幻想郷は、当然ではあるが昼夜がある。
いつぞやは妖怪が終わらない夜を作り出したが、まぁそれは仕方ない。
今回は以前のそれでも話題となった、満月についてである。
「…眠いわ」
「眠いなんて情けないぜ」
「目を擦りながら言う台詞じゃないわよ」
「馬鹿、これはゴミが入ったふぁけ…ふぁ~あ」
「…眠いわ」
「…眠いぜ」
秋の月は美しい、とはよく言ったものだ。
団子を左手に酒を右手に、浴衣で見るのが最高だ。
「そうだ霊夢、酒を飲もうぜ」
「あんたが宴会の時飲んじゃったんじゃない」
「あれは勢いだぜ。で、酒をくれ」
「はぁ…だから無いわよ」
「なんだなんだ、博麗神社はそこまで切羽詰まってるのか?」
「あんたがよく宴会をするせいでね、あるものがいつの間にか無くなってるのよ」
「そうなのか?」
「賽銭箱の中身、へそくり、お米に酒…」
「…すまんかった」
「本当、そろそろ何か対策を練らないと本当に餓死しちゃうわ」
「…本当にごめん」
「同情するなら金をくれ、よ」
「それは断る」
「薄情者!」
十五夜の月は美しいが、だからと言って宴会を開くというのは理解できない。
友人と一緒に月を見る、というのは確かに風流もあり、同意できるが、
芝生でドンチャン騒ぎをしながら見ても、美しさがわからないのではないかと思う。
「いやまぁ、今週は宴会は開いてないぜ」
「来週は?」
「もちろん、開くぜ」
「来々週は?」
「うーん、開こうかな」
「来月…」
「どうしようかな」
「せめて神社じゃない所でやってよ」
「それは断るぜ」
「さっきの謝罪は?」
「あれは本当だぜ」
「じゃあ、ここは宴会を開かずに静かにしておくのが本筋だと思うんだけど」
「常識っていうのは打ち破るものなんだぜ?」
「知らないわよそんなの」
「じゃ、今週いっぱい宴会尽くしということで」
「駄目よ」
「霊夢に決定権は無いぜ」
「なら勝ち取ってみせるわ」
「お、おお?やるってのか?」
「宴会をやるつもりならね」
「うーん…まぁ、霊夢とこうやって話できるならそれもいいか」
「ええ、だからあまり面倒事起こさないでね」
「遂行料金に酒を要求するぜ」
「なんでそこまで執着するのよ、アル中?」
「おおう、なんでそうなるんだ」
「違うの?」
「何、私はお前と月を見ながらちびちびと酒を飲みたいだけだぜ」
「はぁ…ちょっとだけよ?」
「遠慮はいらないぜ、瓶でくれ」
「ちょっとしかないのよ!」
「ははは…同情するぜ」
「誰のせいだと思ってるのよ?」
「こら、怒られてるぞこの箒め!」
「…ちょっと上空に来なさい」
「お、おおう?」
「いいから来なさい」
「なんだよ、月見ってのは静かにするのが風流なんだぜ?」
「大丈夫よ、騒がしくならないよう一瞬で決めるわ」
「それを聞いたら瞬殺されるわけにはいかないな」
「抵抗はよせ、お前はもう包囲されているー」
「そんな包囲、突破してみせるぜ」
「ああもういいわよ、やってやるわ!」
「望むところだぜ!」
しかし、友人や肉親と話しながら月見をしていると、すぐに盛り上がってしまうのは明白である。
ほどほどに、が一番なのかも知れない。