俺設定注意
「契約したからには、貴女が死んだら魂は私のものね」
「冗談じゃないわよ。生きてる内はタダ働きで、なんで死んでまで仕えなきゃいけないの」
「昔から悪魔との契約ってのはそういうもんなの」
「絶対イヤよ。そうね…死ぬまでは、仕えてあげる」
「…まぁ、それでもいいわ。よろしくね、美鈴」
「今日も引継ぎ事項は無し。いつも通り、魔理沙が来たら無理せず私か咲夜さんに報せること」
「お任せください、美鈴様。お疲れ様でした」
夜勤明けの身体を引きずって、自室へ向かう。
最近は侵入しようなんて肝の据わった者も来やしないので、一晩中門の前に立ちっぱなしだ。
平和でいいが、少々退屈を持て余す。
メイド長が――
――お嬢様と――
ああ――
やや離れた処に居た、これから仕事であろう2人のメイドの会話の切れ端が耳に入った。
また、か。
最近、お嬢様と咲夜さんの仲が大変よろしい。
そりゃ勿論、仲が悪いよりは仲がいいほうが良いに決まってるが――
言っておくが、別に彼女たちは咲夜さんの陰口を言っているわけではない。
むしろウチのメイドたちの大半が、あの2人をウォッチングするのを楽しみにしている。
ただ単に、いつもより咲夜さんが仕事を始めるのが遅れているので、ちょっと気になっただけだろう。
咲夜さんも随分と出世したものだ。
館に来た頃は私が色々と教え込んだものだった。
まぁ、その頃から彼女の本質は何も変わっていないけど。
優しくて、気配りが出来て、仕事も出来る。その上容姿も端麗となると欠点が見つからない。
最近はお嬢様に絡まれっぱなしで、中々ゆっくりと話をする機会も減ってしまったけれど。
(……)
――何故か。
あの2人が仲がいいのを見ると、ちょっとだけイライラしてしまうのだった。
次の仕事は明日の朝からだ。
とりあえず、食堂で何かお腹に入れてから、軽く眠ることにする。
食堂では、自分と同じく夜勤明けと思しきメイドたちがちらほらとジュースを飲んでいた。
これから眠るというのに、お腹に一杯食べ物を詰め込むというのは自殺行為である。乙女として。
ジュースだけで済ませようという気持ちも分る。ので、自分もジュースだけを手に適当な席に座る。
何となく食堂全体に妙な連帯感が漂っていて、少し可笑しかった。
さっさと朝食を済ませて自室に戻ると、軽いストレッチで立ち尽くして固まった身体をほぐしてからベッドに入った。
目が覚めた。
時間は昼過ぎ頃…か。
もう少し眠ってもよかったが、昔から一度目が醒めてしまうと中々寝付けない性分だった。
二度寝は諦める。
(特にやる事も無いし、本でも読みますか)
最近の空いた時間は、専ら読書に費やしている。
幸い、この館には文字通り読み切れないほどの本を擁する図書館があり、館の住人なら借りる為の手続きも簡略なもので済む。
貸し出し期間を超過したときは非常に恐ろしい目に遭うが。
読みかけていた本を手に取る。
別に読むジャンルにこだわらないし、書き手が人間でも人間以外でも特に気にせずに片っ端から読んでいる。
今読んでいるのは、タイトルから例のゲームを連想させたから借りてみたのだが、全く関係が無かった。
だが、やはり気にせずに読み進める。
――お気をつけなさい、将軍、嫉妬と言う奴に。こいつは緑色の目をした怪物で、人の心を餌食とし、それをもてあそぶのです。
(…うーん)
成程、嫉妬というのは緑色の目をしている気がする。
随分上手い事を言うものだ、と感心したところで。
コンコン
「美鈴ー。居るー?」
お嬢様の声だ。珍しいこともあるものだ。私の部屋に来るなんて。
急いでドアを開けて出迎える。
「お嬢様 …と、咲夜さん? 珍しいですね。どうかなさいましたか?」
ドアの向こうには、お嬢様と…ぐったりしている咲夜さんが、お嬢様にもたれかかる様にして立っていた。
「入ってもいいかしら?」
「勿論。汚い部屋ですが…」
お嬢様は頷いて、中に入ってきた。咲夜さんを引きずるようにして。完全に力が抜けているようだ。
「あの、咲夜さんどうかしたんですか」
「もう、私が口移しでお茶を飲ませてあげた途端、ぐったりしちゃったのよ。もう何度もシてるんだから、そこまで照れなくてもいいじゃない。ねぇ」
悩ましいほどに紅い唇を三日月状に歪めて言う。
「相変わらず仲が良いですね。羨ましいです」
本心だった。
何とはなしに口をついて出た言葉だったが、今の自分の心情を簡潔に表した言葉だった。
羨ましい。
そして、自分でそれに気付く前に言われた。
「あら…それは咲夜が羨ましいのかしら? それとも、私が羨ましいの?」
――驚いた。
普通、こういう状況で発する「羨ましい」というのは、どちらかを羨ましいと思って発する言葉ではないのではなかろうか。
強いて言うなら、仲が良いパートナが居るということが羨ましいと、そういう意味で捉えるものだろう。
だが驚いたのは、そんなちぐはぐな質問に対してでは、なかった。
間違いなく――
私は――
羨ましかったのだ。
「あ、あぅ…」
言葉に詰まった。
「もう、冗談よ。そんな顔しないの」
ころころと可愛らしい笑い声を上げてウィンクをする。
少しだけほっとしたが――
何処かから、緑色の目が私を見ている気がした。
結局。
二十分少々でお嬢様は退室していった。
最後まで咲夜さんがぐったりしていたのが気にはなったが、こっちもさっきのことで頭が一杯だった。
――咲夜が羨ましいのかしら? それとも、私が羨ましいの?
全然違うことだが、どっちも同じ事のような気もした。
そして、一番の問題は――どっちも、自分にしっくりこないことだった。
どっちが羨ましいのではなく、どっちも羨ましい。
そう思っていた気がする。
それはなんだか、奇妙な違和感を私に抱かせるのだった。
ふと時計に目をやると、かなり時間が経っていた。
随分くよくよと考えていたものだ。こういう頭の使い方をしたのはいつ以来か。
(……?)
不意に、違和感がするするとほどけていく感じがした。
『どっちも羨ましい』というのは、私は――
コンコン
「はあい」
咄嗟に返事をしてから、失敗したと思った。ドアの向こうにいるのは、気から察するに咲夜さんのようだった。
(なんとも間が悪い)
そう思ったが、返事をしてしまった以上出なければなるまい。
そして、ドアの向こうに立っていた人物を見たときは流石に驚いた。
間違いなく咲夜さんの気なのだが。
小さい。
お嬢様と同じくらいの見た目だ。
何故か服もお嬢様の服だ。
不思議な人物は、私を部屋の中へ押し込んでドアを閉めた。
「…え? さくや、さん?」
「正真正銘十六夜咲夜よ。ちょっと話を聞いて欲しいの」
『どっちも羨ましい』というのは――
「朝からお嬢様が――」
私が、どっちも好きだということで――
「さっきもお嬢様が――」
どっちも、嫉ましいということか――
「それで、毒を飲まされちゃって、こんな姿に――」
羨ましいは、嫉妬の裏返し。
私は、凛として美しい夜の王に。
瀟洒で美しい従者に。
恋慕を抱いていたのだ。
「本当にお嬢様には――」
やめて。
咲夜さんの口からお嬢様という言葉が出てくる度に、胸が苦しくなる。
「――それで、永遠亭に…」
涙が出そうだった。
こんなに好きなのに。
好きだと気付いたのに。
何で私はこんなところで泣きそうになっているのか。
ぼやけていく視界の向こうで、咲夜さんが部屋から出て行こうとするのが見えた。
「――あっ」
引き留めようとしたけれど、結局――
後から後から涙と嗚咽が溢れてきて、それどころではなかった。
館の中がしばらく騒がしかった。多分、さっきの咲夜さんの姿に起因するものなのだろう。
だが、部屋の外に出ていこうとは全く思わなかった。
そんな騒ぎが沈静化するころは、もう夜明けが近いような時間だった。
それまで私は何をしていたのかと言うと、ベッドの上で丸まって激情が過ぎていくのをじっと待っていた。
もう何百年と生きているのに、これではまるで十年かそこらしか生きてない人間の小娘と同じじゃないか。
恋愛小説の類も幾つか読んだが、ぐじぐじと悩むだけのヒロイズムというのは共感できなかった。
自分がそうなっていては世話無い。ため息とも自嘲ともつかない息が漏れた。
コンコン
ああもう。
1日に3件も訪問者があるなんて、ここ数年無かったことだ。
いや、もう日付は変わっているので数えなおしか。そんな下らない思考が浮かんだ。
ともかく、寝たふりを決め込むことにする。今の顔は他人に見せられるものじゃない。
ぬるり。
お嬢様――か。
何度か壁をすり抜けるところを見たことがある。そのときに、こんな音がしていた。
何でこう、選りすぐりの会いたくない人ばかり来るものか。
毛布を被ったまま、じっと寝たふりを続けた。
「あの子はね、貴女と同じ事を言ってくれたのよ」
あまりに唐突な物言いだったが、理解できた。
レミリア様に仕えることになったあの時の言葉。
「あの子も、死ぬまで一緒に居てくれると言ってくれたわ。でも――」
一緒に居られる時間が違いすぎる。
「貴女のことを蔑ろにする気はないのよ。でも、貴女はもっと時間がある。ゆっくりでいいと思っていたけど…」
仕方ないじゃないか。私だって好きなんだから。
「あの子には元に戻るまでは部屋から出ないように言っておいたわ。あの子が戻るまで、誰よりも私に近いところに居てちょうだい」
何ともワガママな物言いだ。
でも、それでこそ私の好きなレミリア・スカーレットだ。
ベッドから身体を起こす。ベッドとドアのちょうど中間に、紅い紅い影が佇んでいた。
「自惚れてますね。いつまでも私が、お嬢様のことを一番好きでいると思ったら大間違いですよ」
出てきた声は少しかすれていた。
だが、構わずに続ける。
「今となっちゃ、お嬢様は咲夜さんと同率一位です」
自分だって十分ワガママだ。でも構うものか。コイスルオトメは強いのだ。
お嬢様は一瞬面食らったような顔になったが、すぐにニタリと笑った。
「ふぅん…つまり、私と咲夜を取り合うつもりなのね」
「私が咲夜さんを手に入れたら、その後で傷心のお嬢様も頂いちゃいます」
お嬢様が噴き出した。
「…いいわ、負けないわよ。咲夜をオトしたら、返す刀で貴女も頂くわ」
それからの3日間の私たちのバカップルっぷりと来たら、魔理沙が逃げ帰ってしまったほどだ。
咲夜さんが見ていたら卒倒しそうだと思った。
まぁ、今はまだ部屋でゆっくりとして頂こう。
元の姿に戻ったら、私とお嬢様の波状攻撃が開始されるからだ。
これもこの館に来てしまったのが運の尽きだと思って諦めてもらおう。
「明日には解毒剤が届くわね。…まぁ、私のメイドなんだから私に大いに分があるけどね」
「フフン。館に来た頃から世話してる私にだってアドバンテージはありますよ」
「せいぜい吠えてなさい。貴女も咲夜も私のものよ」
「全ては明日から、ですね」
「…そうね」
明日からはきっと、羨んだり嫉妬したりの騒々しい日々が始まるのだろう。
ふと思った。
嫉妬は緑色の目の怪物なんかじゃなくて。
紅い目をしたワガママな小さい女の子なんじゃないかな――と。
その日の夜。
ぬるり。
「はぁ~ん。やっぱり小さい子の肌はすべすべもっちりでいいわねぇ」
紅い変態が一匹、カメラを抱えて咲夜の部屋から現れた。
「さぁて、明日からは久しぶりにおっきい咲夜が愉しめるわ…ああ楽しみだわ」
ダメだコイツ。早く何とかしないと…
と、後ろから近づく影有り。
むんず。
頭を鷲掴みにする。
「お嬢様…明日からだと言ったじゃないですか…」
「あ、あら美鈴。元気してた?」
「これはお仕置きをしなくてはいけませんね」
「フフン、やれるモンならやってごらんなs待ってその握り締めたニンニクは何。危ないから。それは危ないから。ホントに危ないの。ちょ、近づけないで!」
「大丈夫ですよ。殺しませんから」
「大丈夫じゃない! 大丈夫じゃないわ! もうしないから! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいヒギィィィィィイ!!!」
百年後二百年後は成長した美鈴がお嬢様の脇に立ってると思うのですよ!
たいへん美味しゅうございました。ごちそうさまです。
是非またこのカップリングをお願いしたい。
ヒギィ言ってても結局中国ノしてメイド長食いにかかるレミリア様萌え
そこに痺れる、憧れるぅ!!
あまりさんの作品は毎度楽しみ^^
体力ほぼ無限×2て……。
お嬢様が出てきたのはすでに事後と言うことで…
ハメ撮 ゴホゴホ してご満悦の後、美鈴の襲撃が
>>2日06:55の名無しさん
編集作業は紅魔館の伏魔殿こと図書館で行なわれているので、
その辺からの流出です。誰が流したかはご想像にお任せします こぁ
>編集作業は紅魔館の伏魔殿こと図書館で行なわれているので、その辺からの流出です。
咲夜さんの部屋を出たところで捕まった→図書館によってない→データは図書館に届かず→編集作業はできず、そもそも無いものは流出仕様が無い
?????
何この紅いパルスィ達w