「姫様、姫様……」
ドアを3回ほど叩いて大声で呼んだが当然の如く返事は無い。
扉に手をかける……。
…………開かない。
開かないので、ちょっと軽く突き破る感じで無理矢理戸を引く。
……呆れて物が言えない。
まさかこんな状態になっているとは。
扉の前には姫様が捨てたゴミの山。
さっきまで開かなかった原因はコレが崩れて扉をふさいでいたらしい。
そして、部屋の中の姫は炬燵布団に入り込んだまま。
扉を叩いて呼んでいるにもかかわらず、パソコンモニターすら地面に落としてゲームをプレイする姫の姿はかなりネッ○廃人さながらの姿。
よくよく見ていると周りには昨日の晩の食器類……。
更には鈴仙が腕によりをかけて作ったおでんの残りカスやら、おなじく姫様のためにとついたお餅等の品物。
勿論部屋に篭りっきりの姫様のこと、かつてはなよ竹のかぐや姫とすら呼ばれたその美貌も手入れを全然していないせいであまり美しいともいえない状態。
なにより長い髪が脂ぎっていてどことなく不潔感すら漂う姫様となっていては流石に部下にも示しがつかない。
私はその扉をそっと閉め、今度こそ本当に姫様を真人間に変えてみせると明るく輝く夜の月に誓ったのだった。
次の日……。
私は朝6時に起きる鈴仙と共に、姫様を起こす為に寝所に近づく。
どうせ姫様のことだ。
昼と夜の生活は逆さまになっていて、夜はネッ○探索やらMMOR○Gやらといった時間に費やされているに決まっている。
先ほど眠っただろうとわかってはいるが心を鬼にして姫様の部屋の扉を開き、部屋の中に散らかったCDやら本やらのスキマをうまく通りつつ、鈴仙と一緒に軽い通路を作っていく。
掃除をし始めて数分、CDとか崩れた本の山とかうまく積み上げたし一応通れる道が出来たかな??
姫様の部屋の軽い掃除を終えて、鈴仙と頷きあう。
昨日、軽く掃除もしておいたし食器もかたずけておいたのだが、一日経つとこの惨状。
全く、どーやったらここまで部屋の中を散らかせるのやら。
そもそも毎日の食事はどうやってとっているのやら……と呆れてしまう状態である。
(鈴仙曰く、部屋の前に食べ物は置いといてくれといわれるのでそのまま放置しておくらしい)
まぁ、そこら辺もまともな人間に戻せば問題ないだろう。
とりあえず炬燵布団でだらしなく眠る姫を無理矢理叩いて起こす。
起こした姫様は半眼状態で寝てるんだか起きてるんだかわからないようなぽや~んとした表情でこちらを見ている。
眠そうな姫様。
本来は起こしてすぐくらいに食堂に出る予定だったが、この状態では流石に色々まずいし、身だしなみくらい整えておかないと他のウサギたちには示しがつかないのでやっておこう。
まず寝ていたせいかバラバラに散っていて不潔そうな姫様の髪に櫛を通そうとする。
……脂ぎっていてなかなか通らない。
まぁ、仕方ないか。
ちょっと時間はかかってしまうけれど、一旦風呂に入れる方が早そうな気がする。
私は鈴仙に風呂の準備を命じると、姫様のお召し換えの衣装を用意する。
今着ている着物も今用意している着物もそこそこの上物で、きちんと姿を整えて着ればなよ竹のかぐや姫と呼ばれる美しさを取り戻すはずなのだが、流石に今の薄汚れた格好ではあんまり綺麗じゃないかもなぁ……。
とか、素材は良いのに、なんで身だしなみ整えないかなぁとか思ったりしたが、まぁそこら辺は考えないでおこう。
着物と石鹸とタオルの用意をして、寝所の周りの掃除を軽く済ませると鈴仙が風呂の準備を終えて戻ってきた。
一応解説しておくと、基本的に永遠亭では一般のウサギ達用の大衆浴場に近い場所(ちなみに24時間営業)が有りはするのだが、流石にいくらなんでも姫様をそこにお連れするわけにはいかないので部屋に付けられている風呂の方を沸かしてもらっていたのだ。
さて、そんな前置きはどうでも良い。
無理矢理入れる為に姫様のお召し物に手をかけると、
ぼややーんとしている表情から急にビクッ……と起き出して、
「永琳、鈴仙、一体どうしてここに? ひょっとして、私を襲って……」
とかかなーり寝ぼけたことを言い出す姫様に、
「今日は部屋の外に出て健康的な生活を送ってもらうことにしたんです」
と説明をして鈴線と一緒に服を脱がせると風呂に無理矢理入れた。
一通り体を磨いて、髪の手入れ等もした後、時刻を見ると8時30分。
本来は8時に他のウサギたちや鈴仙、てゐといった者たちは一堂に会して食事をするという習慣があり、それに合わせる為にに速く叩き起こしたのだが仕方ない。
仕方ないので、まだ少し眠そうな姫様と一緒に食堂へ向かったうことにした。
「今日の朝ごはんはご飯とお味噌汁。今日は久々に姫や永琳様と一緒に朝ごはんが食べられてちょっと嬉しいです♪」
な~んて、ちょっと恥ずかしくなるような嬉しくなるような鈴仙の言葉を聞きつつ、食堂に到着。
食事は当番でウサギ達が作っているので特別な料理じゃなかったけれど、いつも研究所で食事を取ることが多い私にとっても久々に鈴仙と食べる食事は美味しかった。
鈴仙と研究の成果やら、今いるウサギ達の話やらを適当に話し合いながらご飯を食べ終えた頃、
席についてからずーっと黙り込んでいた姫様の様子を確認する。
…………。
一口も手をつけていない。
……と言うか思いっきり居眠りをこいていた。
なんで、風呂に入った上に結構長い時間経ってるのに食堂で寝ているかなぁ、この姫様はとか呆れるやら怒りたくなるやらと複雑な気分にさせられる。
コレだけやっても駄目なら荒療治が必要だろう。
頭に来ていたのもあって姫様の近くにあったバケツの中の水を思いっきり上から浴びせる。
タライとか洗面器を落とすという案もあったが流石に危険だし、水を浴びせるのが最適と判断した為だ。
流石にこの行動は聞いたのか、姫様が目を覚ます。
「ぅぅぅぅ~……永琳~~イキナリ水をかぶせるなんて酷いわ、あんまりだわ……」
とかブツブツ文句を言いながらゆっくり朝ご飯を食べ続ける姫様の姿を確認すると、食べ終えるまで姫様の後ろで待っていることにした。
まったく、朝からこの調子では先が思いやられる。
私は朝っぱらから深い溜息を着くと、ご飯を食べ終えて再度スリープモードに入った姫様を再度叩き起こして、一旦姫様の部屋に戻った。
さて、姫様の部屋に戻った私達。濡れた姫様の服を脱がせて、体の水分を拭いてあげると運動用のシャツを用意する。
私と鈴仙の分のシャツもキッチリ用意してみんなで運動の出来る姿になると、永遠亭の庭に集合する。
目的は勿論運動するため。
健康的な生活は健康的な肉体から、『早朝マラソンをして姫様もマトモに戻そう計画』である。
勿論寝ぼけ眼のままだが、そこら辺は運動すれば戻ってくるだろう。
私は無理矢理背を押すように姫様に運動させると、一緒に昼までランニングをした。
まぁ……いくら駄目でもここまでやったのが聞いたのか、一応目は覚ましてくれたようだ。
「だるい~」とか「もう駄目~」とか文句たらたら言いながらではあるが、一応走ってはくれる姫様を見て一安心。
その後はいつもの生活に戻ったのだが……。
次の日。
早起きをさせるために姫様の部屋に行く。
中の状態を見る……昨日と根本的には変わらない……。
と言うか、なんで昨日あんなに速く起きて一日過ごしたのに半徹夜モードしてやがるんだとか思ったり思わなかったりしたが仕方ない。
腹が立ってきたんで姫様を思いっきり足蹴にすると、流石に痛かったのか「う~」とか、蹴られた所を押さえつつしぶしぶと言った感じで眠そうな目をこすって起きてきた。
流石に昨日よりは体の状態はマシなのでそのまま軽く状態を整えさせると、大食堂の方に向かう。
大食堂に着くと、周りの様子がシーンとする……。
この永遠亭の朝の食堂になど滅多に姿を現さない姫。
その姫と、基本的には研究所で色々薬を作っていることが多い私が一緒に姿を現せば当然こうなるか……。
そんな事を思いつつ、一般のウサギたちと共に食事を取る。
その後、昨日と同じように軽いマラソンをした後、姫様の部屋にあるパソコンを没収。
軽く姫様の寝所を掃除して、プレイ○テーションのゲーム機も没収した。
これで姫様も真人間に戻るだろう……。
そして次の日……。
いつもどうり、朝に姫様の寝所に行く。
ゲーム機もパソコンも没収したし、遊ぶ物は無いはず。
大体この所一般人と同じ生活に戻しているはずだから大丈夫……。
……と思ったんだが。完全に夜型人間生活が抜けねーなコノヤロウ。
部屋の中にはゲーム機もパソコンも確かにおいていない。
……がどうやら部屋の中にある同人誌やら漫画やらを読み漁っていたらしい。
そんな感じの跡が部屋の中をキッチリ彩っていた。
私は朝の日課を一通り済ませて姫様と運動をした後、姫様の寝所の鍵を閉め一般来客用の部屋に姫様の着替え等を移動させる。
別名カンヅメ状態という奴だ。
勿論この部屋にはパソコン等も置いてない。
これで姫様も真人間に戻るだろう。
次の日……。
朝起こしにいくと、姫様が普通に起きてくれたようだった。
流石にカンヅメ状態では徹夜するのは無理だったようだ。
私はホッ……と胸を撫で下ろす。
そうしていつものように朝食を取ろうと一緒に歩いていく。
しかし……よく見てみると姫様の様子はおかしい。
なんていうか死んだ魚のような目をしている。
まぁ不老不死の薬を飲んでいるから不死には違いないんだが、こう意思の無い死んだよーな目を見るのは久しぶりだ。
生きる希望も何も無いのよーーーとかいう姫様の様子を見ていると最初に会ったときのことを思い出して切なくなる。
駄目人間な生活……。ニートな姫……。
それは確かにいけない事だ。
だが、私はやりすぎたのかもしれない。
急に何もかも引き剥がしてしまったのは良くなかったのかもしれない……。
ふと、そんなことを考えた。
そして、自分の事として考えてみる。
研究所から追い出されて一切の研究を出来なくさせられた生活。
胸がゾクッと来るくらい嫌な状態になった私は姫様の部屋の鍵をいつもどうりに戻すと、没収したアイテム等々も戻して姫様をいつもの寝所に返してあげることにした。
次の日……。
朝は全く起きてこない姫様。
まぁいつもどうりの生活に戻ったのだし当然といえば当然のその様子を私は諦めのまなざしで見ている。
そして、昼の11時頃……。
姫様は起きてきて私達と一緒に運動をはじめた。
ここ数日、確かに姫様と一緒に運動をしている……が、姫様から率先してやるなど考えにも及ばなかった私の隣で柔軟体操をはじめた姫様を見て、
「今日はどういう風の吹き回しです??」
と聞いてみた。
「ここの所運動して見るのも悪くないかなぁと思ったのよ。永琳達と運動するのも楽しいし」
……どうやら今までの苦労は完全に無駄ではなかったらしい。
確かに今はニートで引き篭り気味。
朝は起きれない駄目な姫様だ。
けれど、こうやってちょっとずつかわっていっている姿を見て、いつか昔の姫様が戻ってきてくれるだろうと私は願ったのでした。
P.S..一週間程度しか運動が続かなかったことをここに示しておこう。
所詮ズボラになった姫様はそうかわらないらしい。
早起きって言葉で判るはずですが、速く起きるではなく早く起きるです。
わざとならすいません。