夏の日差しが照りつける正午を過ぎた頃、幻想郷の守り手たる博麗の巫女は今日も元気に見回りの仕事
「・・・・・・・・・・・あ゛ー」
を出来ずに居る巫女
畳の上に寝っ転がると言うか倒れながら、虚ろな瞳で何処とも無く見つめて動かないで居る
そんな巫女の傍には、何故か歯型のついたアミュレットと陰陽玉、引き千切られたかのような御札が落ち散らばっていた
ちなみに心配して声をかけた鬼は、人間であるはずの巫女に起きた瞬間凄い力で齧られた恐怖で知り合いである妖怪の家に逃げ込んでいる
能力を使ってまで逃げ出し、そのまま部屋の隅でガタガタ震えて知り合いの妖怪に命乞いをしたが妖怪は寝ていた
妖怪の布団に潜り込んで泣いている鬼を見て見ぬ振りをする情が、その妖怪にも、妖怪の式にも存在した
かくして最後の頼みがいなくなった今、巫女は自業自得と言う言葉の通りその業を自らの体で体現していたのであった
何時間たった頃だろうか
三途の川の渡し守が川の水を飲もうとしたり咲いている花を食べようとしたりするのを、普段の怠け姿が思い浮かばないほどに必死に防ぐこと数えれば十数回
とうとう巫女が、その意識を完全に取り戻した
「ふぅ、今回は流石に不味いわね」
普段は物理的に浮いている巫女が此処まで追い込まれるのは、相当に珍しい
巫女の記憶に一番新しいのは、子供の頃に悪戯で陰陽玉を仕込んだ饅頭をとある妖怪に食べさせたら妖怪の中で大爆発
鈍い衝撃音と共に妖怪の目や鼻、耳など体中の穴から煙が出た時の
『ちょっとだけ! ちょっとだけだからぁ! 』
と叫び、九本の尻尾を持つ式に抑えられながら巫女の【生と死の境目】を操ろうとしていたぶっちゃけて八雲紫
その後怒りが収まらない妖怪が【貧と富の境目】を操って・・・・・・そこまで思い出して巫女は立ち上がる
「良く考えたら、今の状態って紫のせいじゃな・・・・・・・あ、立ちくらみ」
そしてまた倒れる、まるで何処かの病弱な少女のような巫女は実際に衰弱している
主に栄養失調とかそんな感じの病気、けれど鉄分と繊維質だけが足りている巫女の生態は謎ばかりだ
本来なら此処まで酷くなる前に顔見知りの魔法使いやお節介な妖怪による手助け、もしくは自分で山菜でも採ったりするのだが今回は間が悪かったとしか言いようが無い
誰も来ないのは普通に用事があったりするだけであり、山菜を集めなかったのはこの暑い中に外に出たくないと巫女が思ったからである
まさに自業自得、決して自分を頼るように某吸血鬼が運命を操作などしていないはずだ
「仕方が無いわね」
そう呟いて立ち上がった巫女は、まるで爪楊枝を銜えるかのように巫女服の裾から取り出した針を噛む
噛んで一時的にでも空腹を紛らわすかと思いきや、バキン、ガギン、そんな音が巫女の口元から聞こえ最後には巫女が何かを飲み込んだ
「献血! そう、これは献血なのよ! 食べれば血は増えるけど、血じゃあお腹は膨らまないのよ! 」
まるで誰かに言い訳をするかのように、虚空に向かって叫ぶ巫女
もはや確認するまでも無い、巫女は正気を失っている
その後はまるで乱暴に操られた人形のようにガクガクと、しかし凄まじい速度で巫女は何処かへと飛び出していった
何処かとは言うまでも無く、紅魔館である
そんな巫女が目指す紅魔館の門前では、こちらもまた門に寄り掛かりながら口を半開きにしてお腹を押さえる門番が居た
これで腹部を怪我していたりしたら格好はつくのだが、手の隙間から聞こえるのはグゥと言う腹の虫の鳴き声
「はぁ、お腹すいたなぁ」
普通にお腹を空かせているだけだが、今其処に向かっている巫女に比べると門番さえ恵まれいているように見えるから不思議だ
何故だか涙が止まらない、比べる対象が悪かったのだろうか
お腹を空かせた門番は普通に朝食も昼食も食べていた、燃費の問題なのか、それにしても巫女は・・・・・・・何も言うまい
「コッペパン、今日のご飯もコッペパン。せめてスープは付けて欲しいな」
都市伝説、冗談の類だと思われていた『門番のご飯はコッペパン』は真実であったと判明
だが一句詠む余裕はあるらしい、飢えた巫女を見た後だと何故か同情できそうに無い
そうやってお腹をすかせつつも、門番はきちんと仕事をしているようだった
その証拠に、凄まじい速度で滑空する巫女の接近には気づいている
だが気づいていも反応は出来なかった、それ程の速度で飛んできたのだ
反応した頃には既に歩いて数歩の位置に巫女はいた、けれど前触れも無く巫女は門番の前に浮かんで止まっていた
「・・・・・・・何の用? お嬢様なら、今の時間は寝ているはずだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・」
浮いたまま彫像のように動かない不気味な巫女に門番は話しかけるが、巫女は何故か門番の帽子に視線を固定しながら動かない
門番は試しに首を左右に動かしてみれば、巫女の視線も左右揺れる
同時に揺れた門番の帽子が少しずれた瞬間だった、巫女のまるで開けたり閉じたりするのが億劫だと半眼で開きっぱなしだった眼が大きく見開く
巫女には見えたのだ
帽子の中に、コッペパン
「喰らうぅぅぅ!! 」
「何をぉー!? 」
バグン
一体どうやったのか、巫女の口の中には門番の帽子が全部入りきっていた
まるで何処かの幽霊のような其れに驚愕し、門番は恐怖を感じずにはいられない
「・・・・・・・・あの、出来れば帽子は返して欲しいかなぁー、なんて」
「・・・・・ペッ」
モグモグと若干幸せそうな巫女は、門番の言葉に何かを吐き出す
星マークの真ん中に龍と書かれていただろうそれは、折れ曲がり不透明な粘着性が高いだろう液体に塗れていた
きっと門番が何も言わなかったら、其れさえも巫女の栄養分となった事だろう
「足りない」
「え? 」
「まだあるでしょ? 出せ」
そう言って巫女が次に睨み付けたのは、門番の紅く長い髪の毛
門番は顔を青ざめる、下手をすると自分の髪の毛どころが自分自身が帽子と同じ運命を辿りかねない
「血、あげるから。もっとパンを出して」
「・・・・・・・それは、言う相手を間違ってない? 」
恐怖に後ずさりする門番、それを見た巫女は何を思ったのか交換条件を言い始める
けれど其れは門番の言うとおり相手を間違っている、きっと門番の主である吸血鬼に同じ事を言えば最低一週間は食事に困ることは無くなるだろうに
「待てないのよ」
「・・・・・・・・・・・はい」
色々と諦めた門番はおもむろに自分の髪の毛に手を突っ込んで、中から数本のコッペパンを取り出す
他人の髪の毛が触れたパンも何のその、むしろ髪の毛も食えますとばかりに満面の笑顔で受け取った巫女は数本のパンを暴食
「ん」
「は、はい! 」
水も無しにコンマ単位の速さでパンが口の中へと消える、顔は笑っているが眼は笑っていない巫女の視線に晒されている門番は急いで残りのパンを取り出す
また髪の毛から、スリットの深いスカートから、大きく膨らむ胸元から、出てくる出てくるコッペパン
巫女が満足するのが先か、コッペパンが尽きるのが先か
戦々恐々とする門番を前に、とうとう最後のコッペパンが食べられる
「・・・・・ふぅー」
「・・・・・はぁー」
巫女から感じる『満足気』な気を感じ取った門番は、巫女の満足な吐息に安堵の溜息をつく
「悪かったわね、帽子」
「別に帽子なら作れますし、良いですよ」
お腹が膨れて寛大な気分の巫女は先ほど食べてしまった帽子について謝罪するが、先ほどまでの恐怖が引ききっていない門番は低頭姿勢で愛想笑い
むしろこのまま帰ってくれと門番は願うが、こんな時の願いは基本的に叶わないのがお約束であった
「それじゃ、お礼の血をあげるわね」
「え゛? 」
貴女血は何処から飲むの? なんて本気で聞いてくる巫女に門番は口元を引き攣らせる
門番の頭の中では断った場合『じゃ、私が飲むわね』と言って巫女に噛み付かれる自分が干からびていた
あまりにも現実的な想像に門番の顔は引き攣るどころか青ざめ始める、満足気な巫女は勿論気づかない
「手! ゆ、指とか良いですか!? 」
「御札とか持つからあんまり良くないんだけど、仕方が」
「それでは足で! 足でお願いします! 」
「? そう? じゃ、足ね」
必死そうな門番を不思議そうに見つめながら、巫女は足袋とサンダルを脱いで足の甲を取り出した針で痛くないように傷つける
そしてその傷つけた足を門番に差し出しながら言うのだ
「どうぞ? 」
何その女王様プレイ、門番の脳裏に『舐めろ』と椅子に座りながら足を前に出す己の主が思い浮かぶ
ちなみに足を舐めろと言う想像上の主は、その従者の妄想を延々と聞かされた末に植えつけられたイメージであって実際はそんな事をしたりは残念ながら無い
ついでに言えば従者の妄想の中で己の主は『まるで雌○ね。ほら、鳴きなさい』などと凄まじくハイカラであった事を告げておく
門番にそんな趣味は、本当に残念ながら微塵も無かった
「な、舐めろと言われやがりますのですか? 」
「別に吸っても良いけど? 」
この巫女、本気である
門番の頭の中では断った場合『じゃ、私が舐めるわね』と言って足を丹念に丹念に舐めまわす巫女が・・・・・どちらがマシなのか一瞬迷う門番であった
「・・・・・・・・・・・・・舐めますよ? 」
「うん」
結局舐めることにした門番は、もっと高く浮んでくれたなら舐めるだけなのに目線の高さに合わせて浮んでいる為に跪いて巫女の足を手に取る
実際に舐める直前になって踏みとどまった門番は少し思うのであった
ちょとなら齧っても良いかなぁ、門番は巫女を食べます
だが齧った場合は『一口は一口ね』と言って一飲みにされる自分自身が、門番の想像ではどんどん巫女が人間離れしていく、何れ巨大化するだろう
それらの取り留めない事を考えながら門番は巫女の足を、血の出ている足の甲を舐めた
「あっ」
そうやって、舐められてから巫女は初めて気がついたのだ
まるで跪かせて足を舐めさせているかのように、まるでも何も実際舐めさせているのだが
「ちょ、ちょっと!? 」
「んー」
気がついて慌てて止めようとするも、考えると言う現実逃避をしながら舐めている門番にその声は届かない
「ひゃ!? うわ、うぁ!? 」
「んんー」
顔を羞恥から真っ赤にしながら叫ぶ巫女の声は届かない
「ひぅ!? あ、ぁー!? 」
「んんんー」
きっと羞恥から顔を真っ赤にしているのだと思われ声を押し殺す巫女の姿を、門番は見ていない
「あ、うぁ! もう駄目ぇー!! 」
「んぶっ!? 」
そしてやっと、我慢しきれずに引いた巫女の足が額に当たって、やっと門番は気がついた
顔を真っ赤にしながら舐められていた場所を押さえながら、涙目で睨み付ける視線に門番は顔色を青を通り過ぎて白くさせる
けれど門番の予想と違い、巫女は自分の脱いだ足袋とサンダルを素早く拾って来た時にも負けないほどの速度で去って行った
呆然と飛び去る巫女を姿が見えなくなるまで見送った門番は、自分が助かったのだと深い安堵の溜息をついて尻餅をつく
「あ、あはは。腰が抜けちゃった」
お嬢様ごめんなさい、お嬢様より先に巫女の血を飲んじゃましたと心の中で謝りながら空を見上げるのだった
既に日は沈み星空の輝く空、一体自分はどれぐらいの時間巫女を舐め続けていたのか
その疑問を意図的に封印しながら、門番の仕事をメイド達に交代してもらう門番であった
後日、仕返しとして恐怖に顔を引き攣らせる門番の足を舐め続ける巫女がいたとかいなかったとか
「・・・・・・・・・・・あ゛ー」
を出来ずに居る巫女
畳の上に寝っ転がると言うか倒れながら、虚ろな瞳で何処とも無く見つめて動かないで居る
そんな巫女の傍には、何故か歯型のついたアミュレットと陰陽玉、引き千切られたかのような御札が落ち散らばっていた
ちなみに心配して声をかけた鬼は、人間であるはずの巫女に起きた瞬間凄い力で齧られた恐怖で知り合いである妖怪の家に逃げ込んでいる
能力を使ってまで逃げ出し、そのまま部屋の隅でガタガタ震えて知り合いの妖怪に命乞いをしたが妖怪は寝ていた
妖怪の布団に潜り込んで泣いている鬼を見て見ぬ振りをする情が、その妖怪にも、妖怪の式にも存在した
かくして最後の頼みがいなくなった今、巫女は自業自得と言う言葉の通りその業を自らの体で体現していたのであった
何時間たった頃だろうか
三途の川の渡し守が川の水を飲もうとしたり咲いている花を食べようとしたりするのを、普段の怠け姿が思い浮かばないほどに必死に防ぐこと数えれば十数回
とうとう巫女が、その意識を完全に取り戻した
「ふぅ、今回は流石に不味いわね」
普段は物理的に浮いている巫女が此処まで追い込まれるのは、相当に珍しい
巫女の記憶に一番新しいのは、子供の頃に悪戯で陰陽玉を仕込んだ饅頭をとある妖怪に食べさせたら妖怪の中で大爆発
鈍い衝撃音と共に妖怪の目や鼻、耳など体中の穴から煙が出た時の
『ちょっとだけ! ちょっとだけだからぁ! 』
と叫び、九本の尻尾を持つ式に抑えられながら巫女の【生と死の境目】を操ろうとしていたぶっちゃけて八雲紫
その後怒りが収まらない妖怪が【貧と富の境目】を操って・・・・・・そこまで思い出して巫女は立ち上がる
「良く考えたら、今の状態って紫のせいじゃな・・・・・・・あ、立ちくらみ」
そしてまた倒れる、まるで何処かの病弱な少女のような巫女は実際に衰弱している
主に栄養失調とかそんな感じの病気、けれど鉄分と繊維質だけが足りている巫女の生態は謎ばかりだ
本来なら此処まで酷くなる前に顔見知りの魔法使いやお節介な妖怪による手助け、もしくは自分で山菜でも採ったりするのだが今回は間が悪かったとしか言いようが無い
誰も来ないのは普通に用事があったりするだけであり、山菜を集めなかったのはこの暑い中に外に出たくないと巫女が思ったからである
まさに自業自得、決して自分を頼るように某吸血鬼が運命を操作などしていないはずだ
「仕方が無いわね」
そう呟いて立ち上がった巫女は、まるで爪楊枝を銜えるかのように巫女服の裾から取り出した針を噛む
噛んで一時的にでも空腹を紛らわすかと思いきや、バキン、ガギン、そんな音が巫女の口元から聞こえ最後には巫女が何かを飲み込んだ
「献血! そう、これは献血なのよ! 食べれば血は増えるけど、血じゃあお腹は膨らまないのよ! 」
まるで誰かに言い訳をするかのように、虚空に向かって叫ぶ巫女
もはや確認するまでも無い、巫女は正気を失っている
その後はまるで乱暴に操られた人形のようにガクガクと、しかし凄まじい速度で巫女は何処かへと飛び出していった
何処かとは言うまでも無く、紅魔館である
そんな巫女が目指す紅魔館の門前では、こちらもまた門に寄り掛かりながら口を半開きにしてお腹を押さえる門番が居た
これで腹部を怪我していたりしたら格好はつくのだが、手の隙間から聞こえるのはグゥと言う腹の虫の鳴き声
「はぁ、お腹すいたなぁ」
普通にお腹を空かせているだけだが、今其処に向かっている巫女に比べると門番さえ恵まれいているように見えるから不思議だ
何故だか涙が止まらない、比べる対象が悪かったのだろうか
お腹を空かせた門番は普通に朝食も昼食も食べていた、燃費の問題なのか、それにしても巫女は・・・・・・・何も言うまい
「コッペパン、今日のご飯もコッペパン。せめてスープは付けて欲しいな」
都市伝説、冗談の類だと思われていた『門番のご飯はコッペパン』は真実であったと判明
だが一句詠む余裕はあるらしい、飢えた巫女を見た後だと何故か同情できそうに無い
そうやってお腹をすかせつつも、門番はきちんと仕事をしているようだった
その証拠に、凄まじい速度で滑空する巫女の接近には気づいている
だが気づいていも反応は出来なかった、それ程の速度で飛んできたのだ
反応した頃には既に歩いて数歩の位置に巫女はいた、けれど前触れも無く巫女は門番の前に浮かんで止まっていた
「・・・・・・・何の用? お嬢様なら、今の時間は寝ているはずだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・」
浮いたまま彫像のように動かない不気味な巫女に門番は話しかけるが、巫女は何故か門番の帽子に視線を固定しながら動かない
門番は試しに首を左右に動かしてみれば、巫女の視線も左右揺れる
同時に揺れた門番の帽子が少しずれた瞬間だった、巫女のまるで開けたり閉じたりするのが億劫だと半眼で開きっぱなしだった眼が大きく見開く
巫女には見えたのだ
帽子の中に、コッペパン
「喰らうぅぅぅ!! 」
「何をぉー!? 」
バグン
一体どうやったのか、巫女の口の中には門番の帽子が全部入りきっていた
まるで何処かの幽霊のような其れに驚愕し、門番は恐怖を感じずにはいられない
「・・・・・・・・あの、出来れば帽子は返して欲しいかなぁー、なんて」
「・・・・・ペッ」
モグモグと若干幸せそうな巫女は、門番の言葉に何かを吐き出す
星マークの真ん中に龍と書かれていただろうそれは、折れ曲がり不透明な粘着性が高いだろう液体に塗れていた
きっと門番が何も言わなかったら、其れさえも巫女の栄養分となった事だろう
「足りない」
「え? 」
「まだあるでしょ? 出せ」
そう言って巫女が次に睨み付けたのは、門番の紅く長い髪の毛
門番は顔を青ざめる、下手をすると自分の髪の毛どころが自分自身が帽子と同じ運命を辿りかねない
「血、あげるから。もっとパンを出して」
「・・・・・・・それは、言う相手を間違ってない? 」
恐怖に後ずさりする門番、それを見た巫女は何を思ったのか交換条件を言い始める
けれど其れは門番の言うとおり相手を間違っている、きっと門番の主である吸血鬼に同じ事を言えば最低一週間は食事に困ることは無くなるだろうに
「待てないのよ」
「・・・・・・・・・・・はい」
色々と諦めた門番はおもむろに自分の髪の毛に手を突っ込んで、中から数本のコッペパンを取り出す
他人の髪の毛が触れたパンも何のその、むしろ髪の毛も食えますとばかりに満面の笑顔で受け取った巫女は数本のパンを暴食
「ん」
「は、はい! 」
水も無しにコンマ単位の速さでパンが口の中へと消える、顔は笑っているが眼は笑っていない巫女の視線に晒されている門番は急いで残りのパンを取り出す
また髪の毛から、スリットの深いスカートから、大きく膨らむ胸元から、出てくる出てくるコッペパン
巫女が満足するのが先か、コッペパンが尽きるのが先か
戦々恐々とする門番を前に、とうとう最後のコッペパンが食べられる
「・・・・・ふぅー」
「・・・・・はぁー」
巫女から感じる『満足気』な気を感じ取った門番は、巫女の満足な吐息に安堵の溜息をつく
「悪かったわね、帽子」
「別に帽子なら作れますし、良いですよ」
お腹が膨れて寛大な気分の巫女は先ほど食べてしまった帽子について謝罪するが、先ほどまでの恐怖が引ききっていない門番は低頭姿勢で愛想笑い
むしろこのまま帰ってくれと門番は願うが、こんな時の願いは基本的に叶わないのがお約束であった
「それじゃ、お礼の血をあげるわね」
「え゛? 」
貴女血は何処から飲むの? なんて本気で聞いてくる巫女に門番は口元を引き攣らせる
門番の頭の中では断った場合『じゃ、私が飲むわね』と言って巫女に噛み付かれる自分が干からびていた
あまりにも現実的な想像に門番の顔は引き攣るどころか青ざめ始める、満足気な巫女は勿論気づかない
「手! ゆ、指とか良いですか!? 」
「御札とか持つからあんまり良くないんだけど、仕方が」
「それでは足で! 足でお願いします! 」
「? そう? じゃ、足ね」
必死そうな門番を不思議そうに見つめながら、巫女は足袋とサンダルを脱いで足の甲を取り出した針で痛くないように傷つける
そしてその傷つけた足を門番に差し出しながら言うのだ
「どうぞ? 」
何その女王様プレイ、門番の脳裏に『舐めろ』と椅子に座りながら足を前に出す己の主が思い浮かぶ
ちなみに足を舐めろと言う想像上の主は、その従者の妄想を延々と聞かされた末に植えつけられたイメージであって実際はそんな事をしたりは残念ながら無い
ついでに言えば従者の妄想の中で己の主は『まるで雌○ね。ほら、鳴きなさい』などと凄まじくハイカラであった事を告げておく
門番にそんな趣味は、本当に残念ながら微塵も無かった
「な、舐めろと言われやがりますのですか? 」
「別に吸っても良いけど? 」
この巫女、本気である
門番の頭の中では断った場合『じゃ、私が舐めるわね』と言って足を丹念に丹念に舐めまわす巫女が・・・・・どちらがマシなのか一瞬迷う門番であった
「・・・・・・・・・・・・・舐めますよ? 」
「うん」
結局舐めることにした門番は、もっと高く浮んでくれたなら舐めるだけなのに目線の高さに合わせて浮んでいる為に跪いて巫女の足を手に取る
実際に舐める直前になって踏みとどまった門番は少し思うのであった
ちょとなら齧っても良いかなぁ、門番は巫女を食べます
だが齧った場合は『一口は一口ね』と言って一飲みにされる自分自身が、門番の想像ではどんどん巫女が人間離れしていく、何れ巨大化するだろう
それらの取り留めない事を考えながら門番は巫女の足を、血の出ている足の甲を舐めた
「あっ」
そうやって、舐められてから巫女は初めて気がついたのだ
まるで跪かせて足を舐めさせているかのように、まるでも何も実際舐めさせているのだが
「ちょ、ちょっと!? 」
「んー」
気がついて慌てて止めようとするも、考えると言う現実逃避をしながら舐めている門番にその声は届かない
「ひゃ!? うわ、うぁ!? 」
「んんー」
顔を羞恥から真っ赤にしながら叫ぶ巫女の声は届かない
「ひぅ!? あ、ぁー!? 」
「んんんー」
きっと羞恥から顔を真っ赤にしているのだと思われ声を押し殺す巫女の姿を、門番は見ていない
「あ、うぁ! もう駄目ぇー!! 」
「んぶっ!? 」
そしてやっと、我慢しきれずに引いた巫女の足が額に当たって、やっと門番は気がついた
顔を真っ赤にしながら舐められていた場所を押さえながら、涙目で睨み付ける視線に門番は顔色を青を通り過ぎて白くさせる
けれど門番の予想と違い、巫女は自分の脱いだ足袋とサンダルを素早く拾って来た時にも負けないほどの速度で去って行った
呆然と飛び去る巫女を姿が見えなくなるまで見送った門番は、自分が助かったのだと深い安堵の溜息をついて尻餅をつく
「あ、あはは。腰が抜けちゃった」
お嬢様ごめんなさい、お嬢様より先に巫女の血を飲んじゃましたと心の中で謝りながら空を見上げるのだった
既に日は沈み星空の輝く空、一体自分はどれぐらいの時間巫女を舐め続けていたのか
その疑問を意図的に封印しながら、門番の仕事をメイド達に交代してもらう門番であった
後日、仕返しとして恐怖に顔を引き攣らせる門番の足を舐め続ける巫女がいたとかいなかったとか