Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

お嬢様とメイドと

2006/11/03 07:04:32
最終更新
サイズ
4.28KB
ページ数
1
咲夜さんの銀時計に俺設定含みます(それとも銀時計そのものが俺設定なのだろうか







 ほんの少し欠けた月の下、紅い悪魔の館はいつも通り静まり返っていました。住人は基本的に夜行性でありますが、そのたび騒ぎ出すような住人はいません。
 その夜、レミリア・スカーレットは廊下の隅に一つの銀時計を見つけました。
 銀程度の弱点、とっくに克服している彼女は無造作に手を伸ばします。すると―
 
ジュッ

 嫌な音を立てて指先が焦げました。
 何故?そして何でこんなものが?
 レミリアが思考を巡らせていると、向かい側から一人のメイドが顔を出しました。メイドは何かを探しているように廊下をキョロキョロと見回していましたが、レミリアの存在に気がつくと少し焦った表情を見せます。
 どうしたの?咲夜。
 レミリアが彼女の名を呼ぶと、彼女は少し困った表情になります。
 実は―って、お嬢様お怪我を!
 思い出したかのように指先を見ると、傷はまだ回復していませんでした。綺麗な月が出ていると言うのに不思議な話です。
 ん、ちょっとね。で、どうしたの?
 今度は心配そうな表情になった彼女に、表情がよく変わるなぁと思いました。
 そして今度は銀時計を見て、驚いた表情になります。
 あ、あった!
 これ?
 触れると火傷してしまうので人差し指を向けると、咲夜は何度か頷き大切そうに拾い上げました。
 なんなの?それ。
 レミリアが問うと、咲夜は口を開きかけて止まりました。彼女は頭を思考させてから視線をレミリアに戻します。
 今度は優しく微笑んでみせました。
 廊下で立ち話も何ですね。そうだ、紅茶を入れますわ。リビングでお話いたしましょう。
 二人は少しだけ冷え始めた廊下を歩きました。



咲「この銀時計は母の形見なんですよ」
レ「そう。でも、時間がめちゃくちゃだわ。動いてはいるみたいだし、針直せば?」
咲「いいえお嬢様、これが本当の時間ですわ」
レ「本当の時間?」
咲「ええ、この世でたった一つ。本当の時間を指しているのですわ」
レ「何よ、本当の時間って」
咲「お嬢様、私の能力は時を操る力。私が能力を使っている間はありとあらゆる時が止まりますわ」
レ「知ってるわ。…本当の時間の意味も、大体わかったわ」
咲「お察しの通りですわお嬢様。この時計は、私の能力に縛られない唯一の品」
レ「……その時計が示しているのは、いったい”いつ”の時間なのかしら」
咲「それは私にもわかりかねますわ」
レ「それにしても…凄い、魔力。私が触れない銀があるなんて」
咲「吸血鬼は本来銀に触れられないものですわ」
レ「私は触れるわ」
咲「どうぞ」
レ「そ、それは触れないってば!」
咲「ふふ」
レ「でも、皮肉なものね」
咲「?」
レ「きっとお母さんは貴女に、魔除けとして持たせたんでしょうに」
咲「ああ…」
レ「吸血鬼に従えちゃって。いいのかしら?」
咲「…」
レ「…」
咲「…クス」
レ「な、何よ」
咲「ご心配なさらずとも、私は何処へも行きませんわお嬢様」
レ「…そんなことわかってるわ」
咲「さ、紅茶を入れますわ。少々お待ちください」
レ「ん…」



咲(人間は、吸血鬼の一生に比べればほんの極短い時間しか生きられない)
咲(……)
咲(私の能力は、私の時間を止めることはできない)
咲(ずっとお嬢様と一緒にいるなんて不可能)
咲(…)
咲(そんなこと、わかってる…)


レ(……何処へも行かない、か)
レ(人間が、何を言ってるのか)
レ(人間の、くせに…)
レ(…)
レ(人間のくせに…)
レ(少し、期待しちゃうじゃない…)



咲「お待ちいたしました」
レ「…ありがとう、咲夜」
咲「…」
レ「…」
咲「…」
レ「…」

「あの」「ねぇ」

咲「あ、も、申し訳ございません」
レ「え、あ、…うん」
咲「―コホン。何でしょう、お嬢様」
レ「え…あ、」
咲「…」
レ「ぁ…こ、紅茶、美味し、かった」
咲「! はい、ありがとうございます」
レ「うん…」
咲「どうかなされましたか?」
レ「あ、いいや…。咲夜は?何か、言いかけてた」
咲「はい?あ、ええとですね…」

咲「今日は、良い月が出てますわ。館の皆を集めて紅茶パーティーなんてどうでしょう?」

レ「…」
咲「…な、なんて」
レ「…」
咲(…わ、私は何を言っているんだろう)
レ「…何をしてるの、咲夜」
咲「は、はい?」
レ「素晴らしいわ。すぐに用意なさい」
咲「!」
レ「図書館のパチェも、地下室のフランも、館中のメイドも、あと外で何かしてる美鈴も皆呼びなさい」
咲「はい、すぐに―!」


咲「それとお嬢様、美鈴は門番ですわ」
レ「門番?」
咲「外からの進入を防ぐ」
レ「ああ、その門番」
咲(他に何が?)



 ほんの少しだけ欠けた月の下、紅い悪魔の館はいつもと違い少しだけ賑やかになりました。
 悪魔の主と人間の従者は楽しそうに笑います。
 
 ずっと一緒に。それは、不可能な話でした。
 それでも彼女たちは、今を楽しく笑いあいます。もちろんこれからも。その日が来るまで。
 悪魔は不思議とそれでいい、そう思うようになりました。
 従者は勿論それでいい、そう思っています。
 だから二人は笑いあいます。
 今の幸せを感じながら。

はじめまして&ごめんなさい。羽鳥です。
紅魔の二人が大好きでちょいとこんな物語(会話?)を描いてみました。
いやもうホント妄想爆発でウヴォアー。
羽鳥
コメント



1.あざみや削除
はじめまして&ありがとう。
(少し、期待しちゃうじゃない…)と言っちゃうお嬢様が乙女で可愛かったです^^
2.名無し妖怪削除
絵本みたいな雰囲気が良い良い。
小さく儚い願いを持つ二人や「紅茶パーティー」という咲夜のアイデア…といったもののある内容だからこそ、絵本っぽくなる、これ以上なくですます口調がしっくりきます