愛する魔理沙が森でぶっ倒れていた。
ただ事じゃない、幻想郷でも魔理沙は強い部類に入るのだ。それがこんな家の近所でひれ伏しているとは!
意を決して頬を突っついてみると柔らかい、じゃなくて動かない。気絶しているようだった。アリスは鼻血を噴いた。
(これはひょっとして、魔理沙にこっそりあんなことやこんなことをするチャンスでは!?)
鼻血を拭きながら彼女は思った。感じた。心から汗が噴き出た。毛穴から油が噴き出た。鼻から血が噴き出た。真っ先に考えることがそっち方面だったり、和姦は既に諦めている辺りがアリスらしい。全米が涙した。
魔理沙の腋に腕を回し、抱きかかえるように起き上がらせる。目の前には顔、天使のように眠る顔、愛するあの娘の顔。もう止まりません。次の瞬間、彼女の顔には鼻血がべっとり。
「あら、いけないわ。魔理沙の綺麗な顔にこんなにかけちゃった」
ポケットからハンカチを取り出すアリス。魔理沙の顔を拭くアリス。ここは舌で拭いてあげる、と思ったのだが自分の液は舐める気にならなかった。最後の理性はここにあるよ。
顔を拭けばまた魔理沙の綺麗な顔。そこにはあの憎たらしい笑みとか仕草とかは一切なく、いやそこがまたいいんだけど、いやいやむしろそれがあるからこそ、この無垢な寝顔が映えるというもの。
素敵だわ、魔理沙かわいいよ魔理沙。アリスはもう、なぜ魔理沙が倒れているのか考えようとしない。そこにしびれる人も憧れる人もいないが、それが彼女の魅力! と、後に通りすがりが語った。
アリスはまた鼻血を噴いた。そしてすぐ鼻血を拭いた。いけないぜアリス、無限ループに陥っている。魔理沙を助けようぜ、助けておこうぜ、数少ない友人なんだしさ。なんて咎めるものはいない。と思ったがいた、通りすがりが親切に「魔理沙が握ってる食べかけのキノコが原因かしら?」と言ってくれたので、アリスはようやくそれに気付く。あー、やっと話が進む。通りすがりはもういない、通りすがったから。
で、どうするアリス。見るからに毒々しい。明らかに毒キノコ。そして食べかけ。しかも生のまま。
毒である。普通の人が見ればどう見ても毒で死亡確認である。もし倒れている人が別の人で、それを見つけたのが魔理沙だったとしたら、発見後数秒で「ああ、毒だよな」って言うくらいどくどくゾンビである。
「きっと神さまのおぼしめしだわ、アリスよ魔理沙を襲いなさいと!」
だがアリスは普通じゃない魔法使い、恋に恋する乙女は盲目。というか何も考えちゃいないぜ。
そこまではただの壊れアリス、だがアリスとて女の子、いくら相手が眠っていても、いざ行動となると恥ずかしいワ、やんやん! 恥ずかしい! あんなことやこんなこと、しかも野外でっ!
じゃあ野外じゃなければいーじゃん☆ と、もうキャラも何もあったもんじゃない、アリスは魔理沙を担いでいざマイホームへ。人はそれを拉致監禁と言いますが、恋は盲目。盲目ったら盲目なのです。OK?
少女運搬中。
もはやアリスの鼻息は風速二百メートルですが、ここには彼女と気絶した魔理沙しかいないのでオッケー。誰も咎めやしないさ! そうさアリスはことごとく孤独、あ、なんか早口言葉みたい。
しかし孤独でも望まれぬ遭遇はあるもので、怪しさ炸裂のこの光景を天狗が捕らえようと思いましたが鼻息に吹き飛ばされた。風神少女も吹き飛ぶこの威力! 残暑だって吹き飛ぶぜ!
これで起きない魔理沙もなかなかのもの、暴風にアリスの家が飛び巨大な破壊音が轟くというに。
あれ? 目的地飛んじゃった、おーい、まてー、私の家ー。
仕方ないなー。いっちょ外でやりますか、と、担いだ魔理沙をゆっくり降ろす。魔理沙かわいいよ魔理沙。またですか、瞬間最大風速なんと四百二十五メートル! 魔理沙はもちろん吹き飛んだ、まだ起きない、毒そうとうヤバイんじゃないのか? 突っ込む人はいたが吹き飛んだ。
アリスは今日も孤独だった。
確かにマリアリだけど、アリスが一方的に暴走してるのにワロタw
しかしそこはさすがアリスだ、なんともないぜ