パチュリーさまがプリンとして新しい人生を歩み始めてからというもの、私は彼女に会うたびに噴き出してしまって仕事になりませんでした。
美味しそ~なプリンから、パチュリーさまの可憐なお顔がぴょこんと飛び出す、あの強烈なヴィジュアルにもうメロメロです。仕事させてください。
彼女がこんな姿になった事件から一週間が経ちましたが、依然、パチュリーさまの身体は元に戻りません。
パチュリーさまがあの姿じゃあ、ろくに元に戻すための魔法薬も作れず……。
私はそっちのほうの魔法には疎いですし……。
レミリアさまはなぜか嘆き悲しみ……部屋には明かりも灯らない。
咲夜さまはそれに対してなぜか鼻血を噴出し寝込み……。
フランドールさまは嬉々として食べにかかり……。
咲夜さまはそれに対してもなぜか鼻血を噴き……。
中国四千年は家出したっきり……。
咲夜さまはそれに対してなぜか鼻血……。
ナジェナンディス!!
紅魔館外部の方に助けを求めたいところなのですが、パチュリーさまが「プライド的に嫌だわ。ぷんぷんっ」と申されまして。
ぷんぷんって何ですか、ぷんぷんって。
そんな格好で「ぷんぷんっ」なんて言いながら頬を膨らませられたら、私は笑いすぎて死んでしまいます。
ぷんぷんまるとかいう名前の新聞があったような気がします。気がするだけですかね?
まあ何行か上からかなりどうでもいいんですが。
「もう面倒だから地球破壊爆弾でいいわ」
何がいいのか何が面倒なのか言ってもらわないと困りますよパチュリーさま。
言ってもらっても地球破壊されたらたまったもんじゃないので困ります。
「諦めたわ。この身体に正当性を求めるのが無理よ」
意味がよくわかりませんが求めてたんですか?
たぶん意味なんてないです。
「ああ、本当にどうしようかしら」
言って、パチュリーさまは不快そうに長い溜息をつきました。
愉快な格好とのギャップに私はまた噴き出しそうになります。頑張ってこらえます。こぁちゃん頑張ってます。
パチュリーさまはぐいっと大きく私を見上げます。
彼女はプリンになってからずいぶんと背が低くなってしまわれたので、こうしないと目が合わせられないのです。
「手がないからろくに本も読めないわ。本が読めないと手足が震えてくるのあわわわ」
手足ないじゃないですか。
「こぁちゃん、今『お前手足ないだろ』とか思ったわね」
思いました。
とりあえず、パチュリーさまが私を「こぁちゃん」と呼ぶときとぱんつの話をするときは機嫌がいいときなので、かんかんに怒っているわけではなさそうです。
「見え見えよ、あなたは顔に出やすいの。顔を見れば今日と昨日のぱんつの色だってわかるわ」
………。
好きですねぇ。
明日からドロワーズに替えたらいきなり怒り出しそうです。やってみようかな。
先日ずばり言い当てられたのが怖いです。こうやって詐欺師は信者を増やすのですね。違うか。
「顔色一号」
発ガン成分でも含まれてますか?
「発顔」
そうですか。
「こぁちゃん今日も無口なのね。寂しいわあ」
べらべら喋りだしたらあなた却って怒るじゃないですか。うるさいわよ貴方地獄に落とすわよって。
「それでね、こぁちゃん」
はい。
「この身体、ちょっと気に入ってるけどさすがに不便なわけね」
気に入ってるんですか。
それはすごいと思います。是非大事にしてください。
「お腹がすいたらおやつにもなるけど」
喰うんですか、それを。
はい、僕の身体だよ、とか言ってお腹がすいて困ってる人々に分け与えたりするんですか。
痛くないのかな。
全部食べたら生首だけになったりするのかな。
怖いなあ。
「食べても、いいのよ」
遠慮します。ガクブル。
「頭からがぶりと」
想像しちゃったじゃないですか。
「オレサマ オマエ マルカジリ」
私が喰われるんですか。勘弁してー。
「よせよこぁちゃん、メイドが見ている」
今その瞬間に顔を赤くしながら何を妄想したかはわかりませんが、いや大体予想できますが、メイドが見ているのはあなたの格好が面白いからです。
十中八九。
実際、メイドたちの間でパチュリーさまはもう「ぱっちゅんプリン」だとか「突然変異体」だとか「時空融合」だとか「もっと愛して」とかいう名前で呼ばれてます。
最後の意味はわかりません。心の叫びとかそういうのじゃないですかね?
むしろレミリアさまが言ってました。
メイド服を着て。
理由?
着せたかったからじゃないですか?
ぶかぶかでしたよ。
「だからそろそろ身体を元に戻す方法を探してきてほしいのよ。私の代わりに」
ものすごい会話の軌道修正。見習わなくちゃ。
そういうことでしたら、私も何かしなくちゃと思ってましたのでお任せください。
と顔で表現して私はその場を去りました。
図書館の「プリンの調理法」とか「プリンの破壊方法」とかいう本をざっと読み起こしてみましたが、まあわかるはずありませんでした。
隣にあった「食べ物を粗末に扱ってはいけません」は変な教訓が並び……、あれ、これ料理関係の本じゃない。あとで並び替えないと。
さらにその隣、「だってストレス発散になるじゃん!」という本には器物損壊の全てが……、あれ、これもだ。
並べられた本をざっと見ると、「バカ、ものを大事にしないでどうする」「ルールは破るためにあるんだぜ」「そこに直れ、説教してやる」「アッー!」……。
タイトルでレベルの低い言い争いしないでくれ。
パチュリーさまがわざわざ並べ替えたんでしょう。やりそうなことです。
あの人も暇なんだかどうなんだか、何やってるんだ。
説教っちゅうか調教してません?
いや、そんなことはどうでもいいんです。いいんですよ。
それよりプリンです。
「プリンプリン物語」が並んでてちょっとだけ笑ってしまった。
いやそれもどうでもいいんです。あとで元の場所に戻しておけばいいんです。
それよりプリンですってば。
「世界は核の炎に包まれた」
自前のツッコミ癖を発動しつつ半日ほど探しましたが、結局、何一つ手がかりがないのでアニメ見てサボり始めた私です。
だいたい、「魔女がプリンになる魔法薬の効果を打ち消し、元に戻す魔法」ってそんな限定的な魔法があるのかっていう。
「幼すぎる! いかに才能があろうとも、南斗十人組手に挑むとは……」
魔法じゃだめなら……やはり毒を以って毒を、薬を以って薬を征すべきか。
「ん? ほう……でかくなったな、小僧……」
でも、私に薬学の心得はないのです。永遠亭とかに行けばいい薬師もいるだろうに、それも我侭言って聞かないなんて、パチュリーさまらしくもない。
「愛ゆえに人は苦しまねばならぬ! 愛ゆえに人は悲しまねばならぬ!! 愛ゆえに……」
いっそのことプリン全部食べてしまいますか。愛ゆえに。
「お……お師さん!! な……なぜ 身を引けたはず! そうすれば俺の拳をかわせたものを!!」
そうだなあ、生首だけ残ったら怖いけど、もし裸のパチュリーさまとか出てきちゃったら私だって鼻血噴いちゃいますよ。
「お……お師……うう…………お……お師さん……おっ……お師……お師さ~~~~ん!! な……なぜ……」
あー、いいなあ、それ。
プリンごとパチュリーさまもいただきます。ぽっ。
「こんなに苦しいのなら悲しいのなら…………愛などいらぬ!!!」
ああっ、何考えているんでしょう、私ってばはしたない。
でも、でもパチュリーさまとなら……ぽぽっ。
「行くぞケンシロウ!! 天空に極星はふたつはいらぬ!!」
それに結局、具体的な打開策もまったくないし、それならば案外いい方法なのかもしれません。
パチュリーさま自身も自分を喰ったりしてるし、しかもそれが再生してるみたいだし。
リスクは少ない、やってみる価値はあるでしょう。
「ひ……退かぬ!! 媚びぬ、省みぬ!! 帝王に逃走はないのだー!!」
問題はパチュリーさまがそれを許してくれるかどうかですが。
まあ提案だけしてみましょう。
私はテレビをつけたまま、パチュリーさまの書斎へと向かいました。
「お……お師さん……む……むかしのように…………もう一度ぬくもりを……」
というわけで、パチュリーさまにおねがいポーズで悩殺です。きゃはー。
「いいけど」
いいんだ……。
「食べても、いいのよ」
その必殺セリフを言うと、プリンが艶かしく揺れます。
無感情のような、表に出ないだけのような。不思議な無表情は相変わらず。
触れると、つるつる、っていうかぬるぬる。さすがプリン。予想通りの感触。
スプーンがないから、というよりは、せっかくだから、直接口をつけて頂きたいと思います。
自然と鼓動が高まり。
意識がパチュリーさまでいっぱいになり。
口付ける。
予想通り甘く。
「んんっ……」
パチュリーさまの声は、それ以上に甘く。
やさしく歯を立てると、パチュリーさまは再び甘い声を漏らしました。
さすがは「おいしくなる薬」、とても甘くて美味。
最初から全部食べるつもりで食べ始めたわけですけど、ここまで食欲をそそるなんて。
それは、噛むまでもなく口の中でとろけていく。
パチュリーさまの身体に顔をうずめて。
手とか顔とか服とか、ぬるぬるになっちゃうけど、気にしていられない。
ぴちゃ。
雫の零れるような音が、パチュリーさまの身体からします。
顔をうずめたまま、手は彼女の柔肌をさすり、自制が利かなくなってきたら、舌も使ってパチュリーさまの身体を舐め回す。
「ん……あぁ……」
漏れる声を我慢しているように感じました。
それもそうでしょう、白昼堂々、人だっている図書館でこんなことをしているのですから。
こんな声を聞かれて、恥ずかしくないなんてことがあるでしょうか。
パチュリーさまの頬は紅に染まり。
それが、私をまた狂わせて。
優しく触れてるだけじゃ、満たされない。
触れて。
まさぐって、
揺さぶって、
焦らして、
掴んで、
口付けて、
抱き締めて、
息を止めて。
ぴちゃ、くちゅっ。
濡れたような音は断続的に繰り返され。
こぁちゃん、プリンをめでたく完食です。
小柄とはいえ、人一人を包み込むぐらいの量を食べ、私はさすがにダウンしました。
もうこのびしょびしょになった服を着替える気力も起きません。このままソファの上で寝てしまおうかと思い始めます。
それは仕様がないんですが、それよりもこの全裸で汁まみれで倒れている日陰の少女を、私はどうすればいいのでしょう。
いやカラメルですよ? それ以外の何でも……やだなぁもう、ただプリンを食べただけですよ、私は。
そんな弁明が通じますかね?
気付いたらそこに立っていた、レミリアさまに……通じるでしょうかね!?
「………」
うな垂れる裸の少女、なんかぬるぬるしてる私。
き、気まずい。
これは気まずい!
悪魔の饒舌を以ってしても言い逃れ不可能!
別に浮気現場とかそういうわけじゃないはずですが、明らかにこの人は誤解している!
私たちが何かペケポケしちゃったと思ってる!
っていうかいつからいたんですか、あなたは……っ!
彼女はただ呆然と立ち尽くす、目の焦点が合っていない。
怖い。
次の瞬間に後ろからグサァ! とか言ってもおかしくない状況です。
「私のパチェをよくも……」とか、無表情のお顔が申しております。
やだなぁもう、私はただプリンを食べていただけで……。
「……あはは」
レミリアさまは、表情を変えずに、乾いた笑い声だけを発して、そのまま踵を返してどこかへ去っていきました。
うわ、怖い!
下手にここで刺されるより怖い!
殺される……いや、殺されるならいいほうだ、このまま死よりつらい恐怖を永遠に味わわせられることになるかもしれない。
「汚物は消毒だー!」とか言ってさ。
こんなことなら行動起こさずに北斗の拳見続けていればよかった!
「いや……今のおまえには残り一パーセントの勝機もない」
つけっぱなしのテレビからそんな声が聞こえました……。
もちろん眠れませんでしたよ。
ガクブルしながら朝を迎えたら、パチュリーさまは見事にプリンに戻っていました。
完全に喰ってもまだ再生するのか!
何もかも無駄でした。
レミリアさまに恨まれ損です。
どうするんですか。
どうもしないんでしょうね。
今日も図書館は平和です。
パチュリーさまは全て忘れたように、ご機嫌にぴょんぴょん跳ねてます。プリンで。
メイドたちがニヤニヤしています。
咲夜さまがOVA版大悪司を見てます。「殺っちゃんは私の嫁」とか言ってます。
フランドールさまは鞭を振り回し。
レミリアさまが
耐えられないw
みんなだめだ もうなんかだめだ
逃げてーーー!!!!!!
も う だ め だ