「蓮子にはがっかりだわ」
喫茶店に入るや否や、メリーはそう言って溜息をついた。つきやがった。
時刻は夕方。客の入りはそこそこ。今日一日を総括するにはちょうどいい感じ。とりあえず二人して飲み物を頼んで店員を追い返す。
「は~、蓮子にはがっかりだわ」
もう一度メリーはそう言って、あからさまに私をジト目で見つめてきた。
なんなのよもう。もしかしてあれのことを言ってるのかしら? だとしたら、理不尽レベルがとてつもないんだけど。それこそ、今すぐ新しい法則を発見しろとかいうぐらいに高レベル。
そんな感じの視線を返してみるが、メリーのジト目に変化はない。
「ほんとーに、蓮子にはがっかりだわ」
三度も繰り返して、メリーはやれやれと頭を振った。
やっぱりあれのことらしい。でも何度でも言うけど、あれに文句を言うのはとても理不尽なこと。もしこの理不尽さを発表する機会を得られるならば、私は後世に残るぐらいの論文を書き上げる自信がある。
紅茶がきたので、そ知らぬ顔でミルクを入れて一口。
私の反応がないのがつまらなかったのだろう。メリーは唇を尖らせて同じく紅茶にミルクを入れて一口。
「ふぅ……、その蓮子の反応にがっかりだわ」
どうしろというのか。思わず頭を抱えてしまう。が、このままだとメリーが際限なくがっかりを連呼しそうだったので、何かを返してみることにする。
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子?」
「さっきからがっかりがっかり言ってるのは、昼間のあれのこと?」
「ううん、今は何も言ってくれなかった蓮子にがっかりよ」
「私はそんなメリーにうんざりしてきたわ」
売り言葉に買い言葉、ではなく、実際大分うんざりしている。なんというか、話を進めたいのに進めさせてくれないのが、こんなに機嫌を悪くするとは知らなかった。反省したので、今度メリーにし返そう。
よし。今後のことも決まったことだし、いい加減話を進めよう。というか、こういう場合は勝手に進めていいのよね?
「というわけで、あれに関してはがっかりされても困るわ」
「先行詞の問題は気にしないことにするけど、がっかりもしたくなるわ」
と、メリーは肩をすくめて紅茶を一口。メリーが半ば冗談でやってるのは分かるけど、こうもあからさまにがっかりを体現され続けると、さすがに我慢も限界が近くなってくるわ。溜息とともに嫌な熱さをはきだして、努めて冷静に。
「確かに、私のこの目は星を見れば時間が分かるし、月を見れば今いる場所が分かるわよ?」
「でも、今日は分からなかったじゃない。あんなに満天の星空だったのに」
「そうね、満天の星空だったわね。それは認めるわ。今日見たのはそこらではお目にかかれないほど見事な星空だった」
でもね、メリー。はっきり言って、
「プラネタリウムの星で時間が分かるわけないじゃない!」
なんてことをやったのがついこの間。
「メリーには失望したわ」
喫茶店に入るや否や、私は溜息をついて言った。言ってやった。
今日もまた夕刻時で客入りはそこそこ。飲み物を頼んで店員を遠ざける。
「はぁ、メリーには失望したわ」
もう一度そう言って、思いっきりなジト目で見つめる。
ああ、分かるわよメリー。きっと今メリーは「何この理不尽な蓮子。言いがかりも甚だしいわ」とか思っているんでしょう? ぶすっとした顔で見返してくるメリーの顔が、とても可愛く見える。
「心底、メリーには失望したわ」
やられたらやり返せ。なんて素晴らしい言葉。気を抜けばにやけそうな顔を隠すために下を向いて、ことさらゆっくりと頭を振る。
ちらりと上目遣いで様子を窺ってみる。そこには相変わらずのメリーの不満顔。その思考を読み取るならば、多分こんな感じ。「何よ蓮子。蓮子だからって失望失望連呼しなくてもいいじゃない」。うるさいメリー。れんこネタはタブーよタブー。
紅茶がきたので、いつも通りミルクを入れて一口。向かいでメリーも同じ動作を。
「ふぅ……そのメリーの無言に失望したわ」
あ、メリーの表情がちょっと変わった。なら言ってやろうじゃない、とでもいう顔。
「あのね、蓮子」
「なに、メリー?」
「失望したって言われても、あれは仕方ないじゃない?」
「あれって? 今はメリーの無言に失望中よ」
メリーが頭を抱えて唸っている。この間私が感じた苛立ちを感じているに違いない。でもこれはメリーが最初だから、し返しはなしよ? 分かってる、メリー。
ひとしきり唸ってから、メリーは顔を上げた。
「とりあえず、あれについて失望したとか言われても困るわ」
「とりあえずもなにも、失望もしたくなるわよ」
ねえ、と哀れむような眼差しを向けてみる。そろそろメリーも限界らしい。一度大きく深呼吸をして、気持ちの昂りを収めようとしているのが分かる。
「確かに、私の目はどこであろうと結界があればそれを見ることができるけど」
「今日は分からなかった、と。どこかにあるのは確実だったのに」
「分からなかったわね。そこにあると分かっているのに、私の目には全く見ることができなかった。それは認めるわ」
そこでメリーはだけど、と一息ついて、
「ゲーム内の隠し結界の場所なんて分かるわけないじゃない!」
喫茶店に入るや否や、メリーはそう言って溜息をついた。つきやがった。
時刻は夕方。客の入りはそこそこ。今日一日を総括するにはちょうどいい感じ。とりあえず二人して飲み物を頼んで店員を追い返す。
「は~、蓮子にはがっかりだわ」
もう一度メリーはそう言って、あからさまに私をジト目で見つめてきた。
なんなのよもう。もしかしてあれのことを言ってるのかしら? だとしたら、理不尽レベルがとてつもないんだけど。それこそ、今すぐ新しい法則を発見しろとかいうぐらいに高レベル。
そんな感じの視線を返してみるが、メリーのジト目に変化はない。
「ほんとーに、蓮子にはがっかりだわ」
三度も繰り返して、メリーはやれやれと頭を振った。
やっぱりあれのことらしい。でも何度でも言うけど、あれに文句を言うのはとても理不尽なこと。もしこの理不尽さを発表する機会を得られるならば、私は後世に残るぐらいの論文を書き上げる自信がある。
紅茶がきたので、そ知らぬ顔でミルクを入れて一口。
私の反応がないのがつまらなかったのだろう。メリーは唇を尖らせて同じく紅茶にミルクを入れて一口。
「ふぅ……、その蓮子の反応にがっかりだわ」
どうしろというのか。思わず頭を抱えてしまう。が、このままだとメリーが際限なくがっかりを連呼しそうだったので、何かを返してみることにする。
「ねえ、メリー」
「なあに、蓮子?」
「さっきからがっかりがっかり言ってるのは、昼間のあれのこと?」
「ううん、今は何も言ってくれなかった蓮子にがっかりよ」
「私はそんなメリーにうんざりしてきたわ」
売り言葉に買い言葉、ではなく、実際大分うんざりしている。なんというか、話を進めたいのに進めさせてくれないのが、こんなに機嫌を悪くするとは知らなかった。反省したので、今度メリーにし返そう。
よし。今後のことも決まったことだし、いい加減話を進めよう。というか、こういう場合は勝手に進めていいのよね?
「というわけで、あれに関してはがっかりされても困るわ」
「先行詞の問題は気にしないことにするけど、がっかりもしたくなるわ」
と、メリーは肩をすくめて紅茶を一口。メリーが半ば冗談でやってるのは分かるけど、こうもあからさまにがっかりを体現され続けると、さすがに我慢も限界が近くなってくるわ。溜息とともに嫌な熱さをはきだして、努めて冷静に。
「確かに、私のこの目は星を見れば時間が分かるし、月を見れば今いる場所が分かるわよ?」
「でも、今日は分からなかったじゃない。あんなに満天の星空だったのに」
「そうね、満天の星空だったわね。それは認めるわ。今日見たのはそこらではお目にかかれないほど見事な星空だった」
でもね、メリー。はっきり言って、
「プラネタリウムの星で時間が分かるわけないじゃない!」
なんてことをやったのがついこの間。
「メリーには失望したわ」
喫茶店に入るや否や、私は溜息をついて言った。言ってやった。
今日もまた夕刻時で客入りはそこそこ。飲み物を頼んで店員を遠ざける。
「はぁ、メリーには失望したわ」
もう一度そう言って、思いっきりなジト目で見つめる。
ああ、分かるわよメリー。きっと今メリーは「何この理不尽な蓮子。言いがかりも甚だしいわ」とか思っているんでしょう? ぶすっとした顔で見返してくるメリーの顔が、とても可愛く見える。
「心底、メリーには失望したわ」
やられたらやり返せ。なんて素晴らしい言葉。気を抜けばにやけそうな顔を隠すために下を向いて、ことさらゆっくりと頭を振る。
ちらりと上目遣いで様子を窺ってみる。そこには相変わらずのメリーの不満顔。その思考を読み取るならば、多分こんな感じ。「何よ蓮子。蓮子だからって失望失望連呼しなくてもいいじゃない」。うるさいメリー。れんこネタはタブーよタブー。
紅茶がきたので、いつも通りミルクを入れて一口。向かいでメリーも同じ動作を。
「ふぅ……そのメリーの無言に失望したわ」
あ、メリーの表情がちょっと変わった。なら言ってやろうじゃない、とでもいう顔。
「あのね、蓮子」
「なに、メリー?」
「失望したって言われても、あれは仕方ないじゃない?」
「あれって? 今はメリーの無言に失望中よ」
メリーが頭を抱えて唸っている。この間私が感じた苛立ちを感じているに違いない。でもこれはメリーが最初だから、し返しはなしよ? 分かってる、メリー。
ひとしきり唸ってから、メリーは顔を上げた。
「とりあえず、あれについて失望したとか言われても困るわ」
「とりあえずもなにも、失望もしたくなるわよ」
ねえ、と哀れむような眼差しを向けてみる。そろそろメリーも限界らしい。一度大きく深呼吸をして、気持ちの昂りを収めようとしているのが分かる。
「確かに、私の目はどこであろうと結界があればそれを見ることができるけど」
「今日は分からなかった、と。どこかにあるのは確実だったのに」
「分からなかったわね。そこにあると分かっているのに、私の目には全く見ることができなかった。それは認めるわ」
そこでメリーはだけど、と一息ついて、
「ゲーム内の隠し結界の場所なんて分かるわけないじゃない!」