いつも通り図書館に向っていた魔理沙は、いつも通りではない待遇を受けていた。
「・・・どういうつもりだ?」
魔理沙が目の前に座っているパチュリーに問い掛けると、彼女は本を閉じ、魔理沙へと視線を向けた。
昨日までの弾幕の出迎えが、今日になっていきなり案内役付きで通されてお茶とお菓子まで出される様になれば、魔理沙でなくても警戒すると言うモノだ。
「レミィの気まぐれでね。今日の貴方は一日館長なの」
「・・・は?」
「一日館長。平たく言えば、貴方は今日一日、普段の私と同じ権限を持ち、同じ待遇を受けられるのよ」
「・・・なんでまた唐突に?」
魔理沙の記憶が正しければ、前回レミリアに会ったのは宴会の時。それ以外は襲撃犯と襲撃を受ける屋敷の主と言う関係であり、このような待遇を受ける理由は思い浮かばない。
「言ったでしょ、レミィの気まぐれだって」
「・・・お前、よく許可したな?」
「勿論反対したわ。でも話し合いの結果、2つの条件をつける事で許可したの」
「条件?」
「えぇ」
パチュリーが空中を指でなぞる。その軌跡は青く発光し、空中には2行分の文字が映し出された。
「1つ、魔理沙が拒否すればこの件はなかった事にする」
「ふむ。もう1つは?」
「本が減った場合、その数に応じて罰を与える。レミィが責任を持って、直々に、ね」
「・・・持って帰るやつが私以外にもいたのか?」
「どうする?」
にっこりと笑うパチュリー。その珍しい表情に、魔理沙は一瞬だけ見惚れてしまう。
「小悪魔への命令権だってあるし、勿論本は読み放題。但し、持ち帰りは禁止。どう、やる?」
「そうだなぁ」
魔理沙が腕を組んで悩み始める。その結果、リスクとリターンを考えれば受けない方が良い、と言う結論に達する。しかし彼女は利害だけで動く無粋な輩とは一味違った。魔理沙の最終的な結論はこうだ。こんな面白い事に乗らねば、霧雨魔理沙の名が泣くぜ!
「よし、のった!」
「そう。じゃあ、たった今から貴方はヴワル魔法図書館の館長よ。おめでとう」
「おう。さんきゅ」
そういいながら、パチュリーはまたにっこりと笑った。それを見た魔理沙が、今日は顔色もいいし、機嫌も体調もいいんだな、と思った瞬間、それは起こった。
「月符『サイレントセレナ』」
声を出す間もなく吹っ飛ぶ魔理沙。なんとか簡易結界は間に合ったが、かなりの距離を吹っ飛ばされ、ぼろぼろの状態だった。
「何するんだよ!」
「じゃ、本は頂いていくから」
「何ィィィ!?」
パチュリーは、ひょいひょい、と本棚から本を取り出し、それを魔法で浮かせる。そしてパチュリーは自分の周りにたくさんの本を浮かせたまま、出口へと向って歩き出した。
「このくらいあれば平気かしら?」
「ちょ、待て!」
「火符『アグニシャイン』」
「あたるかっ」
「ばいばい」
精霊の火炎を置き土産に、パチュリーは図書館を脱出する。そして予め咲夜に準備させておいた隠し部屋へと入り、その空間に封印魔法を施した。
「さて、今日ものんびり本を読むとしましょうか」
その日、3度に渡って襲撃を行ったパチュリーは、涙目の魔理沙から合計50冊以上の本を強奪する事に成功する。その際、小悪魔の手引きがあった事は言うまでもない。
ちなみに罰は1冊につきフランドールと1弾幕ごっこだった。それに懲りたのか、彼女は少しずつではあるが本を返却するようになったとかならなかったとか。
「貴方を一日輝夜姫に任命するわ」
「断るっ!」
こうして今日も竹林では殺し合いが行われていた。
レミリア・スカーレットは思った。自分の妹にも吸血鬼の何たるかを教えようと。
「と、言う訳でフラン。今日一日、私と交代してもらうわ」
「はへ?」
珍しく地下までやってきた姉の第一声に、絵を描いていたフランドールは不思議そうな顔でそう答えた。
「私がお姉さまで、お姉さまが私をやるの?」
「そうよ」
レミリアは悩んでいるフランドールを黙って見つめていた。自分で考える事はとても重要な事だと、彼女は誰よりも知っている。
「やる!」
「そう。じゃあ、がんばってね」
「うん!」
こうして姉妹の入れ替わりはあっさりと決定した。
「じゃあ、私はお姉さまの部屋に行くね」
「えぇ」
無邪気に笑うフランドール。彼女はレミリアの手から鍵をひったくると、扉の鍵を開けてすごい勢いで部屋を飛び出していった。この部屋はその性質上、扉が閉まった瞬間に鍵がかかるようになっているのだ。
「ふふ。可愛いわね」
すとん、とレミリアはその場に腰掛けた。
半分以上瓦礫と化した部屋。フランドールが書いていた絵。それに絵本と、簡素な調度品が少々。こんな寂しいところに長い間閉じ込めていたのかと思うと、レミリアは少しだけ罪悪感を感じてしまった。
「咲夜」
お茶を頼もう。そう思って声をかけるが、反応はない。彼女には今日一日、フランドール付きとなるよう命令したのだから、当然だ。
「はぁ、駄目ね」
自分が如何に従者に依存して生きているかがよく判った。従者と眷属の違いはあれど、吸血鬼とは本来そういうモノなのだから仕方ない、と自分に言い聞かせながら立ち上がる。
「・・・あれ?」
部屋を出ようとドアノブに手をかけるが、びくともしない。それどころか、段々力が抜けていくような・・・。
「閉じ込められた!?」
ならば壊して突破すれば、と考えたが、レミリアの力ではそれは不可能だろう。何せ、フランドールですら破れないように作ってあるのだから。
「・・・もしかして、誰かが迎えにくるまでこのまま?」
お茶もない、暇潰しの相手もいない空間に取り残された。とは言え、フランドールはそこで500年近く過ごしているのだと考え直し、何か時間を潰す方法があるはず、と周りを見渡した。
「・・・破壊活動?」
レミリアの言葉どおり、この中で出来る暇つぶしと言えば、そのくらいしかなさそうだった。先程のフランドールを真似て絵を描こうにも、彼女がペンを持ち出してしまったので紙しか残っていない。
「・・・さすがにこれでは遊べないわね」
レミリアは、この前咲夜が教えてくれた折り紙という遊びを思い出していた。それを実行すれば暇は潰せそうだが、姉妹喧嘩の火種になりかねない。
「あぁ、私ってなんて妹思いなんでしょう」
レミリアの声だけが部屋中に響き渡る。レミリアは思った。空しい、と。
「暇すぎて死にそうだわ」
食事時になれば誰か来るでしょう。そんなレミリアの考えとは裏腹に、迎えはやってこなかった。咲夜がフランドールの食事を届ける必要がないと伝えた事と、レミリアの食事は咲夜が作るものだと思っているメイド達が思っていた事が原因だ。
「お~な~か~す~い~た~」
妹のベッドでだらしなく寝転がる姉。こんな姿、他の者には見せられないわね、などと考えながらレミリアは全身から力を抜いた。常に従者を従えている彼女にとって、絶対に誰も見ていない言うのは想像以上に気が抜ける状態だった。
「・・・くぅ」
レミリアはそのまま眠りに付いてしまう。
そして数時間後、目を覚ますとやっぱり誰もいなかった。
「・・・フランの食事当番は首ね」
完全に濡れ衣なのだが、レミリアにそんな事が判る訳もなく。余談だが、今日の食事係りは咲夜の説得により首を免れ、代わりにフラン付きから外されるという処罰を食らってむしろ喜んだんだとか。
「咲夜にもお灸を据えなきゃね。ふふふ、どんなのがいいかしら」
しばらくはそうした妄想で時間を潰すが、それでも迎えはやってこない。
「うぅ」
もう半日以上ここにいるレミリアは、様々な意味で限界が近かった。お腹は空いたし、寂しいし。
「ざぁぐぅやぁ~」
誰もいな寂しさと、そんな場所に妹を閉じ込めていた申し訳なさに、レミリアはついには泣き出してしまう。泣きつかれ、再度眠ってしまうまで。
結局、レミリアは嬉しそうなフランドールが迎えに来るまで丸一日中ここに居続けた。その際、レミリアが全力でフランドールに謝る風景が見られ、以後、レミリアが地下へ来る機会が増えたんだとか。
「ねぇ霊夢、一日だけ白玉楼の主をやらない? 三食昼寝付きよ?」
「やるやる!」
「じゃ、まずは死んで――」
「誰がやるかっ!」
今日も博麗神社は平和だった。
何やるかって?そりゃ一日スキマで幻想郷乳ウォッチンg(スキマ落とし
それぞれの一日○○模様、楽しく読ませていただきました。
ちなみに私は博麗神社で一日神主がしたいです。霊夢達とまったり~と。