お、おい。
そんなに警戒すんなって……ちょっと声かけただけだろ。
なにもここでおっ始めようってわけじゃねえんだから。
――――……。
いやなに、姉さんたちがやりあってる間、どうせ見てるだけで暇だからな。
あんたもそうだろ? だから話でもどうかと思ってさ。
――――……。
んじゃ隣、失礼しますよ。どっこいせっと。
おー……、やってるやってる。
取材だのなんだの言っときながら、誰かに出くわすたびにこれだもんなあ。
俺は何のために付いてきたんだっつーの。
……そういや、あんたらはなんで飛び回ってたんだい?
――――……。
ほー……。この花の異変の原因をねえ。
俺は花なんかに興味はないけどな。食えないし。
ま、この無節操な花どもが、散った後に実でもつけてくれるんなら嬉しいけどさ。
――――……。
え? もしそうなったら、ご主人にいろんな菓子を作ってやりたいって? はは、殊勝だねえ。
ご主人ってのはあれかい、あそこでうちの姉さんと弾幕ごっこしてる娘さんかい。
なに? あれはご主人じゃなくて、あんたの残り半分?
はぁ……よくわからんけど複雑な体してるんだな、あんた。
――――……。
ああ、結構いい勝負してるよな。
あんたの半分もなかなかやるねえ。風まで斬っちまう刀なんて初めて見たよ。
俺の姉さんの俊足も大したもんだって? まあ、あれでも天狗だからな。
でもここだけの話、あの勇み足でしょっちゅう何かにぶつかっちゃあ痛い目見てんだぜ、あの人。
あっ――
――――……。
……なっ?
これでお互い、ダメージは互角ってとこか。
まだしばらくは決着つかんだろうなあ。
――――……。
どうした、そんなにじろじろ見て。いや別に謝らなくていいけどさ。
えっ? こんなに近くで見るのは初めてだけど、思ってたより綺麗な毛並みだって?
いやあ照れるね。
俺も身なりにはわりと気を遣ってるんだ。特にこの、うなじの辺りとか。
でもあんたも綺麗だぜ? 色白でこう、透きとおるような肌ってやつ。
雪が降ったりしたら迷子になって、あっちの半分とはぐれちまったりしてな。
――――……。
あの長い冬のときに? はは、やっぱりあったのか。そういうこと。
なに、俺の方こそ夜は大丈夫なのかって?
夜はほとんど出歩かねえのよ。俺、こう見えても鳥目なんだ。
あー……、でもいつだったかな。
雀の女の子が夜店出しててさ。そこの取材に付き合わされたときは酷い目に会った。
ただでさえ目が利かねえってのに、変な歌を聴かされてなんにも見えなくなっちまった。
まあ、鰻つつきながら飲んでたら治ったけどな。
あの歌は勘弁して欲しいぜ。やっぱ聴くならプリズムリバーだよ。
――――……。
そうそう、知ってるだろ? 騒霊の。
ひいきなのかって? おうよ。ひいきもひいき、幻想郷一のプリバファンよ? 俺は。
あの大合葬が羽根にビリビリくる感じがたまらんね。
んでもってなによりアレだよほら長女の、ルナサさん。きれえだよなあ。
さすがリーダーというか、あの大人っぽい雰囲気がなんとも……
――――……。
あの落ち着いた物腰は同じ女性としても憧れるって?
わかるか同志! そうだよなあ。
ああ、ルナサさん……俺の顔とか覚えてねえかなあ。
ライブには欠かさず行ってんだけどな。
なあ、色も黒と黒だし、俺とルナサさんってなんかお似合いっぽくね?
おいおい、急に黙り込むなよ。
ああわかってるとも、身分違いの恋だってことは。
どうせ俺なんか、短い一生を新聞配達に捧げることになるのさ。
――――……。
彼女に恋人はいないようだし、諦めずに元気出せって?
はぁ……ありがとな。いい奴だよあんたは。
――っておい! あんたルナサさんと知り合いなのか?
家の宴会に呼ぶこともあるって? うらやましいなあ、くそ。
…………。
な、なあ。頼みがあるんだけどさ。
今度ルナサさんに会うことがあったら、その。サインをな、貰ってきてくれねえかと……
――――……。
そうしたいのは山々だけどさ、自分じゃ上手くお願いできる自信がねえのよ。
それで断られたらショックだし……。
なっ、頼むよ!
なんなら、俺が長年ひそかに撮り溜めてきたこの『幻想あやチラコレクション~一陣の風~』と交換しても――えっ、頼んでみるって?
グレイト。同志。最高。恩に着るよ。
あんた本当にいい奴だ。
――――……。
ん? そろそろケリがつきそうだって?
あー、そうみたいだな。
あのまま風の包囲が完成すれば姉さんの勝ち。弾幕の一瞬の隙に滑り込み、一気に間合いを詰められればあんたの半分の勝ちってとこか。
――――……。
おっ、勝負かけるか?
よし行け半分。右だ。いや左だ。
うわ、かすってるかすってる。
避けろ、チョンチョン避けろ! 切り返せ!
はいそこで斬る! そこで成敗! そこでチラ!
ああっ弾幕が薄い! 音速が遅い! キクラゲが――
むっ、はっ、なんとっ、いや、ガッ、なっ、お? おおぉおぉぉっ!?
――――……。
…………。
――――……。
いやー……、凄かったな。
――――……。
ああ、引き分けかな。
――――……。
いや、俺も知らん。
いきなり乱入してきたと思ったら、花だの弾だの、好き放題に撃つだけ撃って飛んでっちまうたあ……。
なんだったんだろうな。あの空気読まねえ妖精は……。
――――……。
完全に伸びてるな。二人とも。
つーか埋まってるな。花に。
ま、四季の花に埋もれて死ぬってのもまた風流なもんで――ああ冗談だよ冗談。
――――……。
しゃあねえな。んじゃ俺も姉さん助けに行くわ。
じゃあな。
――――……。
あっ、そうそう!
サインのこと頼んだぜ?
俺も今のうちに、あやチラコレクションに一枚追加しとくからさ。
あんたの残り半分にもよろしくな。
またな!
……チラじゃねえな、こりゃ……。
――後日。白玉楼でのある宴の後――
「すみません。いきなり変なことお願いしてしまって」
「いいのよ。それにしても、物好きもいるものね……」
ルナサ、ちょっと嬉しそうだった。
おしまい
そんなに警戒すんなって……ちょっと声かけただけだろ。
なにもここでおっ始めようってわけじゃねえんだから。
――――……。
いやなに、姉さんたちがやりあってる間、どうせ見てるだけで暇だからな。
あんたもそうだろ? だから話でもどうかと思ってさ。
――――……。
んじゃ隣、失礼しますよ。どっこいせっと。
おー……、やってるやってる。
取材だのなんだの言っときながら、誰かに出くわすたびにこれだもんなあ。
俺は何のために付いてきたんだっつーの。
……そういや、あんたらはなんで飛び回ってたんだい?
――――……。
ほー……。この花の異変の原因をねえ。
俺は花なんかに興味はないけどな。食えないし。
ま、この無節操な花どもが、散った後に実でもつけてくれるんなら嬉しいけどさ。
――――……。
え? もしそうなったら、ご主人にいろんな菓子を作ってやりたいって? はは、殊勝だねえ。
ご主人ってのはあれかい、あそこでうちの姉さんと弾幕ごっこしてる娘さんかい。
なに? あれはご主人じゃなくて、あんたの残り半分?
はぁ……よくわからんけど複雑な体してるんだな、あんた。
――――……。
ああ、結構いい勝負してるよな。
あんたの半分もなかなかやるねえ。風まで斬っちまう刀なんて初めて見たよ。
俺の姉さんの俊足も大したもんだって? まあ、あれでも天狗だからな。
でもここだけの話、あの勇み足でしょっちゅう何かにぶつかっちゃあ痛い目見てんだぜ、あの人。
あっ――
――――……。
……なっ?
これでお互い、ダメージは互角ってとこか。
まだしばらくは決着つかんだろうなあ。
――――……。
どうした、そんなにじろじろ見て。いや別に謝らなくていいけどさ。
えっ? こんなに近くで見るのは初めてだけど、思ってたより綺麗な毛並みだって?
いやあ照れるね。
俺も身なりにはわりと気を遣ってるんだ。特にこの、うなじの辺りとか。
でもあんたも綺麗だぜ? 色白でこう、透きとおるような肌ってやつ。
雪が降ったりしたら迷子になって、あっちの半分とはぐれちまったりしてな。
――――……。
あの長い冬のときに? はは、やっぱりあったのか。そういうこと。
なに、俺の方こそ夜は大丈夫なのかって?
夜はほとんど出歩かねえのよ。俺、こう見えても鳥目なんだ。
あー……、でもいつだったかな。
雀の女の子が夜店出しててさ。そこの取材に付き合わされたときは酷い目に会った。
ただでさえ目が利かねえってのに、変な歌を聴かされてなんにも見えなくなっちまった。
まあ、鰻つつきながら飲んでたら治ったけどな。
あの歌は勘弁して欲しいぜ。やっぱ聴くならプリズムリバーだよ。
――――……。
そうそう、知ってるだろ? 騒霊の。
ひいきなのかって? おうよ。ひいきもひいき、幻想郷一のプリバファンよ? 俺は。
あの大合葬が羽根にビリビリくる感じがたまらんね。
んでもってなによりアレだよほら長女の、ルナサさん。きれえだよなあ。
さすがリーダーというか、あの大人っぽい雰囲気がなんとも……
――――……。
あの落ち着いた物腰は同じ女性としても憧れるって?
わかるか同志! そうだよなあ。
ああ、ルナサさん……俺の顔とか覚えてねえかなあ。
ライブには欠かさず行ってんだけどな。
なあ、色も黒と黒だし、俺とルナサさんってなんかお似合いっぽくね?
おいおい、急に黙り込むなよ。
ああわかってるとも、身分違いの恋だってことは。
どうせ俺なんか、短い一生を新聞配達に捧げることになるのさ。
――――……。
彼女に恋人はいないようだし、諦めずに元気出せって?
はぁ……ありがとな。いい奴だよあんたは。
――っておい! あんたルナサさんと知り合いなのか?
家の宴会に呼ぶこともあるって? うらやましいなあ、くそ。
…………。
な、なあ。頼みがあるんだけどさ。
今度ルナサさんに会うことがあったら、その。サインをな、貰ってきてくれねえかと……
――――……。
そうしたいのは山々だけどさ、自分じゃ上手くお願いできる自信がねえのよ。
それで断られたらショックだし……。
なっ、頼むよ!
なんなら、俺が長年ひそかに撮り溜めてきたこの『幻想あやチラコレクション~一陣の風~』と交換しても――えっ、頼んでみるって?
グレイト。同志。最高。恩に着るよ。
あんた本当にいい奴だ。
――――……。
ん? そろそろケリがつきそうだって?
あー、そうみたいだな。
あのまま風の包囲が完成すれば姉さんの勝ち。弾幕の一瞬の隙に滑り込み、一気に間合いを詰められればあんたの半分の勝ちってとこか。
――――……。
おっ、勝負かけるか?
よし行け半分。右だ。いや左だ。
うわ、かすってるかすってる。
避けろ、チョンチョン避けろ! 切り返せ!
はいそこで斬る! そこで成敗! そこでチラ!
ああっ弾幕が薄い! 音速が遅い! キクラゲが――
むっ、はっ、なんとっ、いや、ガッ、なっ、お? おおぉおぉぉっ!?
――――……。
…………。
――――……。
いやー……、凄かったな。
――――……。
ああ、引き分けかな。
――――……。
いや、俺も知らん。
いきなり乱入してきたと思ったら、花だの弾だの、好き放題に撃つだけ撃って飛んでっちまうたあ……。
なんだったんだろうな。あの空気読まねえ妖精は……。
――――……。
完全に伸びてるな。二人とも。
つーか埋まってるな。花に。
ま、四季の花に埋もれて死ぬってのもまた風流なもんで――ああ冗談だよ冗談。
――――……。
しゃあねえな。んじゃ俺も姉さん助けに行くわ。
じゃあな。
――――……。
あっ、そうそう!
サインのこと頼んだぜ?
俺も今のうちに、あやチラコレクションに一枚追加しとくからさ。
あんたの残り半分にもよろしくな。
またな!
……チラじゃねえな、こりゃ……。
――後日。白玉楼でのある宴の後――
「すみません。いきなり変なことお願いしてしまって」
「いいのよ。それにしても、物好きもいるものね……」
ルナサ、ちょっと嬉しそうだった。
おしまい