Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

カラフルピュアガールズ

2006/11/26 10:36:09
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 一昨日まで紅魔館でした。

 昨日は桃魔館でした。

 今日は黄色と緑の二色魔館です。


 ――いつもの事だ、今更目くじらを立ててもどうにもならない。
 買出しからの帰途、館が視界に入ってから咲夜は自分に何度もそう言い聞かせたが、握り締める拳の力はそう簡単には緩まなかった。

 本当に毎度のことであるのだが、魔法図書館の主がレミリアに吹き込んだ色と風水の知識が今回の騒動の発端である。
 長命ゆえの酔狂か、本気で信じているのか、はたまた自分の従者たちが右往左往するのを見るのが楽しいのか。
 どれが真相であるかははっきりしないが、レミリアは実に楽しげに館のお色直しを命令する。それも毎日。

 澄んだ湖の中にそびえる、紅の威容。
 咲夜は、館を眺めるのが好きだった。
 紅葉の中だろうと、赤い夕日で染められようと、紅い紅い月を背負おうと。
 館の紅は、どんなに美しい朱に染められてもそれ以上に美しい紅で居て、咲夜に咲夜自身の居場所を厳然と示してくれていた。
(だというのに――)
 いまや鮮やかな黄色と緑だ。確かに激しい自己主張をしているが、何かが違う。
 昨日のピンクよりマシだが、それでも上半分が黄色で下半分が緑色とはどういうことなのだ。いや、左右で二色でもイヤだが。
「こういう色にすると私のあらゆる運勢がアップするのよ  ってパチェが言ってた」
 とは主の言だ。
 運命を操れるのに運勢とはいったい何なのであろうか。
 やはり、本気で信じているとは思えない。ということは、私たちで遊んでいるのだろうか。
 それならそれでもいい。
 それこそが従者の本分だ。
(でも、昨日パチュリー様と共同で開発していた桃符「不夜城ピンク」はいただけないわ)
 夜が無くてピンクとは実にいかがわしい。いやそういう問題でもない。
 今日はきっとこの流れでいくと黄符「不夜城イエロー」や緑魔「ビリジアンデビル」が誕生するのだろう。
 考えただけでも頭痛がした。

「あ、おかえりなさ~い。咲夜さん」
 今にも飛びついてきそうな人懐こい笑顔を浮かべて、美鈴が出迎える。
 というか、ここ最近は本当に飛びついてくるようになった。
「ご苦労様」
 いつもどおり微笑むことが出来ているだろうか、と咲夜は思った。
 疲れていても表に出さないのが瀟洒だと咲夜は思っている。
 しかし、咲夜がどれだけ装っても、この門番には通じないことが多い。きっと気を操るなどという能力のせいなのだろう。
(まぁ、見破るのはお嬢様の方が上手いかしら)
 淹れた紅茶を一口啜るなり「今日は休みなさい」と言われた日もあった。その日は部屋に戻るなり高熱が出た。
 自分はどうやらそれなりに主人や同僚に恵まれているらしい。少しだけ元気が出てきた。
「咲夜さん、お疲れみたいですね」
 ああ、やっぱり言われてしまった。
「大したことあるけど大したことじゃないわ」
 どうせすぐ飽きるだろうし、と口の中で呟いた。
 自分のことをそこまで理解してくれているのなら、風水についても少しは慮っていただきたいものである
「仕事に支障を来たすほどじゃないわ。しっかり番してなさい」
 言いながら、緑色の門をくぐろうとする。
「はい。館も可愛くなって守り甲斐がありますよ」
 もう少しで門柱に頭をぶつけるところだった。
 ああ、やはり自分は上司にも同僚にも恵まれてなどいなかった。
「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」
「はい?」
「なんでもないわよ。頑張って頂戴」
 元より神など信じちゃいないが――
 頭痛から茨の冠を連想してしまったというのはやはり相当に参っているのだろう。


 オレンジの厨房で丹精込めた料理を作り、ブルーのはたきとグレイのモップでベージュの回廊を掃除する。
 ――ああ、頭が痛い
 妹様に食事を運ぶワゴンはブラウンに染め上げられ、ドアは場所によって一つ一つ色が違う。
 ――刺さるような、締め付けられるような
 すれ違っていったメイドの服が真っ白だった。
 ――くそったれ
 ああいけない。
 こんなことではいけない。
 2、3日の辛抱だ。
 飽きればまたいつもの紅魔館に戻るはず。

 1日の仕事を終え、いつもとは質の違う疲労を抱えて自室へと向かう。
 1晩ぐっすり休めば、また頑張れる。
 部屋のドアを開けると、ピンク色の洪水だった。
 今朝出るときまでいつも通りだったのに。
 お気に入りだったクローゼットも。
 疲れた自分の受け止めてくれるベッドも。
 昨日花畑で摘んだ紅いバラまでピンクのものに――

 う

「うわぁぁぁぁぁぁぁん」
 ああ情けない
 これしきのことで涙が
 でもひどいじゃないか
 私のこうまかんが
 わたしをうけいれてくれた場所が
 わたしのいちばんたいせつなばしょが

「さ、咲夜!?」
 咲夜の泣き声を聞きつけたレミリアが駆けてくる。
 その紅い瞳を見た咲夜は、
「ああ、それ…」
 安心しきった微笑を浮かべながら呟いた。


「……」
「……」
 まるで針のムシロだ、とレミリアは思った。
 笑ったのも一瞬のこと、また激しく泣きじゃくりはじめた咲夜から要領を得ない話を聞き出すと、風水がよっぽど堪えていたらしい。
 まぁ、確かに咲夜の部屋まで無断で模様替えしたのは悪かったとは思っているが――
「……」
 さっきから、眠る咲夜と自分に交互に向けられる門番の視線がとても痛かった。
 顔を伏せて泣き続ける咲夜を宥めて話を聞き出せたのも、どうにか落ち着かせて休ませることができたのも、自分に続いて駆けつけてきた、この門番のおかげである。
 だが、話を聞くにつれ自分に向けられる視線の温度が徐々に下がっていくのには参った。
 こっちまで泣きそうだった。
「……」
「……何よ」
「いいえ別に」
「言いたいことがあるならハッキリと言いなさ」
「咲夜さん可哀想ですね」
「ぐ」
 本当にハッキリ言われた。
「今日、外から帰ってきた咲夜さんは随分参ってたように見えましたよ。まさか泣くほど追い詰められてるとは思いませんでしたけど」
「ぐぐぐ…」
「そりゃあ無断で部屋が桃色になってたら怒りますよねいくらなんでも」
「……」
 ぐうの音も出ないとはこの事だ。
 ちなみに、咲夜の部屋――というか紅魔館全体が元の色彩に戻っている。
 パチュリー謹製の魔力フィルタで可視光の波長を弄くって色が変えられていただけで、剥がせば元に戻る。
 それでも、館中の壁や床から小物1つ1つに至るまで貼り付けられたフィルタを全て除去するのは骨が折れる仕事だ。
 作業は夜を徹してのものになるだろう。だが、メイドたちは嬉しそうに館中を剥がして回っている。結局、誰もが奇抜な色彩の中で暮らしたくなかったようだ。
「はぁ~あ」
 これ見よがしな美鈴のため息がレミリアに突き刺さる。
 レミリアが口を開こうとしたその時、
「美鈴、もういいから…」
 眼を覚ました咲夜が、優しく言った。
「咲夜さん、大丈夫ですか」
「ん…もう、大丈夫。迷惑かけたわね」
 レミリアはますます居心地が悪くなって、そっと咲夜の部屋を出て行こうとしたが、お嬢様、という咲夜の呼び止める声にびくりと振り返った。
「お嬢様…申し訳ありませんでした」
「いや、その」
 それは自分の台詞だろう、と流石のレミリアも思ったが。
「忘れていました…私の居場所は紅魔館じゃなくて、お嬢様の傍なんです…」
「――」
「お嬢様が駆けつけて来て下さった時に見た、お嬢様の瞳が…私の居場所を教えてくれました」
 紅葉より、夕日より、月より、この館より。一番気高くて美しい紅。
 咲夜が愛してやまない紅。
 そのレミリアの紅い瞳が、一瞬潤んだ。よほど嬉しかったらしい。
「そ、そうよ。最近咲夜がそのことを忘れていたようだから、思い出させてやろうと思ったのよ!」
 ホンマかいな、と聞いていた美鈴は思ったが、自分だってこの主人の傍に居ることが何物にも代え難い喜びであるのは同じだったので、黙って聞いていた。
「ええ、申し訳ありませんでした」
「わ、分かればいいのよ。また明日から――」
「でも」
 咲夜がレミリアの言葉を遮った。
「それでは、何故、『不夜城ピンク』なんて物を創ってたんですか」
 レミリアの尊大な笑みが凍りついた。
「あ、さっき確かお嬢様、『緑魔「ビリジアンデビル」』が完成したとか何とか」
 美鈴が爆弾を落とした。
「わー! わー! わー!」
「お嬢様…」
「……」
 咲夜は穏やかな瞳でじっとレミリアを見つめる。針のムシロどころか串刺しにされた方がまだマシだとレミリアは思った。
「……」
「……」
「……」

 パサパサパサ

 コウモリに姿を変えて逃げていった。
「ああ! 逃げるんですかお嬢さ――」
「美鈴、もういいから」
 咲夜は先ほどと同じ台詞を優しく紡いで、レミリアを追おうとした美鈴をそっと制した。
「でも――」
「いいの。あれでもちゃんと私の事を考えて下さっているのが分かるから」
「咲夜さんがそう言うなら…」
 そういうこと言われると私が面白くないなあ、と美鈴は思ったが。
「それより、今日は一緒に寝てよ」
「うゑ!?」
 咲夜は悪戯っぽい笑みを浮かべて、ウィンクをして見せた。
「不安定なときに傍に居てもらうのに適任かと思って…ね。あ。ヘンな事したら叩き出すわよ。…イヤかしら」
「滅相も! 支度してきます!」
 恐ろしいスピードで部屋を飛び出していく美鈴。あれなら数分で戻ってくるだろう。
 咲夜は、やっぱり自分は主人にも同僚にも恵まれているのかな、と考えて一人で笑った。










「客間は全部剥がし終えたわよー」
「西館廊下おっけー。次は東館ねー」
「図書館はー?」
「あそこは元々やってないらしいわよ。私たちも東館に回りましょ」
「はいよー」

 夜中でも活気に溢れる紅魔館の天井にコウモリの姿のまま張り付いたレミリアは
「このままじゃ済まさないわよ…いつか咲夜のハートをがっちり掴んでみせるんだから…」
 と呟いて、寂しさにじっと耐えるのだった。

僕はそろそろ全国6千万の紅魔館の住人ファンの方々に謝った方がいいですね。
特にパチュリー様ファンの方々。
あまり
コメント



1.CACAO100%削除
美鈴の追い討ち吹いたwww
2.変身D削除
>>『不夜城ピンク』
何処の風俗ですか(wwwwwwwwwww
3.名無し妖怪削除
>特にパチュリー様ファンの方々
今更謝っても許さん、もっとやれ
4.名無し妖怪削除
ビリジアンだから駄目なんだお嬢様
グリーン、イエロー、ブラック、レインボー……
いや、自分が幻視しただけなんすけどね。
5.名無しの一人削除
>桃符「不夜城ピンク」
>緑魔「ビリジアンデビル」
思いっきり吹いた・・・でも一回見てぇ
6.名無し妖怪削除
カラフルピュアガールズwwwwwwwwwwwwww
7.トウヤ削除
もともとやってないのかよ図書館w
8.名無し妖怪削除
ちょwwwパチェwwww
9.名無し妖怪削除
そうだよ、レミリアはちゃんとさくぽのこと考えてるよ。
性的な意味で。
10.名無し妖怪削除
永遠に紅い幼き月の呼称も毎日違ってくるわけですな。
11.はむすた削除
これは素晴らしいアイディアだ!!
不夜城ピンクに泊まりたい。
12.名無し妖怪削除
タイトル含めてGJ!
13.名無し妖怪削除
>>緑魔「ビリジアンデビル」
見てwwwwwwwwwwwww
14.うにかた削除
面白かった!
15.名無し妖怪削除
でもイエローデビルだとまたいろんな意味でまずいわけでwww
16.名前が無い程度の能力削除
咲夜さんは泣くほど紅魔館とお嬢様のことが好きだったんだなあ。
美鈴と咲夜さんとお嬢様の三角関係……ゴクリ。