…熱が痛い。頭もある。
いや違った。
頭が痛い、熱もある。
鉛のシュラフに包まれているような倦怠感と微かな喉の痛み。普段なら均整の取れた思考の渦が、てんでばらばらな方向へ行く。何を考えても、おかしなものになる。今自分は布団をかぶっているのか否かすら分からない。感覚と思考が切り離されたような状態だった。
…風邪か。
うつろな頭でアリスは思う。
そういえば昨日、夜遅くまで人形作りに没頭していた。だが、クールな都会派魔法使いを自負する彼女である。普通ならそんな無茶はしない。
昨日に限って、昔のやっちゃった思い出や恥ずかしい思い出がふいに頭の中によぎっては「うあー!」とか「きえー!」とかの奇声祭りと相成ったのだ。こういったメモリーは、忘れようとすればするほどより強固に記憶の底にこびり付く。
妖夢に手を振られたので軽く振り返したら、それは後ろにいた幽々子に向けたものだった。いたたまれなくなって走って逃げた。
私はアリス・まーがとるいd、あう。と自己紹介のとき噛んだ。舌の痛みよりも心が痛むということもあるんだということを知った。
魔理沙を「お母さん」と呼んでしまった。なんだ、アリスはまだママ離れができないんだなぁウシシシシ、と言葉攻めされた。ちょっと気持ちよかった。
そんな枕に頭を突っ込んで唸りたくなるような思い出をとりあえず一時でも封印するために、本当に集中できる人形作りに没頭した、その結果がこれだ。お風呂上りは身体が冷えるから1時間以内に寝なさいね、という母の教えを6時間以上もぶっちぎりで破ったせいか。
「うぅ…薬、くすり…」
だるい身体を無理矢理に起こして台所へと向かう。愛用のペパーミントグリーンのストライプ模様が入ったパジャマが少し寝乱れていたが、それを気にする余裕も必要もない。
ブルーやピンク、グリーンといったパステルカラーのストライプ模様が入った衣服は幸運を呼ぶそうだ、と月の兎が言っていた。ホンマかいなと思ったが、とりあえず幸運を呼ぶ兎が言うことだから真実味はあるだろうと思ってこのパジャマを着ている。
兎に言わせれば「パジャマじゃあんまり意味がない…」だそうだが、じゃあどの衣類をストライプにすればいいのか。普段着か。
おっと、やはり風邪のせいで思考にノイズが混じる。
キャビネットの中に入った紙袋から薬を2、3取り出す。胃が空っぽの状態で薬を飲むのは良くないため、適当に作ったスープを飲み(味はあまり分からなかった)、それから粉薬と錠剤を2つづつ服用した。
「あぁ、頭痛い…」
自室に戻り、ベッドに倒れこむ。そのままアリスは意識を手放した。
天井がなんだか揺れている気がする。
考えてもまとまるはずがないのに、こんな時に限って余計なことを考えてしまう。
身体が熱っぽい。熱くて仕方がない。
思考がまとまらない。
「ん…」
ああそうだ。
確か、どこかの文献で読んだことがある。
熱を早く冷ますには、汗をかけばいいと。
「はぁ…」
ならば、その汗をかくための行為を成せばいいだけのこと。
…アリスの脳裏に、白黒の装束を着た魔法使いの少女が浮かんだ。
「まり、さ」
ごろり、と仰向けになる。コレをするには、この体勢の方が都合がいい。
「…さ…、まり、さ…っ」
…思考がまとまらない。
熱に浮かされるとはこういう状態のことを言うのだが、今のアリスには気付く由もない。
「魔理沙ぁ…っ!」
アリスの動きが加速する。
喉から迸った声は、押し殺したような悲鳴だった。
◆
同時刻。
霧雨さんちの魔理沙さんは、いつもの蒐集ポイントにアリスの姿がないことを訝しんでいた。
「おーい、アリスー? いるのか、いないのかー? いなかったら返事しろー」
家の前で呼んでみるも、返ってくるのは沈黙。
返事がしないということはいるということだ、と今決めた自分ルールに従って、勝手に窓から侵入する。家主が居るなら勝手に入っても後でゴメンナサイすればいいのだ。ちなみに家主が居なかったら後でゴメンナサイすればいいので、やはり勝手に侵入する。まさに暴君であった。
どうやら1階にはいないようだ。
と、2階のアリスの自室から、何やら軋むような音がする。これはベッドのスプリングが無理な負荷を掛けられた結果出る音だ。それに何やら魔理沙魔理沙と自分を連呼する声も聞こえる。
「なんだいるじゃないか、アリ…」
それの意味するところも気付かずに、
「…ス」
扉を開けた魔理沙の目に飛び込んできたものは、
ベッドの上で、ものすごい勢いで腹筋運動をするアリスの姿だった。
「……」
「はぁっ、はぁっ。なんだ、魔理沙、じゃないっ、はぁっ、何の、用?」
「……あ、あぁ。いや、なんだ、純粋に、何してんのお前」
「腹筋。正しくは、はぁっ、腹筋を鍛える、ための、反復運動」
いや、そりゃ見れば分かるよ。その姿を見て誰が人形作りしてると思うよ。
アリスが言うには、魔理沙と戦うシーンをイメージすることで不屈の闘志を燃やし、腹筋することで汗をかき、風邪を吹っ飛ばすそうだ。
その鬼気迫る様相を見て、魔理沙は背中に何か嫌な汗が流れるのを感じた。
ああ、今年の風邪は頭につくらしいな、と。
「…げ、元気そうだし…じゃあその、私は帰るぜ…お大事に、な」
そろそろと扉を閉める。その向こうからは、まだフンハフンハと腹筋を繰り返す病人の息遣いが聞こえた。
夜更かしはできるだけしないでおこう、と彼女が心に決めた瞬間であった。
ちなみにアリスの風邪は、体力の低下中に行った急激な運動によって悪化し、向こう1週間は寝込んでいたらしい。
いや違った。
頭が痛い、熱もある。
鉛のシュラフに包まれているような倦怠感と微かな喉の痛み。普段なら均整の取れた思考の渦が、てんでばらばらな方向へ行く。何を考えても、おかしなものになる。今自分は布団をかぶっているのか否かすら分からない。感覚と思考が切り離されたような状態だった。
…風邪か。
うつろな頭でアリスは思う。
そういえば昨日、夜遅くまで人形作りに没頭していた。だが、クールな都会派魔法使いを自負する彼女である。普通ならそんな無茶はしない。
昨日に限って、昔のやっちゃった思い出や恥ずかしい思い出がふいに頭の中によぎっては「うあー!」とか「きえー!」とかの奇声祭りと相成ったのだ。こういったメモリーは、忘れようとすればするほどより強固に記憶の底にこびり付く。
妖夢に手を振られたので軽く振り返したら、それは後ろにいた幽々子に向けたものだった。いたたまれなくなって走って逃げた。
私はアリス・まーがとるいd、あう。と自己紹介のとき噛んだ。舌の痛みよりも心が痛むということもあるんだということを知った。
魔理沙を「お母さん」と呼んでしまった。なんだ、アリスはまだママ離れができないんだなぁウシシシシ、と言葉攻めされた。ちょっと気持ちよかった。
そんな枕に頭を突っ込んで唸りたくなるような思い出をとりあえず一時でも封印するために、本当に集中できる人形作りに没頭した、その結果がこれだ。お風呂上りは身体が冷えるから1時間以内に寝なさいね、という母の教えを6時間以上もぶっちぎりで破ったせいか。
「うぅ…薬、くすり…」
だるい身体を無理矢理に起こして台所へと向かう。愛用のペパーミントグリーンのストライプ模様が入ったパジャマが少し寝乱れていたが、それを気にする余裕も必要もない。
ブルーやピンク、グリーンといったパステルカラーのストライプ模様が入った衣服は幸運を呼ぶそうだ、と月の兎が言っていた。ホンマかいなと思ったが、とりあえず幸運を呼ぶ兎が言うことだから真実味はあるだろうと思ってこのパジャマを着ている。
兎に言わせれば「パジャマじゃあんまり意味がない…」だそうだが、じゃあどの衣類をストライプにすればいいのか。普段着か。
おっと、やはり風邪のせいで思考にノイズが混じる。
キャビネットの中に入った紙袋から薬を2、3取り出す。胃が空っぽの状態で薬を飲むのは良くないため、適当に作ったスープを飲み(味はあまり分からなかった)、それから粉薬と錠剤を2つづつ服用した。
「あぁ、頭痛い…」
自室に戻り、ベッドに倒れこむ。そのままアリスは意識を手放した。
天井がなんだか揺れている気がする。
考えてもまとまるはずがないのに、こんな時に限って余計なことを考えてしまう。
身体が熱っぽい。熱くて仕方がない。
思考がまとまらない。
「ん…」
ああそうだ。
確か、どこかの文献で読んだことがある。
熱を早く冷ますには、汗をかけばいいと。
「はぁ…」
ならば、その汗をかくための行為を成せばいいだけのこと。
…アリスの脳裏に、白黒の装束を着た魔法使いの少女が浮かんだ。
「まり、さ」
ごろり、と仰向けになる。コレをするには、この体勢の方が都合がいい。
「…さ…、まり、さ…っ」
…思考がまとまらない。
熱に浮かされるとはこういう状態のことを言うのだが、今のアリスには気付く由もない。
「魔理沙ぁ…っ!」
アリスの動きが加速する。
喉から迸った声は、押し殺したような悲鳴だった。
◆
同時刻。
霧雨さんちの魔理沙さんは、いつもの蒐集ポイントにアリスの姿がないことを訝しんでいた。
「おーい、アリスー? いるのか、いないのかー? いなかったら返事しろー」
家の前で呼んでみるも、返ってくるのは沈黙。
返事がしないということはいるということだ、と今決めた自分ルールに従って、勝手に窓から侵入する。家主が居るなら勝手に入っても後でゴメンナサイすればいいのだ。ちなみに家主が居なかったら後でゴメンナサイすればいいので、やはり勝手に侵入する。まさに暴君であった。
どうやら1階にはいないようだ。
と、2階のアリスの自室から、何やら軋むような音がする。これはベッドのスプリングが無理な負荷を掛けられた結果出る音だ。それに何やら魔理沙魔理沙と自分を連呼する声も聞こえる。
「なんだいるじゃないか、アリ…」
それの意味するところも気付かずに、
「…ス」
扉を開けた魔理沙の目に飛び込んできたものは、
ベッドの上で、ものすごい勢いで腹筋運動をするアリスの姿だった。
「……」
「はぁっ、はぁっ。なんだ、魔理沙、じゃないっ、はぁっ、何の、用?」
「……あ、あぁ。いや、なんだ、純粋に、何してんのお前」
「腹筋。正しくは、はぁっ、腹筋を鍛える、ための、反復運動」
いや、そりゃ見れば分かるよ。その姿を見て誰が人形作りしてると思うよ。
アリスが言うには、魔理沙と戦うシーンをイメージすることで不屈の闘志を燃やし、腹筋することで汗をかき、風邪を吹っ飛ばすそうだ。
その鬼気迫る様相を見て、魔理沙は背中に何か嫌な汗が流れるのを感じた。
ああ、今年の風邪は頭につくらしいな、と。
「…げ、元気そうだし…じゃあその、私は帰るぜ…お大事に、な」
そろそろと扉を閉める。その向こうからは、まだフンハフンハと腹筋を繰り返す病人の息遣いが聞こえた。
夜更かしはできるだけしないでおこう、と彼女が心に決めた瞬間であった。
ちなみにアリスの風邪は、体力の低下中に行った急激な運動によって悪化し、向こう1週間は寝込んでいたらしい。
>ちょっと気持ちよかった。
いやいやいやいや
はかってくれた喃
そりゃあれだろパンt(グランギニョル
や は り ア リ ス は M だ な う ふ ふ(何
アリスにM性が適用された瞬間である
>恥ずかしい思い出
2個ほど当てはまった
思い出してきたので、私も腹筋をする運命にあるようです。
らしくていいw