―創想話の「東方降魔録」の最終話です。お読みでない方は、そちらをお先にどうぞ―
あれから数日後の夕方のこと…レミリアは紅魔館の住人を全て集め、唐突に宣言した。
「五日後にここでパーティーを開くことにしたわ。主役はフラン。お披露目会と言ってもいいかしら。速やかに準備をしなさい。いい、とことんまでやるわ…紅魔館の面子にかけて、誰も見たことがないほど立派なパーティーにするのよ」
突然のことに大騒動となった住人達を尻目に、彼女は悠然と自室に下がった。
「さて、招待状を書かないとね…どうする、フラン?魔理沙の分は自分で書く?」
「うんっ!」
そして、待っていた妹は満面の笑顔でそう答えたのだった。
一方、紅魔館のとある一室では、一人だけその場に居合わせることが出来なかった妖怪が、訝しげに首をひねっていた。
「…何だか外が騒がしいわね??」
ちち、ちち…
心配そうなうずらの羽毛と届けられた見舞いの品の山、ついでに落書き(「心配かけて!」「馬鹿!」「治るまでもう騒動起こすな!」「肉」「中」などと)などに埋もれ、美鈴は呟いた。
あの騒動で負った傷と限界を超えた力の行使による後遺症は深く、美鈴の生命力と紅魔館の治療をもってしてもあと五日間は絶対安静、一部の例外人員を除いて面会謝絶を言い渡されていたのである。
なお、破ったら咲夜ではなくレミリアが直々に来月の給与明細を書いて下さるとのことなので、さすがの美鈴もおとなしく門番業務を休業していたのだった。
「…いい、リトル。価値のある本を片っ端から別室に移しておきなさい。黒白は確実だし、他にもどんなのが来るか知れたものじゃないわ」
「はいっ、目下全速力で行ってます!」
余談だが、他の住人とは別の理由で戦々恐々としていた者もいたとかいなかったとか。
そして五日後、時間厳守の咲夜便とスピード第一の魔理沙便(要代価)の命を削った大活躍によってばら撒かれた招待状に集められ、大量の人妖が紅魔館の庭にしつらえられたパーティー会場に来ていた。
喜んで来た者もいれば、脅えながらも好奇心や食欲に釣られて来た者もいた。
霊夢や魔理沙はもちろん、白玉楼や永遠亭の住人、宵闇の妖怪やら夜雀やら虫姫やら氷精やら半獣やら竹やぶ焼け娘やら呑んだくれ鬼やら、実にバラエティに富んだ顔ぶれが会場内ではしゃぎ回り、歓談し(棘を隠しながらの場合もあったが)、あるいはひたすらに食べ物を詰め込み…もしくはすでに食べられるだけ食べてこっそりとお土産袋に詰め込んでいた。
そして、中央に設置された舞台では人形魔法使いと騒霊楽団が賑やかなステージを繰り広げていた。
時折、不死鳥の炎と龍の珠が激突して巻き添えを食らった月兎がのびていたり、どこぞの亡霊が極上のソース片手に夜雀を追い回していたりそれを更に二本差しの半霊が追いかけて必死に止めようとしていたり、何かと妙な騒ぎが起こっている気もするのだが、まあ詳しく書くほどのこともないだろう…哀れな大量のメイド達が、あちらこちらと騒ぎを鎮圧しに走り回っていることだし。
…驚くべきことだが、その顔ぶれの中には八雲紫も混ざっていた。しかし、レミリアは彼女に優雅に挨拶をし、握手で出迎えていた…握手する互いの手から、何か凄まじい音がしていたような気はしないでもなかったが。
とは言うものの、意外なことだが、そこにあの夜ほどの凄絶な敵意は感じられなかった。
「まさか呼ばれるとは思わなかったわね」
「支配者は、バランスを守る者には敬意を払うものだからね。王の頭を押さえつけていた無礼くらいは水に流しておいてやるわ。敬老精神と言うものもあることだし」
「ふふ…伊達に500年生きてないか」
そして、宴たけなわの頃を見計らって華やかなドレスで装ったフランドールが現れると、客からは一斉に拍手が湧いた。
初めての大量の客人に彼女は目を白黒させていたが、そこは子供の順応力と貴族の社交術、少し時間が経つとはしゃぎながらすっかり皆の中に溶け込んでいた。
特にチルノやリグルを初めとする子供陣とは仲が良かった。実の所、フランドールの友達を増やすことは、この催しにあたってレミリアが密かに企んでいたことの一つでもあった。しかし、さすがに紫に対しては、多少のしこりが見えたようだが。
…ところでその頃、美鈴は会場の片隅で咲夜に付き添われていた。
最初は会場の友人や楽屋裏のフランドールと一緒にいたのだが、さすがにまだ本調子ではないので今は休憩中だった。
周囲に目をやれば、同じく休憩してグラスを片手に神綺と語らうアリスや、パチュリーや香霖と共に他者の入り込めない知的論議結界を作り出している慧音が見える。
「ふふ…お嬢様とフランドール様、楽しそうですねえ。本当に良かったです」
「今回は、あなたも功労者の一人じゃない」
「そう言われると、何かくすぐったいですね」
苦笑しながら、美鈴はプディングを口に運んだ。
「んー…こんなにすごい食事したのも初めてかも。ほんとにいいパーティーですね。皆さん、準備大変だったでしょう?」
「そりゃあね…あ。そう言えば、言ってなかったっけ」
はたと、咲夜が何かに思い当たって首を傾げた。
「?どうかしました、咲夜さん」
「このパーティーの経費のぶん、あなたの給料と労働で埋め合わせることになってるのよ」
「…は?」
「つまり、勘定あなた持ち…な感じ?」
「…はい?」
「お嬢様がね、『心配かけた罰と余計な気遣いへのお礼』だって」
「………何ですかそれ聞いてないですよこれ以上お給料カットされたらぺんぺん草の種すら買えませんしこれ以上どうやって労働時間を増やせって言うんですか無理です物理的に無茶無体です勘弁して下さい咲夜さん!」
「……あー……、……決めたの私じゃないし」
「…………………うわぁあああああああん!!!」
美鈴の泣き声が、いつものように紅魔館の空に響き渡った。近くでそれを耳にしていたレミリアが、ぺろりと舌を出して笑う。
「ま、少しくらいは脅かしておかないとね」
その後ろで、それを耳にしたパチュリーが、あくまでレミリアの方を向かずに、しかも聞こえるか聞こえないかぎりぎりの音量で呟く。
「顔真っ赤にして泣いたのが自分だけじゃ不公平だものね?」
「…神術『吸血鬼幻想』!」
「日符『ロイヤルフレア』っ!」
問答無用で叩きつけられたレミリアのスペルと、先読みで放ったパチュリーのスペルが火花を散らす。
…そして、その少し後方では魔理沙がちゃっかりと二人の術を観察してパク…学習を試みていたのだった。
このパーティーは三日三晩続き、その比類ない盛大さは後々まで幻想郷の語り草になったと言う。そして、その日以来紅魔の妹姫の部屋は地上へと移され、外出も自由に出来るようになったことも付け加えておこう。
――東方降魔録――
著 パチュリー・ノーレッジ
編 上白沢 慧音
…The End
「よし…完成、っと。後はこれを慧音に見せて最終チェックを…」
「…パ~チェ~…」
「レミィ?!…い、いたの?」
「…ついさっきからね…。…ねえ…一部箇所の削除と変更を求めたいのだけど、いいかしら…?」
「…………あ、あはは………………、…歪曲編集は却下するわっ!」
「あ、こら!パチェ、待ちなさーい!それを渡しなさい!そんな恥ずかしい本完成されてたまるもんですか…この場で運命の流れから消滅させてやる!咲夜、フラン、美鈴ー!早く来て、ちょっと手伝ってちょうだい!」
お疲れ様でした。
いいものを読ませていただきました。
これからも頑張ってください。