太陽はいささか西に傾いたようだ。
日よけの傘を潜り抜けて陽光が私の足を差す。
10月も終わりとは言え、日差しの強い夕方はまだ暑い。
足を畳んで椅子の下に避難させた。
コツコツ、と聞き慣れた革靴の音。
私は本に栞を挟み、腕時計を見た。
16時32分57秒。
2分57秒の遅刻だ。
「ごめん、遅れた!」
「2分・・・3分ね」
「その3分に見合うものを持ってきたんだから許してよ」
そういうと蓮子は手に提げていたバッグから何枚かの写真を取り出した。
「どう?」
「どうって言われても・・・月ね」
「そうね、月ね。・・・・・・それだけ?」
「残念ながら蓮子のように時間も場所も読み取れないわ」
「私になくてメリーにあるものもあるでしょ?」
「見えないわね。ごく普通の下弦の月よ」
蓮子は眉と口とで八の字を作ると私の向かいに身を投げ出すように座った。
そしてその振動で倒れそうになった紙コップのコーヒーを器用に受け止め、そのまま呷った。
「それ、私の飲みかけよ」
「いい感じに撮れたから自信あったんだけどなぁ。やっぱり楽して宇宙旅行は無理なのね」
「苦労しても行けそうにはないけれどね」
120億円。
国家予算案だの賠償支払いだの、ニュースの中でしか見たことがないその額はあまりに現実離れしていすぎた。
馬が鹿の子を産んだ方がまだ素直に驚けただろう。
「ここのコーヒーを一日一杯我慢したら何日で行けるかしらね?」
「子々孫々まで続く大事業ね。私は応援するわよ蓮子」
「でも、もう月も制限有りで手に届く時代なのね」
「そうね。手を伸ばしても届かなかったあのもどかしさから人は解放されるのよ」
「384,440km。目と鼻の先のその距離が昔の人には永遠にも感じられたでしょうね」
私の目の前には蓮子が持ってきた月の写真。
その一つを取って蓮子を透かし見た。
「でもね知ってるメリー?月は一年に3cmも地球から離れていってるのよ。このままじゃ年を重ねるごとに月面旅行の価格は高騰するわよ」
「1cmいくらなのかしら?」
「今が120億円だから、1cmは・・・・・・0.03円かしら?」
「一年で大体0.1円の値上がりね」
「ひどい暴騰ね」
そう言って蓮子は屈託なく笑う。
丁度西日は蓮子の後ろにある。
さながら彼女には後光が差しているようだった。
「月、ね」
「どうしたのメリー?やっぱり何か見えた?」
「いいえ。月は相も変わらずよ。ただ、その月になりたいと思って」
「月に?」
蓮子は目を丸くする。
この人当たりのいい彼女こそ。
「えぇ。蓮子はいつも眩しい。それはさながら太陽のように。だから私は月になりたいの。
知ってる?知ってるでしょうね。月は太陽の光を受けて輝くの。
私はずっと蓮子の傍で明るさを受けていたいんだわ」
それはささやかなプロポーズ。
それとも、彼女にはただのお友達宣言としか聞こえなかったかしら?
でも彼女には十分伝わったのだろう。
笑う彼女はやはり輝いていた。
「それなら、あなたはもう既に月よメリー。
私の苗字を忘れたかしら?お宇佐様を見ているのは私の仕事ですもの」
日よけの傘を潜り抜けて陽光が私の足を差す。
10月も終わりとは言え、日差しの強い夕方はまだ暑い。
足を畳んで椅子の下に避難させた。
コツコツ、と聞き慣れた革靴の音。
私は本に栞を挟み、腕時計を見た。
16時32分57秒。
2分57秒の遅刻だ。
「ごめん、遅れた!」
「2分・・・3分ね」
「その3分に見合うものを持ってきたんだから許してよ」
そういうと蓮子は手に提げていたバッグから何枚かの写真を取り出した。
「どう?」
「どうって言われても・・・月ね」
「そうね、月ね。・・・・・・それだけ?」
「残念ながら蓮子のように時間も場所も読み取れないわ」
「私になくてメリーにあるものもあるでしょ?」
「見えないわね。ごく普通の下弦の月よ」
蓮子は眉と口とで八の字を作ると私の向かいに身を投げ出すように座った。
そしてその振動で倒れそうになった紙コップのコーヒーを器用に受け止め、そのまま呷った。
「それ、私の飲みかけよ」
「いい感じに撮れたから自信あったんだけどなぁ。やっぱり楽して宇宙旅行は無理なのね」
「苦労しても行けそうにはないけれどね」
120億円。
国家予算案だの賠償支払いだの、ニュースの中でしか見たことがないその額はあまりに現実離れしていすぎた。
馬が鹿の子を産んだ方がまだ素直に驚けただろう。
「ここのコーヒーを一日一杯我慢したら何日で行けるかしらね?」
「子々孫々まで続く大事業ね。私は応援するわよ蓮子」
「でも、もう月も制限有りで手に届く時代なのね」
「そうね。手を伸ばしても届かなかったあのもどかしさから人は解放されるのよ」
「384,440km。目と鼻の先のその距離が昔の人には永遠にも感じられたでしょうね」
私の目の前には蓮子が持ってきた月の写真。
その一つを取って蓮子を透かし見た。
「でもね知ってるメリー?月は一年に3cmも地球から離れていってるのよ。このままじゃ年を重ねるごとに月面旅行の価格は高騰するわよ」
「1cmいくらなのかしら?」
「今が120億円だから、1cmは・・・・・・0.03円かしら?」
「一年で大体0.1円の値上がりね」
「ひどい暴騰ね」
そう言って蓮子は屈託なく笑う。
丁度西日は蓮子の後ろにある。
さながら彼女には後光が差しているようだった。
「月、ね」
「どうしたのメリー?やっぱり何か見えた?」
「いいえ。月は相も変わらずよ。ただ、その月になりたいと思って」
「月に?」
蓮子は目を丸くする。
この人当たりのいい彼女こそ。
「えぇ。蓮子はいつも眩しい。それはさながら太陽のように。だから私は月になりたいの。
知ってる?知ってるでしょうね。月は太陽の光を受けて輝くの。
私はずっと蓮子の傍で明るさを受けていたいんだわ」
それはささやかなプロポーズ。
それとも、彼女にはただのお友達宣言としか聞こえなかったかしら?
でも彼女には十分伝わったのだろう。
笑う彼女はやはり輝いていた。
「それなら、あなたはもう既に月よメリー。
私の苗字を忘れたかしら?お宇佐様を見ているのは私の仕事ですもの」
感動した!言葉にできないほどに感動した!
あなたの書く秘封倶楽部を是非ともまた読みたいです
それほど楽しんで頂けたのならSS書きとして本望です。
秘封は好きなので今後も書きたいと思うのですが、何分キャラを動かしにくいのであまり書けないかもしれません。
また公開の折はご一読頂けると幸いですw
>>あざみや氏
男でも秘封みたいな関係は羨ましいですね。
普通の友人は居ても、こういう気のおけない親友は生涯の宝ですよ。
いや、ウホッではなくてw
どもです。
こんな感じでやっていきたいとです。