素敵な紅い悪魔の館に、また一つ新しい部屋が出来ました。
興味のある方は、どうぞ首を突っ込んでみてください。
トラップ発動。『妖夢は首をはねられた』
ちぎれた半霊を、よいしょよいしょと捏ね回しながら、妖夢は部屋の主に文句を言う。
「酷いですよー、パチュリーさん。こんな物仕掛けてあったら、皆死んじゃいますよ」
どこから手に入れたのか、入手経路がバリバリわかる、白衣に黒い眼帯とマスクを付けた、大図書館の魔女は平然と答える。
「残念だけど、このトラップに引っ掛かったのは貴女が初めてよ。みんな私の事よく知ってるから。それからこの部屋の中では、私の事はDr.パチュと呼んでちょうだい。」
ガクリと首をうなだれる妖夢を無視して、Dr.パチュは話を続ける。
「今日、貴女を呼んだのはモルモ、じゃない、ある実験の手伝いをお願いしたいからなの。あ、この部屋、『わー度ナの護符』で結界張ってあるから逃げられないわよ」
聞き捨てならない台詞を耳にして、妖夢は戦慄し自分の主に心の中で別れを告げる。
お嬢様、もうお会い出来ないかもしれません。でも、もう半分死んでるから別に良いかも。
気を取り直し、妖夢は魔女に質問する。
「で、わたしは、何を手伝えば良いんですか」
Dr.パチュはニッコリと目だけ微笑を浮かべ答えた。
「ぶっちゃけ、試し切られ」
結界が張ってある事も忘れ、妖夢は出口に向かって走る。
トラップ発動。 『おおっと、テレポーター!! ・・・・・・石の中にいない』
数分後、意識を取り戻した彼女の見た物は、怪しげな儀式にでも使われそうな、平らな台の上に拘束され、身動きできない自分の半霊だった。
自分も、変な手の様な物がたくさん付いた椅子に体を固定されている。
Dr.パチュは、いかにもノリノリで、妖夢に現状を説明する。
「諦めなさい、貴女の尊い犠牲は、きっと幻想郷の為になるから安心して成仏してね。まず貴女の座っている椅子、『肩こり一発解消君・試作一号』だけど、門番使って実験したら暴走して、彼女悶絶しちゃったわ。よっぽど気持ち良かったのね」
妖夢は、門番隊長の紅美鈴が、今日に限っていなかった理由を理解し、無駄な抵抗をするのを止めた。
「聞き分けの良い子って好きよ。で本題、あの月の異変の解決後、私は、外の『科学』に魅了されたわ。それで、咲夜に頼んでこの部屋を作ってもらったの。」
部屋の中には見渡す限り、怪しげな物体が所狭しと置いてある。
「魔法の力を応用して、機械を動かす力を発生させる理論も確立したわ。多くの犠牲もあったけど」
妖夢は、その実験の犠牲者達に同情した。
「先日完成した、『ここ掘れワンワン君』はきちんと動いたから、咲夜にプレゼントしたわ。これで銀不足の問題も解消ね」
成功例もあるようだ。
「で、長くなっちゃったけど、今回は最近強力になってきた外敵、紅魔館は本当に敵が多いから、それに対抗する一般メイド用の対妖、対霊武器を作ったの。ある程度の魔力なら反射もできるすぐれ物よ」
どこから出したのか分からないが、Dr.パチュは片手に日本刀の様な物を手にしている。
「外界から手に入れた書物から、ヒントを得て作った、精霊の力を借りた高周波振動ブレード。名づけて『にひるなニヒル君』零号。そして貴女は、その実験台一号に選ばれた。ねっ、素敵でしょ」
そんなの全然素敵じゃないやい。半べそをかく妖夢を無視して、Dr.パチュは細身の刀を振り上げた。刃の表面が静かに、だが細かく振動しているのが見える。
Dr.パチュは、今まさに両断されようとしている妖夢の半霊に、恍惚の表情を浮かべ別れの言葉を告げる。
「心配しないでね、実験に失敗は付き物よ。運が良ければ助かるわ。じゃ、さ・よ・う・な・ら」
Dr.パチュの頭上で、ギラリと光る『にひるなニヒル君』。
妖夢はその光景から目を背ける。
所詮、神なんていない。
奇跡なんて起こらない。
そんなのおとぎ話の中だけ。
しかし、奇跡は起きた。
「いざよいいいいぃー、卍キイイイイイイーック!!」
扉を蹴り飛ばし、時を止め、数々のトラップを掻い潜り、蒼い旋風が魔女の体を吹き飛ばした。
「ぐぐっ、素晴らしい性能だ。なんで・・・ごふっ」
意味の分からない台詞を残し、Dr.パチュは倒れた。(爆発はしません)
拘束された妖夢は、自分を救ってくれた者の姿に見とれていた。
紅魔館の鬼のメイド長、十六夜咲夜の凛々しく立つ姿に、何故か心がときめいた。
そんな妖夢の心も知らず、咲夜は、気絶している魔女に対して悪態を付く。
「まったく、何が『ここ掘れワンワン君』よ、危うくレミリア様の臀部に突貫する所だったわ」
そして、彼女は妖夢と半霊の拘束を解く。
「あなたも災難だったわね。後でよーく懲らしめといてあげるからって、え? 」
妖夢の、自分を見る目が尋常ではない事に気が付いた。そして。
「お姉さま」
嫌な単語が耳に入り、咲夜は耳をそばだてる。
「おねいさま」
咲夜は、自分の身に危機が近付いている事を認識し、妖夢から身を離す。
しかし、目の前の相手は、じりじりと間合いを詰めてくる。
そして、目をはあとマークにした妖夢は、咲夜に突進した。
「わたしのおねいさまー!!」
銀光一閃、眉間に一撃を食らい、妖夢も気絶した。
「慕われるのは悪くないけど、私はレミリア様の物だから。あー、こりゃまた歴史食いの力を借りなきゃならないわねー」
ため息をつくメイド長。管理職は何かと大変だ。
数日後。
「門番、今度はより改造した『全身モミモミ極楽君』が完成したわ。さあ、来なさい」
スマキにされ、Dr.パチュに引きずられていく悲しき門番。
「誰か、助けてー!! 」
残念ながら、神は死んだふりをした。
「おわります」
知り合いがよくお金稼ぎしてたなぁ。。
自分も今、試練場で奮闘中です。また作品が出来た時、読んでいただけると幸いです。謝々。