Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

初恋

2006/09/07 12:08:54
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 これはぼくが聞いた本当の話だ。

 氷精チルノといえば、湖にすみついたタチのわるい妖精。
 ちょくちょくイタズラをしかけ、人間や獣のみならず、妖のたぐいにすら煙たがられていた。
 しかしそんなひねくれ者でも、心のズイまで氷でできてるってわけじゃなかったらしく……
 こしゃくにも恋をしたという。


 相手は人間の若者だった。
 そも悲しいかな、この妖精は、自分を襲っている感情というものの正体を知らなかった。
 とにかく彼を見ると、いやに胸騒ぎがして、苦しくなる。
 それを恋だ、とは気付かなかった。
「こいつのせいで」
 と、浅はかにも思った。
「あたしはおかしくなっている!」
 それじたいは、べつに間違いでもなかったわけだが……
 しかし解決方法は、じつに短絡的だった。
 若者を氷漬けにして、カエルよろしく砕いてしまったのだ。
 木っ端微塵になった彼を見て、ようやく彼女は気付いた。
 自分が、彼を好いていたということに。
 むろんすべては手遅れで……
 チルノは、茫然とした。
 泣けるものなら泣いたかもしれない。
 だがそこは妖精の悲しさ、涙など流す習性はない。
 だから舞った。
 骸となった若者の手を拾い上げ、手にとって舞い、踊った。
 それは遅すぎた求愛のダンスだったのかもしれない。


 ところで死んだ若者には恋人がいた。むろん人間の。
 彼女は想い人が妖精に殺められたと聞いて嘆き、悲しんだ。
 もっともそこは辺境の女、泣いてばかりはいない。
「妖精め」
 得物を手にして叫んだ。
「仇を取らずにいるものか!」
 そこで彼女はチルノを討つべく湖畔にむかった。
 しかしどだい彼女は一介の人間、妖精にしては手ごわいチルノに正面からぶつかっては、勝ち目がうすい。
 そこで物陰に身をひそめ、様子をうかがった。
 にっくき仇は、暢気に踊っていた。
 何かを持って。
 それが氷漬けになった亡き愛人の手であることに気付き、女はわっと胸をふさがれた。
 いかに妖精、妖魅のたぐいとはいえ、死者をあそこまで辱めるなどとは!
 怒りに目がくらんだ彼女は、妖精殺しのまじないがこもった匕首を懐にのみ、距離を詰めていった。
 さいわい氷精は踊りに夢中で、まるで警戒していない。
 必殺の間合いまで近づいてきた時がその命日!
 女は、グイと匕首の柄を握る力を強めた。……
 ふと、妖精が踊りをやめた。
 すわ気付かれたか、と思いきや、チルノは冷凍された若者の手をジッと見つめている。
 やがて目を閉じ、接吻した。
 懐へとしまいこみ、ヒラリ飛び立つ。
 その姿を見送り、女は追うこともできずにいた。
「かわいそうに」
 うめくように独語した。
「かわいそうに!! ……」
 それは誰に向かって言った言葉であったのか。
 死してなお安眠できぬであろう、亡き恋人へか。
 恋人を失い、また仇を打ち損ねた、おのれ自身へか。
 はたまた……


 それから女がどうしたか、分からない。
 チルノはといえば、ついぞ変わらぬイタズラ者だ。
 だが時おりふと、その顔に蔭がさすことがあるとすれば……
 あるいは思い出しているのかもしれない。

 むくわれなかった、初恋のてんまつを。
コメント



1.名無し妖怪削除
バカバカ⑨なんていわれてるけど
こんなチルノも幻想的で悪くないね
2.名無し妖怪削除
堪らんね。
3.絶望を司る程度の能力削除
ぐはぁ・・・