Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

八雲紫の神隠し

2006/11/30 09:56:59
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ある村に、一人の少女がいた。
少女は村の有力者の娘で、幼い頃より何不自由ない暮らしをしてきた。傍から見れば、恵まれた、幸せな環境である。
だが彼女は家の暮らしに不満を持っていた。と言うのも、彼女の家は旧家であり、その為しきたりやらなんやらで色々と縛られていたからである。
周りにはいい子でいようとしていたため、その本音をこぼす事はなかったが、内心こんなしきたりに縛られた、煩わしい家から出たいと思っていた。
村もまた、彼女にとっては窮屈なところであった。住人はほとんど親戚と言うような閉鎖的な村だったから、村は家となんら変わりはなかったのである。
いつの日か、しきたりとか決まりとか、そういったもののない自由な世界に行きたい、そう思いながら、少女は日々を送っていたのである。



そんなある日、娘はとうとう親と大喧嘩をしてしまい、こんな家にはもういられない、と家を飛び出したのである。
村にいてもほとんど親戚ばかりで、誰も彼女の気持ちを理解しようとはしない。それなら、と少女は村をも飛び出し、山の中に足を踏み入れた。
とにかく歩けば、どこかに着くだろう、と言う甘い考えは、すぐに打ち砕かれることになった。夜になっても他の集落にたどり着くこともなく、少女は自分がいかに何も知らないかを思い知らされることとなったのである。

月明かりの差し込む森の中、空腹と心細さに苛まれる少女……その前に、「彼女」は現れた。
何もない空間から突如現れた不思議な衣装を身にまとった女性は、何も聞かず、もし行く所がないなら着いてきなさいな、と言ったのである。
明らかにまともな人間でない……それどころか人間であるかどうかすら怪しい彼女の言葉だったが、空腹と疲労と心細さでまともな思考能力のなくなりつつあった少女は、何も疑うことなく彼女の後についていったのである。
森の中、人の通らない道なき道を歩く女性と少女……不意に少女は辺りの空気が変わったのに気付いた。そのことを女性に告げると、彼女は今通ったのが幻想郷の境界だと言った。幻想郷というのがなんなのか、少女には理解できなかったが、どのみち彼女に着いて行くしかすべがないことは理解できた。

やがて、山を越えたらしく、開けた場所に出てきた。どうやら小さな集落のようだった。女性はその集落の中の一軒の民家に少女を案内した。そこにはなぜか家財道具も食料もそろっていて、生活するには十分な環境が整っているようだった。
ここに好きなだけいればいい。当面生活するのに困らないだけのものはそろっているから、と女性は少女に告げた。少女は礼を述べ、あなたの名前は、と女性の名前を問うた。

「八雲紫」

女性はそれだけ言って、現れたときと同じように突然姿を消した。



その次の日から、少女の集落での暮らしが始まった。集落の他の住民は、突然現れた少女をいぶかしむ事もせず、親切にしてくれた。ただ、この辺りには妖怪が出て人を取って食うと言うことだったが、この集落は近くに住む慧音様という人が守ってくれてるので、集落にいる限りはその事を心配する必要もなかった。しきたりや決まり事というものは特になく、ここでの暮らしは、少女の思い描いていた自由な暮らしそのものであった。

だが、そんな日々がひと月も過ぎた頃になって、少女は残してきた家族のことが気になり始めた。
両親や兄弟はどうしているだろうか。今頃みんな心配しているかもしれない。そう思うと、生まれ育った村の様子が見たくて仕方なくなってきたのだ。
だがどうやって村に帰ればいいのかがわからなかった。唯一の頼みの綱はあの女性……八雲紫だったが、どこにいるか、どうやって会えばいいのかがわからないのでは話にならない。
そんな悶々とした日々を1週間ほど送っただろうか。少女は意を決して山に踏み込むことにした。確かに妖怪は恐ろしかったが、それ以上に家族がどうしているか知りたいという気持ちが強かったのだ。

あの日と同じように夜の山に足を踏み入れる少女。月明かりだけが頼りの中、道なき道を進む。いつ妖怪が現れても不思議ではない雰囲気の中、細心の注意を払って少女は記憶を頼りに山を歩いた。
どれほど歩いただろうか。以前空気が変わったのを感じた辺りまで来たとき、唐突に彼女……八雲紫は現れた。
八雲紫はまるで少女の心を読んだかのように、向こうに帰りたいの、と問うた。
頷く少女に、紫はそう、とどこか哀れむような目をして、じゃ来なさいな、と言って歩き出した。
紫の後に着いて歩く少女。やがて、いつかのように空気が変わる感覚。次の瞬間、少女はまったく見たこともない場所に出てきているのに気付いた。
不思議な石造りの建物。見たこともない石で覆われた地面。物凄い速さで駆ける鋼の獣。どんより淀んだ空気。そこは少女の知る村ではなかった。
ここはいったい、と問う少女に紫は、あなたの住んでいた村のあった場所よ、と答えた。
違う、こんな場所じゃなかったという少女。それはそうである、たったひと月で村がこんなに変わり果てるはずなどない。

だが紫は悲しそうに首を横に振る。少女が幻想郷にいる間に、こっちの世界では数百年が経っているのだと。今いるのは、少女の住んでいた村の数百年後の姿なのだと。
少女の理解できる限界を超える話であったが、少なくともこの世界に少女の居場所などないことだけは確かであった。泣きじゃくりながら家族のいるあの村に帰して欲しいと頼む少女。だが紫は時間を超えることはできないと言った。、幻想郷に戻るしか、あなたに残された道はないのだと。
幻想郷の集落へ向かう道を悲しみと絶望に打ちひしがれながら戻る少女を哀れみに満ちた目で見つめながら、八雲紫はつぶやく。


「幻想郷はすべてを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」
ラストのセリフを紫に言わせたいがだけに書いた話です。
萃夢想の紫の共通価値セリフであるこのセリフ、色々深くて萃夢想で一番好きなセリフなんです。で、それから話を膨らませた結果がこの救いのない話。
個人的に幻想郷と人間界は時間の流れが違うという風に解釈しています。まったりした幻想郷より、日々時間に追われる我々の世界の方が時の流れは速いんじゃないかと。そんな事を考えたりしてみる今日この頃。
たわりーしち
コメント



1.CACAO100%削除
之が後に言う浦島太郎の現状である
2.手スタメンと削除
> 日々時間に追われる我々の世界の方が時の流れは速い

実際はそうではないっぽいけど、これは夢があるから採用
3.しー削除
尺が短いのであらすじみたいな感じになってる。
下書きなんか誰も読みたくないんだぜ。
完全に描写力不足。推敲してから投稿しようね。
4.名無し妖怪削除
面白かったですよ?
5.ガナー削除
こう言うオチの話も良いよね