Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ivy of the first garden

2006/11/02 12:13:06
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「パチュリー様ーッ!!」




ヴワル図書館に瀟洒な怒声が響く。
聞き苦しくなく。抑えた風でもなく。かつ怒気は相手に伝わる。
そんな声を上げているのは、この紅魔館のメイド長、十六夜咲夜。

ついドアを蹴り倒してしまった辺りに動揺が見て取れるが、時を止めて修理しておいたので問題も無い。



「あれ?咲夜さん、そんなに焦ってどうしたんですか?」

きっちり見られていた。

「ああ、小悪魔。パチュリー様は居ない?」

取り敢えず話を進めて流すことに決めたようだ。

「パチュリー様なら、さっきまで書斎で突っ伏して顔だけ横向けたまま、風の魔法でページを制御して本読んでましたけど」

「それって逆に疲れる気がするんだけど…それより、今は何処に?」

「急に立ち上がって「外の様子を見てくる」って言ってました」

それを聞き、咲夜の表情が険しくなる。

「はぁ…やっぱりパチュリー様の仕業なのかしらね…」

それだけ言うと、小悪魔の返事を待たずに踵を返して入り口に向かう。

「ちょっと待ってください、咲夜さん」

振り返ると、納得いかないという顔をしている小悪魔にこう言い放った。

「まぁ…貴女もついて来なさい。割と大事よ」

















「いや、そうじゃなくて。そのドア、蝶番が逆向きですよ」

「何のことかしら」

押し引きが逆になったドアと格闘する咲夜より、小悪魔のほうが幾分冷静だった。










「で、結局何が起きたんですか?」

庭へ向かいながら、小悪魔が尤もな疑問を口にする。

「何が起きたか私じゃよく分からないから、真っ先に主犯と思う人物の処に向かったのだけど」

「パチュリー様がやりそうな事…またミステリーサークル?」

「その程度なら放って置くわよ。困るのは美鈴だけなんだし。」

「じゃぁ、館の周りがネコイラズだらけとか」

「何かの役に立つなら歓迎するけど」

「ハロウィンにかこつけて、館の周辺がかぼちゃだらけとか」

「やりそうな気もするけど、今回は違うわ」

「催眠術だとか、超スピードだとかそんなチャチな物じゃ断じて無い?」

「意味が分からないわよ」

そんなやり取りをしている内に玄関に到着。扉を開けると、門の傍に2つの人影が見えた。



「パチュリー様!これはどういう事ですか!」

「あら、遅かったじゃないの」

ようやく目的の人物を見つけた咲夜は説明を求めるが、柳に風。

「そもそも、何でいきなり私が犯人扱いされなきゃならないの」

「この紅魔館で、お嬢様の気まぐれ以外でこんなことが出来るのは、パチュリー様しかいませんから」

完全に不審の目で睨み付けるが、パチュリーは呆れたと言わんばかりの表情をしている。

「あの…何が…?」

緊迫した空気を撒き散らす2人の後ろで、小悪魔が遠慮がちに問う。
そんな小悪魔に、咲夜が何も言わずに館の方を指す。
その指の向きを追い、振り返った小悪魔の目に映ったのは…。





ツタ。

壁一面どころか、館全体をツタが覆っていた。
普段は目が痛い紅の色彩も、今は葉の緑に成り代わっている。

「…パチュリー様、素直に自供すれば罪は軽くなりますよ?」

取り敢えず、想像を超える事態に動揺した小悪魔は、身近な人物を犯人にすることに落ち着いた。
その台詞に咲夜が大きくうなずいている。
パチュリーはそんな2人の様子に、呆れ顔を崩さない。

「はぁ…2人には残念だけど、今回のコレは私の仕業じゃないわ。かぼちゃなら生やそうとは思ったけれど」

「かぼちゃの件は是非お止めになっていただくとして…コレは誰の仕業ですか。あとはこんなことが出来そうなのといえば、何処かの花使いくらいですけれど」

花映事変の時に遭遇したフラワーマスターの事を思い出す。
説得するにしろ実力でねじ伏せるにしろ、面倒な事になりそうだと思い、げんなりした表情になる。

「だから何故、犯人が居るって前提なの」

咲夜の様子に、パチュリーはとうとう盛大にため息を吐いて続けた。

「気がつかない?このツタには魂というか、強い残留思念が宿っている。誰かが使役した植物じゃ、こうはならない」

「はぁ…花の事件の時みたいなものですか…」

「そうね、これも外の世界から流れてきた物。まだ納得いかないって顔してるけど、貴女には何も視えないのかしら」

「私には何も…美鈴は何か見える?」

ツタから霊魂の欠片も見えなかった咲夜は、さっきから黙って俯いているもう1人の人影。門番の美鈴に話を振った。
しかし、何の返答も無い。

「…美鈴?」

よく見ると、肩が震えている。心配した咲夜が覗き込もうと近寄ると、唐突に顔を上げた。


一言で言えば、酷い顔をしている。
両の目からは涙がボロボロと零れ、鼻水が垂れそうになるのを啜って堪えている状態。

「ちょっ…いきなりどうしたの!?」

唐突のことにうろたえる咲夜。

「だっで…ざぐやさん、酷いですよ」

「な…何が?」

自分が原因ではないとわかっていても、いきなり泣かれてそんな事を言われたら動揺してしまうというものだ。

「だって…25イニングも戦って…結末が暴投なんて…残酷すぎますよぅ…」

「何!?何言ってるの美鈴!?」

本気で意味が分からなかった。



「どうやら、ツタに宿ったモノが視えているみたいね」

とうとう声を上げて泣き始めた美鈴を尻目に、勝手に納得するパチュリー。
訳が分からない咲夜は、小悪魔に助けを求めようとしたが、彼女もツタの方を向いたまま恍惚とした表情をしていた。
そんな小悪魔にパチュリーが問う。

「貴女には、何が視えているのかしら?」

「皆さん…精力ありそうでいいですねぇ……」

「悪魔の性を出すのはいいけれど、涎垂れてるわよ」

ごく自然なやり取りを見せる2人に、咲夜は何となく放置される辛さが分かった気がした。

「えーと…つまり幻視しろってことですか?」

「そう、平均的な幻視力があれば何かしら視えるはずよ」

ここまで来ればさすがに事態を理解できた、後は実践してみればいいだけである。
咲夜はツタの方を向き直して、意識を霊的な方向にシフトし―――…。







「…あの…パチュリー様」

「どうしたの?何か視えた?」

「いや…幻視の方はさっぱりなんですけど、何か聴こえるんですが。ろっこー何とかーって…」

「それは六○おろしね。何で幻視しようとして幻聴になるのかの方が、興味深いけれど」

「ああ…なんか今度は太鼓の音とかトランペットの音が…」

「ま、咲夜は天然だから仕方ないのかしら」

「さっきもドア直し損ないましたしね」

言われたい放題だが、幻視しようとするほど別の曲が聴こえてくる咲夜に、反論する術はなかった。




















「ところで、パチュリー様は何が視えたんですか?」

「私が視たのは撤去されるラッキーゾーンだったわね」

「また随分限定的ですねぇ」

















「で…どうするんですか、これ」

頭の中でループしかけた○甲おろしを何とか振り払った咲夜は、事態を収拾する案を求めた。

「別に放置してもいいんじゃないかしら。特に害もないでしょうし、時期的にもうすぐ枯れるでしょ」

「そうですね、色々視えて楽しいですし。」

「他にも感動できる試合が視たいですしねー」

残りの3人は収拾する気がゼロだった。

「いやいやいや、これで夜になってお嬢様がお目覚めになったら、『今日から紅魔館改め、目に優しい緑魔館に改名する!』とか言い出しかねませんよ!?」

「あ、でも葉っぱだけじゃなくて、茎の茶色も見えるから『緑茶館』じゃないですか?」

暢気な事を言う小悪魔。

「紅白が喜びそうな名前ね」

「そうなると、冬になって葉が落ちたら『紅茶館』ですねぇ」

美鈴もそれに続く。

「…そうね」

まったく危機感の無い様子に咲夜は頭痛を覚えた。



改名の事もだが、咲夜の不安要素は数えられないほどある。
レミリアのことだ。このツタの幻視からどんな無茶苦茶な事を思いつくか分かったものではない。
唐突に館を改装するとか言い出しそうである。


取り敢えず、この3人には頼れないと確信した咲夜は、1人で事態の収拾に向かう決意を固めた―――…。






























―― 十六夜咲夜の手記より抜粋 ――

紅魔館を蔦が覆った日、目覚めたお嬢様は蔦に宿った記憶を見るなり
「今日から本館は、『甲子館』に改名する!」
と言い出したので全力で阻止させて頂いた。

あれ以来、お嬢様は窓から蔦の記憶を視ては、興奮したり感動したり悔しがったりしている。
ヴワル図書館では、パチュリー様の書斎と小悪魔の司書机の上に、野球漫画が山積みになっていた。
美鈴は花壇を整えるトンボで素振りをし、メイド達は食堂の片付けで内外野守備連携を始める。
食器を落としかけ、ダイビングキャッチを敢行したメイドに
「初動が遅いからそうなるのよ!メイド長ならもう落下地点に回りこんでいるわ!」
と厳しい檄が飛んでいた。

そもそも私は食堂の片づけで食器を投げない。

気疲れして自室に戻る途中で、妹様に華麗なフックスライディングをしかけられた。
思わず軽くジャンプして回避。流れるような動作で一塁手めがけてナイフを投擲。
もちろん一塁手など居らず、壁にナイフが刺さっただけだった。
でも、あの時確かに私の目は一塁手と、走りこむランナーを視ていた。
私も既に毒されているのだろうか。

これを書いている間も、『狙○撃ち』と『六甲お○し』が交互に頭の中で流れている。
ああ…もう限界だ。
この狂気に身を任せてしまえば楽になれる。
私1人狂ってしまっても、きっと、霊夢や魔理沙がこの事態を収拾してくれるはず…。
突如蔦に覆われ、甲子館と名を変えた紅魔館。
それと同時に、レミリアは「野球で幻想郷を支配する」と宣言。

あまりの奇行に困惑する幻想郷の人妖達。
いろんな意味で事態を重く見た巫女は、相手の言い分を無視して弾幕で甲子館に殴り込みをかける!


東方甲子宴 2007年夏、発売しません。





何で、甲子園の蔦が改修のために撤去されるというニュースから、こんな混沌としたモノが出来たのか…。
取り合えず甲子園の方に向いて謝っておいたほうがいいのかもしれない。

*一部修正
パスボール→暴投
自分の記憶の中ではサヨナラパスボールになっていたのですが、実際の記録は暴投だったようで。
あの試合は、今後も忘れられそうもないです。
コメント



1.あざみや削除
凄い良く分かります!美鈴の気持ちは良く分かります!でもどうしようもないじゃないですか、パスボールなんて……よく頑張ったんですよ、みんな。せめて、せめてあの時ボールが……一個分、いや半個で良いからストライクゾーンにうぅぅぅ(泣
なんかもう涙で駄目です。
2.あざみや削除
あぅ!しまった!!パスボールと他の試合混ざってフォアボール押し出しになってる!……連続投稿ごめんなさい。
3.名無しの一人削除
そうか・・・あの蔦も幻想の物になってしまうんですよね。
毎年見ている立場としては寂しいものですよね。

まあお嬢様には是非甲子館で頑張って頂きたいと思います。
4.名無し妖怪削除
蔦すら幻想なったって事は、
各地に点在した今は無き各施設も在ったりするのだろうか?w
5.名無し妖怪削除
この発想はなかったわ。
6.CACAO100%削除
それじゃあ、撤去喰らったフセイン像とか
日本の今は無き良き建物とか
タイタニック号やら、戦艦大和やらも幻想郷へ行ったのか・・・
7.流れる風削除
AAにもなった大暴投サヨナラのシーンもきっと幻視してるんでしょうねえ。
8.流れる風削除
連投失礼。↓の件はすでに美鈴が幻視していた罠。
そうなのかー、前日に延長15回戦ってたのかー。
9.翔菜削除
ああ……割と近くに住んでいる人間としては、もう。

しみじみとしてたのに甲子館で吹いたじゃないか……。
10.変身D削除
甲子館は本気で吹きました、野球漬けの紅魔館も良いデスね(w
あと、延長25回は戦争前のお話でしたっけ。
11.削除
コメントありがとうございました。

>延長25回は戦争前の~
まだ15回引き分け再試合がなかった頃に、連続で25イニングって試合もあったようですね。

この話の中で挙がっているのは、平成15年春のセンバツ、準々決勝のお話です。
今年も春夏ともに再試合の壮絶な試合があったようですが、仕事やらでリアルタイムでみれず。しょんぼり(・ω・)