正直な所メリーは眠かったので、蓮子の話へ真面目に耳を傾ける気はさらさらなかったのである。
「ねえメリー、今日はすばやさ重視でいこうと思うの」
発せられた文章の内容を理解しようともやはり思わなかったから、自然な流れで蓮子の帽子をぶんどって遠くへほうり投げるメリー。蓮子は大慌てで風に流されるそれを追いかけていった。
「あー……」
ぐったりとした表情で大学キャンパス内に設置されたベンチへ座る。曇天の空模様をぐんにゃり見上げた。
「蓮子って音がレンコンに似てるわよねえ……」
「そんなことはどうでもいいの」
蓮子が帽子を捕獲するのは思ったよりも早かったらしく、両肩で息をした彼女はぱんぱんと帽子のほこりを払い、被り直している。
「いきなり帽子を投げないでよ。ホワイトハウスまで探しに行っちゃったじゃない」
「ウチの犬小屋に光物を置いておいたらカラスが集まってきてフンで屋根が真っ白になっちゃってね。近所ではホワイトハウスって大好評」
「え? あれ? メリーって私のこと嫌いだったっけ?」
「好きよ蓮子。愛してる」
「やめて! 寄らないで! アカデミックな同性愛はオランダの学会だけで十分だもの!!」
「今日は曇りね」
「うん、朝は雨が降ってたから、水溜りは一杯あるけどね。ていうか帽子追っかけて上ばっかり見てたら水溜りで転んだ」
言われて蓮子を見てみると、左半身がずぶ濡れだった。
「視神経及び運動神経に優れる私は最善の物理法則に従って受身を取ったのだけれど、物体の三則を遥かにに凌駕する水溜りの泥水に対しては到底無力だったのである」
「日本の女の子ってみんな巴投げが出来るって聞いたけれど」
「投げられたいの」
「お願いするわ」
いそいそと巴投げの体制に入るメリーから蓮子は背負い投げで一本を取った。
「私の勝ちね、メリー。マリーシアってやつよ。音がメリーシアに似てて素敵だわ」
「なんだか涙が出てきたわ」
「あ、うん、ごめん……そうだよね、女の子なんだから決まり手は大外刈りがよかったよね……」
「うん、ありがとう。でもそれは違う」
「まあいいや、そんなことよりもね、メリー。大変なのよ」
蓮子は一度辺りを見回し、人がいないのを確認してから、小さく耳打ちした。
「実はさっき帽子を追っかけてるときにね? 赤ちゃんを拾っちゃったの」
「へぇ……」
ヤンバルクイナかイリオモテヤマネコの赤ちゃんだといいなあ……。
「ほら、この子」
蓮子が差し出してきたのは、どこからどう見てもノーマルフォームなホモサピエンスの赤ん坊であり、メリーは一層疲れが増したように感じた。
「え……それで……、警察に届けたりしたらいいんじゃないの……」
「うん、メリー。私もそう思ったんだけどね? どうもこの子がメリーの中に帰りたがってる気がして」
「後半の会話からどの文節を取り出しても意味不明なんだけど」
「いいから。赤ちゃんも可愛いでしょう。ほら」
両手で赤ん坊を突き出す蓮子。
「いや、ほらって言われても」
なんとなく受け取ってしまうメリー。
タオルのようなものに包まった赤ん坊を両の腕で抱く。
うーむ。
「それにしても蓮子。この子、泣かないわね?」
「そう……ん……、いや……ちょっとまって。何か音が聞こえない?」
「え……?」
揃って耳を澄ます秘封倶楽部が二人。
その静寂の中で、確かに聞こえてくる音が一つあった。
カチカチカチカチカチカチ――
「……? 何この音」
首をかしげるメリー。
先に気付いたのは、やはり、すばやさ重視の蓮子だった。
「!? め、メリー!! 危ない!!!」
目を見張る速さでメリーの懐へ入り込んだ蓮子は、渾身の力で赤ん坊を取り上げ、投げた。巴投げで。
「え、えぇ!?」
ゆっくりと風景が流れていくなか、赤ん坊は空へ向かって綺麗な四十五度の角度で放り上げられ、
重力加速の頂点付近で、轟音を立てて爆発した。
「……は?」
ぽかんと呆けるメリー。
燃え屑がぱらぱらと辺りに散る。
隣に立つ蓮子は額の汗を腕でぬぐい、一仕事終えた後の顔になっていた。
「危なかったわね、メリー。まさかあの赤ん坊が爆弾だったなんて、流石の私でも思いもよらなかったわ」
「あ……そうだんたんだ……。危ないわね……」
「可愛い顔してホモサピエンスの子もなかなか侮れないわ……ヤンバルクイナほどじゃないけどね」
こうしてメリーの危機はナイト蓮子によって助けられ、今日も明日も秘封くらぶぅー。
何やってんだあなたというか本当その発想はどこから出てくるんだwwww
赤ちゃん拾って育てるとかならまだわかるけど、どうやったら拾った赤ちゃんが爆発する方向に持っていけるのかサッパリわかんねぇwwwww
蓮子賢い!
ヤンバルクイナはもっと凄いのか
何が言いたいかっていうとGJ!!
ヤンバルクイナに勝てる気がしなくなってきたwwww
思う存分帰らせてあげればいいと思った。
でもネチョヒギィはかんべんなっ!
そんなすばやさ重視を見習いたいと思いました