終わらない永遠とも思える夜の中、欠けた月の下でアリス・マーガトロイドは霧雨邸に向かって飛んでいた。
まったく、人間は本当にどんくさいんだから。
毒吐きながら、空を飛ぶ。片手には魔道書「グリモワール」。
これだけの餞別があればあのバカが動かないわけはない。この異常を止めるためには二人でも足りなさそうな気がする……。
霧雨邸上空に着いた。
「ついてこれる?」
上海人形はコクリと頷いた。
反重力の力をそのまま本来かかるべき重力へ上乗せする。本来の二倍のスピードでアリスの身体は地表へ向けて落下し始める。加速するスピード。風属性の魔法の詠唱。
「――――」
地表ギリギリで地面に向かってアリスは右手をかざした。
ドフッ――――!
土煙を上げ重力に逆らったアリスの身体が宙に浮く。すでに反重力の力を働かせていた。大地に降り立ったアリスは何事もなかったかのように歩き出した。アリスは魔法の力を使って空を飛ぶため重力の魔法の力加減で浮き沈みしている。少しずつ降りるのが面倒だからいつもこんな感じに降りていた。
霊夢や半幽霊の小娘なら魔法など使わなくても最初から飛べる。魔理沙は箒を媒体にして飛んでいる。一人だけ分からないのが、紅魔のメイドだった。あいつだけは何の手品だか知らないが、飛んでいる。手品が趣味だからタネの無い手品ということだろうか。まあ今はどうでもいい。
玄関の扉を二、三回ノックした。
「魔理沙いる?」
こんな夜更けにいないはずはないので、勝手に扉を開けた。
「魔理沙いる?」
もう一度繰り返す。
「あ、すいません」
「?」
部屋の奥の方、何かの機械みたいなのの裏から魔理沙が姿を見せた。エプロンの裾で両手を拭きながらトテトテと歩いてくる。なんかいつもと様子が違う。
「研究に夢中で、出迎えできませんでした……」
何故に敬語?
「魔理沙、あなた、眼鏡架けてたの?」
「あ、部屋にいる時だけですよ」
「どうして敬語なの?」
「え? 何でですか?」
かくっと小首を傾げる。
今日の魔理沙はどうしてか妙に女の子っぽいんだけど……。
「何か今日、変だよ?」
そう言われて合点がいったのか、魔理沙は眼鏡を外し、頭を掻いた。
「あー、お前知らなかったんだな」
「?」
元に戻った……?
「眼鏡架けると性格変わるんだぜ、私」
あなたはギャルゲーのキャラクターですか。捨て台詞みたいな皮肉っぽい笑みを張り付かせたまま、また眼鏡を架ける。
「それ、マジックアイテムでしょ」
「あ、分かります?」
「私これでも魔法使いなんだけど……」
ちょっとだけ自慢げな魔理沙の様子に辟易した。眼鏡架けると随分、純粋になるな。
「これを架けると、分析力がすごいことになるんです」
もっと具体的に教えてほしいけど、いくら訊いても無駄になりそうだからやめとこう。
「それって、あの、何でも売ってる店の店主と同じ能力?」
「そんな感じです」
「確かに便利ね」
魔理沙の意外な一面に驚くあまり、本来の用件を忘れていた。
「はいこれ」
「わあ、それはグリモワールですね」
「あげるわ」
「えっ? でもこれ、すっごく貴重な本ですよっ! いいんですか?」
何故こう我慢できないほどむず痒い気持ちに襲われるのだろう。
「その代わり、私の言うことを一つだけ聞いて」
「な、なんですか……」
ごくり、と喉を鳴らす。
「私の前では眼鏡を外さないでほしいの」
なんか耳まで熱くなってきた。何言ってるのかアリス自身分かってない。もう月の異常がどうのとかそういうのはどうでも良くなった。
だってこの魔理沙、もう我慢できません。
アリスに理性とかプライドとかそういうものが存在しなければ持って帰っている所だった。
「そんなことでいいなら外さないですっ」
「はい、じゃあこれはプレゼント」
「うわあ、ありがとうございますありがとうございます」
グリモワールを大事そうにぎゅっと抱えて、魔理沙は何度も頭を下げた。
アリスは微笑みながらこんなことを考えていた。
鼻血でそう。
「さあ、行くわよ」
「え? どこにですか?」
グリモワールを渡して懐かせたところで、本来の目的へと連れ出そう。
今夜はあまりに長い。その長いひと時をこの愛らしい眼鏡魔理沙(略してメガマリ)と一緒に過ごさないでどうするのだろか。異常を解決させるのはついで、本当はただ一緒にいれればそれでいい。
あまりに激しい負のオーラがアリスの背後に立ち込める。
しかしそのオーラは汚れを知るものにしか見えないオーラだ。純粋すぎるメガマリに見えるわけはない。
「散歩よ」
アリスは手を差し伸べた。
「えっとじゃあ、準備しますね」
トテトテと忙しく歩いて、魔理沙は部屋の奥へと消えた。
ああ、メガマリ……なんて愛らしいの。その挙動その仕草、その笑顔……抱き付いちゃってもいいですかーっ? どーですかーっ? ダメですかーっ? んんー……轟沈っ! 轟沈でございます。
「あのう……」
アリスは服を引っ張られて我に返った。
「行く…………行くんじゃないんですか……?」
あはは、アリスはもう軽く逝っちゃたかもしれない。
「そうね。行きましょう」
長い永い夜を終わらせるためにと見せかけて、己の欲望のためにアリスは霧雨邸より飛び立った。
今夜は長くなりそうだわ。
あ、やっぱ我慢できないのでイートインで。
鳥肌中将メガワロスwwwwwww
orz
え?店主?だって男じゃないかwwww