ここは常春の紅魔館。
今日もにこにこ日本晴れ。
その館の中にあるヴワル図書館では、その主と、魔法の森で道具屋を営む店主が、椅子に腰掛けながら、ある品物について話をしていた。
店主が少々困り顔で答える。
「うーん、手に入れるのは難しくないけど、本当にいいのかな? 」
図書館の主が答える。
「ええ、構わないわ。魔導エンジンの試作に使うだけだし、実験に失敗は付き物よ」
月旅行について、紅魔館の主で友人でもあるレミリアに相談を受け、色々と、SF小説から量子力学の文献まで目を通し、彼女は外の『科学』に興味を持った。
人間の作ったロケットエンジンは手に余るが、エンジンと呼ばれる機械には、ごく小型でシンプルな物もある。
その中で、割と実用的な物に彼女は目を付けた。あとは液体燃料、ガソリンの代わりに、魔法の力を代用する理論を確立し実験する。
成功した暁には、いずれロケットエンジンに匹敵する物を作ろうと考えていた。
小型でも、強力な推進力を発生させる機械が作れれば、月に行くのも夢では無い。
彼女は、友人の喜ぶ顔を思い浮かべる。
「じゃあ、商談はこれで成立と言う事で。二、三日中に取り寄せますよ。それでは、またご贔屓に」
立ち上がり踵を返す道具屋の店主、霖之助を彼女は呼び止めた。
「ちょっと待って、最初からずーっと気になってたんだけど、あなたのその、腰から垂れ下がっているその赤くて長い布、何? 」
気温が暖かいせいか、彼は涼しげな作務衣の上衣を着ているだけだった。
膝から下は素足だった。
よくぞ聞いてくれました、とばかりに霖之助はスマイルを作り、答えた。
「これは最近手に入れた、僕のお気に入り。その名も『越中褌』さ。普通の褌よりも長めに作られていて、昔のサムライ達は、必ずこれを付けて戦場に出かけたという、由緒あるアイテムさ。僕もこれを付けていると、いつもより気合が入るんだ」
魔女の瞳が鬼火の様に輝いた。
「急で申し訳ないけど、もう一つ商談良いかしら? 」
霖之助の顔がほころぶ。赤い褌も、風も無いのに力強くたなびいていた。
次の日の、夜の晩の紅魔館。
主の命により、館の全メイド(門番隊長除く)が大ホールに呼び出された。
一体何事だろう、何か大きな危機が迫っているのかしら。等、メイド達が口々にしているうちに、大ホールのテラスに、メイド長を従え、レミリアが現れた。
皆、口を閉ざし、主の言葉を待つ。
咲夜は、メイド達に緊急招集をかけろと命じられただけで、これから何が始まるのか知らなかったが、嫌な予感がしてならなかった。
レミリアは、懐から血のように紅く、長い帯を取り出しひらめかせた。赤地に黒く『紅魔館』と書かれたそれは、さながら陣中旗の様だった。
紅い悪魔は口を開く。
「今日から全員、この『紅魔褌』を締めなさい。これを私自身と思い、肌身離す事無き様に。幻想郷は常に戦場である。命尽き果てたとしても、必ず私が側にいると思え。以上!!」
褌が何か、わかっていないメイド達により、大ホールはスタンディングオベーションの嵐に包まれた。
ただ一人、メイド長だけが、めまいを起こし片膝を付いている。
こんな事をお嬢様に吹き込むのは、この館でただ一人。
そしてこんな物を作るのは、幻想郷でただ一人。
主から褌を嬉々として受け取っているメイド達を尻目に、咲夜の双眸に炎が宿った。
その後。
彼女は、図書館の魔女を、時の止まった空間で逆さ吊りにし、楽しそうにミシンを動かしていた道具屋の店主を、針の山とし、そして、歴史食いの妖怪の力を借り、ほんの少し事実をいじくった。
翌日の朝の朝礼で、咲夜は全メイド達に声をかける。
「それでは、これで朝礼を終了する。それと昨晩、レミリア様から頂いた『紅魔たすき』。肌身離さず携帯し、戦闘時には、それをたすきがけしろ。我らが主は、片時も側から離れる事は無い。そう思い各自職務を遂行せよ。では、解散!! 」
元気よく各持ち場につくメイド達。汚れた事実を知る者は、今や彼女と上白沢慧音だけである。
今日もぽかぽか紅魔館、その門の前でいじける妖怪が一人。
「皆、いいなあ。私も欲しかったなあ、紅魔たすき。しょぼーん」
紅美鈴の静かなつぶやきが、湖の上をゆらゆらと流れていく。
蛇足だが、道具屋の店主は二日で全快した。
「この褌、やっぱり凄い効き目だ。怪我の理由は分からないけど。今度店の品に加えよう」
事実を知らない者は、幸せである。
「おわれ」
って、パチェさん、あなたという人はあなたという人はあなたという人は
たすきがけのメイドさん達も大変萌えビジョン思うです。
我ながら恐ろしいジャンルを掘ってしまいました。ナイフが飛んで来ない事を祈ります。謝々。
>こんな時にさえ忘れられるのか…哀れ門番w
えー、その後、これをいつも首からぶら下げろ。と、咲夜さんから手渡されたんではないかと、金太郎みたいに。謝々。
そればかりが只、気になります。ご馳走様でした(ぇ
たぶん、「参謀役は、戦場には直接出ないから、締める必要はないのよ」と吹き込んで、上手い事スルーしたのではないかと。でも、褌締めて「おおおっ、これが侍魂か!! 」と男塾の塾長みたいな魔女様も見たいよーな。それではこれにて失礼します。
今度はどんなおバカをやってくれるのか楽しみでなりません。
えーと、またろくでもない話を思いつきました。Drパチェシリーズになりますが、よろしければ読んでいただけると幸いです。