしばらくその場に留まり、「硯」さんに生けられた花を眺めていました。
花瓶に添えられた花たちは、血に染まったかのように紅く萌えていました。
明るいうちにも図書館には誰かいるのでしょうか?
気は進まないものの、私はそこのドアを開けます。
外はあんなにも気持ちがいいというのに、ここは相変わらずの常闇。
明るさになれたこの目には、しばらく中の様子がわかりませんでした。
「ご用件はなんでしょうか?」
―うっわ!? 吃驚したー・・・・
「申し訳ありません。」
私が中に入ったそのときから、「小悪魔」さんはそこに佇んでいたようでした。
いやはや、面目ない・・・
「どうかお気になさらず。いきなり声をかけた私めが悪いのです。」
「小悪魔」さんは深々とお辞儀をして、私に謝りました。
黒い着物に揺れる紅毛は、暗い中でも良く映えました。
「パチュリー様はお休みになっております。お話はまた別の時間に・・・」
―今日は貴女とお話させてもらいに来ました。
「私と、ですか? 何も面白いことはありませんよ?
聞いても時間の無駄になるだけです。」
謙遜という訳ではなく、「小悪魔」さんは本気で私を止めました。
しかしそこはジャーナリスト魂。
真実はこの目で、この耳で。
―お仕事中でしたか?
「本の整理を。」
―ではやりながらで構わないので。
「物好きな方もいたものですね・・・・そこまで言うなら構いませんが。」
荷台に山積みにされた本を、「小悪魔」さんは1つ1つ本棚へと片付けていきます。
―目印も何もないのに、本の場所がわかるんですか?
「はい。
どこに、何の、どのような本が置かれるべきか、全て把握しています。」
―すごいですね。
「とんでもない。
パチュリー様はそれに加えて今まで読んだ本の中身も全て記憶してございます。
私なんかまだまだ及びもしないのです。」
「小悪魔」さんの手は迷うことなく、在るべき場所に本を戻していきます。
私には、そのか細い腕で本棚に並んだ本をかき分けることがかなりの重労働に見えました。
―貴女には名前はありましたか?
「はい。
150年程ここで働いた末に、お嬢様からお名前を頂きました。」
―何故貰った名前を返すようなことを?
「返すんじゃありません。 捧げるんです。」
あまり表情を出さなかった「小悪魔」さんが、ニイと口を広げました。
「パチュリー様との契約内容は、『暗闇でも不自由なく生きれる肉体の提供』、『主が死ぬまで仕えること』。
そして見返りとして、『主が死んだときまでに蓄えた知識を、僕に全て受け渡す』、というものです。」
私は恐ろしくなってしまいました。
「だから私は、パチュリー様のしたいことは何でもさせます。
下働きもやりましょう。 必要ならば敵とも戦います。
・・・何か、疑問がおありですか?」
―ありがとうございました。
「送って行きましょう。 ここで迷ってしまうと2度と出れませんから。
ここはお嬢様の目も届きませんし、ね。」
図書館からでたときには、もう外はうす暗くなっていました。
明かりを灯す程ではなく、しかしそのまま歩くには足元が危うく。
この中途半端な暗さは、なにかに追われているような感覚に襲われるようでたまりません。
紅魔館、その陰と陽。
一口に悪魔の館といっても、そこには数々の思惑が渦巻いているようです。
「いたーーーーーーーーーーーーー!!」
紅魔館に明かりが灯るちょうどそのとき、それは突然襲来してきました。
3度の礼とは言いますが、今回はちょうど3回目。
相変わらず力は有り余っているようです。
「また来てくれたんだ! ねぇ、遊ぼうよ!!」
フランドール・スカーレットさん。
これま存在自体が禁忌とされたフランドールさんですが、
何時かの「紅い霧事件」以降は事情が変わったようで、こうやって公に出てきてくれます。
―今回はドキュメントの取材ということで
「あ、そうか! 私のことも取材してくれるんだ!!
じゃあねえ、何を喋ろうかなぁ!?」
―では、私の質問に答えてもらうということで
「うん、それでいいよ!」
私の疲労も都合もお構いなし。
フランドールさんはただただ私に寄ってたかっては無邪気に振舞います。
私もただただ苦笑するばかりです(笑)
―何をしていたんですか?
「ハエたたきゲーム!!
あのね、そこら辺にいるのを時間内にどれだけ叩けるかっていうの!」
―・・・そこら辺の?
「そうだよ♪ 目標は全滅なんだけど、なかなか難しいんだよねぇ~。
みんな素速っこくてなかなか当たらなくてさ~。
でも当たったときのバンってなったときのバシャ!! ~~~ん~♪
あれが面白くて・・・」
パン!
「いった・・・何す」
―貴女の言う「ハエ」は、貴女と同じ尊い命を持って今日まで生きています。
命を粗末にしてはいけません。
「・・・顔なじみだからって調子に乗ってんじゃねーよ。」
「はい、お終い! ここで終わり!! さ、妹様、お部屋に戻りますよ!!?」
「咲夜! また邪魔するの!? いい加減にしないと・・・」
「妹様、遺憾ながら私もその記者と同意見です。
しばらくお部屋で大人しくしていてください。その後でお説教ですよ!?」
「やだ、離・・・」
フランドールさんの台詞の余韻も与えぬ間に、十六夜さんは「行って帰って」きました。
見たままなら「フランドールさんを瞬間移動させた」と言う方が正しいのかもしれませんが。
「全く、取材相手に手を上げるなんてとんだ記者ね!」
―申し訳ありません・・・・ところで、
「ん?」
―犠牲者は?
「残念ながら、今日も誰一人居なくはならなかったわ。
記事にするにはスパイスが足らないでしょう?」
―貴女を尊敬してしている方がいました。
「そう。」
―貴女が助けたそのうちの1人に、その方がいたかもしれません。
「そう。それはよかったわ。」
―何も感じませんか?
「私はそういうのにはもう何も思わないようにしてるの。
いちいち考えていたらキリがないわ。」
―でも、事実としてそう思っている方がいるんです。 忘れないでくださいね。
「・・・はあ。 わかった、覚えておくわ。
全く、貴女がこんなにお節介焼きだとは思わなかったわ。」
―同感です。
十六夜さんはフランドールさんを説教をしに部屋に戻ろうとしました。
その去り際に、十六夜さんは私にこう聞きました。
「貴女、私が来なかったらどうなっていたと思う?」
―風が力押しに負けるとでも?
「やれやれ・・・・全く、頼もしい限りね。」
少し私は目立ち過ぎましたね・・・
以後、自粛しましょう。
4月13日 (金) AM9:00
気になることがあった私は、今一度図書館へと足を運びました。
「また、いらしたのですね。」
―聞きたいことがあったもので。
「はあ。 まあいいですけど。」
昨日と同じように、「小悪魔」さんは片付けをしながら私の質問に答えてくれました。
―いつ寝てるんですか?
「私には睡眠欲がありません。
寝るということは、死ぬと同義ですし。」
―疲れた、と感じることは?
「肉体的疲労などは魔力でどうとでもなります。」
―精神的には?
「この空間にいれば、私はいつだって元気でいられます。」
―昨日の続きですが・・・
「何でしょう?」
―本当にノーレッジさんの知識を得えるためだけに、彼女と契約したんですか?
「何故そう思われますか?」
―知識を得るだけなら、本を読めばいくらでも得られるでしょう?
「小悪魔」さんは手を休ませずに、しかし私の質問にも答えようとはしませんでした。
全ての本が片付くと、私はいつもノーレッジさんが座っているという机まで案内されました。
そしてそこで「小悪魔」さんは、私にハーブティを出してくれました。
ハーブティは喉を心地よく刺激してくれ、埃っぽかったのも少しは楽になります。
「小悪魔」さんはゆっくりと語ってくれました。
「ここに来て長いこと経ちましたが、私は相も変わらずこの通りです。」
―はい。
「最初の1年で図書館に異動になって、後はずっと今の調子。
なんら変わり映えのない日々でした。」
「最初の50年はパチュリー様とは口も殆ど聞かない状態でして。
その頃はまさか自分がパチュリー様と契約するとは思いもよらないことです。」
「ただ、何がきっかけだったのでしょう。
初めて会話を交わしてからは、毎日数回ずつ、会話として成り立っていたかはわかりませんが、
言葉をやり取りしていきました。」
遠くを見つめる瞳。
淡々と口から出る言葉に彼女が感じているのは、懐かしさか。
「あるとき、お嬢様が私を呼び出して、そしてこう言ったんです。
『友人が何を考えているかは知らないけど、とりあえず貴女には名を与えるわ。
今から貴女の名は よ。』 と。」
その者の力の本質は、与えられた名前と、与える者の力に由来するとされている。
だから、名前というのは重要なことなんだそうだ。
最初から与えられた名前がある者にとっては実感は湧きませんが。
「その後直ぐにパチュリー様のところへ行きましたよ。
そうしたら、こう言ったんです。
『名のある貴女には、許される範囲の何事にも干渉する権限が与えられるわ。
で、それを知った上で答えてもらうわ。私と契約するか否か。』 と。」
―どう答えたんですか?
「どうもこうも。
いきなり名前を与えられて、今度は契約するかと聞かれるんですもの。
もう可笑しくて可笑しくて・・・・」
昨日とは違った、柔らかく優しい微笑み。
どうやら私は誤解していたようです。
「思わず私が笑ったら、パチュリー様はこう言うんです。
『で? するの? しないの? どっち!?』 って。 ふふっ
これじゃあ断りきれないですよね。」
―もったいないなぁ、と思ったことは?
「さあ、どうでしょう?
しかしながら、我ながらよくも飽きずに今日までやってきたものだと思いますよ。」
だんだん化けの皮が剥がれてきたようなので、昨日のことを聞いてみました。
返ってきた答えは―
「その方が雰囲気あるでしょう? ふふっ」
帰り際に「小悪魔」さんはこんなことを教えてくれました。
「名前を奪うってことは、その者の所有権を持つって事なんですよ。
貴女も名前を大事にしてくださいね。」
―肝に銘じます。
「それと、今度から私のことは「こあ」とお呼びください♪
今は忘れた真名よりもすごく気に入っているんですよ。」
―こあさん、ですか。 少し呼び辛いですがいい字ですね。
「でしょ? また、お会いしましょうね。」
人間は悪魔を忌み嫌うものらしいですが、
それはきっと「良い」悪魔と接したことがないからでしょう。
かのメフィスト・ヘレス然り、
彼らはこうも人間味があって面白いものです。
PM00:00
昼食を頂いているところに、フランドールさんがお目見えです。
バツが悪いように見えますが、私も実際どうしていいものかと悩みました。
「・・・ごめんなさい。」
意外、あまりにも意外。
「だから・・・また遊んでよ。」
聞けば、昨日は十六夜さんに1時間で3時間分の説教を食らったのだとか。
よくわかりませんでしたが、なんとなく同情は覚えました。
―こちらこそ、打ったりしてごめんなさい。
だから、これでおあいこですよ。
「うん。」
ブスッくれたフランドールさんの顔がようやく笑顔に戻りました。
元気な子には、やはり笑顔が似合うものです。
「だから今度は文を叩くことにしたの♪」
―何が「だから」なのかは知りませんが。
「咲夜も『それならいい』って言ってくれたし♪」
―・・・・・
「覚悟しろよっ」
―臨むところです。当てられるものなら当ててみてください。
・・・ただ、今日はちょっと・・・・・・・・・
「えー」
相変わらず、けれども少しずつ変わっていくフランドールさん。
いつか手のかからなくなる日が来るのでしょうか?
それはそれで寂しい気もしますけどね。
PM3:00
今日の門の人たちは、少し雰囲気が違いました。
雑多な会話も、適当に遊ぶこともなく、マジメに職務に取り組んでいます。
何かあったんでしょうか?
「あ、射命丸さん。」
―紅さん、今日は皆真面目ですね。
「えぇ、昨日の今日ですから。」
昨日の夕刻、私が図書館にいた頃に、敵襲があったそうです。
丁度夜勤との交代時間で警備も疎らだったらしく、対処が遅れたとのことです。
犠牲者は3名。
その亡骸は、片隅の名も彫られていない小さな墓石の下に埋められたそうです。
「私が居ながらにも関わらず、こんなに犠牲を出してしまいました・・・・」
昨日取材を受けてくれた「東の10番」さんが、どこを探しても見当たりませんでした。
「取材を受けたんだって喜んでいた者ですか。
・・・・彼女がシンガリになってくれたお陰で、被害は最小限に抑えられました。 名誉の戦死です。」
奇跡はそう長くは続かない。
そう自分に言い聞かせつつも、私は自分の夢を語っていた彼女の顔が忘れられません。
彼女の考えたスペル、見てみたかった。
―今まで何人看取ってきましたか?
「私がここに配属されてから今日までで、131名が散っていきました。
親友と呼べる者も、何人もいました。」
―辞めたいと思ったことは?
「ありません。 私の生涯は、ここで閉じられるべきなんです。」
紅魔館の歴史の中で、何事もなく生涯を終えた門番はいないといいます。
過酷な労働環境で、彼らは門番に何を見ているのでしょうか?
紅さんは言います。
「ここに来た時点で、私はこの館の一員なんです。
一つ屋根の下で生活すること、それを家族といいます。
家族を護るためなら、私は命を惜しみません。」
―貴女がいなくなって泣く方もいるでしょう?
「さあ・・・どうでしょう(笑)
でも大丈夫です。 私、丈夫さだけは自信がありますから。」
門番で名を持つことができる条件は2つあるといいます。
しぶとく生きること、そして優しくあること。
傷が多ければ多いほど、盾は輝き硬さを増すからだそうです。
門番もまた、素質がなければこなせない職業なのです。
PM6:00
真っ赤な夕日に紅魔館は照らされ、入館式は始まります。
今回の入館者は全部で30名。
最初の1年は本館で必要最低限なことを学び、
その後で各々の持ち場を与えられるそうです。
「ここに着たからにはもう逃げられないと思いなさい。
あなたたちの運命は全てこの私の掌の中にあること、よく覚えておくことね。」
緊迫、張り詰めた空気、
「お嬢様、それでは脅迫です。」
「ふん、これで逃げ出すようなヤツに用はないわ。」
「お嬢様、さっきと言っていることが違います。」
「咲夜、さっきから五月蝿い。」
「申し訳ありません。」
「とにかく、これからビシビシ働いてもらうから、そのつもりで!!」
十六夜さんの働きでその場の空気は一気に緩み、和やかな雰囲気になりました。
「では、この後はオリエンテーションに移ります。
場所は東館・小ホールに、10分後の集合になります。
遅れてきた者は容赦なく磔します。以上、解散!」
「あー疲れた。」
―お疲れ様です。
「ほんと、慣れない事はすべきじゃないわ。」
「お嬢様、今回で何回やったと思いですか?」
「慣れない事は何回やっても慣れないのっ」
―先ほどは運命を握ると言いましたね?
「そうね。確かに私にはそういう能力があるわ。
でも最初からそれを使っていれば、こんな補充要員なんか必要ないわよね。」
―何故使わないのですか?
「だって、面白くないでしょ?」
―そういう問題なのですか。
「森羅万象あらゆるものの運命は皆異なっているわ。
短いか長いか、幸せか不幸せか、それで悩むのは結構だけど、
そんな些細なことで足止め食らっていたんじゃ勿体無いわ。
他とは違う。
ただそれだけでも十分に興味深いし、内容が良いなら言うことなしね。
だから私は、そんな物事を画一的にするようなことはしないの。」
「単に人事を把握していないというのもありますが。」
「だーかーらー、なんでそうお前は台無しにするの!?」
「面白いからです。」
「あんた・・・私に喧嘩を売りたいらしいわね。」
「ではそろそろ10分経ちますので、失礼させていただきますね。」
―十六夜さんをメイド長にした理由はなんですか?
「あー? 何、まだ居たの?」
―そんなに睨まないで・・・
「はー全く・・・・答えは単純!
あ い つ は 完 璧 だ か ら !! あー面白くない!」
こうもでこぼこな主従関係は見たことがありません。
運命を操る悪魔と完璧な人間のメイド。
両者の関係は皮肉にも不完全でありながら、こうも巧く噛み合っています。
今まで見てきたどの上下関係よりも魅力的に見えるのは私だけでしょうか?
PM8:00
最後の正直、また図書館へと足を運ばせます。
「あら、まだ居たの?」
―最後に1つ、聞きたいことがありまして。
「何?」
―何故こあさんと契約したんですか?
「・・・何か聞いたのね。
ま、いいわ。 大したことでもないし。
理由は特にないわ。 ただ、居た方が何かと便利だっただけ。」
―それだけであんな契約内容ですか?
「そこまで話したの? ま、別にいいけど。
体の方はともかく、アレは一時の気の迷いよ。
偉人が自伝を書くように、私も何か残したいと思った時期もあったの。
ただ、情報量が多すぎてどうにも収めようがないから、
なら魂に直接情報を送り込めばどうだろう、って思って。
悪魔なら半永久的に存在できるし。」
―こあさんじゃないと駄目だったんですか?
「別に。
ただ丁度手ごろな人材が近くにいたからそれで済ませたの。」
―本当にそれだけですか?
「・・・質問、それで4つ目よ。」
―まぁ、そう言わずに。
「取材相手に嘘をつくなんて・・・それが貴女のやり方かしら?」
迂闊ながら、核心には触れられませんでした。
ただこの様子を見る限り、2人の関係は当初の見解とは違ったものであることは明確です。
また機会があれば、こあさんを交えてノーレッジさんに問いただしてみようと思います。
PM10:00
初日の取材から丸3日が経ちました。
撤収します。
―あ、硯さん。
「ああ。忘れ去られていると思ったわ。作者にも読者にも。」
―まぁ、そう怒らないで。
「新人の教育係、メイド長から任命されたわ。」
―おめでとうございます。
「は~・・・・
私、本当は近衛隊に入って弾幕撃ちまくりたかったのに。
どうしてこんなことになっちゃうかな~・・・・。」
―認められた、ってことでいいのでは?
「妹様から助けられておいてそれはないわ。
あーあ、出世の道から遠のいていくわ・・・・」
―では、私はここで。頑張って下さいね。
「えぇ、お疲れ様。」
20年目にして転機を迎えた名無しのメイド、硯さん。
変化こそ進歩であると誰かが言っていたことですし、
きっといいことありますよ。
「あ、文さん。」
―終日出勤ですか?
「もう一日中立ちっぱなしで・・・結構しんどいです。」
―埋め合わせ、ということですか?
「はい。
居なくなったみんなの分まで頑張らないといけません。
・・・今年は何人来るのかなぁ。」
4月。
入館式を1年前に迎えた若者が、もうすぐ各現場に配属される時期でもあります。
出会いと別れ、ずっと変わらぬ間柄、うつりゆく人々。
月並みながらも、それは確かに紅魔館にもありました。
微力ながらも、私はこの紅魔館の魅力を見せることができたでしょうか?
もし少しでもそう思っていただけたら、この取材は成功だと言えるのではないでしょうか。
では、またの時間に。
作成・著作・・・・射命丸文
そこには様々な者達が様々な想いを抱えながら今日を生き、働いています。
今回は入館式までの3日間、紅魔館の者達を思い思いに取材しました。
彼らの心中にあるモノとは―
4月11日 (水) PM10:00
紅魔館までやってきた私を最初にお出迎えしてくれたのは、門番の紅美鈴さん。
「あ、おはようございまーす! 今日もいい天気ですね!」
急なカメラの前でも動じず、彼女は「んっ」と背伸びをして見せます。
流石、「門番」の肩書きは伊達ではないようです。
軽やかな風体とは相反するほどに、その気はどっしりと腰を落ち着かせています。
―今日から3日間、ドキュメントの撮影を。
「あ、そうなんですかー。3日間も大変ですね~。
・・・・でもそんなに見るとこありますか?」
―えぇ。隅々まで見させて貰いますよ。
「なんかちょっと恥ずかしい気分ですね・・・。」
―後でまた来ますので。ではまた後ほど。
「はい、ごゆっくりしていってくださいね。」
門番とは拒むだけにあらず。
彼女の言動1つ1つが、私を優しく迎え入れてくれるようでした。
―こんにちは。
「あ、はい。こんにちは。」
―何をしているのですか?
「見ての通り、床掃除ですよ。」
彼女は名無しのメイドさん。
紅魔館に来て20年ほど経つといいます。
「メイド長ですか? 今なら多分館主様のところじゃないですか?
メイド長とは行き違うことがしょっちゅうありますから、行動パターンを覚えないとついていけませんよ。」
―ご苦労なさってますね?
「まぁ。 それに迂闊に陰口も叩けないでしょ? いつ後ろに居るかわかったものじゃないわ。
気がついたらもう磔られているんだもの。 あー恐。」
―そうですか(笑) では、また後ほど。
「ん? ああ。
お節介だろうけど、迷わないようにね。」
「あら、いつぞやの鴉じゃない。」
「お嬢様、鴉天狗ですよ。」
「まぁ、どっちでもいいわ。
それにしても、ここ自体を取材しようだなんて物好きが・・・この世にはいるものなのね。」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットさんと、そのメイド長、十六夜咲夜さんです。
スカーレットさんはその容姿に似合わず、齢500年という貫禄溢れる方。
決して威張りはしないものの、その威厳の高さは長年培ってきた強さと畏怖と信頼を象徴するようです。
例えるなら「歴戦の覇者」とでも言えば良いでしょうか。
「煽てたって無駄よ。・・・まぁ、悪い気はしないけど。」
「お嬢様、私はここで・・・」
「えぇ。
射命丸文、存分に取材していきなさいな。」
―ありがとうございます。
十六夜さんは人間でありながら、メイド長という従者の頂点まで上りつめた実力者です。
その性格、能力は他の追随を許さない、まさに完全無欠なメイドさんです。
瀟洒な従者とはよく言ったものです。
―メイドになる条件とは?
「何でも出来るに越したことはないけど・・・ある程度汎用性がないと厳しいかしら。
逆に言えば、たとえ能力が低くても汎用性があればやっていけるわね。」
―なるほど。
「もちろん何かに特化していれば、それなりに待遇は良くなるわ。
血の気が多くて攻撃的なら近衛隊として館内警備に配属されるし、
情報処理能力が高ければ図書館に、打たれ強ければ門番に、といった具合にね。」
―人気のある職業は?
「花形は近衛隊かしら。そこらの野良妖怪なんかよりよっぽど強いし、何より派手ね。
逆に門番は人気がないわ。生存率が低いからかしら。」
―聞いておいてなんですが、よく把握してますね。
「現場の最高責任者ですからね。何事でも知っておかないと、仕事に支障が出かねないもの。」
汎用性があって尚且つ全てに長けている十六夜さん。
もはや口の出しようもありません。
「ここがセントラルホールで、ここから右手行けばに西館、左手に行けば東館があるわ。
西館を奥に行けば図書館が、東間の奥には私達の宿舎があるわ。」
―・・・正直ここまで迷わずに貴女の所まで行けたのが不思議なくらいです。
「それはお嬢様が貴女を導いたお陰よ。
この館にいる者は皆お嬢様に全て把握されているもの。」
―私も対象に入るんですか?
「もちろん。
そんなに心配しなくても、貴女の言論その他は保障されているわ。
お嬢様は、そういうのにはむしろ消極的だから。」
―なるほど。
「まぁ、口で何かが出来るほどここは甘くはないけれど。」
―大分苦労したようですね?
「そういうのは他に者に聞きなさい。 何のための紅魔館取材なの?」
―ごもっとも。
そう言って、十六夜さんはさっさと仕事に戻っていきました。
本当は十六夜さんのことも聞きたかったのですが、それはまたの機会に・・・
紅魔館・西館奥、魔法図書館。
膨大な書物と共にここで生活をしているのは、紅魔館の頭脳・魔女のパチュリー・ノーレッジさん。
「邪魔さえしなければ何でもいいわ。」
空間操作をして外日が一切入らないようにしてあるこの図書館で、
ノーレッジさんは日課である読書に耽ります。
「案内がいるんなら、それに頼みなさい。」
そう言って、パチュリーさんは1人の悪魔を指差します。
「ご紹介に預かりました、小悪魔にございます。
どうぞ、何なりと御申しつけください。
自らを小悪魔と名乗った悪魔は、いくつかの注意点を教えてくれました。
「本は勝手に持ち出さないで下さい。私が怒られますから。
そのカメラはフラッシュ撮影は出来ますか? 出来てもやらないで下さいね?」
―何故ですか?
「ここには光に弱い者たちがおります故。
それに、本が焼けたり倒れたり飛び出したりしないこともありませんし。」
―物騒なんですね。
「面白いでしょう? 私、ここが気に入っているんですよ。」
漆黒の衣を纏った「小悪魔」さんの笑顔は、
何となく覇気がなくてやつれている様に見えました。
―お疲れのようですね。
「いえいえ、これが普通ですよ。」
―何故「小悪魔」なんですか?
「契約者であるパチュリー様に預かってもらっています。
契約というのは、その者から名を奪うことでセイヤクするんです。」
―仕事に何か不満はありますか?
「ありません。
こう在る事が私の存在理由であり、使命であり、生きがいなんです。
他に何かご質問は?」
私は一度ここから離れることにしました。
この空間は、耐え難い何かが心を蝕むようでありました。
私にはノーレッジさんも「小悪魔」さんも、他とはまた違う逸脱感を覚えました。
その話は、また後ほどに・・・・
4月12日 (木) AM10:00
紅い不夜城は寝ることを知りません。
朝から門番の方々は周回警備や草むしりなどに精を出しています。
紅さんはどこにいるのでしょうか?
見当たらないので、巡回中の方に聞いてみました。
「今日もたしか夜勤だから、夜にならないと会えませんよ?」
―そうですか。 それにしても、朝から大変ですね。
「そうですね(笑) でも、頑張らないと、ですね。」
明るい「名無し」さんは紅魔館に勤めて3年目。
まだまだ新米ですが、元気で明るい、良い方です。
―それにしても、ここには名前のない人が多いんですね。
「ええ。『自然発生』に名前なんてありませんから。」
―名前もある方もいますよね?
「そう、そうなんです! すごいですよね~、憧れます~。」
聞けば、特に優秀な者にはスカーレットさんが直々に名前を与えてくれるそうで、
紅魔館での例外はノーレッジさん位だそうです。
「私、体力は良かったんで館外警備に回されたんですけど、まだ10番目なんですよね~」
―10番目?
「はい。
門の正面を0番として、そこから左右に1番、2番・・・てゆう風に配置されるんですね。」
―真ん中に近いほど優秀だと。
「そう!
0番を任されるってことは並大抵のことじゃないんです!」
―でも3年で10番は結構な早さですよね?
「はい、特にここは入れ替わりが激しいもので。
私なんかが今日まで来れたのは奇跡的ですよ!」
「東の10番」さんは活き活きと語ってくれます。
確かに、日中にも関わらずにこれだけ活発に動けるというのは門番向きでしょう。
「今、自分のスペルを考えているんですよ。
早く美鈴さんみたいに華やかで綺麗な弾幕を作ってみたいです!」
背番号0はエースの証。
何時か自分の背中にも名前を背負いたいというのが、彼女の夢です。
柔らかい日差しが差し込む紅魔館。
日の光が入り込み徐々に暖かくなっていく廊下で、昨日のメイドさんに会えました。
名前がないのは不便なので、私はその方に「硯」と勝手に呼ぶことにしました。
「硯・・・・ですか。」
―気に入りませんか?
「いえ。 ただちょっと驚いてしまいまして。」
―昼間から何をしているんですか?
「ああ、これ?
飾ってた花が枯れていたんで、それの交換を。」
―それだけでこんな時間まで?
「いえ、本当は窓拭きをやっていたんですけど、ついでに・・・と思って。」
―気が利くんですね。
「『これくらいやって当然』、とメイド長も言ってましたし。 面倒だけど。」
ややふて腐れ気味でしたが、花を生ける「硯」さんの顔は優しそうでした。
―十六夜さんをどう思いますか?
「・・・それ、答えなきゃ駄目ですか?」
―何かあったら私が弁護しますから、ね?
「・・・・・・・」
「確かに厳しい人ですよ。
人間のクセに下手な妖怪よりよっぽど強いし、恐い噂も絶えないし。」
―噂ってー、一体どんなことでしょう?(ワクワク
「・・・私は聞いただけですけどね。
出来の悪いメイドをナイフで刻んで弄るとか、夜な夜なお嬢様を食っているだとか。
本当は人間じゃなくて異世界から来た化け物っていうのもありますね。」
―磔とか?
「磔は事実ですから。
・・・・・でも正直、そういうのって私好きじゃないんですけど。」
―何故?
「有能な者ほど疎ましがられるのは世の常です。
相手が人間なら尚更でしょう?
でも私は、その『世の常』っていうのが嫌いで。」
「硯」さんは花を生けながら話し続けます。
「・・・それに、メイド長は厳しいだけじゃないんです。
いつか妹様がお暴れになったとき、メイド長は真っ先に駆けつけて対処してくれました。
手馴れたものだってみんなは言いますけど、
でも、頑丈な紅魔館の東館が半壊するほどの被害だったのに犠牲者はいなかったんです。
怪我すらも、なかったんです。」
―十六夜さんのお陰だと?
「みんなそれが当たり前だって思っているけど、でも・・・・」
言葉に詰まったようで、「硯」さんは口が止まりました。
それに釣られてか、話の間も動き続けていた手も止まります。
―尊敬、ですか。
「そういうことにしてください。
まぁ、私1人がどうこう言ったところで、何がどうなるものでもないでしょうけど。
さ、もういいですか?」
「硯」さんはさっさと立ち去っていきました。
私はしばらくその場に留まり、「硯」さんに生けられた花を眺めていました。
花瓶に添えられた花たちは、血に染まったかのように紅く萌えていました。
明るいうちにも図書館には誰かいるのでしょうか?
気は進まないものの、私はそこのドアを開けます。
外はあんなにも気持ちがいいというのに、ここは相変わらずの常闇。
明るさになれたこの目には、しばらく中の様子がわかりませんでした。
「ご用件はなんでしょうか?」
―うっわ!? 吃驚したー・・・・
「申し訳ありません。」
私が中に入ったそのときから、「小悪魔」さんはそこに佇んでいたようでした。
いやはや、面目ない・・・
「どうかお気になさらず。いきなり声をかけた私めが悪いのです。」
「小悪魔」さんは深々とお辞儀をして、私に謝りました。
黒い着物に揺れる紅毛は、暗い中でも良く映えました。
「パチュリー様はお休みになっております。お話はまた別の時間に・・・」
―今日は貴女とお話させてもらいに来ました。
「私と、ですか? 何も面白いことはありませんよ?
聞いても時間の無駄になるだけです。」
謙遜という訳ではなく、「小悪魔」さんは本気で私を止めました。
しかしそこはジャーナリスト魂。
真実はこの目で、この耳で。
―お仕事中でしたか?
「本の整理を。」
―ではやりながらで構わないので。
「物好きな方もいたものですね・・・・そこまで言うなら構いませんが。」
荷台に山積みにされた本を、「小悪魔」さんは1つ1つ本棚へと片付けていきます。
―目印も何もないのに、本の場所がわかるんですか?
「はい。
どこに、何の、どのような本が置かれるべきか、全て把握しています。」
―すごいですね。
「とんでもない。
パチュリー様はそれに加えて今まで読んだ本の中身も全て記憶してございます。
私なんかまだまだ及びもしないのです。」
「小悪魔」さんの手は迷うことなく、在るべき場所に本を戻していきます。
私には、そのか細い腕で本棚に並んだ本をかき分けることがかなりの重労働に見えました。
―貴女には名前はありましたか?
「はい。
150年程ここで働いた末に、お嬢様からお名前を頂きました。」
―何故貰った名前を返すようなことを?
「返すんじゃありません。 捧げるんです。」
あまり表情を出さなかった「小悪魔」さんが、ニイと口を広げました。
「パチュリー様との契約内容は、『暗闇でも不自由なく生きれる肉体の提供』、『主が死ぬまで仕えること』。
そして見返りとして、『主が死んだときまでに蓄えた知識を、僕に全て受け渡す』、というものです。」
私は恐ろしくなってしまいました。
「だから私は、パチュリー様のしたいことは何でもさせます。
下働きもやりましょう。 必要ならば敵とも戦います。
・・・何か、疑問がおありですか?」
―ありがとうございました。
「送って行きましょう。 ここで迷ってしまうと2度と出れませんから。
ここはお嬢様の目も届きませんし、ね。」
図書館からでたときには、もう外はうす暗くなっていました。
明かりを灯す程ではなく、しかしそのまま歩くには足元が危うく。
この中途半端な暗さは、なにかに追われているような感覚に襲われるようでたまりません。
紅魔館、その陰と陽。
一口に悪魔の館といっても、そこには数々の思惑が渦巻いているようです。
「いたーーーーーーーーーーーーー!!」
紅魔館に明かりが灯るちょうどそのとき、それは突然襲来してきました。
3度の礼とは言いますが、今回はちょうど3回目。
相変わらず力は有り余っているようです。
「また来てくれたんだ! ねぇ、遊ぼうよ!!」
フランドール・スカーレットさん。
これま存在自体が禁忌とされたフランドールさんですが、
何時かの「紅い霧事件」以降は事情が変わったようで、こうやって公に出てきてくれます。
―今回はドキュメントの取材ということで
「あ、そうか! 私のことも取材してくれるんだ!!
じゃあねえ、何を喋ろうかなぁ!?」
―では、私の質問に答えてもらうということで
「うん、それでいいよ!」
私の疲労も都合もお構いなし。
フランドールさんはただただ私に寄ってたかっては無邪気に振舞います。
私もただただ苦笑するばかりです(笑)
―何をしていたんですか?
「ハエたたきゲーム!!
あのね、そこら辺にいるのを時間内にどれだけ叩けるかっていうの!」
―・・・そこら辺の?
「そうだよ♪ 目標は全滅なんだけど、なかなか難しいんだよねぇ~。
みんな素速っこくてなかなか当たらなくてさ~。
でも当たったときのバンってなったときのバシャ!! ~~~ん~♪
あれが面白くて・・・」
パン!
「いった・・・何す」
―貴女の言う「ハエ」は、貴女と同じ尊い命を持って今日まで生きています。
命を粗末にしてはいけません。
「・・・顔なじみだからって調子に乗ってんじゃねーよ。」
「はい、お終い! ここで終わり!! さ、妹様、お部屋に戻りますよ!!?」
「咲夜! また邪魔するの!? いい加減にしないと・・・」
「妹様、遺憾ながら私もその記者と同意見です。
しばらくお部屋で大人しくしていてください。その後でお説教ですよ!?」
「やだ、離・・・」
フランドールさんの台詞の余韻も与えぬ間に、十六夜さんは「行って帰って」きました。
見たままなら「フランドールさんを瞬間移動させた」と言う方が正しいのかもしれませんが。
「全く、取材相手に手を上げるなんてとんだ記者ね!」
―申し訳ありません・・・・ところで、
「ん?」
―犠牲者は?
「残念ながら、今日も誰一人居なくはならなかったわ。
記事にするにはスパイスが足らないでしょう?」
―貴女を尊敬してしている方がいました。
「そう。」
―貴女が助けたそのうちの1人に、その方がいたかもしれません。
「そう。それはよかったわ。」
―何も感じませんか?
「私はそういうのにはもう何も思わないようにしてるの。
いちいち考えていたらキリがないわ。」
―でも、事実としてそう思っている方がいるんです。 忘れないでくださいね。
「・・・はあ。 わかった、覚えておくわ。
全く、貴女がこんなにお節介焼きだとは思わなかったわ。」
―同感です。
十六夜さんはフランドールさんを説教をしに部屋に戻ろうとしました。
その去り際に、十六夜さんは私にこう聞きました。
「貴女、私が来なかったらどうなっていたと思う?」
―風が力押しに負けるとでも?
「やれやれ・・・・全く、頼もしい限りね。」
少し私は目立ち過ぎましたね・・・
以後、自粛しましょう。
4月13日 (金) AM9:00
気になることがあった私は、今一度図書館へと足を運びました。
「また、いらしたのですね。」
―聞きたいことがあったもので。
「はあ。 まあいいですけど。」
昨日と同じように、「小悪魔」さんは片付けをしながら私の質問に答えてくれました。
―いつ寝てるんですか?
「私には睡眠欲がありません。
寝るということは、死ぬと同義ですし。」
―疲れた、と感じることは?
「肉体的疲労などは魔力でどうとでもなります。」
―精神的には?
「この空間にいれば、私はいつだって元気でいられます。」
―昨日の続きですが・・・
「何でしょう?」
―本当にノーレッジさんの知識を得えるためだけに、彼女と契約したんですか?
「何故そう思われますか?」
―知識を得るだけなら、本を読めばいくらでも得られるでしょう?
「小悪魔」さんは手を休ませずに、しかし私の質問にも答えようとはしませんでした。
全ての本が片付くと、私はいつもノーレッジさんが座っているという机まで案内されました。
そしてそこで「小悪魔」さんは、私にハーブティを出してくれました。
ハーブティは喉を心地よく刺激してくれ、埃っぽかったのも少しは楽になります。
「小悪魔」さんはゆっくりと語ってくれました。
「ここに来て長いこと経ちましたが、私は相も変わらずこの通りです。」
―はい。
「最初の1年で図書館に異動になって、後はずっと今の調子。
なんら変わり映えのない日々でした。」
「最初の50年はパチュリー様とは口も殆ど聞かない状態でして。
その頃はまさか自分がパチュリー様と契約するとは思いもよらないことです。」
「ただ、何がきっかけだったのでしょう。
初めて会話を交わしてからは、毎日数回ずつ、会話として成り立っていたかはわかりませんが、
言葉をやり取りしていきました。」
遠くを見つめる瞳。
淡々と口から出る言葉に彼女が感じているのは、懐かしさか。
「あるとき、お嬢様が私を呼び出して、そしてこう言ったんです。
『友人が何を考えているかは知らないけど、とりあえず貴女には名を与えるわ。
今から貴女の名は よ。』 と。」
その者の力の本質は、与えられた名前と、与える者の力に由来するとされている。
だから、名前というのは重要なことなんだそうだ。
最初から与えられた名前がある者にとっては実感は湧きませんが。
「その後直ぐにパチュリー様のところへ行きましたよ。
そうしたら、こう言ったんです。
『名のある貴女には、許される範囲の何事にも干渉する権限が与えられるわ。
で、それを知った上で答えてもらうわ。私と契約するか否か。』 と。」
―どう答えたんですか?
「どうもこうも。
いきなり名前を与えられて、今度は契約するかと聞かれるんですもの。
もう可笑しくて可笑しくて・・・・」
昨日とは違った、柔らかく優しい微笑み。
どうやら私は誤解していたようです。
「思わず私が笑ったら、パチュリー様はこう言うんです。
『で? するの? しないの? どっち!?』 って。 ふふっ
これじゃあ断りきれないですよね。」
―もったいないなぁ、と思ったことは?
「さあ、どうでしょう?
しかしながら、我ながらよくも飽きずに今日までやってきたものだと思いますよ。」
だんだん化けの皮が剥がれてきたようなので、昨日のことを聞いてみました。
返ってきた答えは―
「その方が雰囲気あるでしょう? ふふっ」
帰り際に「小悪魔」さんはこんなことを教えてくれました。
「名前を奪うってことは、その者の所有権を持つって事なんですよ。
貴女も名前を大事にしてくださいね。」
―肝に銘じます。
「それと、今度から私のことは「こあ」とお呼びください♪
今は忘れた真名よりもすごく気に入っているんですよ。」
―こあさん、ですか。 少し呼び辛いですがいい字ですね。
「でしょ? また、お会いしましょうね。」
人間は悪魔を忌み嫌うものらしいですが、
それはきっと「良い」悪魔と接したことがないからでしょう。
かのメフィスト・ヘレス然り、
彼らはこうも人間味があって面白いものです。
PM00:00
昼食を頂いているところに、フランドールさんがお目見えです。
バツが悪いように見えますが、私も実際どうしていいものかと悩みました。
「・・・ごめんなさい。」
意外、あまりにも意外。
「だから・・・また遊んでよ。」
聞けば、昨日は十六夜さんに1時間で3時間分の説教を食らったのだとか。
よくわかりませんでしたが、なんとなく同情は覚えました。
―こちらこそ、打ったりしてごめんなさい。
だから、これでおあいこですよ。
「うん。」
ブスッくれたフランドールさんの顔がようやく笑顔に戻りました。
元気な子には、やはり笑顔が似合うものです。
「だから今度は文を叩くことにしたの♪」
―何が「だから」なのかは知りませんが。
「咲夜も『それならいい』って言ってくれたし♪」
―・・・・・
「覚悟しろよっ」
―臨むところです。当てられるものなら当ててみてください。
・・・ただ、今日はちょっと・・・・・・・・・
「えー」
相変わらず、けれども少しずつ変わっていくフランドールさん。
いつか手のかからなくなる日が来るのでしょうか?
それはそれで寂しい気もしますけどね。
PM3:00
今日の門の人たちは、少し雰囲気が違いました。
雑多な会話も、適当に遊ぶこともなく、マジメに職務に取り組んでいます。
何かあったんでしょうか?
「あ、射命丸さん。」
―紅さん、今日は皆真面目ですね。
「えぇ、昨日の今日ですから。」
昨日の夕刻、私が図書館にいた頃に、敵襲があったそうです。
丁度夜勤との交代時間で警備も疎らだったらしく、対処が遅れたとのことです。
犠牲者は3名。
その亡骸は、片隅の名も彫られていない小さな墓石の下に埋められたそうです。
「私が居ながらにも関わらず、こんなに犠牲を出してしまいました・・・・」
昨日取材を受けてくれた「東の10番」さんが、どこを探しても見当たりませんでした。
「取材を受けたんだって喜んでいた者ですか。
・・・・彼女がシンガリになってくれたお陰で、被害は最小限に抑えられました。 名誉の戦死です。」
奇跡はそう長くは続かない。
そう自分に言い聞かせつつも、私は自分の夢を語っていた彼女の顔が忘れられません。
彼女の考えたスペル、見てみたかった。
―今まで何人看取ってきましたか?
「私がここに配属されてから今日までで、131名が散っていきました。
親友と呼べる者も、何人もいました。」
―辞めたいと思ったことは?
「ありません。 私の生涯は、ここで閉じられるべきなんです。」
紅魔館の歴史の中で、何事もなく生涯を終えた門番はいないといいます。
過酷な労働環境で、彼らは門番に何を見ているのでしょうか?
紅さんは言います。
「ここに来た時点で、私はこの館の一員なんです。
一つ屋根の下で生活すること、それを家族といいます。
家族を護るためなら、私は命を惜しみません。」
―貴女がいなくなって泣く方もいるでしょう?
「さあ・・・どうでしょう(笑)
でも大丈夫です。 私、丈夫さだけは自信がありますから。」
門番で名を持つことができる条件は2つあるといいます。
しぶとく生きること、そして優しくあること。
傷が多ければ多いほど、盾は輝き硬さを増すからだそうです。
門番もまた、素質がなければこなせない職業なのです。
PM6:00
真っ赤な夕日に紅魔館は照らされ、入館式は始まります。
今回の入館者は全部で30名。
最初の1年は本館で必要最低限なことを学び、
その後で各々の持ち場を与えられるそうです。
「ここに着たからにはもう逃げられないと思いなさい。
あなたたちの運命は全てこの私の掌の中にあること、よく覚えておくことね。」
緊迫、張り詰めた空気、
「お嬢様、それでは脅迫です。」
「ふん、これで逃げ出すようなヤツに用はないわ。」
「お嬢様、さっきと言っていることが違います。」
「咲夜、さっきから五月蝿い。」
「申し訳ありません。」
「とにかく、これからビシビシ働いてもらうから、そのつもりで!!」
十六夜さんの働きでその場の空気は一気に緩み、和やかな雰囲気になりました。
「では、この後はオリエンテーションに移ります。
場所は東館・小ホールに、10分後の集合になります。
遅れてきた者は容赦なく磔します。以上、解散!」
「あー疲れた。」
―お疲れ様です。
「ほんと、慣れない事はすべきじゃないわ。」
「お嬢様、今回で何回やったと思いですか?」
「慣れない事は何回やっても慣れないのっ」
―先ほどは運命を握ると言いましたね?
「そうね。確かに私にはそういう能力があるわ。
でも最初からそれを使っていれば、こんな補充要員なんか必要ないわよね。」
―何故使わないのですか?
「だって、面白くないでしょ?」
―そういう問題なのですか。
「森羅万象あらゆるものの運命は皆異なっているわ。
短いか長いか、幸せか不幸せか、それで悩むのは結構だけど、
そんな些細なことで足止め食らっていたんじゃ勿体無いわ。
他とは違う。
ただそれだけでも十分に興味深いし、内容が良いなら言うことなしね。
だから私は、そんな物事を画一的にするようなことはしないの。」
「単に人事を把握していないというのもありますが。」
「だーかーらー、なんでそうお前は台無しにするの!?」
「面白いからです。」
「あんた・・・私に喧嘩を売りたいらしいわね。」
「ではそろそろ10分経ちますので、失礼させていただきますね。」
―十六夜さんをメイド長にした理由はなんですか?
「あー? 何、まだ居たの?」
―そんなに睨まないで・・・
「はー全く・・・・答えは単純!
あ い つ は 完 璧 だ か ら !! あー面白くない!」
こうもでこぼこな主従関係は見たことがありません。
運命を操る悪魔と完璧な人間のメイド。
両者の関係は皮肉にも不完全でありながら、こうも巧く噛み合っています。
今まで見てきたどの上下関係よりも魅力的に見えるのは私だけでしょうか?
PM8:00
最後の正直、また図書館へと足を運ばせます。
「あら、まだ居たの?」
―最後に1つ、聞きたいことがありまして。
「何?」
―何故こあさんと契約したんですか?
「・・・何か聞いたのね。
ま、いいわ。 大したことでもないし。
理由は特にないわ。 ただ、居た方が何かと便利だっただけ。」
―それだけであんな契約内容ですか?
「そこまで話したの? ま、別にいいけど。
体の方はともかく、アレは一時の気の迷いよ。
偉人が自伝を書くように、私も何か残したいと思った時期もあったの。
ただ、情報量が多すぎてどうにも収めようがないから、
なら魂に直接情報を送り込めばどうだろう、って思って。
悪魔なら半永久的に存在できるし。」
―こあさんじゃないと駄目だったんですか?
「別に。
ただ丁度手ごろな人材が近くにいたからそれで済ませたの。」
―本当にそれだけですか?
「・・・質問、それで4つ目よ。」
―まぁ、そう言わずに。
「取材相手に嘘をつくなんて・・・それが貴女のやり方かしら?」
迂闊ながら、核心には触れられませんでした。
ただこの様子を見る限り、2人の関係は当初の見解とは違ったものであることは明確です。
また機会があれば、こあさんを交えてノーレッジさんに問いただしてみようと思います。
PM10:00
初日の取材から丸3日が経ちました。
撤収します。
―あ、硯さん。
「ああ。忘れ去られていると思ったわ。作者にも読者にも。」
―まぁ、そう怒らないで。
「新人の教育係、メイド長から任命されたわ。」
―おめでとうございます。
「は~・・・・
私、本当は近衛隊に入って弾幕撃ちまくりたかったのに。
どうしてこんなことになっちゃうかな~・・・・。」
―認められた、ってことでいいのでは?
「妹様から助けられておいてそれはないわ。
あーあ、出世の道から遠のいていくわ・・・・」
―では、私はここで。頑張って下さいね。
「えぇ、お疲れ様。」
20年目にして転機を迎えた名無しのメイド、硯さん。
変化こそ進歩であると誰かが言っていたことですし、
きっといいことありますよ。
「あ、文さん。」
―終日出勤ですか?
「もう一日中立ちっぱなしで・・・結構しんどいです。」
―埋め合わせ、ということですか?
「はい。
居なくなったみんなの分まで頑張らないといけません。
・・・今年は何人来るのかなぁ。」
4月。
入館式を1年前に迎えた若者が、もうすぐ各現場に配属される時期でもあります。
出会いと別れ、ずっと変わらぬ間柄、うつりゆく人々。
月並みながらも、それは確かに紅魔館にもありました。
微力ながらも、私はこの紅魔館の魅力を見せることができたでしょうか?
もし少しでもそう思っていただけたら、この取材は成功だと言えるのではないでしょうか。
では、またの時間に。
作成・著作・・・・射命丸文
少し和んだ
入れれないけど
つ[90点]
置いときますね
ただなあ、紅魔館の門番ってそんなにも死ぬかねえ
主な対戦相手って魔理沙なんじゃ
ごもっともですね・・・紅魔館の場合、「門が最前線」というイメージがあったもので。
それに、襲来する相手が必ずしも殺生を好まない相手だとも限らないよなぁ・・・とも。
紅い悪魔相手に喧嘩吹っかけるヤツはそうそういないだろうし、
ドキュメントの割に少し殺伐とさせすぎたようですね。