Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

吸血鬼って酔うのかな?

2006/09/05 04:01:29
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 紅い屋敷のご主人様。

「咲夜、ちょっと付き合って」

 手には真っ赤なワインとグラス。

「はい。畏まりました」

 従者の一礼。
 こうして差向いの飲み会が始まった。










「咲夜~、もっと飲みなさいよ~」
「いえ、しかしこれ以上は・・・」
「これは命令よ。私の命令が聞けないって言うの?」
「わかりました。頂きます」

 空けたワインは既に2桁に達している。主人は平気そうだが、人間である従者はかなり酔いが回ってる様子だ。

「ねぇ、咲夜」
「はい、なんでしょうか?」

 とは言え、彼女は業務中の身。瀟洒の名は伊達ではなく、言葉も行動もしっかりとしている。

「貴方、今も人間は嫌い?」
「・・・そうですね。そうだと思います」
「人間嫌いなのに人間である事に拘るなんて、やっぱり貴方は面白いわ」

 主人が、くいっ、とワイングラスの中身を飲み干す。するとすぐさま瓶が傾けられ、紅い液体がグラスを満たす。

「・・・お嬢様は今も、私を眷属にしたいとお思いですか?」
「別に。ただ、それはそれで面白そうだとは思うけどね」
「では、蓬莱の薬に関しても同じですか?」
「あ~。うん、そうね」

 主人は言葉の途中にも関わらずつまみを口に放り込み、もぐもぐと頬張る。更にワインを1口飲んで稼いだ時間は、尤もらしい答えを思いつくには十分な時間だった。

「あの時は面白そうだと思ったけど、やっぱり駄目だわ」
「・・・何故ですか?」
「私が消滅出来て、咲夜が死ねないなんて許せないもの。ほら、手が止まってるわよ」

 主人に促され、従者はグラスを傾ける。満足気な主人は、先程とは逆に瓶を傾け、従者のグラスに紅い液体を注いだ。

「ありがとうございます」

 注いでもらったならば、とりあえず口をつけるのが礼儀。そう考えた従者は、ほんの少しだけワインに口をつけた。

「私はね、今まで何人もの従者の最後を見てきたわ。その中にはもちろん、貴方のように忠実な者もいた」
「はい」

 グラスを置いた従者は、つまみに手をつけるでもなく主人の話に耳を傾けている。もしかすると、そろそろ限界なのかもしれない。

「それはね、とても幸せな事だと思うの」
「何故ですか?」

 不思議そうな顔をする従者。そんな従者の顔を見ることなく、主人は言葉を続ける。

「だって、主人を失った従者は、生きる目的を失ってしまうでしょう?」
「・・・なるほど」

 従者は思った。もし、自分が蓬莱の薬を飲み、その後に主人が亡くなってしまったならば。それはきっと、生き地獄に相違ない、と。

「だから蓬莱の薬は駄目。貴方から『死』を奪うなんて残酷な事、私には出来ないわ」
「お気遣い頂き、ありがとうございます」
「ふふ。可愛い咲夜の事ですもの。当然よ」

 そう言ってグラスの中身を一気に飲み干す。すると正面にいる従者もまた、同じ様にグラスを傾け、一気に飲み干した。

「そろそろお開きにしましょうか?」
「はい」
「片付けはいいから、もう休みなさい」
「・・・しかし」
「私室に戻って休め。判った?」
「かしこまりました」

 命令口調は実に効果的で、従者は素直に立ち上がり、少しだけふらついた足取りで扉へと向った。そして扉で一礼してから、こつこつ、と言う足音を立てながら部屋から遠ざかっていく。
 足音が消えてから少し経った頃。館の主人は瓶に残っていたワインをグラスへと移し、口をつけていた。

「咲夜」

 従者を呼ぶ声。しかし既に眠っているであろう従者が現れる事はない。だからそれは、単なる確認だった。

「いるんでしょ、パチェ」
「あら、ばれてた?」

 従者が去った扉とは別の扉が開く。そこから姿を現したのは、本を抱えた彼女の友人だった。

「ずっとそこにいたんでしょ?」
「失礼ね。少し前からよ」
「まぁ、どっちでもいいけどね」

 呆れ顔の主人は、グラスのワインをちびちびと舐めた。子供っぽいので従者の前ではやらないが、彼女はこの飲み方が一番好きだった。

「レミィは嘘吐きね」
「・・・何よ、それ」

 友人の言葉に、主人はワイングラスから口を離す。代わりに、ワイングラスを手の中で回し始めた。

「死を看取るのが幸せなんて、嘘よ」
「・・・そうね、そうかもしれない」

 あっさりと認めた主人は、再びワインをちびちびと舐め始めた。まるでこれ以上口を開く事を拒否するかのように。

「私は貴方の友人。そうよね?」

 ワインを舐め続けている主人は答えない。しかしそんな事は気にせず、友人は言葉を続ける。

「従者の前じゃないんだから、別に格好つけなくてもいいんじゃない?」

 そう言って初めて、友人は一歩部屋へと入ってくる。そしてそのまま部屋の中へと歩みを進めた。

「少しくらい甘えてくれた方が、友達がいもあるってモノよ?」

 倒れるワイングラス。
 流れる紅い液体。
 床に滴る紅い雫。

「ねぇ、パチェ」
「ん?」

 友人の胸の顔を埋めながら、館の主人は涙を流していた。泣いているのではなく、ただ涙を流しているだけ。

「私はあの子を眷属にすべきだと思う?」
「それは私の決める事ではないわ」

 冷たく突き放す友人。しかしそんな返答を気にする事なく、彼女は言葉を続ける。

「もし、眷属にしたとして、それでも忠誠を誓ってくれると思う? 私の傍に居てくれると思う?」
「どうかしら」

 今までも、そしてこれからも人間として仕え続けると言った従者。ならば人間でなくなった時、彼女はどうするのだろう?

「どうやっても何時かは居なくなるんじゃないか、って思うの」
「そうかもしれないわね」

 同じ吸血鬼になってしまえば、畏怖や憧れは薄れる。もちろんそんな理由で慕ってくれている訳ではないと言うのは知っている。しかし、最悪の可能性が頭を過ぎるのも事実。

「寿命を延ばす術は幾つもあるけど、どれも私より長く生きる事になる可能性が高い」
「・・・あの子はまだ数十年しか生きていないものね」

 能力を駆使し、運命を覗けば全てが解るかもしれない。しかし、どちらもそれを口にはしなかった。運命を見てしまえば、きっとそれに逆らう事が出来なくなってしまうから。運命に選ばされた未来など、彼女達は望まない。

「あの子を失うのは怖い。でも、あの子を残して逝くのも怖いの」
「そうね」

 いつの間にかテーブルの上には本があった。その本を持っていた手は、彼女の頭を撫でている。

「ねぇ、パチェ」
「ん、何?」
「迷惑かけてごめんね」
「そうね」

 頭を優しく撫でていた手は、何時しか背中へと移動していた。そして羽の付け根で止まると、その手は力いっぱい彼女を抱きしめた。

「レミィは泣き上戸なのね」
「・・・?」
「だから泣いてるのはお酒のせい。酔いが覚めるまで、こうしててあげる」
「・・・ありが、と」

 嗚咽交じりの言葉を皮切りに、主人はさめざめと泣き出した。友人と自分にしか聞こえないくらいの、小さな泣き声で。

「っう。ごめ、ね。ぱぢぇ」
「たまにはこう言うのもいいものよ」

 抱きしめる手に更に力篭った。気がつけば、どちらも涙を流していた。










 ヴワル魔法図書館の館長。

「ねぇ、小悪魔」

 彼女の手には瓶とグラス。

「一緒に飲まない?」

 羽がパタパタ揺れている。

「はい、喜んで」

 グラス置く音。

「珍しいですね」

 にやけ顔の司書。

「たまには、ね」

 彼女はそれを見て思う。
 私は幸せなのかもね、と。
 寿命と言うのは所詮は相対的なモノ。長いも短いも過ごす相手次第。
 だとすれば、長寿と短命の境界はどこにあるのだろう?

 ちなみにタイトルに意味はありません。
あさ
コメント



1.変身D削除
長きモノは長き者の、短きモノは短き者の、各々の答えが有りそうですね。
良い物を読ませて頂きました、多謝(礼
2.名前を喰われた人削除
ぬ~。
題名を見てギャグ物かと思った俺は駄目な子かorz


そりゃ兎も角。
色々と深く考えさせられる良いお話、ゴチでしたm(_ _)m
3.あさ削除
感想ありがとうございます。
こちらからも読んでくださった方々に感謝したいと思います。
ちなみにタイトルですが、さっぱり良いモノが思い浮かばなかった為こうなりました。適当でスイマセン。
4.卯月由羽削除
>題名を見てギャグ物かと思った
俺がいる。
いい意味で予想を裏切ってくれました。GJです。