「来たぜ」
「帰れ」
「つれないぜ」
「毎日のように手ぶらで来てメシたかっていくような穀潰しに振りまく愛想は持ち合わせちゃ居ないわ」
白黒のエプロンドレスに身を包んだ少女が、紅白のやや変則的な巫女服を纏った少女の傍に着地する。
今更説明の居る二人ではないだろう――日課である境内の掃除真っ最中の霊夢の所に、時間とエネルギィを持て余した魔理沙がちょっかいを出しに来たのである。
「私もヒマじゃないのよ」
「お茶の葉は換えなくていいぜ。この時間ならまだ出がらしってほど淹れてないだろ?」
傍若無人である。
だが、霊夢も慣れたもので特に気分を害した様子も見せずに掃除を続ける。
もはや博麗神社の定例と成ったやり取りである。
◇◇◇
――そろそろ、あいつが動き出しそうだから、ちょっと見に行くか
何かが来ることは予想していたが、いきなりあんなのが来るとは思っていなかった。
紅魔館の門番と侍女長は、後にこう語る。
夏は暑い日差しが強いと我侭放題な主が霧を出してから少しして、2人の人間が館に押し入ってきた。
これがもう。
傍若無人で。
騒がしくて。
そして――強い。
門番は言う。紅くて白い方は視界から消えたかと思ったら目の前に居た。針が痛かった。
侍女長は言う。黒くて白い方は避けようがない魔砲を放ってきた。自分の能力も結構ずるいと思うが、アレもずるい。
そして、口をそろえて言う。
「…バレバレね」
「バレバレでしたね」
「でも、あの巫女も鈍いわね」
「あの視線で気付かないとなると、相当なものですよね」
「態度にだってモロに出てたじゃない」
「でしたねえ…」
2人に続いて懲らしめられた紅い悪魔はこう語る。
「日傘があれば不自由しないから霧を止めても別に良かったんだけどね。負け惜しみじゃないわよ」
「何と言うか…全然口惜しくないのよね。負けたって言うのに」
「口惜しいんじゃなくて、腹立たしかったのはやっぱりアレかしら…」
「…黒いのが紅いのを見るときの視線がね…」
「何で分かんないのかしら…バレバレじゃない」
◇◇◇
――あー 何かあったのか?
正直、あんなのがやってくるとは思ってもみなかった。
白玉楼の庭師とお嬢様は、後にこう語る。
幻想郷中の春を集め、とびっきりの桜の封印を解こうとした或る春の日。
その日、白玉楼に3人の人間が侵入した。
これがまぁそれぞれ傍若無人で騒がしくて矢鱈強くて。
あっさりと春を奪い返されてしまったのだが――
「まぁ、随分簡単に負けちゃったのよねぇ」
「申し訳ありません、私が至らぬばかりに…」
「いやいや。アレはそう簡単には止められないわよ。止められなかったおかげで止めさせられたけど」
「…あの黒いのは」
「え?」
「何故、紅いのと一緒に来なかったんでしょうか?」
「うーん。貴女は何故『紅いのと黒いのが一緒に』来ないと不自然だと思ったのかしら」
「――?」
「あの時、メイドだって来たじゃない。どうして貴女は『何故あの黒いのは紅いのやメイドと一緒に来なかったのか?』と問わなかったのかしら」
「ええ、と…何故でしょうね? なんとなく」
「一緒に来なかった理由も、貴女がそう感じた理由も同じ理由ね。…まぁ、妖夢でさえなんとなくでも感じ取れたと言うことは」
バレバレだったわね、と呟いて、幽々子はそっと扇子を開き、表情を隠した。
◇◇◇
――それとも、お前、か? まさかね。
もはや幻想郷でも知る者が少ない、「懐かしい」力に幻想郷が包まれた夏の或る日。
力そのものであった鬼は、後にこう語った。
特に力を持った人妖が織り成した乱宴。
誰もが幻想郷を包む力を正確に捉えられず、翻弄される中で。
鬼は顔をしかめる。
――なんなんだろうね、ありゃ。
あの巫女はもう敵に回したくないね。調子が狂うったらないよ。
大体、いつも見てたけど、不気味なんだよねえ。
正直なのに分らないんだよ。あの巫女だけは。
正直じゃないのに物凄く分りやすいのにな。相方の方は。
ん? 相方じゃないの? まあいいけど。
でもさ。
バレバレだよねえ。
◇◇◇
――まぁ負けたんだから仕様が無い。帰って寝る。
満ちない月が夜天を飾った或る秋の日。
彼女は巫女を連れて、月の異変を解決に乗り出した。
その道中での小競り合いを彼女は後にこう語る。
「面白いわよね。あの子達は」
大妖は心底可笑しそうに目を細める。
「傍若無人で騒がしくて強いんだか弱いんだか分らなくて」
日傘をくるりと回した。周辺に無数の小さな隙間が開く。
「それで――まどろこしくって」
指に髪を巻きつけながら、クスクス笑う。
「でも霊夢も随分ニブチンね。それともワザとやってるのかしら。焦らし上手ってヤツ」
紫はゆっくりと目を閉じながら、言った。
あんなにバレバレなのにね。
◇◇◇
紅い悪魔は言う。
何であんなにトロいのかしらね。人間って。欲しいならさっさと行動に出ればいいのに。あんたたちに与えられた時間なんて――マッチに火をつけてから消えるまでのようなものなのに。欲しいものを手に入れるのに躊躇っている暇があるのか。
華胥の亡霊は言う。
やきもきするけど見てて飽きないわよね。あんな子達が友人だったら、楽しいでしょうね――友人じゃ、ないのかって? 冗談を言わないで頂戴。あんな子達を友人にしようなんて物好きが居るはずないでしょ。ただの知人よ。
鬼は言う。
んー。まあ何でもいいや。眺めて酒飲んで時々からかうと楽しい。それだけだよ。でも――鬱陶しいからさっさと言っちゃえよ。魔理沙。
胡散臭い大妖怪は言う。
分かりづらいけどね。霊夢だって魔理沙を――いやいや。口にするのも野暮ってモンね。境界を揺れ動く乙女心ってのはいい肴になるのよねぇ。
◇◇◇
そして今日も。
「来たぜ」
「帰れ」
その辺もやっぱ考慮に入れて書いてますか?
まあ何が言いたいかってぇと続きwktk