「ふふふ……」
魔理沙はアリスの家の前で不気味な笑みを浮かべた。その手には何故か直径一センチ程の荒縄が握られている。両手に握り締めた縄を緩めて、音が鳴るほどに強く引っ張る。その動作を二度三度と繰り返して、魔理沙は不気味な笑みを益々深くした。
何故魔理沙がこんな場所でこんな怪しい行為をしているかというと、天啓が降りたからだった。
いつものようにベッドで熟睡しているとき、魔理沙は夢の中で誰かにこう告げられたのだ。
『アリス、アリス・マーガトロイドを縛ってしまえ!』と。
真っ白な世界に響き渡るその声は、昔どこかで聞いたような気もしたのだが、如何せん見えないことには判断がつかない。ただ、その声には従わないといけない、強迫観念じみたものがあった。だから、朝目が覚めたとき、魔理沙は真っ先に倉庫に向かい荒縄を探した。
そうして荒縄を手にした魔理沙は、マスタースパークを加速装置に使い、アリス邸にやってきた。余談だが、魔理沙が飛んだ空の下には広大な森があり、とある蟲とか鳥とかが被害にあっていたらしい。
「ふふふふふふ……」
目が逝ってる魔理沙は、右手を顔の前に持ってくると、人差し指を空に向けた。指先のすぐ先に小さな星が現れると、魔理沙はそれをアリス邸のドアノブに向かって振り下ろした。指先に浮かんでいた小さな星が勢いよくドアノブへと向かっていき、そして見事にドアノブを吹き飛ばした。
「待ってろよアリス……今縛ってやるぜ」
――大丈夫だ魔理沙、きっと誰も待ってない。
住居不法侵入? なにそれおいしいの? な魔理沙は家主の許可など端からガン無視決めてずっかずっかと廊下を闊歩する。フンフンと荒い鼻息も、ギンギラギンにさり気なくない尖った瞳も、既に魔理沙が超えてはならないラインを超えたことを証明している。
とある部屋の前までやってきた魔理沙は、一度立ち止まった。アリス邸の構造は何度も足を運んでいて覚えている。アリスが場所を移動していない限り、このドアの向こうはアリスの寝室のはずだ。アリスの寝室は研究室のドアとつながっている。用事で家を空けるとき以外、アリスは基本的にこの部屋の中で一日を過ごす。
「アリス、縛りにきてやったぜー!」
ドアに背中を向けて両手を下に突き出し後ろ蹴りをかます。かわいい動作からは想像もできない威力を発揮した蹴りは見事木製のドアを吹き飛ばした。
室内に足を踏み入れ視線をめぐらせる。目的の人物はすぐに見つかった。何故かアリスはベッドの上でぐったりと倒れている。
これは好都合とばかりに、魔理沙はそろそろとアリスに近寄った。今まであれだけ騒いでいたのだから、今更忍び足をしても意味は無いだろうに、バーサーク状態の魔理沙はそんなことにも気がつかない。
「アリス……?」
仰向けに寝転び、額に右腕を乗せたアリスの顔を覗き見る。
「はぁ……ん」
その時、何故か熱っぽい吐息がアリスの艶かしい唇から漏れた。よく見れば、アリスの首元には汗が浮き上がっている。頬もうっすらと赤く染まっており、その姿は扇情的であった。
ごくり、と魔理沙は喉をならした。確かに襲い(縛り)に来たのは自分だけれども、まさかこんなにもイヤラ――もとい扇情的な姿を見せられるとは思ってもいない。
気づけば脈が早まっていた。どっくどっくと鼓動を鳴らす心臓の音がやけに響いて聞こえる。
「……いくぜ」
声を出して、魔理沙はゆっくりと荒縄でアリスを縛り始めた。できるだけアリスの肌理細やかな肌が傷つかないように、優しく縄を通していく。詳しい縛り方は敢えて端折るが、その形は昔霊夢が乗っていた亀に似ているとだけ言っておこう。
「……」
縛り終わったアリスをじっくりと観察する。
――なんて、イヤラシイ。
艶かしくも苦しそうな吐息を漏らしながら、縛られた体を弱弱しくくねらせる。スカートは腿どころか白い布地が丸見えになる程にめくれていて、もう魔理沙の気分は「フォーウ!」状態である。どんなだ。
しかし、これは思わぬ僥倖。据え膳食わぬは武士の恥と昔から申しておりまして。故に魔理沙は自分が魔法使いであることも忘れて、
「あ、アリス……!」
アリスをベッドに組み敷いた。
……魔理沙は気づいていない。普段ならばおかしいと気づき、その原因にまでたどり着いたであろう。しかし今の魔理沙は自他共に認めるほどに暴走状態にあり、故に気がつけなかったとしてもなんら魔理沙に非はない。
非はないのだが、なんというか。
「シャンハーイ」
聞きなれた声が耳に届いたかと思うと、ぽんぽん、と肩を叩かれる。その正体が誰かなんて考えるまでもない。
「なんだよしゃんは……ぃい!?」
邪魔をしようとするアリスの人形を追い払おうと顔を振り向けてみると、そこには何故か変な格好をして、手に小さな鞭をもった上海人形の姿がある。
「シャンハーイ♪」
しかも上海の顔は喜色に染め上がっていて、どこか恐ろしさを感じさせる。
そう、魔理沙は気がついていなかった。アリスがベッドの上で寝転んでいるのが上海人形にちょうきょ――もとい躾けられたからだということに。アリスが早々に倒れてしまっていたが故に湧き上がる女王様心を持て余していた上海人形が、飛んで火にいる夏の蟲とばかりに飛び込んできた魔理沙を虎視眈々と狙っていたことに。
「シャンハーイ♪」
「しゃ、しゃんはい……?」
たじ、とベッドの上を後ずさる魔理沙に向かって、上海が鞭を振るった。
「痛っ。なにするんだしゃんは、痛っ!」
「シャンハーイッ♪」
「痛いっていってるいだっ!?」
「シャンハーイシャンハーイ♪」
先ほどまでの興奮状態はどこへやら。涙を目に浮かべながら、必死に魔理沙は後ずさる。と、下がる魔理沙の手に、アリスの手が当たった。思わず視線を落とした魔理沙の瞳に、アリスの腕に浮かんだ赤い筋が写る。
「まさかアリスもお前がしゃんは痛いぃっ!」
「シャンハーイッ」
「だが私はこの程度じゃあやら――」
「シャンハーイ!」
「まだまだ――」
「シャンハーイ!!!」
「まだま……」
「シャンハーイ!!!!」
「ら……」
「シャンハーイ♪」
「らめぇ……!」
その日、アリス邸からは魔理沙の嬌声が止む事はなかったという。
もっとやれw
下のは誤字かもです(;´Д`)ハァハァ…
・肌理細やかな肌
・魔理沙が教われ
魅魔様なの?
あと、初っ端の天啓はきっと読者からの総意に違いなi(鞭
上に同じ!
>下のは誤字かもです(;´Д`)ハァハァ…
>・肌理細やかな肌
>・魔理沙が教われ
ご指摘ありがとうございます(;´Д`)ハァハァ…
教われは見事に誤字です、ありがとうございます(;´Д`)ハァハァ…
ただ、『肌理』に関しては誤字ではないのですが、やはり読みにくかったようですね。以後気をつけさせていただきます。
一応、あれの読みは『肌理細かい(きめこまかい)』でした<(_ _)>
上から魔理沙=アリスと言う方程式が出来る
つまり、魔理沙はアリスと同じ運命共同体だったんだよ!!!!
魔理沙にゃ前科があったな。
正しくは「肌理細かな肌」になるかと。日本語って難しい。
とはいえ言葉は変化してくものですから、結局は「皆が使っていて、尚且つ通じるなら間違いではない」と言えるのですけど。
>正しくは「肌理細かな肌」になるかと。日本語って難しい。
うわぁ、まじですかぁ。
とてもいい勉強になりました、ありがとうございます<(_ _)>
僕も内心、口語表現で通じればいいわなぁ、と思ってもいるのですが、やっぱり文章を書く以上は正しい日本語を用いたいなとも。
なのでこういったご指摘はものすごくありがたいです。
よろしければ今後もまたよろしくお願いします。