私、アリスマーガトロイドがひさしぶりに外に出ると、そこには四季折々の花が咲いていた。
「・・・何これ?」
野薔薇、野菊、蓮華、向日葵にアカシア。遠くに桜の花が咲いているのも見える。これが狂い咲きと言うヤツだろうか? いや、ちょっと違うかな。
「よく判らないけどすごいわね。ねぇ、上海?」
「シャンハーイ」
「少し散歩してみましょうか?」
「シャンハーイ」
魔法の森は基本的にじめじめしているが、日当たりの良い場所だって存在する。私はそういう場所を線で結ぶように、家の周りを一周してみる事にした。
歩くたびに新しい花が目に入る。ラズベリー、ブルーベリーにこけもも。何故かイチジクだけは実がなっている。何故だろう?
「あぁ、そうか」
イチジクは実の中に花弁がある、と本に書いてあった事を思い出す。取って干すか、甘露煮にでもしておけば魔理沙が来た時のお茶請けになるかしら?
「シャンハーイ」
「あ、上海。綺麗ね」
風で散った花弁だろうか? 上海は色とりどりの花弁を抱えている。そして私の上まで移動したかと思うと、それを一気にばらまいた。
「わぁ・・・」
花のシャワー。
そんな一瞬の美しさに、私の目は釘付けになっていた。
「シャンハーイ?」
いつの間にか上海が隣にいる。少しぼぅっとしていたのだと気づいた私は、少し慌てながら上海をなで、髪にひっかかった花弁を指で摘んだ。
「中々素敵ね」
「シャンハーイ」
そろそろ家に戻ろうかな。そう思った時、ふと先程のイチジクが目に飛び込んで来た。そして私の手の中には桜の花弁がある。
「そうだ、上海」
「シャンハーイ?」
首をかしげる上海を見ながら、私はその考えはやっぱり名案だと思った。魔理沙の為だけに何かを作ると言うのも癪だしね。
「皆に頼んで、大きな籠をたくさん持ってきてくれる?」
「シャンハーイ!!」
上海は、ビシッ、と敬礼をして家の方へと飛び去った。なんだか最近、魔理沙の影響を受けてるみたいで困ったものだわ。
そんな事を考えながら、私はスカートの裾を掴み、舞い落ちる花弁を受け止めるようにそれを広げた。ちょっとはしたない気がするけど、誰も見てないからいいわよね?
「さて、いっぱい集めないとね」
上海達が戻ってくると、野薔薇、野菊、蓮華、向日葵、アカシア、そして桜の花弁をそれぞれ集めるように指示を出し、自分はイチジクの実を集め始める。私達はそれぞれが大きな籠いっぱいになるまでそれを集め続けた。
「うん。このくらいでいいわ。皆、それを家に運んでくれる?」
私の声に、人形達がそれぞれの方法で返事を返した。上海を残した全員がいなくなった後、私はまた花を見つめていた。
「この辺はもうちょっと後ね」
ラズベリー、ブルーベリにこけもも。これらは実を使って作ったほうが、きっとおいしく出来るはずだ。
「さて、帰ったらがんばって作らないと」
「シャンハーイ!」
「そうね。皆にも手伝ってもらわないとね」
四季折々の花で作る花弁のジャム。イチジクだけは実を使うような物だけど、まぁ、花弁も使う事に変わりは無い。
花弁のジャムが七色並べば、きっと綺麗に違いない。虹色ではないのが、少し残念だけれど。
「実がなる前にこっちを完成させておかないといけないわね」
「シャンハーイ!!」
実がなったらそれでもジャムを作ろう。
ラズベリーでラズベリージャム。ブルーベリーでブルーベリージャム。こけももでこけももジャム。いや、この場合はクランベリージャムと呼ぶべきかしら?
「しばらく忙しくなりそうだわ」
完成したらロシアンティーを淹れよう。イチジクはあんなにいらないから残った分は干しておけばいいだろう。あぁ、果実酒を作るって言うのもいいわね。保存もきくし、何より酒飲みが多いから。そんな事を考えながら、アリスは家に向って歩き出した。とても上機嫌な様子で。
その後しばらく、マーガトロイド亭からは甘い匂いがし続けていた。その中ではアリスもとろけそうな程甘い笑みを浮かべていたのだが、それを知るのは人形達だけだった。
アリスは乙女係だから!
どれもアリスへの熱いコメントで、読んでいて楽しかったです。
結局の所、アリスは可愛いですよね、って事ですよね? 色々な意味で。