白玉楼。
その延々と続く庭で、妖夢は黙々と箒をかけていた。
「妖夢~、そろそろお茶にしましょう」
遠くから幽々子の声が聞こえた。
「あ、はい」
そう答えておいて、妖夢はいそいで集めたチリを捨てる。
それから幽々子の声が聞こえたところへ急ぐ。いつものことだ。
幽々子は縁側ですでにお茶の用意を済ませていた。
「あぁ、すみません幽々子様…お待たせしました」
「ん?あぁ、別にいいわよ。もう私は食べてるし…」
「…」
妖夢は幽々子の隣に腰掛け、お茶を頂く。…少しぬるくなっているが、まぁ呑みやすいと思って我慢。
ふと、幽々子を伺うと、なにやら妖夢のことをじっと見つめていた。
「…?なんですか?」
幽々子はにこりと笑う。
「髪、伸びたわね」
「え?」
言われて気付いた。そういえば随分切っていないように思う。
つまるところ、そんなことに構ってられないほどここのところ忙しかったのだ。
「そうですね…そろそろ切らないと…」
妖夢は髪を撫でる。
「あら、切っちゃうの…伸ばさないのかしら?」
「?えぇ…切りますけど…?」
「ふぅん…折角そこまで伸ばしたんだから、もう少し伸ばしてみれば?」
ふいに幽々子が身をのりだし、ゆるりと細い指を妖夢の髪に絡ませた。
「ひゃあっ」
「さらさらしているわ、妖夢の髪」
妖夢は飛びのく。
「び…びっくりしますよ!びっくりしますよ!」
「ふふ、どうして二回言うの?」
「い…いえ…それぐらい驚いたんです」
幽々子はまた少し笑い、のりだした体勢のままで二人の間にあった団子を取る。
「ねぇ、どうしても切る?」
「…」
妖夢は早まった鼓動を押さえながら、きっぱり言う。
「切ります」
「私が切らないでって言っても?」
「それは…」
さすがに言葉に詰まる。
「幽々子様の指示でしたら…」
「指示じゃないわ」
「え?」
「お願い」
「え?えぇ?」
「駄目?」
「あ…えぇと…」
妖夢は意味も解らず、とにかく慌てる。その様子を見て、幽々子は声に出して笑った。
「あはは、冗談冗談」
「じょ…冗談?」
よく解らないが、からかわれたことだけは確かなことだと解り、妖夢はみるみる真っ赤になった。
「もう!幽々子様!からかわないでください!」
「ごめんねぇ、でも髪を伸ばせば良いのにと思うのは本当よ」
「え?…ま…またからかう気ですか?二回連続はさすがに…」
幽々子が優しく言う。
「違うってば。これは本心。妖夢、きっと似合うと思うけど?」
「うぅ…」
妖夢は更に紅くなる。冗談ならばいくらでも怒って誤魔化せるが…本気だと言われると照れるしかない。
「わ…私には似合わないですよ…」
「あら、妖夢は私の見立てに間違いがあるとでも言いたいの?」
「うぅ…その言い方は…卑怯です…」
「そう?…まぁあんまり口出しするのも可哀想だし…聞くのも最後にするけど…やっぱり切る?」
「…」
妖夢は俯く。迷っているというよりも…自分が迷いそうになっているという事実に、ただただ狼狽している風である。
「わ…私は剣士です…髪が長かったら剣を振るとき邪魔になりますし…掃除の時も…私未熟ですから…きっと今以上に駄目になって…えぇと…」
何故か妖夢は泣きそうになってくる。自分でも理由は解らない。
あまりにも妖夢がうろたえるものだから、幽々子は妖夢の肩をぽんぽんと叩いて止める。
「解ったわ。迷わせるようなこと言ってごめんね」
「……はい…」
妖夢は真っ赤になりながら、結局顔は上げられなかった。
数日後。
妖夢は相変わらず白玉楼の掃除をしている。
心地よい風が妖夢の髪をふわりと揺らす。
少し、髪を撫でる。
幽々子も、誰も気付かない。
妖夢の髪が、少しだけ、本当に少しだけ、普段より長く残されていることに…。
《終わり》
その延々と続く庭で、妖夢は黙々と箒をかけていた。
「妖夢~、そろそろお茶にしましょう」
遠くから幽々子の声が聞こえた。
「あ、はい」
そう答えておいて、妖夢はいそいで集めたチリを捨てる。
それから幽々子の声が聞こえたところへ急ぐ。いつものことだ。
幽々子は縁側ですでにお茶の用意を済ませていた。
「あぁ、すみません幽々子様…お待たせしました」
「ん?あぁ、別にいいわよ。もう私は食べてるし…」
「…」
妖夢は幽々子の隣に腰掛け、お茶を頂く。…少しぬるくなっているが、まぁ呑みやすいと思って我慢。
ふと、幽々子を伺うと、なにやら妖夢のことをじっと見つめていた。
「…?なんですか?」
幽々子はにこりと笑う。
「髪、伸びたわね」
「え?」
言われて気付いた。そういえば随分切っていないように思う。
つまるところ、そんなことに構ってられないほどここのところ忙しかったのだ。
「そうですね…そろそろ切らないと…」
妖夢は髪を撫でる。
「あら、切っちゃうの…伸ばさないのかしら?」
「?えぇ…切りますけど…?」
「ふぅん…折角そこまで伸ばしたんだから、もう少し伸ばしてみれば?」
ふいに幽々子が身をのりだし、ゆるりと細い指を妖夢の髪に絡ませた。
「ひゃあっ」
「さらさらしているわ、妖夢の髪」
妖夢は飛びのく。
「び…びっくりしますよ!びっくりしますよ!」
「ふふ、どうして二回言うの?」
「い…いえ…それぐらい驚いたんです」
幽々子はまた少し笑い、のりだした体勢のままで二人の間にあった団子を取る。
「ねぇ、どうしても切る?」
「…」
妖夢は早まった鼓動を押さえながら、きっぱり言う。
「切ります」
「私が切らないでって言っても?」
「それは…」
さすがに言葉に詰まる。
「幽々子様の指示でしたら…」
「指示じゃないわ」
「え?」
「お願い」
「え?えぇ?」
「駄目?」
「あ…えぇと…」
妖夢は意味も解らず、とにかく慌てる。その様子を見て、幽々子は声に出して笑った。
「あはは、冗談冗談」
「じょ…冗談?」
よく解らないが、からかわれたことだけは確かなことだと解り、妖夢はみるみる真っ赤になった。
「もう!幽々子様!からかわないでください!」
「ごめんねぇ、でも髪を伸ばせば良いのにと思うのは本当よ」
「え?…ま…またからかう気ですか?二回連続はさすがに…」
幽々子が優しく言う。
「違うってば。これは本心。妖夢、きっと似合うと思うけど?」
「うぅ…」
妖夢は更に紅くなる。冗談ならばいくらでも怒って誤魔化せるが…本気だと言われると照れるしかない。
「わ…私には似合わないですよ…」
「あら、妖夢は私の見立てに間違いがあるとでも言いたいの?」
「うぅ…その言い方は…卑怯です…」
「そう?…まぁあんまり口出しするのも可哀想だし…聞くのも最後にするけど…やっぱり切る?」
「…」
妖夢は俯く。迷っているというよりも…自分が迷いそうになっているという事実に、ただただ狼狽している風である。
「わ…私は剣士です…髪が長かったら剣を振るとき邪魔になりますし…掃除の時も…私未熟ですから…きっと今以上に駄目になって…えぇと…」
何故か妖夢は泣きそうになってくる。自分でも理由は解らない。
あまりにも妖夢がうろたえるものだから、幽々子は妖夢の肩をぽんぽんと叩いて止める。
「解ったわ。迷わせるようなこと言ってごめんね」
「……はい…」
妖夢は真っ赤になりながら、結局顔は上げられなかった。
数日後。
妖夢は相変わらず白玉楼の掃除をしている。
心地よい風が妖夢の髪をふわりと揺らす。
少し、髪を撫でる。
幽々子も、誰も気付かない。
妖夢の髪が、少しだけ、本当に少しだけ、普段より長く残されていることに…。
《終わり》
……。
それはそれで良いかもしれない。
妖夢の心遣いが良いなあ……