ルナ姉は今日も鬱で、メル姉は今日も躁だ。私はとりあえず眠い。
「世界滅びないかなあ、今すぐ」
「姉さんそんなんじゃダメよ。外に出ましょう!」
「本を捨て街へ出た人間は完全な死体になった」
「街には素敵なサムシングが待ってるわ!」
「街っていう文字が嫌い。三秒でゲシュタルト崩壊起こす」
本当かなあと思って「街」と書いて三秒見つめた。目が痛くなった。
「ウインドウショッピングしましょう! 可愛い服が見たいわ」
「指をくわえて見ているだけの自分の矮小さに死にたくなる」
「トランペットにあこがれた少年は立派なジャズ奏者になりました」
「私、弦だし。同じ境遇の多くの少年が寒さで野垂れ死んでるわ」
「マッチ売りの少女は幸せに息を引き取りました」
「花売りとかマッチ売りって間違いなく娼婦の隠喩よね」
「小洒落たレストランに食事に行きましょう!」
そういえばお腹減った。
「そうして家に帰った後の、夢想の終わったわびしさに耐えられない」
「中華が食べたい気分だわー。真っ赤なスパイスが恋しい」
「麻婆豆腐がいつ見ても煮えくり返った内臓にしか見えない」
「内臓といえば焼肉もいいわねー。テッチャンとか食べたい」
「それがもともとは牛の排泄物の通り道だと思うと見るのも忌まわしい」
「元が何であれ美味しく食べられればハッピーよー」
「結局腹に入れば同じ。冷蔵庫に丸ごとバナナあるからそれでいい」
冷蔵庫を開けると本当にあったので食べた。美味しかった。
「人はパンのみに生きるにあらず。心の潤いが欲しいわ」
「天井のシミをずっと眺めてみなさい。なんか人の顔とかに見えて楽しい」
「遊園地とか行きたいわ。ネズミーランド的な夢と魔法の国!」
「アトラクションがいつ事故を起こすかと思うと生きた心地がしない」
「絶叫マシーン以外もあるわよ。コーヒーカップとか」
「ただ回ってるだけの何が楽しいのか未だ理解できない」
「アトラクションに飽きたらゲームセンターもあるし」
「ああいうところのゲーセンは間違いなくボッタクリ。1プレイ200円とかマジ外道」
「可愛いキャラクターのぬいぐるみがいるわ」
「ガキに殴る蹴るの暴行を受けるのを見るたび中の人が不憫でならない」
「中の人などいない!」
「それこそ幻想」
「人類はニュークリティシズムを採用しました」
「太宰治を読みなさい」
「『走れメロス』って素敵よね」
「『人間失格』に激しく共感を覚える」
『ヴィヨンの妻』が一番好き、って言ったら両方からシバかれそうな気がした。
「友情や愛情がこの世で一番美しいのよ!」
「結局人類が作り上げたイデオロギーの産物でしかない」
「純愛系映画を見に行きたいわ。泣けるって評判の」
「現実の恋愛ほど面倒くさいものはない」
「ねえ、今度のコンサートは自主制作映画を流しましょう!」
「もう音楽に疲れた。外に出たくない。死なせて」
「今日も私たちの演奏を心待ちにしている人たちがいるわ!」
「私たちがいなくなっても代わりのアーティストなんざ掃いて捨てるほどいる」
「私たちの音楽は、私たちの音はわたしたちにしか伝えられないわ!」
「ああ……バイオリンの弦が切れた……不吉だわ」
「ふふふ、実は、ジャーン!」
「え……これって……」
「最近姉さんの楽器が傷んでたから、リリカとお金を出しあって買ったのよ!」
「メルラン……」
ああ、ルナ姉の嬉しそうな顔は久しぶりに見た。
「ねえ、弾いてみて?」
「……わかった」
そうして、ルナ姉は楽器を取り出すと、弦の調子を確かめて、奏で始めた。
アロ~ハ~ オエ~
アロ~ハ~ オエ~
「素敵よ姉さん」
「……」
「さざなみが聞こえるようだわ」
「……確かに弦楽器だけれども」
「流石に姉さんねー」
「…………ウクレレじゃん」
「ヴァイオリンって高いんだもの。買えなかったのよ」
ン億円とか私の想像をはるかに超えてました。
「……」
「弦なら何でも弾きこなすわねー姉さん」
「……」
「今度、二胡とかバンジョーとか買ってこようか? リュートもいいわ」
「………………死のう」
アロ~ハ~ オエ~
アロ~ハ~ オエ~
あ、やっぱり眠くなったから寝るね。ぐぅ。
【 HAPPY END ξ・∀・) 】
フラワーマスターが凹んでました。
バイオリンが高かったからウクレレというテキトー過ぎな妹と、鬱なのにアロハなルナサがツボに入りました
ガッ