「で? 効果はどうなの」
「できれば主語を正確に仰って下さいませんか」
主語や対象をすっ飛ばした物言いが氾濫する幻想郷である。
彼女は特にそうした言い回しが得意だ。とりわけ、使い魔と一緒に居るとそういう喋り方をする事が多い。
「貴女の日記に仕込んだ毛玉捕獲式の事よ。」
「あーはいはいアレですね。スゴイですよ。入れ食いとはあの事です。何だか複雑な気分ですけど」
何故か小悪魔の日記に毛玉がたかる事が多いので、試しに賢者の石を利用して毛玉の構造を紙に変換して本に綴じる式を主に組んでもらったのだ。
折角の賢者の石なのにそういう事にしか使わないのも如何なものかと思わなくもない。
「カウンタは?」
「さっき見たら599でしたね。物凄いペースで増えてますけど…毛玉って日記に寄って来る習性でもあるんでしょうか? いや、それ以前に字が読めるんでしょうか」
「さあ。興味無い」
無表情で言い切る。にべもない。
「…そうですか」
興味のある分野はそれこそ真理に到達するまで極める事を諦めないのに、それ以外の事には非常に淡白である。これは魔女としての習性なのだろうか。それなりに永い付き合いであるが、小悪魔にはまだその辺は掴めていない。
組んだ式が正常に稼動しているかどうかだけが彼女の関心事だったらしく、また黙って読書に没頭し始めた。
コミュニケーションが取りづらい主ではあるが、小悪魔にとっては仕え甲斐のある、素晴らしい主だ(と、侍女長辺りに言うと何故か物凄くイヤそうな顔を一瞬して、無機質な笑みを浮かべるのだ。何か恨みでもあるのだろうか)。
「パチュリー様。この後のご予定は?」
少し前であれば読書以外に予定などあろう筈も無かったのだが、少し前からパチュリーは館住人の悩みの相談相手をしている。
侍女長殿が「無駄飯喰らいを置く余裕は無い」という意見を50枚くらいのオブラートに包んで伝えてきたので、カウンセリングの真似事と相成った。
これが結構評判が良く(特に館の主人に)、割と大手を振って館の食客で居られるようになった。
始めて少しした辺りから侍女長殿が寄越してくる視線に剣呑なものが増え始めたのが気になるところだが。
悩み事があるのなら相談しに来ればいいのに、と小悪魔は常々思っている。
「今日は誰も来ない」
「さいですか。では、通常業務を――」
図書館の静寂を切り裂いて、入り口のドアが弾けるような勢いで開く音が響いた。
「うー!!」
お得意様の鳴き声だ。
「予定変更。レミィね」
「お茶の準備してきます」
小悪魔は図書館内に備え付けられたキッチンルームへ向かい、パチュリーは自分の対面の位置にある来客用の椅子を、これからやってくる友人の為に魔法で少し引いてやった。
「でね、そしたらね、フランがね…」
今日のお悩みは侍女長殿と妹君が大変仲がよろしくて相手をしてもらえる時間が減っているとの事。
「……」
パチュリーはただ黙って話を聴いている。
「咲夜は私の事なんてどうでもいいんだわ…」
萎びた羽根の先をもじもじと合わせながら俯く吸血鬼は、とても可愛らしかった。
パチュリーから言わせて貰えば、咲夜がレミリアの事を蔑ろにしているなどという結論に達する事自体が不思議である。
咲夜の常日頃の態度を見れば、心の底から主人を慕っているのがはっきりと分かるではないか。
終わらない冬の時に独りで館を出る咲夜の表情と、満ちぬ月の時にレミリアに付いて館を出る咲夜の表情の違いが分からなかったのだろうか。
彼女は何時だって、レミリアの傍に居る時は活き活きとしているのだ。
パチュリーは小悪魔に目配せをした。小悪魔はその目線だけで何をして欲しいかを汲み取る。
「レミリア様。レミリア様が留守中のメイド長は随分と寂しそうでしたよ」
咲夜はほとんど他人に自分の弱みを見せようとしない。レミリアと門番にはほんの少し気を許しているようだが。
そんな咲夜なので、レミリアが神社に出かけている最中に小悪魔が見た寂しそうな表情は、咲夜がレミリアの不在に心を痛めている何よりの証なのだ。
咲夜がそんな顔を見せるのはあまりに珍しかったので、日記に書いてしまったくらいだ。
顔を上げたレミリアに、パチュリーがいつものぶっきらぼうな口調で言う。
「レミィは少し遠慮が過ぎるわ。咲夜は何時だって貴女の事を第一に考えてるのよ。少し我侭なくらいでちょうどいいのよ。夜の女王でしょう?」
レミリアの瞳が、とても嬉しそうに輝いた。
「ありがとう、パチェ。貴女は最高の親友だわ」
萎びていた翼も力強く。レミリアはそう言い残すと意気揚々と図書館を出て行った。
再び、図書館を静寂が包む。
小悪魔はパチュリーにお茶を淹れなおすと、また本から眼を離さなくなってしまった彼女の傍を離れようとした。
「一緒に飲んで行きなさい」
珍しい主からのお呼びに小悪魔は嬉しそうに尻尾を一回転させると、隣に腰掛けて自分のカップに紅茶を注いだ。
「レミリア様と咲夜さん、うまく行きますかねえ?」
紅茶を一口啜ってから、小悪魔はポツリと呟いた。
「さあ。興味ないわ」
やっぱりにべもない。
だが、小悪魔にはちゃんと見えていた。
本に向けられたパチュリーの顔に、自信たっぷりな微笑みが浮かんでいるのが。
うまく行かない訳がない、か。
これだから、この方に仕えるのはやめられない。
「咲夜ー。お茶淹れてー。RHマイナスの血が飲みたーい。今持ってる服全部気に入らないから捨てて新しいの欲しい。500着くらい。それから太陽眩しいから何とかしてー。あと、咲夜のメイド服だけシースルーにしたいんだけど。下着着用は不可ね」
咲夜家出。
初めて少し、ってなってるけどこれは始めてな気が。
>「うー!!」
> お得意様の鳴き声だ。
これにはフイタwwww
これはHIDOIwww
普通に家出しちゃうって!!
あ、俺毛玉だったのk(バタン
しかしシースルーの冥途服を着た咲夜さんを見たいのもまた事実で(ナイフ