しとしとと…長雨の続く季節だったらしい。
霧雨魔理沙は自宅の前に黒猫を見つけた。
「あんたちょっと獣の匂いがするわ」
霊夢が顔をしかめた。
「獣ってなお前…」
魔理沙は呆れる。
「何か動物飼ってるの?」
「飼ってると言うか…今ウチに猫が一匹いる」
「飼ってるんじゃない。よくあんたに動物の世話なんて出来たわね」
「だから飼ってるわけじゃないってば…」
魔理沙はうるさそうに手を振る。
「一昨日ぐらいか…?雨降ってただろ」
「霧みたいのがね。じめじめして困ったわ」
「あぁ、兎に角その日ウチの前にいたんだ、黒い奴が」
「それで?飼うことにしたの?」
「何度も言わすなよ…飼ってるわけじゃない。あいつは勝手に餌も食ってるし私は何にもしていない」
「よくずっと置いてるわね」
「霊夢は知らないだろうな」
「何を?」
「猫の足音は魔法の材料になる」
「初耳ね」
「その研究のためにおいているんだ」
「足音からねぇ…それにしたってあんたちょっと猫の匂いさせすぎじゃない?」
「そうか?」
魔理沙が何の気なく帽子を脱ぐ…と、
「あぁ!あんたの頭の上!」
「ん?」
「猫が乗ってる」
「何ぃ!?」
頭に手をやると確かに例の黒猫が居た。
「こいつ…帽子の中に潜んでいたのか…抜け目ない奴だぜ」
「いやいや、あんた気付きなさいよ、被った時点で…それにしてもよくあんたに懐いてるじゃない」
「そうか?」
床に降りた猫は魔理沙の足元に擦り寄った。
魔理沙はその行為を少し嫌そうに見つめる。
「猫のこういうところは、あまり好きじゃないな」
「そう?どうしてかしら?」
言いながら霊夢は猫の頭に手をのばす。…が、猫はそれをひらりとかわして境内に飛んだ。
「毛が付くだろ」
「ふぅん。うちに毛玉落として行かないでよね」
「猫に言ってくれ」
二人はしばらく境内を歩きまわる猫を見つめていた。
「あれ、あんたに似てるわ」
今度は魔理沙が顔をしかめる。
「冗談だろ?」
「黒いところとか、落ち着きがないところとか」
「どちらかと言えば橙のほうが似てるぜ」
「あれは猫そのものじゃない」
…と、しばらく話をするうち、再び空の雲行きが妖しくなってきた。
「こりゃ雨がくるな」
「いやね、お饅頭にカビが生えなきゃいいけど…」
「良い粘菌が育ったら教えてくれよ」
魔理沙は笑う。
「笑えないわ…」
「さて、私も雨がくる前に帰るか」
くるくると箒を回し、ふわりとまたがる。
「ちょっと、あの猫は?」
「ん?何だ?」
「あんたの猫でしょ?」
「違うってば。そいつがうちに帰ってくるのは勝手だが連れて帰ってやるいわれは無い」
そう言うと魔理沙は本当に猫を放って帰った。
夜。
魔理沙はベッドの中で、雨音に混じり聞こえる微かな声を聞いた。
「あいつ…」
億劫そうにベッドから這い出し、玄関のドアを開ける。
それと同時に室内に駆け込んでくる一匹の黒猫。
「呆れたぜ」
魔理沙は言う。
「帰ってくればとは言ったが…雨宿りに神社で一晩過ごすと思っていた…」
魔理沙は濡鼠になった猫を掴まえる。
「おいおい、そんな濡れた状態でウチの中を駆け回るな」
猫を拭く。
「…そう言えば私からお前に触るのは初めてだな」
魔理沙は笑う。
「なんか、してやられた気分だぜ。悪くは無いけどな」
猫はその言葉に応じるように、一声鳴いた。
「にゃぁ」
「ああ、今日のところはお前の勝ちってことだ。今日はもう終わりだが」
一人と一匹の生活は、そんな調子でそれとなく続いた。
ペットでもなければ友人でもない。
名前すら無い猫との奇妙な同居生活。
魔理沙が猫に構うことは殆ど無かったし、猫の方が魔理沙の生活に必要以上に割り込んでくることも殆ど無かった。
幾日か後。
「マタタビ?確かに私も持っているが…そんなものをどうするんだ?」
八雲藍は不信そうに魔理沙に言う。
「一度ちゃんと一杯やりたい奴がいるんだ。少しで良いから分けてくれ」
「橙をかどわかす気じゃないだろうな」
「それはまた暇な時にすることにするぜ」
「お前な…!」
藍はため息を吐く。
「…まぁいいだろう、こんなことで揉めるのも馬鹿らしい…ほら、手持ちだが少しで良いんだろう?」
「あぁ、この恩は忘れてなけりゃ返すぜ」
「期待せずに待とう」
しかし、魔理沙が猫と一杯を交わすことは無かった。
その日以降、猫は魔理沙の前に姿を見せなかったからだ。
「もともとそう長い猫じゃないと思っていたわ」
霊夢は縁側で茶を飲みながら言う。
「ああ、あまり気が長い猫とは私も思ってなかったぜ。だからうちで暮らすのにも飽きたんだろうさ」
「…」
霊夢は隣に座る魔理沙の顔を見る。
「は」
魔理沙は短く笑う。霊夢も呆れた様に笑う。
「結局足音の研究は上手くいったのかしら?」
「あれはあいつが帰ってくるまで頓挫だな。まぁそんな必死でやってた研究でもないから別に猫を捕まえる気もないし」
「ふぅん…それでどう?猫を手元においてみて…何か学んだことはある?」
魔理沙はにやりと笑い、そして
「にゃぁ」
と、鳴いた。
「似てるだろ?練習はしてないが憶えた」
霊夢は笑いながら言う。
「焼酎とブランデーぐらいには似てるわね」
「基準が解らん」
「全然違うけど根底は同じってことよ」
霊夢は一度言葉を切り、続けた。
「あの猫は、どうしてあんたのところになんて居着いたのかしらね」
魔理沙はしばらく間をもたせ…答えた。
「さあな、猫に聞いてくれ」
魔理沙は思い出す。
『そこは私のウチだ。戸口に居座られると邪魔だぜ』
猫は鳴いた。
『雨宿りならアリスの家にでも行け』
猫はもう一度鳴く。
『うぅん、猫の言葉は解らんな』
猫は魔理沙見る。
『あぁ、しょうがない。私もお前が退くまで待つ気は無いぜ。邪魔をしないならウチに入ればいい』
そう言って、魔理沙は猫をうちに入れた。
特に理由なんかない。ただ、それとなく気が合ったのだろう。
「そういうこともあるってことだ」
「何?」
「…」
魔理沙は軽く笑い、そして
「にゃぁ」
ともう一度鳴いた。
《終わらない》
霧雨魔理沙は自宅の前に黒猫を見つけた。
「あんたちょっと獣の匂いがするわ」
霊夢が顔をしかめた。
「獣ってなお前…」
魔理沙は呆れる。
「何か動物飼ってるの?」
「飼ってると言うか…今ウチに猫が一匹いる」
「飼ってるんじゃない。よくあんたに動物の世話なんて出来たわね」
「だから飼ってるわけじゃないってば…」
魔理沙はうるさそうに手を振る。
「一昨日ぐらいか…?雨降ってただろ」
「霧みたいのがね。じめじめして困ったわ」
「あぁ、兎に角その日ウチの前にいたんだ、黒い奴が」
「それで?飼うことにしたの?」
「何度も言わすなよ…飼ってるわけじゃない。あいつは勝手に餌も食ってるし私は何にもしていない」
「よくずっと置いてるわね」
「霊夢は知らないだろうな」
「何を?」
「猫の足音は魔法の材料になる」
「初耳ね」
「その研究のためにおいているんだ」
「足音からねぇ…それにしたってあんたちょっと猫の匂いさせすぎじゃない?」
「そうか?」
魔理沙が何の気なく帽子を脱ぐ…と、
「あぁ!あんたの頭の上!」
「ん?」
「猫が乗ってる」
「何ぃ!?」
頭に手をやると確かに例の黒猫が居た。
「こいつ…帽子の中に潜んでいたのか…抜け目ない奴だぜ」
「いやいや、あんた気付きなさいよ、被った時点で…それにしてもよくあんたに懐いてるじゃない」
「そうか?」
床に降りた猫は魔理沙の足元に擦り寄った。
魔理沙はその行為を少し嫌そうに見つめる。
「猫のこういうところは、あまり好きじゃないな」
「そう?どうしてかしら?」
言いながら霊夢は猫の頭に手をのばす。…が、猫はそれをひらりとかわして境内に飛んだ。
「毛が付くだろ」
「ふぅん。うちに毛玉落として行かないでよね」
「猫に言ってくれ」
二人はしばらく境内を歩きまわる猫を見つめていた。
「あれ、あんたに似てるわ」
今度は魔理沙が顔をしかめる。
「冗談だろ?」
「黒いところとか、落ち着きがないところとか」
「どちらかと言えば橙のほうが似てるぜ」
「あれは猫そのものじゃない」
…と、しばらく話をするうち、再び空の雲行きが妖しくなってきた。
「こりゃ雨がくるな」
「いやね、お饅頭にカビが生えなきゃいいけど…」
「良い粘菌が育ったら教えてくれよ」
魔理沙は笑う。
「笑えないわ…」
「さて、私も雨がくる前に帰るか」
くるくると箒を回し、ふわりとまたがる。
「ちょっと、あの猫は?」
「ん?何だ?」
「あんたの猫でしょ?」
「違うってば。そいつがうちに帰ってくるのは勝手だが連れて帰ってやるいわれは無い」
そう言うと魔理沙は本当に猫を放って帰った。
夜。
魔理沙はベッドの中で、雨音に混じり聞こえる微かな声を聞いた。
「あいつ…」
億劫そうにベッドから這い出し、玄関のドアを開ける。
それと同時に室内に駆け込んでくる一匹の黒猫。
「呆れたぜ」
魔理沙は言う。
「帰ってくればとは言ったが…雨宿りに神社で一晩過ごすと思っていた…」
魔理沙は濡鼠になった猫を掴まえる。
「おいおい、そんな濡れた状態でウチの中を駆け回るな」
猫を拭く。
「…そう言えば私からお前に触るのは初めてだな」
魔理沙は笑う。
「なんか、してやられた気分だぜ。悪くは無いけどな」
猫はその言葉に応じるように、一声鳴いた。
「にゃぁ」
「ああ、今日のところはお前の勝ちってことだ。今日はもう終わりだが」
一人と一匹の生活は、そんな調子でそれとなく続いた。
ペットでもなければ友人でもない。
名前すら無い猫との奇妙な同居生活。
魔理沙が猫に構うことは殆ど無かったし、猫の方が魔理沙の生活に必要以上に割り込んでくることも殆ど無かった。
幾日か後。
「マタタビ?確かに私も持っているが…そんなものをどうするんだ?」
八雲藍は不信そうに魔理沙に言う。
「一度ちゃんと一杯やりたい奴がいるんだ。少しで良いから分けてくれ」
「橙をかどわかす気じゃないだろうな」
「それはまた暇な時にすることにするぜ」
「お前な…!」
藍はため息を吐く。
「…まぁいいだろう、こんなことで揉めるのも馬鹿らしい…ほら、手持ちだが少しで良いんだろう?」
「あぁ、この恩は忘れてなけりゃ返すぜ」
「期待せずに待とう」
しかし、魔理沙が猫と一杯を交わすことは無かった。
その日以降、猫は魔理沙の前に姿を見せなかったからだ。
「もともとそう長い猫じゃないと思っていたわ」
霊夢は縁側で茶を飲みながら言う。
「ああ、あまり気が長い猫とは私も思ってなかったぜ。だからうちで暮らすのにも飽きたんだろうさ」
「…」
霊夢は隣に座る魔理沙の顔を見る。
「は」
魔理沙は短く笑う。霊夢も呆れた様に笑う。
「結局足音の研究は上手くいったのかしら?」
「あれはあいつが帰ってくるまで頓挫だな。まぁそんな必死でやってた研究でもないから別に猫を捕まえる気もないし」
「ふぅん…それでどう?猫を手元においてみて…何か学んだことはある?」
魔理沙はにやりと笑い、そして
「にゃぁ」
と、鳴いた。
「似てるだろ?練習はしてないが憶えた」
霊夢は笑いながら言う。
「焼酎とブランデーぐらいには似てるわね」
「基準が解らん」
「全然違うけど根底は同じってことよ」
霊夢は一度言葉を切り、続けた。
「あの猫は、どうしてあんたのところになんて居着いたのかしらね」
魔理沙はしばらく間をもたせ…答えた。
「さあな、猫に聞いてくれ」
魔理沙は思い出す。
『そこは私のウチだ。戸口に居座られると邪魔だぜ』
猫は鳴いた。
『雨宿りならアリスの家にでも行け』
猫はもう一度鳴く。
『うぅん、猫の言葉は解らんな』
猫は魔理沙見る。
『あぁ、しょうがない。私もお前が退くまで待つ気は無いぜ。邪魔をしないならウチに入ればいい』
そう言って、魔理沙は猫をうちに入れた。
特に理由なんかない。ただ、それとなく気が合ったのだろう。
「そういうこともあるってことだ」
「何?」
「…」
魔理沙は軽く笑い、そして
「にゃぁ」
ともう一度鳴いた。
《終わらない》
「猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液」
まりさの上にチョコンと座る猫に萌えた
まぁ、魔理沙は満更ではないようですが・・・
どちらにせよ、良い雰囲気漂うお話ですね。