まどろみの中から意識を取り戻す。地引網のようなイメージ。数人の漁師が懸命に引いているような。
これを獲らねば今日の飯がなくなる、とばかりに気合をこめて。
えんやーとっと。ソーランソーラン。
ああ、でも力が足りない。海中に網を持っていかれてーー
二度寝。
持っていかれたーーーー
って、どこの錬金術師よ、それは。
くだらない想像を滅殺して体を起こす。
だいぶ秋になって眠るのも楽にはなった。まぁ春夏秋冬寝てばかりだからあんまり気にはならないけれど。
ただ食べ物は秋が一番おいしい。それだけで秋が好きになるような気がしないでもない。
たぶんしない。でも好き。
部屋を出、居間へ向かう。スキマを使った方が速いけど、廊下から見える風景を見たいから、歩いて。
廊下から見える奥山の秋の景色。高い空、青むのをやめた木々。
やっぱり私は秋が好きなのね。いや、嫌いなものなんてほとんどないかしら。
それより。いつもならある精気というか、気配というか。そういうものが家の中から全く感じられない。
藍が橙といっしょに出かけているのかしら。あら私置いてけぼり?
孤独ってつらいってどこかの人形焼きの旅芸人が言ってたっけね……。
なーんて昨日ちゃんと言われてたから確信犯ね。いや模倣犯?
そんな妄想も那由他の彼方へ吹き飛ばし、居間の扉を開ける。
誰もいない居間。静まり返った空間。1人分の料理が置かれている食卓。
わかってはいたどそれでも少々寂しい。
帰ってきたらたっぷりご奉仕してもらおうかしらね。
仕方なく用意されたお味噌汁に手をつける。
――。夢から覚めるまでの間。現へ戻るまでの間。夢と現の境界。
それをいただく一日の始まり。
今日もいい日になるように。そう願う。いつものように。
そう今日もいつもの一日で。何も変わらないで。そうであるように――
一瞬物悲しい話に見えちまった。
八雲一家、たまにはこんな日もある見本。
想像して読むのがすごく楽しいです。