「あ……」
幽々子について博麗神社を訪ねた妖夢は想い人を見つけて思わず声を漏らした。
その声に気がついたのか、相手が髪を踊らせて振り返る。
「あ、久しぶり」
「お久しぶりです。
先日はありがとうございました」
妖夢は焦がれた相手に会うことができたというのに、そんな当たり前の挨拶を続けてしまう自分をじれったく思う。
「ううん、私もあんなの初めてだったから。
嬉しかった」
けれど返された言葉は妖夢の胸をさらに弾ませた。
そしてそこがさらに熱い想いに焦がされる。
もう一度。あの熱い一時を。
「……あの、えと……その」
だが、口下手で想いだけが先走って言葉にならない。
そんな妖夢の縋るような視線の意味に気がついたのか、きょとんとしていた相手の顔に薄い笑みが広がった。
「したいの?」
くすぐるような声に頷いてしまってから、妖夢ははっとなった。
そんなに物欲しそうな顔をしていただろうか。
慌てて首を横に振る妖夢に、その笑みが深くなる。
「そう。困ったわね。
私はしたいな」
言葉に驚いた妖夢が目を丸くすると、誘うように手招いた。
「ね、付き合ってくれない?」
さりげなく足を動かされた足が、深いスリットのスカートからのぞく。
妖夢は思わず視線を取られたそこから目を引き剥がすと微笑んだ。
「……喜んで」
もう我慢する理由は何もない。
誘いに乗った妖夢は上着を脱ぎ捨てると喜々として飛び掛った。
幽々子は扇で口元を隠してころころと笑い声を零した。
「あらあら、妖夢ったらあんなにはしゃいじゃって。
ちょっと妬けちゃうわ」
「いいじゃないの。
初めてを受け入れてくれた相手がまた求めてくれているのよ。
ここで滾らなければ嘘でしょ」
「そうかもね」
鷹揚に頷いた幽々子は紫と一緒に境内を横切って、車座になって酒を囲んでいる御座へ腰を下ろした。二人が腰を下ろせば誰がというわけでもなく茶碗に酒を注いで置いてくれる。肴は御座の真ん中に大きな鍋が置いてあった。
二人が妖夢たちの舞踏を見ながらちびちびとやりだすと、神社についた直後から姿を消していた藍が鍋から中身を取り分けたお椀を二人に差し出した。お椀を挟んで穏やかな視線を交し合う八雲の名を持つ二人を横目に幽々子が受け取ったお椀の中をのぞくと、肉とさつま芋を中心にした味噌仕立ての汁だった。
「あら、いいお出汁」
妙に人参の多いそれを啜りつつ、鍋のほうを改めて見やれば永遠亭のウサギが忙しくも楽しそうにおかわりを要求する声に応えている。その横で不満そうにぶーたれている兎詐欺は見なかったことにしておいて、幽々子は妖夢に目を戻した。
裂帛の気合いと共に走らせる剣閃が、地に落ちていた紅葉を再び宙へと舞い上げる。
妖夢は下段からの切り上げを避けられるとそのまま脇構えに移りそこで動きを止めた。対峙している相手は無手でありながら妖夢をして簡単に切り込める相手ではない。
その事実が嬉しいのか、妖夢の口元には堪えきれないといった風に笑みが浮かんでいる。
そんな妖夢を見ていた幽々子は僅かに眉を顰めてその相手に目を向けた。
開いた左手を前に、握った右手を腰の高さで軽く引いてゆったりと腰を落として構えている紅い髪の女。妖夢と同じような笑みを浮かべている紅魔館の門番。たまには一人で遊びに出るのもいいだろうと送り出してやった妖夢が帰ってきてから何度も口に上らせるその人物。不本意ながら名前もしっかり覚えてしまった。
「紅 美鈴……」
「ちょっと。そんなに睨んで呪いでもかけるつもり?」
思わずその名を呟いた幽々子に横合いから声がかけられた。
それまでの激しい刃と拳の応酬から、じりじりとしたにらみ合いに移行した妖夢と美鈴に向けていた目を友人に向ける。
「まったく、余裕を見せていたかと思えばこれなんだから。
貴女も素直じゃないわね」
睨む幽々子に白々しくため息をついて見せた紫は、傍らでいつの間にやら自分の分のお椀と酒を確保して腰を落ち着けていた藍を見やる。
「貴女は確か格闘もイケたわよね?
貴女の目から見てあの子たちはどんな感じ?」
「天才ですよ、二人とも間違いなく」
藍はにべもなくそれだけを言って、お椀の芋を口に放り込んだ。
芋を飲み込んでから珍しく丸くなった二対の目に気がついて、藍はうんざりと言葉を重ねる。
「いいじゃないですか、説明させないでくださいよ。
格闘にはそんなに時間を割いていなかったとは言え、
私は結構長い間生きてきて今の実力を身につけたんですよ?
それがあいつらと来たら、五百年も生きてないくせにあの実力なんですよ?
そりゃあ腹も立ちますよ」
そこまで一息にまくし立てて、藍はひょいと首を反対に向けると言葉を続けた。
「なぁ、そっちのあんたもそうじゃないか?」
幽々子と紫が声のほうに目を向けると、突然かけられた言葉にきょとんとしていた慧音が慌てて首を横に振った。
「いや、あんたじゃなくて、そっちの白子のほう」
藍の言葉にむっとなった慧音の肩を叩いておいて、横に座っていた妹紅は腰を上げると酒の茶碗を片手にぶらぶらと近寄ってきた。
幽々子と紫が僅かに目を細めるのを無視して、妙に砕けた態度の藍が見上げる体勢でもう一度妹紅に声をかける。
「あいつら本当に腹立つよ。
あっちの門番なんか、なんで外気取り込みなんて技があの程度の歳でできるんだ」
「まったくだね。
私だって最初は術じゃなく格闘技で輝夜と戦おうと思って
結構真面目に修行したんだけどさ。結局ロクに身に付かずだったんだよ」
言いながら妹紅はどかりと藍の横に腰を下ろした。
「あの庭師の剣だって腹が立つじゃないの。
何なのよあの太刀筋。
あの特別な刀を使わなくても十分霊を斬れるところに達してるんじゃないの?」
「まったくだ。
魂魄家の剣術が特殊だというのはあるが、あれは本人が特別だろう。
剣術が特殊でも本人がそれを体得できていなければ霊は斬れん。
あの若さでそこまでの業を体得するのは本人の努力もあるだろうが、才能も大きい」
藍と妹紅は二人してべしべしと御座を叩きながらまくし立てる。また激しく刃と拳を交わし始めた妖夢と美鈴はそんなことを言われているなど夢にも思わないだろう。
「ね、ねぇ、二人とも。
そこまで言うってことは、
もしかして近距離じゃあの子たちに勝てな「「そんなわけあるか」」……ごめんなさい」
正座してしゅんとなる紫に苦笑した妹紅がひらひらと手を振る。
「まあ、今の時点じゃ年季が違うからね。
まだ負けないよ」
「……まだ、ね」
「ああそうさ。
まだ、だ」
挟み込まれた幽々子の言葉に頷いて、藍は笑う。
「二人とももうしばらく真面目に修行を続ければ、
私くらいなら互角にやれるだろう」
「私ともね」
妹紅が藍の言葉に続けてそう言うのと、美鈴が妖夢に避けられて空振りさせた蹴りを石畳に叩きつけたのが同時だった。
重い衝撃が博麗神社のある丘全体をゆるがせる。
避けた妖夢と避けられた美鈴が視線を絡ませ、笑みを交し合う。
妖夢の反撃の一太刀を避けて間を取った美鈴が拳を引いて深く身体を沈め、溜めを作るる。
それに応じて妖夢も左手を白楼の柄にかけた。
だが次の瞬間、がん、ごん、といい音がして妖夢と美鈴が頭を抑えてうずくまった。
「あんたたち。
ウチの神社で破壊活動とはいい度胸じゃないの……?」
鬼が一匹。
二人の頭を遠慮なくぶっ叩いた陰陽玉を浮かべて笑っていた。
恥も外聞もなく必死で謝る二人を苦笑しながら見ていた幽々子はほっと息をはくと同時に思い出したお椀の芋に箸をつけた。
「天才ですよ、二人とも間違いなく」
同じように笑っていた藍はもう一度そう繰り返す。
妹紅は「少し気になったことがある」と言い残して説教中の妖夢と美鈴に声をかけに行ってしまった。何故か鍋の中身を配っていたウサギもそちらに向かおうとしている。
「しかも、競い合える相手がいる。
きっと二人して何処までも伸びていくでしょう。
これは幸せなことだと思いますよ」
そう言って藍が横目で幽々子を見る。
幽々子はにやにやしながら視線を向けてくる紫を無視して、
「わかっているわよ。
別に私は妖夢を伸び悩ませたいわけではないのだから」
そう言って芋を口に放り込んだ。
藍は紫と目を交し合って微笑む。
幽々子は妹紅が身振り手振りを交えて妖夢と美鈴に技の指導をしているのを眺めていた。鍋を配っていたウサギが緊張しているのか、耳をぴんと立てて横でそれを聞いているのを訝しく思っていると、視線を感じたのかふと振り返った妖夢と視線が合う。
幽々子は不思議そうに小首をかしげて駆け寄ってこようとする妖夢を扇で押しとどめ、彼女の話を話を聞いていなさいと妹紅を指した。妖夢はそれを見て嬉しげに笑うと、軽く頭を下げた。
そんな妖夢に笑顔で手を振って、幽々子は顔に感じていた視線に不機嫌そうな顔を作って振り返る。
「なによ」
「なーんでもないわよー」
遠慮なく転げまわって喜ぶデバガメ妖怪を睨んでいた幽々子も仕方なしに笑い顔になった。妹紅に手招きされた藍が立ち上がるのを見送りつつ、幽々子はまた一つ芋を口に運ぶ。
「いつかはあの二人も私たちとも戦えるようになるかなぁ?」
「まあ、随分と先の話になりそうだけどねぇ」
藍と入れ替わりに東西の鬼たちがぶらりぶらりとやってきた。
技を覚えない腕力任せの種族が二匹、喧嘩の臭いを嗅ぎつけたのだろう。
「ちょっと、妹紅とどんな話をしていたのよ」
微妙に嫉妬しているらしい月の姫もやってくる。
「白玉楼に連れて逝ってあげるとかって口説いたんじゃないでしょうね!?
あの子を殺していいのは私だけなんだから!」
さっそく絡んでくる輝夜を曖昧にはぐらかしておいて、幽々子はおかわりの声を上げた。
近くに来たレミリアは味噌仕立ての汁が珍しいのか、まだ具が残っていた紫のお椀を覗き込む。紫は物珍しそうに覗き込んでいたレミリアが邪魔だったのか、中途半端に開いていたレミリアの口に芋を放り込んだ。大きな芋を口に放り込まれてしばらく目を白黒させていたレミリアだったが、意外と口にあったのか、不機嫌そうではなさそうだ。
ごろりと御座に寝転んだ萃香はどこから調達してきたのか芋焼酎を茶碗にどばどばと注ぎながら、紫に向かってあーん、とかやっているレミリアを見て笑っていた。本人は紫から搾取しているつもりなのだろうが、周りからすれば実に微笑ましい。
「ちょっと幽々子、聞いているの!?」
いつもと回りにいる面子が随分と違うが、たまにはいいだろう。
幽々子はお椀を受け取りながら、そんなことを考えていた。
まあそれも、
ぷぅ。
という音を聞くまでのことだったのだが。
幽々子について博麗神社を訪ねた妖夢は想い人を見つけて思わず声を漏らした。
その声に気がついたのか、相手が髪を踊らせて振り返る。
「あ、久しぶり」
「お久しぶりです。
先日はありがとうございました」
妖夢は焦がれた相手に会うことができたというのに、そんな当たり前の挨拶を続けてしまう自分をじれったく思う。
「ううん、私もあんなの初めてだったから。
嬉しかった」
けれど返された言葉は妖夢の胸をさらに弾ませた。
そしてそこがさらに熱い想いに焦がされる。
もう一度。あの熱い一時を。
「……あの、えと……その」
だが、口下手で想いだけが先走って言葉にならない。
そんな妖夢の縋るような視線の意味に気がついたのか、きょとんとしていた相手の顔に薄い笑みが広がった。
「したいの?」
くすぐるような声に頷いてしまってから、妖夢ははっとなった。
そんなに物欲しそうな顔をしていただろうか。
慌てて首を横に振る妖夢に、その笑みが深くなる。
「そう。困ったわね。
私はしたいな」
言葉に驚いた妖夢が目を丸くすると、誘うように手招いた。
「ね、付き合ってくれない?」
さりげなく足を動かされた足が、深いスリットのスカートからのぞく。
妖夢は思わず視線を取られたそこから目を引き剥がすと微笑んだ。
「……喜んで」
もう我慢する理由は何もない。
誘いに乗った妖夢は上着を脱ぎ捨てると喜々として飛び掛った。
幽々子は扇で口元を隠してころころと笑い声を零した。
「あらあら、妖夢ったらあんなにはしゃいじゃって。
ちょっと妬けちゃうわ」
「いいじゃないの。
初めてを受け入れてくれた相手がまた求めてくれているのよ。
ここで滾らなければ嘘でしょ」
「そうかもね」
鷹揚に頷いた幽々子は紫と一緒に境内を横切って、車座になって酒を囲んでいる御座へ腰を下ろした。二人が腰を下ろせば誰がというわけでもなく茶碗に酒を注いで置いてくれる。肴は御座の真ん中に大きな鍋が置いてあった。
二人が妖夢たちの舞踏を見ながらちびちびとやりだすと、神社についた直後から姿を消していた藍が鍋から中身を取り分けたお椀を二人に差し出した。お椀を挟んで穏やかな視線を交し合う八雲の名を持つ二人を横目に幽々子が受け取ったお椀の中をのぞくと、肉とさつま芋を中心にした味噌仕立ての汁だった。
「あら、いいお出汁」
妙に人参の多いそれを啜りつつ、鍋のほうを改めて見やれば永遠亭のウサギが忙しくも楽しそうにおかわりを要求する声に応えている。その横で不満そうにぶーたれている兎詐欺は見なかったことにしておいて、幽々子は妖夢に目を戻した。
裂帛の気合いと共に走らせる剣閃が、地に落ちていた紅葉を再び宙へと舞い上げる。
妖夢は下段からの切り上げを避けられるとそのまま脇構えに移りそこで動きを止めた。対峙している相手は無手でありながら妖夢をして簡単に切り込める相手ではない。
その事実が嬉しいのか、妖夢の口元には堪えきれないといった風に笑みが浮かんでいる。
そんな妖夢を見ていた幽々子は僅かに眉を顰めてその相手に目を向けた。
開いた左手を前に、握った右手を腰の高さで軽く引いてゆったりと腰を落として構えている紅い髪の女。妖夢と同じような笑みを浮かべている紅魔館の門番。たまには一人で遊びに出るのもいいだろうと送り出してやった妖夢が帰ってきてから何度も口に上らせるその人物。不本意ながら名前もしっかり覚えてしまった。
「紅 美鈴……」
「ちょっと。そんなに睨んで呪いでもかけるつもり?」
思わずその名を呟いた幽々子に横合いから声がかけられた。
それまでの激しい刃と拳の応酬から、じりじりとしたにらみ合いに移行した妖夢と美鈴に向けていた目を友人に向ける。
「まったく、余裕を見せていたかと思えばこれなんだから。
貴女も素直じゃないわね」
睨む幽々子に白々しくため息をついて見せた紫は、傍らでいつの間にやら自分の分のお椀と酒を確保して腰を落ち着けていた藍を見やる。
「貴女は確か格闘もイケたわよね?
貴女の目から見てあの子たちはどんな感じ?」
「天才ですよ、二人とも間違いなく」
藍はにべもなくそれだけを言って、お椀の芋を口に放り込んだ。
芋を飲み込んでから珍しく丸くなった二対の目に気がついて、藍はうんざりと言葉を重ねる。
「いいじゃないですか、説明させないでくださいよ。
格闘にはそんなに時間を割いていなかったとは言え、
私は結構長い間生きてきて今の実力を身につけたんですよ?
それがあいつらと来たら、五百年も生きてないくせにあの実力なんですよ?
そりゃあ腹も立ちますよ」
そこまで一息にまくし立てて、藍はひょいと首を反対に向けると言葉を続けた。
「なぁ、そっちのあんたもそうじゃないか?」
幽々子と紫が声のほうに目を向けると、突然かけられた言葉にきょとんとしていた慧音が慌てて首を横に振った。
「いや、あんたじゃなくて、そっちの白子のほう」
藍の言葉にむっとなった慧音の肩を叩いておいて、横に座っていた妹紅は腰を上げると酒の茶碗を片手にぶらぶらと近寄ってきた。
幽々子と紫が僅かに目を細めるのを無視して、妙に砕けた態度の藍が見上げる体勢でもう一度妹紅に声をかける。
「あいつら本当に腹立つよ。
あっちの門番なんか、なんで外気取り込みなんて技があの程度の歳でできるんだ」
「まったくだね。
私だって最初は術じゃなく格闘技で輝夜と戦おうと思って
結構真面目に修行したんだけどさ。結局ロクに身に付かずだったんだよ」
言いながら妹紅はどかりと藍の横に腰を下ろした。
「あの庭師の剣だって腹が立つじゃないの。
何なのよあの太刀筋。
あの特別な刀を使わなくても十分霊を斬れるところに達してるんじゃないの?」
「まったくだ。
魂魄家の剣術が特殊だというのはあるが、あれは本人が特別だろう。
剣術が特殊でも本人がそれを体得できていなければ霊は斬れん。
あの若さでそこまでの業を体得するのは本人の努力もあるだろうが、才能も大きい」
藍と妹紅は二人してべしべしと御座を叩きながらまくし立てる。また激しく刃と拳を交わし始めた妖夢と美鈴はそんなことを言われているなど夢にも思わないだろう。
「ね、ねぇ、二人とも。
そこまで言うってことは、
もしかして近距離じゃあの子たちに勝てな「「そんなわけあるか」」……ごめんなさい」
正座してしゅんとなる紫に苦笑した妹紅がひらひらと手を振る。
「まあ、今の時点じゃ年季が違うからね。
まだ負けないよ」
「……まだ、ね」
「ああそうさ。
まだ、だ」
挟み込まれた幽々子の言葉に頷いて、藍は笑う。
「二人とももうしばらく真面目に修行を続ければ、
私くらいなら互角にやれるだろう」
「私ともね」
妹紅が藍の言葉に続けてそう言うのと、美鈴が妖夢に避けられて空振りさせた蹴りを石畳に叩きつけたのが同時だった。
重い衝撃が博麗神社のある丘全体をゆるがせる。
避けた妖夢と避けられた美鈴が視線を絡ませ、笑みを交し合う。
妖夢の反撃の一太刀を避けて間を取った美鈴が拳を引いて深く身体を沈め、溜めを作るる。
それに応じて妖夢も左手を白楼の柄にかけた。
だが次の瞬間、がん、ごん、といい音がして妖夢と美鈴が頭を抑えてうずくまった。
「あんたたち。
ウチの神社で破壊活動とはいい度胸じゃないの……?」
鬼が一匹。
二人の頭を遠慮なくぶっ叩いた陰陽玉を浮かべて笑っていた。
恥も外聞もなく必死で謝る二人を苦笑しながら見ていた幽々子はほっと息をはくと同時に思い出したお椀の芋に箸をつけた。
「天才ですよ、二人とも間違いなく」
同じように笑っていた藍はもう一度そう繰り返す。
妹紅は「少し気になったことがある」と言い残して説教中の妖夢と美鈴に声をかけに行ってしまった。何故か鍋の中身を配っていたウサギもそちらに向かおうとしている。
「しかも、競い合える相手がいる。
きっと二人して何処までも伸びていくでしょう。
これは幸せなことだと思いますよ」
そう言って藍が横目で幽々子を見る。
幽々子はにやにやしながら視線を向けてくる紫を無視して、
「わかっているわよ。
別に私は妖夢を伸び悩ませたいわけではないのだから」
そう言って芋を口に放り込んだ。
藍は紫と目を交し合って微笑む。
幽々子は妹紅が身振り手振りを交えて妖夢と美鈴に技の指導をしているのを眺めていた。鍋を配っていたウサギが緊張しているのか、耳をぴんと立てて横でそれを聞いているのを訝しく思っていると、視線を感じたのかふと振り返った妖夢と視線が合う。
幽々子は不思議そうに小首をかしげて駆け寄ってこようとする妖夢を扇で押しとどめ、彼女の話を話を聞いていなさいと妹紅を指した。妖夢はそれを見て嬉しげに笑うと、軽く頭を下げた。
そんな妖夢に笑顔で手を振って、幽々子は顔に感じていた視線に不機嫌そうな顔を作って振り返る。
「なによ」
「なーんでもないわよー」
遠慮なく転げまわって喜ぶデバガメ妖怪を睨んでいた幽々子も仕方なしに笑い顔になった。妹紅に手招きされた藍が立ち上がるのを見送りつつ、幽々子はまた一つ芋を口に運ぶ。
「いつかはあの二人も私たちとも戦えるようになるかなぁ?」
「まあ、随分と先の話になりそうだけどねぇ」
藍と入れ替わりに東西の鬼たちがぶらりぶらりとやってきた。
技を覚えない腕力任せの種族が二匹、喧嘩の臭いを嗅ぎつけたのだろう。
「ちょっと、妹紅とどんな話をしていたのよ」
微妙に嫉妬しているらしい月の姫もやってくる。
「白玉楼に連れて逝ってあげるとかって口説いたんじゃないでしょうね!?
あの子を殺していいのは私だけなんだから!」
さっそく絡んでくる輝夜を曖昧にはぐらかしておいて、幽々子はおかわりの声を上げた。
近くに来たレミリアは味噌仕立ての汁が珍しいのか、まだ具が残っていた紫のお椀を覗き込む。紫は物珍しそうに覗き込んでいたレミリアが邪魔だったのか、中途半端に開いていたレミリアの口に芋を放り込んだ。大きな芋を口に放り込まれてしばらく目を白黒させていたレミリアだったが、意外と口にあったのか、不機嫌そうではなさそうだ。
ごろりと御座に寝転んだ萃香はどこから調達してきたのか芋焼酎を茶碗にどばどばと注ぎながら、紫に向かってあーん、とかやっているレミリアを見て笑っていた。本人は紫から搾取しているつもりなのだろうが、周りからすれば実に微笑ましい。
「ちょっと幽々子、聞いているの!?」
いつもと回りにいる面子が随分と違うが、たまにはいいだろう。
幽々子はお椀を受け取りながら、そんなことを考えていた。
まあそれも、
ぷぅ。
という音を聞くまでのことだったのだが。
そして嫉妬輝夜が可愛過ぎる。
やばい。やばいこれ。やばい。咲夜さんじゃないがはなぢ出るかと思った…
「おならぷぅ」
あと、美鈴がまだ若い妖怪と言う設定が新鮮で良かったっス。