皆さん、初めまして。紅魔館で働くしがないメイドの一人です。
今日は皆さんに、身も凍るような恐怖のお話をしたいと思います。
――恐怖のお話。それは、どこにでもあるでしょう、七不思議。名付けて、『紅魔館七不思議』の始まり始まり――。
七不思議その1:階段から響く笑い声
紅魔館の広い館の中、ある場所から、楽しそうに笑う子供の声が聞こえることがあります。どこから響いているのだろう――その声の行く先を探れば、上に延びる階段から聞こえてきます。楽しそうな声です。一体、何かあったのかな。そう思って階段を上っていったメイドは――その日を境に、姿を見せなくなりました。
今も彼女がどこに行ったのか、それはわかりません。これは、知ってはいけないことを知ってしまったメイドの、お・は・な・し。
――まぁ、真実は、その階段を上った先はレミリア様のお部屋で、そこによく遊びに来るフランドール様が楽しそうに遊んでるからなんですけどね。え? 消えたメイド? そこに顔を出して、フランドール様に「だんまくごっこしよー」ってものすげぇ笑顔で誘われて被弾してその日のうちに辞表書いて逃げ出したんですよ?
七不思議その2:厨房から聞こえる謎の物音
深夜、見回りのメイドが体験したお話です。
その子は、紅魔館勤続百年を数えたベテランメイド。いつものように、深夜の見回りを行っていた最中のこと。厨房から、何やら物音が聞こえるのです。ざー、という水音、何やら甲高い金属の音、そして火の入る小さな音。
何でしょう。
そう思って、彼女は厨房を見に行きました。誰かいるの? そう言って、彼女は手にしたランプで辺りを照らします。
……もちろん、そこに人は愚かねずみの姿すらありませんでした。物音の元を探って、厨房を歩いていたメイドが見つけたのは、食い散らかされた食料。しかし、そこに何もなかった以上、誰が食べ物を口にしたと言うのでしょう。
……ここ、紅魔館では、かつては苛烈な拷問で命を絶たれたものが大勢いたと言われています。その中には食事を絶たれ、死の直前まで、「何か食べ物を……」と哀願しながら、やせ細り、死んでいった――もしかしたら、そんなものの怨念だったのでしょうか。
――って、んなわけないんですけどね。
紅魔館は規律に厳しいから、へまをしたメイドには何らかの制裁が下ります。その中の一つが、「ご飯一食抜き」。だけど、みんな育ち盛りですから、お腹が空いてたまらなくなって厨房に忍び込んでご飯食べてたってところです。
え? 誰もいなかったんじゃなかったのか、って? もちろん、そんなことをバカ正直に報告したら、その子がメイド長にぼこぼこにされちゃいますから。メイド達の団結は固いんですよ、まる。
七不思議その3:謎の物売り
紅魔館には、時たま、来客が訪れます。その中に一人、不思議な男性の物売りがいます。彼はいつも、ここにやってきて「代金を受け取りに来た」とだけ伝え、屋敷の中に通り――そして、そのまま去っていきます。
一体、彼は何者なのか。それは大層、メイド達の間で話題にされたことでした。
しかし、ここで不思議なことがあります。
それは、誰も彼の正体を知らないと言うこと。そして、彼からものを買ったというメイドが一人もいないことです。
……さて、彼は一体、何の代金を受け取りに来たのでしょうか。
これはあくまで噂ですが、彼は死神の使いだと言われています。彼が受け取る代金――それは、命。現に、時たまに、メイドが姿を消すことがあります。彼の来訪にあわせるかのように。
果たして、それは偶然なのでしょうか。それとも……。
――まぁ、もちろん偶然ですけどね。
彼の正体は、まぁ、私もよく知らないんですけど、何でも『香霖堂』とかいう変なお店のご主人だそうです。彼のお店には変なものが色々あって、その中には見たこともない珍品もあったりとか。だけど普通の品物も取り扱っていて、メイド長が、実はこっそりと下着を購入しているんですよ。
でも、メイド長も意地っ張りですからねー。素敵なスタイルしてるのに上げ底ブラなんて買うものだから誰にも言えなくて、結局、彼が何の代金を受け取りに来たのか、聞いたものはすべからく(さくっ)
七不思議その4:図書館の怪
ここ、紅魔館には、広大な図書館が付随しています。偉大なる知識の魔女が統べるそこは、まさに知識と歴史の集積所。智恵を好む人たちは、日々、暇を見つけて足を運びます。
ですが、そこでは、時たまに不思議なことが起こるのです。
静かな図書館。静謐の空気が満ちたそこに、突如として鳴り響く騒音。続けてきらびやかな光が舞い、まるで幻想のような美しさを描き出し――それは唐突に消えるのです。
それは何だったのでしょうか。
正体を探して図書館の中を巡っても、とても広い図書館ですから。それを探ることは不可能でした。しかも、それは、その日一日だけのことではなく、ほぼ連日のことなのです。このことから、図書館にはたくさんの魔法書が置かれており、それが暴発しているのではないかという仮説が立ちました。運悪く、それに巻き込まれでもしたら――。
恐怖を感じたメイド達は、以後、図書館に近づかなくなったと言います。さて、真相はどこにあるのでしょうね……うふふ……。
――というわけで真相です。何のことはない、レミリア様とパチュリー様の魔法少女ステージの練習です。はい。え? 毎日のようにやってるのか、って? やってますよ、そりゃもちろん。セリフの一つから振り付けの一つにまで徹底しての練習ぶりです。
でも、レミリア様は強がりですからねー。完璧になるまで、絶対に私たちに見せようとしないんですよ。どれだけ探しても、その現場を見つけられないのは、単にレミリア様の運命操作です。はい次。
七不思議その5:中庭の恐怖
紅魔館の中庭は、とても美しいことで、メイド達や来訪者に人気です。それはそうですね、メイド達が一生懸命、日々、お手入れしているのですから。
……ですが、彼らは気づいているでしょうか。実は、その陰には、メイド達の犠牲もあるということを。
これは、あるメイドのお話です。
彼女はいつも通り、中庭の草木の手入れをしようと、庭に向かいました。広いお庭の整理には、多くの時間がかかります。しかし、一人が担当する区域は決まっていて、それぞれの仕事の持ち時間は三時間ほど。
ですが、その三時間が過ぎても彼女は帰ってきません。何かあったのかな。そう思って、先輩のメイドが彼女の様子を確認しにいって――そうして、見たのです。真っ赤な染料が地面の上にぶちまけられ、メイドが手にしていた手入れ用具一式がそこに散らばっているところを。
……あとはもう、彼女は何もすることが出来ませんでした。ただ、悲鳴を上げて、その場を逃げ出すことだけで。
中庭には、怪異が潜んでいるのです。今日も、何も知らない純真無垢なメイド達が犠牲になるかもしれない――そうわかっていても、お手入れを滞らせることは出来ない。うふふ……怖いですね……。
――って、ほんとに怖いんですよ、あれ。パチュリー様が呼び出した魔法植物が、何か知らないけど普通に植わってるんですから。パッ○ンフ○ワーでしたっけ? あれにかじられて……見てくださいよ、これ。まだ歯形が消えてないんですよ?
え? 今の話は何なのか、って? そりゃ実体験ですよ。
いやね、ほんと、死ぬかと思いましたよ。あっちからがじがじこっちからがじがじ。ああ、もう私はダメなのかなって思った時、目のある光る星が落ちてきて、それのおかげで助かったようなもんです。はい。
七不思議その6:真夏の冬
それは、紅魔館を包み込む………………って、何ですかその目。オチ読めた? あーあー、そうですよ! あの氷精がフランドール様の所に遊びに来た話ですよ! 何ですか、もう! せっかく語ってるんですから黙って聞きなさい! 全くもう!
はい、次!
七不思議その7:内緒
何だよ、それ、って顔してますね。
でもですね? 七不思議は七つ全部知ってしまうと不思議が訪れるんですよ? そう……だから、秘密は知らない方がいいんです。残り一つはあなたの手で探してくださいね。
それでは、私の講釈はこれで。皆さん、ご静聴、ありがとうございました。
「あの子、語り口うまいわよねー」
「ほんとほんと。オチなんて大体わかってたけど、それでも最初は怖かったもの」
「あの子、噺家の才能、あるわよね」
「……あのー、先輩」
「あら、何?」
「その……彼女、誰ですか? 私たちの同期の子じゃなかったと思うんですけど」
『……………………………え?』
「……え、って……」
「あ、あれ? あなた達の同期……じゃなかったの?」
「わ、私たちの……でも……ないわよね?」
「いやちょっと待って。そもそも、この紅魔館のメガネっ娘って……一人しか……いなかったわよね……?」
「それ以前に……あの子の顔……確かに、紅魔館は広いとはいえ……」
「……一度も見たことがない、ってのは……」
………………………………………………………………………………。
「じゃあ……」
「まさか……?」
『本物……………………』
七不思議の最後のオチは、大抵、そんなもの。
これを聞いているあなたも、もう一度、自分の周りを見てみた方がいいですよ。もしかしたら、あなたが本来いるべき場所じゃなくて、別の場所に足を踏み入れてしまっているかもしれませんから。
だから、七不思議。
七つの不思議が渦巻く場所。
最後の一つの不思議。それは、『現実』と『嘘』の境目が曖昧になってしまうこと。
うふふふふふふふふふふふふふ。
『で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
今日は皆さんに、身も凍るような恐怖のお話をしたいと思います。
――恐怖のお話。それは、どこにでもあるでしょう、七不思議。名付けて、『紅魔館七不思議』の始まり始まり――。
七不思議その1:階段から響く笑い声
紅魔館の広い館の中、ある場所から、楽しそうに笑う子供の声が聞こえることがあります。どこから響いているのだろう――その声の行く先を探れば、上に延びる階段から聞こえてきます。楽しそうな声です。一体、何かあったのかな。そう思って階段を上っていったメイドは――その日を境に、姿を見せなくなりました。
今も彼女がどこに行ったのか、それはわかりません。これは、知ってはいけないことを知ってしまったメイドの、お・は・な・し。
――まぁ、真実は、その階段を上った先はレミリア様のお部屋で、そこによく遊びに来るフランドール様が楽しそうに遊んでるからなんですけどね。え? 消えたメイド? そこに顔を出して、フランドール様に「だんまくごっこしよー」ってものすげぇ笑顔で誘われて被弾してその日のうちに辞表書いて逃げ出したんですよ?
七不思議その2:厨房から聞こえる謎の物音
深夜、見回りのメイドが体験したお話です。
その子は、紅魔館勤続百年を数えたベテランメイド。いつものように、深夜の見回りを行っていた最中のこと。厨房から、何やら物音が聞こえるのです。ざー、という水音、何やら甲高い金属の音、そして火の入る小さな音。
何でしょう。
そう思って、彼女は厨房を見に行きました。誰かいるの? そう言って、彼女は手にしたランプで辺りを照らします。
……もちろん、そこに人は愚かねずみの姿すらありませんでした。物音の元を探って、厨房を歩いていたメイドが見つけたのは、食い散らかされた食料。しかし、そこに何もなかった以上、誰が食べ物を口にしたと言うのでしょう。
……ここ、紅魔館では、かつては苛烈な拷問で命を絶たれたものが大勢いたと言われています。その中には食事を絶たれ、死の直前まで、「何か食べ物を……」と哀願しながら、やせ細り、死んでいった――もしかしたら、そんなものの怨念だったのでしょうか。
――って、んなわけないんですけどね。
紅魔館は規律に厳しいから、へまをしたメイドには何らかの制裁が下ります。その中の一つが、「ご飯一食抜き」。だけど、みんな育ち盛りですから、お腹が空いてたまらなくなって厨房に忍び込んでご飯食べてたってところです。
え? 誰もいなかったんじゃなかったのか、って? もちろん、そんなことをバカ正直に報告したら、その子がメイド長にぼこぼこにされちゃいますから。メイド達の団結は固いんですよ、まる。
七不思議その3:謎の物売り
紅魔館には、時たま、来客が訪れます。その中に一人、不思議な男性の物売りがいます。彼はいつも、ここにやってきて「代金を受け取りに来た」とだけ伝え、屋敷の中に通り――そして、そのまま去っていきます。
一体、彼は何者なのか。それは大層、メイド達の間で話題にされたことでした。
しかし、ここで不思議なことがあります。
それは、誰も彼の正体を知らないと言うこと。そして、彼からものを買ったというメイドが一人もいないことです。
……さて、彼は一体、何の代金を受け取りに来たのでしょうか。
これはあくまで噂ですが、彼は死神の使いだと言われています。彼が受け取る代金――それは、命。現に、時たまに、メイドが姿を消すことがあります。彼の来訪にあわせるかのように。
果たして、それは偶然なのでしょうか。それとも……。
――まぁ、もちろん偶然ですけどね。
彼の正体は、まぁ、私もよく知らないんですけど、何でも『香霖堂』とかいう変なお店のご主人だそうです。彼のお店には変なものが色々あって、その中には見たこともない珍品もあったりとか。だけど普通の品物も取り扱っていて、メイド長が、実はこっそりと下着を購入しているんですよ。
でも、メイド長も意地っ張りですからねー。素敵なスタイルしてるのに上げ底ブラなんて買うものだから誰にも言えなくて、結局、彼が何の代金を受け取りに来たのか、聞いたものはすべからく(さくっ)
七不思議その4:図書館の怪
ここ、紅魔館には、広大な図書館が付随しています。偉大なる知識の魔女が統べるそこは、まさに知識と歴史の集積所。智恵を好む人たちは、日々、暇を見つけて足を運びます。
ですが、そこでは、時たまに不思議なことが起こるのです。
静かな図書館。静謐の空気が満ちたそこに、突如として鳴り響く騒音。続けてきらびやかな光が舞い、まるで幻想のような美しさを描き出し――それは唐突に消えるのです。
それは何だったのでしょうか。
正体を探して図書館の中を巡っても、とても広い図書館ですから。それを探ることは不可能でした。しかも、それは、その日一日だけのことではなく、ほぼ連日のことなのです。このことから、図書館にはたくさんの魔法書が置かれており、それが暴発しているのではないかという仮説が立ちました。運悪く、それに巻き込まれでもしたら――。
恐怖を感じたメイド達は、以後、図書館に近づかなくなったと言います。さて、真相はどこにあるのでしょうね……うふふ……。
――というわけで真相です。何のことはない、レミリア様とパチュリー様の魔法少女ステージの練習です。はい。え? 毎日のようにやってるのか、って? やってますよ、そりゃもちろん。セリフの一つから振り付けの一つにまで徹底しての練習ぶりです。
でも、レミリア様は強がりですからねー。完璧になるまで、絶対に私たちに見せようとしないんですよ。どれだけ探しても、その現場を見つけられないのは、単にレミリア様の運命操作です。はい次。
七不思議その5:中庭の恐怖
紅魔館の中庭は、とても美しいことで、メイド達や来訪者に人気です。それはそうですね、メイド達が一生懸命、日々、お手入れしているのですから。
……ですが、彼らは気づいているでしょうか。実は、その陰には、メイド達の犠牲もあるということを。
これは、あるメイドのお話です。
彼女はいつも通り、中庭の草木の手入れをしようと、庭に向かいました。広いお庭の整理には、多くの時間がかかります。しかし、一人が担当する区域は決まっていて、それぞれの仕事の持ち時間は三時間ほど。
ですが、その三時間が過ぎても彼女は帰ってきません。何かあったのかな。そう思って、先輩のメイドが彼女の様子を確認しにいって――そうして、見たのです。真っ赤な染料が地面の上にぶちまけられ、メイドが手にしていた手入れ用具一式がそこに散らばっているところを。
……あとはもう、彼女は何もすることが出来ませんでした。ただ、悲鳴を上げて、その場を逃げ出すことだけで。
中庭には、怪異が潜んでいるのです。今日も、何も知らない純真無垢なメイド達が犠牲になるかもしれない――そうわかっていても、お手入れを滞らせることは出来ない。うふふ……怖いですね……。
――って、ほんとに怖いんですよ、あれ。パチュリー様が呼び出した魔法植物が、何か知らないけど普通に植わってるんですから。パッ○ンフ○ワーでしたっけ? あれにかじられて……見てくださいよ、これ。まだ歯形が消えてないんですよ?
え? 今の話は何なのか、って? そりゃ実体験ですよ。
いやね、ほんと、死ぬかと思いましたよ。あっちからがじがじこっちからがじがじ。ああ、もう私はダメなのかなって思った時、目のある光る星が落ちてきて、それのおかげで助かったようなもんです。はい。
七不思議その6:真夏の冬
それは、紅魔館を包み込む………………って、何ですかその目。オチ読めた? あーあー、そうですよ! あの氷精がフランドール様の所に遊びに来た話ですよ! 何ですか、もう! せっかく語ってるんですから黙って聞きなさい! 全くもう!
はい、次!
七不思議その7:内緒
何だよ、それ、って顔してますね。
でもですね? 七不思議は七つ全部知ってしまうと不思議が訪れるんですよ? そう……だから、秘密は知らない方がいいんです。残り一つはあなたの手で探してくださいね。
それでは、私の講釈はこれで。皆さん、ご静聴、ありがとうございました。
「あの子、語り口うまいわよねー」
「ほんとほんと。オチなんて大体わかってたけど、それでも最初は怖かったもの」
「あの子、噺家の才能、あるわよね」
「……あのー、先輩」
「あら、何?」
「その……彼女、誰ですか? 私たちの同期の子じゃなかったと思うんですけど」
『……………………………え?』
「……え、って……」
「あ、あれ? あなた達の同期……じゃなかったの?」
「わ、私たちの……でも……ないわよね?」
「いやちょっと待って。そもそも、この紅魔館のメガネっ娘って……一人しか……いなかったわよね……?」
「それ以前に……あの子の顔……確かに、紅魔館は広いとはいえ……」
「……一度も見たことがない、ってのは……」
………………………………………………………………………………。
「じゃあ……」
「まさか……?」
『本物……………………』
七不思議の最後のオチは、大抵、そんなもの。
これを聞いているあなたも、もう一度、自分の周りを見てみた方がいいですよ。もしかしたら、あなたが本来いるべき場所じゃなくて、別の場所に足を踏み入れてしまっているかもしれませんから。
だから、七不思議。
七つの不思議が渦巻く場所。
最後の一つの不思議。それは、『現実』と『嘘』の境目が曖昧になってしまうこと。
うふふふふふふふふふふふふふ。
『で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
これからもどんどん頑張って欲しいですね
そしてあとがきでの2人の甘さが相変わらずで素晴らしいです