Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

歴史は繰り返すってけーねが言ってた

2006/11/29 10:40:45
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 尋ねてみたら、慧音は留守だった。
 塩が切れたので貰いに来たというのに、今夜の魚はどうしてくれようかと妹紅が渋々帰ろうとしたところに、慧音は帰ってきた。
「こんばんは。いい夜だな、妹紅」
「そうかもね。いい夜だから塩が欲しい」
 なんだそれは、と慧音は苦笑して妹紅を中に招き入れる。招かれるままに慧音に続いて室内へ上がった妹紅を居間に置いて、塩と茶を用意しに慧音は台所へと向かった。
「どうせだから食べていったらどうだ?」
「んー、そうしたいけど、もう魚捌いちゃったから」
「そうか。それは残念」
 そんな会話を繰り広げながら居間で座っていた妹紅だが、思ったより慧音が用意に時間がかかっているらしく、徐々に手持ち無沙汰になっていく。やれやれと視線を四方へ飛ばすと、ふと一冊の本が目に入った。好奇心を刺激された妹紅は、慧音が湯を沸かしている最中であることを確認して、静かにその本の元へと近寄っていく。
 その本は、書き物机だろう小ぶりの机の上に置かれていた。表紙には特に何も書かれていない。その謎っぷりに思いっきり興味を惹かれた妹紅は、
(こんなところに置いておく慧音が悪い)
 と勝手な結論を導き出して、そっと表紙をめくってみた。




○月×日

 里美の家にて茶を頂く。
 途中誤って湯飲みを落としてしまい、湯飲みが割れて畳が汚れてしまった。これでは完全に元に戻すことは不可能であり、里美と家族に申し訳がなかったので、その歴史をなかったことにしておいた。


○月△日

 森輔を手伝って稲の収穫をした。
 途中手が滑って稲数本分の実をぶちまけてしまった。これで森輔がこの冬厳しい生活を強いられてしまうのではと思うと罪の意識が湧き上がってきてしまい、同時に森輔とその家族があまりに不憫だったので、その歴史をなかったことにしておいた。


○月○日

 夕暮れに家へ帰る真理と出会う。
 「けーねさまの角って牛みたい」と言われ、寝不足ということもありついかっとなって怒鳴ったうえに頭を叩いてしまった。当然真理は泣き出してしまい、このまま連れて行っては真理の家族が不安に思うだろうと考え、その歴史をなかったことにしておいた。


○月#日

 井戸端で話している主婦数人と歓談する。
 「博麗の巫女様は本当に巫女様として相応しいのでしょうか?」と尋ねられ、一瞬考えて返答が遅れてしまった。このままでは博麗の巫女の威厳や信頼その他もろもろは失墜し、幻想郷の秩序が根底から揺さぶられてしまうと思い、その歴史をなかったことにしておいた。




「ん? もこ――う」
 お茶の入った湯のみを二つに塩の入った袋を盆に載せ携えた慧音が、妹紅の手元を見て絶句する。それでもお茶と塩を落とさなかったのは幸いだった。
 が、妹紅はそんなことをつっこむ気もなく、ただひたすら冷たい目で慧音を見つめるばかり。慧音は必死にその眼差しから顔を逸らしつつ、かなり不自然な動きで盆を卓上に置いた。客用の湯のみと塩を向かいにやってから、自分用のお茶を一口飲む。
「……まあ、妹紅の言いたいことは、なんとなく分かるつもりだ」
「じゃあ遠慮なく聞くけど、今日はなにかやったの?」
 その質問は予想外だった。慧音はぴしりと固まり、しかしすぐに、
「いや、何もなかったぞ」
「質問が悪かったみたいだからもう一度聞くけど、今日はなにか歴史を隠したの?」
 その質問は回避不能だった。慧音はびしりと固まり、ややあってから観念して、
「…………京子と宮美が喧嘩をしていて」
「いいよ内容は言わなくて。興味ないし」
 その間に卓に戻っていた妹紅はお茶を啜って一旦間を空ける。んー、と頭をかいて、ためらいがちに続けた。
「人付き合いを絶ってる私がいうのもなんなんだけど、やっぱそういうのはよくないと思うのよ」
「それは分かっているんだ。でも、私のせいで悲しむ姿を見るのが忍びないと思うとつい」
「そういうのをただの逃避っていうの」
 妹紅の言葉に射抜かれた慧音は動けない。完全に凝固した慧音に嘆息しつつ、妹紅はお茶を飲み干していく。そして空になった湯飲みを置いた妹紅は、隣に置かれていた塩の袋を手に取り玄関へと向かう。居間の襖を開けたところで最後に慧音を振り返った。
「禍福は糾える縄の如し。いいことばかりじゃダメだと思うよ」
 それじゃあ、と気軽に手を振って妹紅は去っていった。残された慧音はしばらくの間身じろぎもせずにその場に座り込んでいた。




○月※日(望月)

 先日、妹紅より安易な能力使用について叱責を受ける。妹紅の言うことはいちいちもっともであり、私の反論する余地など欠片もありえなかった。
 そもそも私自身、これでよいのだろうかと思っていたのもまた事実。今日妹紅が諭してくれたのはまさに絶好の機。今この時より、安易な能力使用による歴史の隠蔽はすまいと固く誓うことをここに証文として書き記しておく。











 という歴史をつくっておくことにした。
たまには滅私奉公じゃなくて滅公奉私な慧音を見てみたかった。
櫻井孔一
コメント



1.どっかの牛っぽいの削除
創ったのかよ!?