萃香が、頭を乗せてきた。
角が脇腹に当たって痛かった。
文句を言ったら小さく分裂して、膝の上で雑魚寝をされた。
レミリアが、膝でお昼寝したいと言ってきた。
傍に控えるメイド長の視線が痛かった。
あと膝枕でうつ伏せはやめろ。
魔理沙も、いつの間にか膝の上で眠っていたりする。
寝言の内容がなんか色々イタかった。
こっぱずかしい夢を見るのは勝手だけど、人の名前は出さないで欲しい。
どういうわけか、連中は私の膝を使いたがる。
まあ別に減るものでもないし、下手に暴れられて境内が散らかるよりはよほどいい。
私は縁側でお茶を飲んでいたいだけだから、邪魔にならない限りは好きにさせている。
今度、膝を貸すときにはお賽銭でも入れさせようかな。
「――――で、」
いつもの縁側。
傍らには愛用のお茶セット。
目の前には見慣れた境内。
「なんであんたが来たときだけ、こうなるのかしら。紫」
「さあ? 私に訊かれてもねえ」
目の前には、九十度傾いた境内。
頬に当たるのは、彼女の膝。
―◇◇―― ◇―◇◇ ――― ◇― ―
夕焼け色が混じり始めた、夏の終わりの空。
遠い人里から、飯炊きの煙がうっすらと立ち昇っている。
時折、紫がお茶をすする音が聞こえる。
「……ねえ」
「なぁに?」
なんでこいつが来たときだけ、こうなるんだろう。
「あんた、なにか境界をいじったりしてない?」
「してないわよぉ。それにこんな場所で力を使ったりしたら、真っ先にあなたが気付くはずでしょう?」
「……むぅ」
ずず、とまたお茶を飲む音。
「理由なんてないのよ。気分が安らいだときに寝心地の良さそうな枕があれば、誰だって使いたくなるんじゃないかしら」
「安らいだとき、ねえ……。幻想郷で一番の変人と一緒にいるのに?」
「あなたは幻想郷で一番のんきな巫女だもの、ね」
新聞をくわえた鴉の一団が、木々の間を横切ってゆく。
「いつも誰かに膝を貸しているんだもの。たまには誰かの膝を借りるのも自然なことよ」
「じゃあ、あんたはどうなのよ」
「私は藍にしてもらってるわ。ついでに耳掃除も」
「……ふぅん」
「あら、妬いた? 私がしてあげるのにー、って」
「そんなわけないでしょ」
どこかで、猫が鳴いた。
「あんたが式の膝を使ってたら、式の式が寂しがるんじゃない?」
「橙は藍の尻尾の中で寝てるわ。そっちの方がお気に入りみたい。藍の尻尾ってふかふかで気持ちいいのよ」
「前門のスキマに、後門の黒猫。中間管理職は大変ね」
「そうかしら。すごく幸せそうな顔してるわよ? そういうときの藍は」
「私には、そういう幸せは理解できないわ……」
不意に、するりと、頭のリボンが解けた。
「盗らないでよ」
「盗らないわ。もっといいものが膝の上にあるから」
「あげないわよ」
「あら、残念」
重力にまかせて、紫の膝を私の髪が流れていく。
着けるものの無くなった頭に、そっと手が添えられた。
ゆっくり、ゆっくり、撫でられる。
「……楽しい?」
「ええ、とっても」
「…………」
――これは、なんというか、まずい。
ただの手なのに、まるで上等の櫛で梳かれているようだった。
ぞくぞくと落ち着かない刺激が首筋を走る一方で、猛烈に眠くなってくる。
「ねえ、境界――いじった?」
「いじってないわ。……霊夢、眠たかったら寝てもいいのよ」
「あんたの前で眠ったりしたら、なにされるかわかったもんじゃないわ……」
「あら、そう。そういうことなら、起きてるうちにやってしまおうかしら」
「――えっ?」
一瞬、頭を持ち上げられて、膝が抜かれた。
ごろんと仰向けになって再び頭が沈むと、なにやらふかふかした感触。
代わりの枕をどこからか調達してきたらしいが、なんなのかはよくわからない。
そんなことを考えている間に、縁側に手をついた紫の顔が、目の前にあった。
「なにをすればあなたが幸せを感じるのか、ちょっと試してみたくなるわね」
「そんなこと知って……どうするっていうのよ……」
「さあねえ?」
顔が近づく。
吐息がかかる。
眠い。
体が、動かない。
「紫……、境界……」
「霊夢。あなたが動かないのは、動こうとしていないからよ」
――ああ、そうか。
でも、なんかくやしい……
「……眠いだけよ……きっと…………」
目を閉じたのも、きっと、眠いから。
「――――……」
閉じた目は、もう開けられなかった。
「……私も寝るわ。今夜、眠らなくてもいいように」
ぽふ、と私の隣でなにかが沈み込む感触。
「――――おやすみ。私の――――」
やがて、声も聞こえなくなった。
―◇◇―― ◇―◇◇ ――― ◇― ―
「ねえねえ藍さまー。どうして今日は尻尾が八本しかないの?」
「はっはっは、なにを馬鹿なことを言っているんだ橙。いくら私でも尻尾までテイクオフする趣味は無いってうぉわっっっ!? ほほほ、ほんとに八本しかねえーーーーーっ!!」
「うわあ、いい匂いー」
「しかもなんか尻尾の代わりにエビフライがっ!? どこ行った私のラストワーーーン!!」
「藍さまー。おなか空いたー」
「こらっ橙かじるな! かじるな橙! 海老は腹壊すから! つーかそれ暫定的に私の尻尾だからっ!! あっ、あぁんっ、歯立てないでぇーーーっ!!」
―◇◇―― ◇―◇◇ ――― ◇― ―
「……あっ」
「どうしたの? 紫」
「やっぱり、いなり寿司の方が良かったかしら」
「なにをわけのわからないこと言ってるのよ。こんなときに……」
おしまい
角が脇腹に当たって痛かった。
文句を言ったら小さく分裂して、膝の上で雑魚寝をされた。
レミリアが、膝でお昼寝したいと言ってきた。
傍に控えるメイド長の視線が痛かった。
あと膝枕でうつ伏せはやめろ。
魔理沙も、いつの間にか膝の上で眠っていたりする。
寝言の内容がなんか色々イタかった。
こっぱずかしい夢を見るのは勝手だけど、人の名前は出さないで欲しい。
どういうわけか、連中は私の膝を使いたがる。
まあ別に減るものでもないし、下手に暴れられて境内が散らかるよりはよほどいい。
私は縁側でお茶を飲んでいたいだけだから、邪魔にならない限りは好きにさせている。
今度、膝を貸すときにはお賽銭でも入れさせようかな。
「――――で、」
いつもの縁側。
傍らには愛用のお茶セット。
目の前には見慣れた境内。
「なんであんたが来たときだけ、こうなるのかしら。紫」
「さあ? 私に訊かれてもねえ」
目の前には、九十度傾いた境内。
頬に当たるのは、彼女の膝。
―◇◇―― ◇―◇◇ ――― ◇― ―
夕焼け色が混じり始めた、夏の終わりの空。
遠い人里から、飯炊きの煙がうっすらと立ち昇っている。
時折、紫がお茶をすする音が聞こえる。
「……ねえ」
「なぁに?」
なんでこいつが来たときだけ、こうなるんだろう。
「あんた、なにか境界をいじったりしてない?」
「してないわよぉ。それにこんな場所で力を使ったりしたら、真っ先にあなたが気付くはずでしょう?」
「……むぅ」
ずず、とまたお茶を飲む音。
「理由なんてないのよ。気分が安らいだときに寝心地の良さそうな枕があれば、誰だって使いたくなるんじゃないかしら」
「安らいだとき、ねえ……。幻想郷で一番の変人と一緒にいるのに?」
「あなたは幻想郷で一番のんきな巫女だもの、ね」
新聞をくわえた鴉の一団が、木々の間を横切ってゆく。
「いつも誰かに膝を貸しているんだもの。たまには誰かの膝を借りるのも自然なことよ」
「じゃあ、あんたはどうなのよ」
「私は藍にしてもらってるわ。ついでに耳掃除も」
「……ふぅん」
「あら、妬いた? 私がしてあげるのにー、って」
「そんなわけないでしょ」
どこかで、猫が鳴いた。
「あんたが式の膝を使ってたら、式の式が寂しがるんじゃない?」
「橙は藍の尻尾の中で寝てるわ。そっちの方がお気に入りみたい。藍の尻尾ってふかふかで気持ちいいのよ」
「前門のスキマに、後門の黒猫。中間管理職は大変ね」
「そうかしら。すごく幸せそうな顔してるわよ? そういうときの藍は」
「私には、そういう幸せは理解できないわ……」
不意に、するりと、頭のリボンが解けた。
「盗らないでよ」
「盗らないわ。もっといいものが膝の上にあるから」
「あげないわよ」
「あら、残念」
重力にまかせて、紫の膝を私の髪が流れていく。
着けるものの無くなった頭に、そっと手が添えられた。
ゆっくり、ゆっくり、撫でられる。
「……楽しい?」
「ええ、とっても」
「…………」
――これは、なんというか、まずい。
ただの手なのに、まるで上等の櫛で梳かれているようだった。
ぞくぞくと落ち着かない刺激が首筋を走る一方で、猛烈に眠くなってくる。
「ねえ、境界――いじった?」
「いじってないわ。……霊夢、眠たかったら寝てもいいのよ」
「あんたの前で眠ったりしたら、なにされるかわかったもんじゃないわ……」
「あら、そう。そういうことなら、起きてるうちにやってしまおうかしら」
「――えっ?」
一瞬、頭を持ち上げられて、膝が抜かれた。
ごろんと仰向けになって再び頭が沈むと、なにやらふかふかした感触。
代わりの枕をどこからか調達してきたらしいが、なんなのかはよくわからない。
そんなことを考えている間に、縁側に手をついた紫の顔が、目の前にあった。
「なにをすればあなたが幸せを感じるのか、ちょっと試してみたくなるわね」
「そんなこと知って……どうするっていうのよ……」
「さあねえ?」
顔が近づく。
吐息がかかる。
眠い。
体が、動かない。
「紫……、境界……」
「霊夢。あなたが動かないのは、動こうとしていないからよ」
――ああ、そうか。
でも、なんかくやしい……
「……眠いだけよ……きっと…………」
目を閉じたのも、きっと、眠いから。
「――――……」
閉じた目は、もう開けられなかった。
「……私も寝るわ。今夜、眠らなくてもいいように」
ぽふ、と私の隣でなにかが沈み込む感触。
「――――おやすみ。私の――――」
やがて、声も聞こえなくなった。
―◇◇―― ◇―◇◇ ――― ◇― ―
「ねえねえ藍さまー。どうして今日は尻尾が八本しかないの?」
「はっはっは、なにを馬鹿なことを言っているんだ橙。いくら私でも尻尾までテイクオフする趣味は無いってうぉわっっっ!? ほほほ、ほんとに八本しかねえーーーーーっ!!」
「うわあ、いい匂いー」
「しかもなんか尻尾の代わりにエビフライがっ!? どこ行った私のラストワーーーン!!」
「藍さまー。おなか空いたー」
「こらっ橙かじるな! かじるな橙! 海老は腹壊すから! つーかそれ暫定的に私の尻尾だからっ!! あっ、あぁんっ、歯立てないでぇーーーっ!!」
―◇◇―― ◇―◇◇ ――― ◇― ―
「……あっ」
「どうしたの? 紫」
「やっぱり、いなり寿司の方が良かったかしら」
「なにをわけのわからないこと言ってるのよ。こんなときに……」
おしまい
だが後書きには激しく同意
やっぱり受け手にまわった霊夢はいいな
台無しすぎて麦茶ふいた
>膝の上で雑魚寝
吹いたw
藍さまに瞬殺された…GJ!
ひょっとしてお二人でナニカイタシテらっしゃいますか?
全身全霊で吹きましたよこんちくしょうw
あと、藍さまの普段のテイクオフの詳細が見てみたいでs(テンコー
本作も見事な濃度で……
あれ?ちょっとゆかれいむ分摂取し過ぎたかな?
お鼻から血が……
もちろん最後も含めてw
欄とエビフライもきっと愛情で繋がっているに違いない。
霊夢とゆかりんが何をしていたか知りませんが、どうやらどちらも気付かなかったようです。
…一体何してるんだよ…俺も混ぜろよ…
が泣いているように見えたw
藍素敵杉。
紫が何を言いかけたのか気になるけど、いい話だから気にしない~
ところでいくら霊夢とはいえ俺の居場所を盗るのは許せねえそこを替わってくださいお願いします。orz
俺の中の絶対定理
ゆかれいむは俺のロード
あと藍さまのテンションに吹きました。