材料……バナナと、おかかのふりかけと、パチュリーの葉、過酸化水素、悪魔の爪(小悪魔のもので代用)。
それを大きな釜に入れよく混ぜ合わせます。
すると見る見るうちに、変な色の煙を発する変な色の液体が完成したではありませんか。
「フフフ、上出来だわ……」
らしいです。成功しているのかしていないのか素人目にはわからないのが魔術というもの。
魔女であるパチュリーさまは前にそう仰いました、私はそーなのかーと納得することしかできません。
「できたわよこぁちゃん。これが禁忌の魔法薬『おいしくなる薬』!」
おめでとうございます。
しかし、名前から既に意味がわかりません。いったい何がおいしくなるんですか。
「これを飲めば瞬く間においしくなるのよ!」
いや、わかりません。味のよい風邪薬ということですか?
しかし、「おいしくなる」と言っている以上、おいしくない状態が存在するということで、だとすると徐々に味が変わる風邪薬?
そんなもんを作る意図が見えません。
「あのね、聞いてこぁちゃん」
最初から全部聞いてます。
「魔理沙が初めてここに来たときのこと、覚えてる?」
言って、パチュリーさまはなぜか(本当になぜか)恍惚そうな表情を見せました。
今日はパチュリーさまの機嫌がいいです。私のことを「こぁちゃん」なんて愛嬌のあるあだ名で呼んでくれる辺り特にそう思います。
でも、そういう日のパチュリーさまはなぜか意味不明支離滅裂破天荒な行動を連発するため、はっきり言ってすごく疲れるのです。
パチュリーさまのこんな素敵な笑顔が見られるのは嬉しいことなのですがね。
「あいつ、私に会うなり言ったのよ。『私はおいしいぜ』」
はぁ、そうなんですか。私が撃墜されてたので聞けませんでしたが。
「あれって絶対私のこと口説いてるよね!?」
………。
パチュリーさまは興奮したように私に迫ってきて言いました。滅茶苦茶びっくりしたんですけど。
やたら元気です。
「で、実際食べてみたら本当においしかったのね」
食べちゃいましたか。やれやれ、隅に置けない女(ひと)ですねぇ……。
「だけど悔しいわけよ。私なんてもやし味だし。一袋十円」
そうだったんですか。
「というわけでこれよ」
フラスコをひとつ手に取り、大釜から薬を少量汲み取るパチュリーさま。
それを私に無意味に見せびらかしてみたりしてます。
自分がおいしくなる薬でしたか。いまいちまだピンときませんが。
きっと考えても無駄なのでしょう。
「飲んでみて?」
パチュリーさまは甘えるような上目遣いで変な色の液体を私に差し出しました。
うう、パチュリーさま、とてもかわいいです、その表情は反則です。が……。
飲むって、そのやばそうな液体をですか。私がですか。
勘弁してくださいよ。
「飲んでみて?」
もう一度繰り返し乞うパチュリーさま。二回言われましても無理です。
だいたい、禁忌の薬とか言われてそう簡単に飲めるわけないじゃないですか。
「飲んでみて?」
ついに懐からスペルカードを取り出しました。
ロイヤルフレアです。脅迫です。懇願するような表情は相変わらずなのに。
勘弁してくださいよ!
……命には代えられないので飲みました。あ、意外とおいしい。
飲んでから数分経っても、効果が現れたのかどうなのかいまいちわかりません。
っていうか、自分がおいしくなるっていう事象がよくわかりません。
「そろそろかしら。こぁちゃん」
はい。
「ちょっと味見させてもらうわね」
……何をする気かは知りませんが、そう言ってパチュリーさまは私に抱きつきました。
私の心臓が待ち侘びていたかのように思う存分好きなだけ飛び跳ねてくれました。ずきゃーんって。
パチュリーさまは少しためらった後、顔を真っ赤にしながら私の首筋に舌を這わせやがってくださりました。
柔らかく独特の感触に、思わず身体がぴくっと反応しちゃいます。
「こ、これは!!」
私としてはもうちょっと余韻に浸っていたかったんですが、パチュリーさまが何かを発見したらしく叫んでいました。
「こぁちゃん、すごくおいしいわ!!」
そんなふうに叫ばれるとものすごく恥ずかしいんですが……。
もうなんだか幸せなのでどうでもいいです。
首筋に絡みついたパチュリーさまの唾液が空気に当たってひんやりします。ぽっ。
「恐るべし、おいしくなる薬……まさかここまでおいしいなんて」
ガラスの仮面みたいな驚愕の表情を浮かべたパチュリーさまは、これは自分でも試してみなくては、と焦りながら先ほどのフラスコで薬を汲み取ります。
ああ、それ、私が口をつけたものなのですが……。
そんなことに気付いているのかどうか、あっという間に薬を飲み干してしまいます。ラッパ飲み。
「ぷはぁーっ」
風呂上りの一杯みたいなノリです。
穢されちゃった、私……ああ、でもパチュリーさまになら! ぽぽぽっ。
もう身体のドコでも舐めちゃってくださいっ。ぽぽぽぽっ。
ぼふーん。
私が妄想に浸っていると、突然パチュリーさまが変な色の煙に包まれました。
煙は瞬く間に広がり私をも飲み込みます。何も見えません。
飲む量を間違えたのかな? 私が飲んだときは何も起きなかったのに。なんて悠長なことを考える私はこういう珍事には慣れています。
しばらくして煙は徐々に薄くなり、視界が開いていきます。
私はパチュリーさまが立っていた場所を確認します。すると……。
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………………えーと。
うまい言葉が見つからないので絵で表現してしまいましたが、雰囲気はわかっていただけたでしょうか。
パチュリーさまがとてもおいしそうになっていました。
ええ、とてもおいしそうです。おなかがすいてきました。
「小悪魔、これはどういうことよ」
知りませんよ。
こんな格好で怒られても迫力ありません。もともとあまりなかったですが。
まあ、もやしにならなくてよかったじゃないですか。
「よぉーパチュリー! 本借りに来た……ぜ?」
唐突に魔理沙さんが襲ってきました。この人は相変わらず空気読めませんね。
で、パチュリーさまを見て笑ってました。
「ぶっははははは! なんだパチュリー、その滑稽な姿は!?」
思いっきり指差して笑ってました。失礼極まりないです。
でも私も笑いそうです。必死で我慢してます。
「……食べても、いいのよ」
パチュリーさま、頬を赤らめて言わないでください。ちょっと俯き加減に目を逸らさないでください。
やっぱり笑っちゃうかも。その姿で照れられても。その姿で照れられても!
顔だけがかわいいよう。
ちょっとぷるぷる揺れてるし。
「HAHAHA、遠慮しとくぜ」
アメリカンに笑いながらふられました。
私は我慢できなくて色々噴き出しました。
「く、屈辱!」
でしょうね。
あはは。
禁忌の薬が禁忌たるゆえんです。
皆さん、お薬は用法用量を守って正しく使いましょう。
↓(3秒)
ごちそうさま。
何が言いたいかというと、GJ!
イラスト入りのSSもありますしねwww