「んちゃ!」
などと、人様の家の玄関先で脈絡もなく意味不明なことをのたまう毒人形に対して、鈴仙・優曇華院・イナバがどのような返答を持ち合わせるというのか。とりあえず戸を閉めてみたら、とっさにつま先をねじ込んできた。
「ちょっとー、それは無いんじゃない」
お前こそねぇよ。帰れよ。
「ううう、人形差別だ。死ね似非フェミニスト」
何気に毒吐いてるし。あとフェミ関係ないし。
「毒人形だからね!」
さいですか。
吐くだけ吐いて、満足したらお帰り下さい。私はこれから日課の踏み台昇降1000回をこなさないといけないのであんたに付き合ってる暇など小指の先ほども無い。
「そんなことどうでもいいからー、えーりん呼んでよえーりん」
キサマ踏み台昇降をどうでもいいと申したか。ちょっとそこ座れ。あー上がるな上がるなキサマなど三和土の上で十分だ。いいか、踏み台昇降は「スポーツテスト」という外の世界の由緒正しき試練の一関門であり、同時に最高の健康法のひとつなの。長く続けることにより痩身効果が得られたり、さらには持久力の増強によって師匠との熱い夜を今までの2.3倍(当社比)長引かせることもできたという体験談がR.U.Iさん(仮名)からも寄せられるほどの――って聞けよ。
「人形だから太らないし」
あてつけか。
「それよりえーりん呼んでってば! 私大変なの!」
おいこら人形。てめーはカロリー摂取とATP反応以外の何かで動いてるのか。カロリーとらないのかオイ。こっちがどれだけの血涙を流して体型維持してると思ってんだ舐めてんのか。
「だってほら、首取れたんだよ私!」
そんなもん見たら分かる。
というか戸を開けたら首なし人形が首を小脇に抱えて立っていたなんてシュールきわまる光景に出くわした私の身にもなれ。「ほよよ?」とか言うな。ところで、なんかデュラハンっぽいよねそれ。すわ、デュラハンって死神じゃん。不吉きわまるからやっぱりお帰り下さい。
「だーかーらー! この首を繋いでもらいたいからえーりん呼んで言ってるの! えーりん! えーりん! 助けてえーりん!」
「待たんかい小娘! えーりんえーりんを許されるのはこの永遠亭当主、プリティプリンセス☆輝夜ちゃんだけよ!」
あー。なんか面倒くさいのが増えた。
「誰が包容力があって美しい最高のお姫様ですって!?」
言ってません言ってません。
「言えよ!」
どうしろと。
「罰として水着相撲大会ね。もちろんスク水」
大会て。しかもどういう競技ですかそれ。
「水着で相撲をとるの」
まんまですね。
「対戦相手はこーりん。もちろんスクみ」
あ、今ちょっと過去のトラウマが刺激されました。具合が悪くなったので部屋に帰って寝ますね。48時間ほど。あとそこの毒人形。師匠は今お昼寝中で何人たりとも起こすことはまかりならん。よって帰れ。
「えー。そんな事言わずに起こしてよー。首つながないと不便なんだって」
ええい面倒くさい。それならばここに適当に置いてあったアンパンを代わりに顔としてくれてやるわ。ほーらメディスン新しい顔だよー! ブバラッシャアアアア!(時速160km/hの投擲)
あ、毒で一瞬にして腐った。
「ダメねイナバ。顔の代わりにするならここにちょうどアステカの遺跡から発掘された石仮面が」
あーもーなんかどうでもいいです。寝る。毒人形はもう師匠が起きるまで待っていればいいじゃない。ただし永遠亭の床を踏むことはまかりならん。三和土の上で正座してろ。それでは姫様おやすみなさ
「かぁぁああああぐぅぅううううやぁぁああああああああ!!!!」
あ、あー。
あー。
……。
……。
まあ、妹紅がウチに来るのっていつも唐突だもんね。今更驚きませんよ、ええ。玄関がきれいさっぱり焼失したって日常茶飯事だもんね。それで、姫。
「なあに、イナバ。あら、あなたいつの間にそんなに背が高く」
っつーかあなたの視点が極端に低くなったんですけどね。生首のまましゃべるとかマジやめて下さい。想像以上にキモい。
「そうなの、あら大変。アタマどこアタマ」
うーわー。首無しの胴が動いてるし。今後、蓬莱人ってプラナリアとかそういう類の生物と認識しておきますね。あと、メガネ探すノリで首を求めてさまよわないで下さい。シュールすぎます。あー、右、右。もうちょっと右斜め前方の地面に転がってますよ首。
「ああ、あった。妹紅のヤツ。延髄切りで本当に延髄を切るとは……腕を上げたじゃない……!」
感心してる場合か。
「ああ! 切断面が焼け焦げてて上手く首と胴がつながらない!」
厄介な生物ですねアンタ。
「どうしようイナバ」
しねばいいとおもうよ。そしたらいつもどおり復活できるっしょ。
「非道い! あなた、人の痛みが分からないの!? これだから現代っ子は……。死んだらもの凄く痛いのよ!?」
知るか。死んだことないし。
「ハハハいいザマだな輝夜! これで私の21348932勝21348931敗5605分だ!」
「ふざけんな妹紅テメーコノヤロー。私がまだ生きてるんだから勝負はついてねーだろうが」
「おまっ、それで生きてるつもり? 首とれて動くとか許されるのアラレちゃんだけだよ?」
「ダークシュナイダーだって生きてたわ! これだから知ったかぶりは困るよねー」
「何それちょっと知ってたくらいでマニアぶってんの? ジャンプに対する愛のない知識だけ集めたがる人って手に負えないよねー」
「うるせー私のジャンプ愛なめんな。ジャンプ放送局にハガキ載ったことあるし」
「私のほうがジャンプ愛してるわ。こち亀とジョジョと北斗の拳全巻初版で買ったし」
「お前の3倍愛してる」
「お前の10億倍愛してる」
「お前の100億万倍愛してる」
「お前の1000億兆倍愛してる」
どうでもいいですけど、だんだんノリが銀魂臭くなってきてますよ? つーかガキのケンカ?
「勝負だアアアアア! リアル天下一武道会で決めたらアアアアアアアアア!!!」
「上等だコラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
あー……家だけは燃やさないで下さいね……。
部屋で寝よう。
「ねえウドンゲー」
おや、まだいたのか毒人形。つーかウドンゲ言うな。その名で私を呼んでいいのは師匠と武藤カズキだけだ。
「えーりんは?」
そのうち起きて来るから座って待ってろ。流れ弾は自己責任で避けるように。
「アッ――!」
「あ?」
あ。
姫様見事な延髄切りです。
「あははははいいザマね妹紅!」
アンタも首ないですけどね。首小脇に抱えて、デュラハンスタイルで勝ち誇らないで下さい。
「首どこ、首」
うわーお約束。ほら、左コサイン45度のところに落ちてますよ。
「ほんとだ、ありがとう輝夜の下僕」
あー、まあ、いいですけどね。
「うわあ……」
どうした毒人形。
「私たち、おそろいだね!」
…………。
……。
デュラハン三匹。
確かにおそろいですね。
シュールすぎてコメントに困る。
「……」
「……」
って、どうしました、姫に妹紅。二人そろって黙っちゃって。
「……あんたには負けたわ、メディ」
「……今日はメディの顔に免じて許してやるよ、輝夜」
……え?
「ゴメンね妹紅? 変な意地張っちゃって」
「バッカ、私こそ悪かったって。虫の居所が悪かったんだよ」
えー。
えー? なにそれ、なんか納得してるし。友情芽生えてるっぽいし。三人で肩組んでるし。ああ、見える。メディたちの周りに漫画のラブシーンや平和なシーンにありがちなホワホワした点描トーンが見える。
「めでたい日だな今日は!」
「そうね! 首っていう余計なものが取れて始めて、人は分かり合える! ステキだわ!」
「コンパロー♪」
「祝杯を挙げよう!」
「賛成!」
「コンパロー♪」
うん、もう私には突っ込みきれない。なんか三人して「きーん」とか言いつつどこかに走り去ったし。っつーか、玄関焼けたまんまなんだけど。メディ、首直さなくていいのかよ。
ああ……スキマ風。
寒い……。
……。
おふとんで寝よう……。
>顔の代わりにするならここにちょうどアステカの遺跡から発掘された石仮面が
輝夜!!!其れをそいつに被らせるなぁぁぁ!!!!
そんなんに骨針刺すのも嫌だろうな石仮面もw