Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

「ある商談」

2005/05/23 18:21:53
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 ここは常春の紅魔館。
 
 今日もにこにこ日本晴れ。

 その館の中にあるヴワル図書館では、その主と、魔法の森で道具屋を営む店主が、椅子に腰掛けながら、ある品物について話をしていた。
 
 店主が少々困り顔で答える。

 「うーん、手に入れるのは難しくないけど、本当にいいのかな? 」
 図書館の主が答える。

 「ええ、構わないわ。魔導エンジンの試作に使うだけだし、実験に失敗は付き物よ」
 月旅行について、紅魔館の主で友人でもあるレミリアに相談を受け、色々と、SF小説から量子力学の文献まで目を通し、彼女は外の『科学』に興味を持った。
 人間の作ったロケットエンジンは手に余るが、エンジンと呼ばれる機械には、ごく小型でシンプルな物もある。
 その中で、割と実用的な物に彼女は目を付けた。あとは液体燃料、ガソリンの代わりに、魔法の力を代用する理論を確立し実験する。
 成功した暁には、いずれロケットエンジンに匹敵する物を作ろうと考えていた。
 小型でも、強力な推進力を発生させる機械が作れれば、月に行くのも夢では無い。
 彼女は、友人の喜ぶ顔を思い浮かべる。

 「じゃあ、商談はこれで成立と言う事で。二、三日中に取り寄せますよ。それでは、またご贔屓に」
 立ち上がり踵を返す道具屋の店主、霖之助を彼女は呼び止めた。

 「ちょっと待って、最初からずーっと気になってたんだけど、あなたのその、腰から垂れ下がっているその赤くて長い布、何? 」
 気温が暖かいせいか、彼は涼しげな作務衣の上衣を着ているだけだった。
 膝から下は素足だった。
 よくぞ聞いてくれました、とばかりに霖之助はスマイルを作り、答えた。

 「これは最近手に入れた、僕のお気に入り。その名も『越中褌』さ。普通の褌よりも長めに作られていて、昔のサムライ達は、必ずこれを付けて戦場に出かけたという、由緒あるアイテムさ。僕もこれを付けていると、いつもより気合が入るんだ」

 魔女の瞳が鬼火の様に輝いた。

 「急で申し訳ないけど、もう一つ商談良いかしら? 」

 霖之助の顔がほころぶ。赤い褌も、風も無いのに力強くたなびいていた。


 次の日の、夜の晩の紅魔館。

 主の命により、館の全メイド(門番隊長除く)が大ホールに呼び出された。
 一体何事だろう、何か大きな危機が迫っているのかしら。等、メイド達が口々にしているうちに、大ホールのテラスに、メイド長を従え、レミリアが現れた。
 皆、口を閉ざし、主の言葉を待つ。
 咲夜は、メイド達に緊急招集をかけろと命じられただけで、これから何が始まるのか知らなかったが、嫌な予感がしてならなかった。

 レミリアは、懐から血のように紅く、長い帯を取り出しひらめかせた。赤地に黒く『紅魔館』と書かれたそれは、さながら陣中旗の様だった。

 紅い悪魔は口を開く。

 「今日から全員、この『紅魔褌』を締めなさい。これを私自身と思い、肌身離す事無き様に。幻想郷は常に戦場である。命尽き果てたとしても、必ず私が側にいると思え。以上!!」

 褌が何か、わかっていないメイド達により、大ホールはスタンディングオベーションの嵐に包まれた。
 ただ一人、メイド長だけが、めまいを起こし片膝を付いている。
 こんな事をお嬢様に吹き込むのは、この館でただ一人。
 そしてこんな物を作るのは、幻想郷でただ一人。
 
 主から褌を嬉々として受け取っているメイド達を尻目に、咲夜の双眸に炎が宿った。

 その後。

 彼女は、図書館の魔女を、時の止まった空間で逆さ吊りにし、楽しそうにミシンを動かしていた道具屋の店主を、針の山とし、そして、歴史食いの妖怪の力を借り、ほんの少し事実をいじくった。

 翌日の朝の朝礼で、咲夜は全メイド達に声をかける。

 「それでは、これで朝礼を終了する。それと昨晩、レミリア様から頂いた『紅魔たすき』。肌身離さず携帯し、戦闘時には、それをたすきがけしろ。我らが主は、片時も側から離れる事は無い。そう思い各自職務を遂行せよ。では、解散!! 」

 元気よく各持ち場につくメイド達。汚れた事実を知る者は、今や彼女と上白沢慧音だけである。

 今日もぽかぽか紅魔館、その門の前でいじける妖怪が一人。

 「皆、いいなあ。私も欲しかったなあ、紅魔たすき。しょぼーん」
 
 紅美鈴の静かなつぶやきが、湖の上をゆらゆらと流れていく。

 蛇足だが、道具屋の店主は二日で全快した。

 「この褌、やっぱり凄い効き目だ。怪我の理由は分からないけど。今度店の品に加えよう」
 
 事実を知らない者は、幸せである。

 「おわれ」
 

 

 
 
 

 咲夜さんは、いつも魔女様の無駄知識の後始末をしていると言う事で、こんな話ができました。でわでわ。
沙門
コメント



1.名無し妖怪削除
ふんどしメイドさんとは、また新たなジャンルを発掘しましたな
って、パチェさん、あなたという人はあなたという人はあなたという人は
2.名無し妖怪削除
命尽き果てたとしても、必ず私が側にいると思え!! フオオオ、燃える!!

たすきがけのメイドさん達も大変萌えビジョン思うです。
3.削除
こんな時にさえ忘れられるのか…哀れ門番w
4.沙門削除
>ふんどしメイドさんとは、また新たなジャンルを発掘しましたな
我ながら恐ろしいジャンルを掘ってしまいました。ナイフが飛んで来ない事を祈ります。謝々。
>こんな時にさえ忘れられるのか…哀れ門番w
えー、その後、これをいつも首からぶら下げろ。と、咲夜さんから手渡されたんではないかと、金太郎みたいに。謝々。
5.名無し妖怪削除
あれだけのことをした以上、魔女様は、自身も褌モヤシになるつもりは有ったのでしょうか、否でしょうか。
そればかりが只、気になります。ご馳走様でした(ぇ
6.沙門削除
>あれだけのことをした以上、魔女様は、自身も褌モヤシになるつもりは有ったのでしょうか、否でしょうか。
たぶん、「参謀役は、戦場には直接出ないから、締める必要はないのよ」と吹き込んで、上手い事スルーしたのではないかと。でも、褌締めて「おおおっ、これが侍魂か!! 」と男塾の塾長みたいな魔女様も見たいよーな。それではこれにて失礼します。
7.名無し妖怪削除
こういうろくでもないパチェがすごく好きです。
今度はどんなおバカをやってくれるのか楽しみでなりません。
8.沙門削除
>今度はどんなおバカをやってくれるのか楽しみでなりません。
えーと、またろくでもない話を思いつきました。Drパチェシリーズになりますが、よろしければ読んでいただけると幸いです。