Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夢想封印

2006/11/01 20:40:36
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 博麗神社での祭りが終わった。各々勝手に持ち込んだ出店や小道具も今は片付けられ、境内の中にはいつもの静けさが漂っている。そろそろ祭りの余韻すら消え去ろうという最中、神社の主は鳥居の上に座っていた。両足をぶらぶらと揺らしながら、両手を脇について、何をするでもなく空を仰いでいるその姿は、幼く純粋な少女を思わせる。実年齢から言っても彼女は立派な少女であるのだが、今の少女は、本当の意味で少女然としていた。

 巫女という役職に就いていない、ただの少女。夜空に昂然と輝く星々に瞳を向けては嬉しげに笑い、祭りの余韻に身を浸しては物寂しさを感じる。そこには普段、化け物と称してもなんら遜色のない妖怪達と弾幕を繰り広げる姿などは微塵も存在しない。
 ただ、やはり彼女は巫女なのだろう。その姿に、何者にも穢す事のできない清廉さを、既に浮世から失われた純潔さを、見るもの全てを虜にしてしまう、儚過ぎるが故の美しさを感じるのは、やはり彼女が根幹から巫女であるからなのだろう。

 巫女は空を見つめ続ける。何をするでもない、何を考えるでもない。ただゆっくりと流れる空と時とを瞳に写すだけ。在りのままの、在るがままの世界を静かに見つめ、受け止めているだけ。

 それにしても、今夜はまた騒がしかったものだ。苦笑を浮かべたまま、巫女は先程までの祭りを思い出す。
 いつものように唐突に飛んできた普通の魔法使いが酒を片手に「祭りだ!」と叫んでは、これまたいつものようにどこから現れたのか瓢箪を手にした鬼が「じゃあ皆を呼ばないと!」等と戯言を抜かし、「では私は皆さんに祭の報告に行ってきますね」と声が聞こえたかと思えば空から黒色の羽毛が舞い降りて、数時間後にはいつもの面々が、いつものように好き勝手に宴を開催していた。それでも、どうせいつもの事だからまあいいかと騒ぐ面々を放置し、彼女は彼女で持ち寄られた酒を勝手に飲んでいた。
 途中、いい具合に寄った面々が始めた芸は中々見物だった。
 始まりは普通の魔法使いによる、即興小規模の天の川だった。自らが流星となって空を飛び回り、その後を尾を引く様にして星の川が出来上がる。夜空に浮かぶ星々が霞んでしまう程美しかったその光景に刺激されてか、それからは次々の芸が披露されていった。
 七曜の魔法使いが複数魔法行使による七色の虹を掛ければ、「七色といえば私よ!」と叫びながら七色の魔法使いが七色の服装を纏わせた人形を用いて劇を行う。
 九尾の尾を持つ式が主に「花火が見たいわねぇ……藍、飛びなさい」と言われて半泣きスッパテンコーしながら空に散れば、式の式が「藍さまー!」と本気で泣く。
 他にも、本当に様々な芸が見られた。しかし一番綺麗だと思えたのは、最後の最後で行われた巫女を除く全員による、大弾幕合戦だった。酔いが最高潮に達した普通の魔法使いが事もあろうに、集まった面々に「マスタースパーク!」とスペルカードを使用したのが原因だったのだが。その他の面々も既に出来上がってしまっていたので、怒り心頭というよりはもう勢いで弾幕合戦をおっぱじめた。
 ――無論、境内で行おうとしたので、全員巫女にぶっ飛ばされたのだが。

「はぁー」

 一つ息を吐いて、伸びをした。偶にはこんなのもいいかと祭りの余韻を感じながら夜風に当っていたのだが、流石に眠くなってきた。今日はそろそろ寝ることにしよう。

「……」

 そうして鳥居から飛び降りようとして、ふと思いとどまった。空を見上げる。そういえば今日、自分は一度も花火らしい花火を見ていない。どこぞの式によるスッパテンコーなど花火とは認めていない巫女は、しばらく空を見つめて、思いついたように懐から一枚の札を取り出した。

 夜空を見上げる。そこには澄んだ空気の向こう側から輝きを届ける星々が、その瞬間を今か今かと待ちわびていた。己たちよりも、雅なる光を放つそれを。日本という島国において雅の名代ともいえるそれが現れる瞬間を。巫女が放つ美しさを、星空の向こうから俯瞰している。

 巫女は笑む。苦笑の混じった愉快気な微笑を、大空へと向けてやった。

 人差し指と中指に札を挟ませ、勢い良く空へと掲げる。――そして、巫女は宣言した。

「夢想封印!」

 煌き放つ幾つモノ玉が巫女の周囲に出現する。次の瞬間、巫女が示し掲げた夜空へ、一つ、二つとその身を舞い上がらせていった。

 そうして玉たちが夜空の一点に集まった刹那、

「散!」

 巫女の言霊に従い、その身を夜空へと花咲かせた。

「ん……よし、寝よう」

 夜空の花が照らす中、明るい境内を巫女は自室へと歩を進めていく。

 その顔にはどこか満足そうな笑みが浮かんでいる。


 やっぱり、花火っていうのはこうじゃないとね。


 きっとそんなことを思っているのだろう巫女は、あくびを一つしてから室内へと消えていった。

 空には花咲いて散っていった灯火の名残が僅かに残像を残す。



 花は空に集まり散と化す。

 夢に描いた美しさをその一瞬だけに集約する、雅を結集した大封印。

 これぞ真の花咲く――夢想封印。

 

 どうも、プチには二作目の投稿になる炎氷刺丸です。

 この間、夜の九時ごろにバイトからバイクに乗って帰っていると、子供連れの親子が歩いていました。
 子供達がやけにはしゃいでいることと、親子連れの数が多かったので不思議に思っていると、その先の神社で祭りをやっているのが目に入りました。
 自分の家の近所で毎年やっている祭りなので、僕も知ってはいたのですがまさかその日にあったとは露知らず。
 小学生時代には自分もはしゃいで祭りに行ったものだと、しみじみ回顧してしまいました。

 今日はそんな昔を思いながらのお祭り後を少々。
 相も変わらず何を書きたいのかがはっきりと表現できてないですが、それでも読んでくださった方々ありがとうございました。
炎氷刺丸
http://www.geocities.jp/enju1162/
コメント



1.暇人削除
花火か……
夢想封印に花火を重ねる、いいですね~
2.ハリマヤド削除
夢想封印の花火・・・
見ながらお茶を啜りたいw
3.あざみや削除
これは良い。
人を穏やかにさせる作品というのでしょうか、私は大好きです。
なんかとっても綺麗なものを見た気がします。
4.月影蓮哉削除
最近は祭りにも行かなくなったなぁ。
祭りの日がバイトとかやめて欲しいと、不快な現実をば(笑

花火は良いですわ。この季節にもやってほしいものだけれども。