とある森の分かれ道。
立て板の横で小僧が昼寝していると、旅人がやって来た。
「あー、何だこれ?」
旅人が立て板を見てそう言うのを聴き、小僧が片目を開けて「道標」とぼそり。
旅人、顎に手を当てふむふむ頷くと、手にした箒で立て板を横殴り。
矢印がぐるぐる回って、反対の向きで止まった。
「よし」
満足げに息を吐き、矢印の向きに去っていく。
変な奴だと思いつつ、片目を閉じる小僧。
欠伸一つしてからすやすや。
とある森の分かれ道。
立て板の横で小僧が昼寝していると、旅人がやって来た。
「・・・道標ね?」
姿勢良く立ち止まって言う旅人に、小僧は寝言で「だと思う」。
旅人は何も言わずに標の通りに歩いていった。
足音で目の覚めた小僧、ふと横目に道を見ると、どちらの道へも続く足跡。
さて面妖と思いつつ、肘を枕に眠り小僧。
ちょうちん浮かべてすやすや。
とある森の分かれ道。
立て板の横で小僧が昼寝していると、旅人がやって来た。
「や、これは」
旅人が板に気付いてはたと首を向け、小僧は「八卦八卦」等とぼやく。
暫し立ちんぼうにて思案の旅人、その内に座り込む。
やがて名案来たりと顔輝かせ、気合一閃真っ二つ。
「決断力!」
勘違い様に嬉々と旅人、棒だけになった標を見ずとことこ。
あれはどっちの道かしらんと小僧、標を直して夜も更けて。
今夜の月より静かにすやすや。
とある森の分かれ道。
立て板の横で小僧が昼寝していると、旅人がやって来た。
「何してんのよ、ここで」
不思議げに目だけで言う旅人が、自分を呼んでると気付いて「ほう」と小僧。
なんだ巫女かぁ、けらと笑んで旅人を見る。
笑われれば当然怒る旅人、喚かず小僧を打ち払い。
「親切の押し売りはくーりんぐおふよ。意味判らないけど」
怒鳴って、板を蹴倒しざくざくと押し通る。
いたた道を通れよ、涙目に小僧呟く。
眠気も飛んで少し思い。
(ああいう手合いは親心知らずで、大層気分が良い)
とある森の、獣道からしか至れない一本道には、悪戯好きの道祖神が居るという。
森の出口を指す道標を造って、ただそこに置くだけ。
人がその真偽に思い悩むのを見て喜ぶのが好きなのだそうだ。
結局、どちらの道を選んでも、真っ直ぐな一本道だから、外には出れるのだが――
道標と逆の向きを選ぶと、後ろから笑い声が聞こえるのだ。
振り返ると看板は無くなっていて、
自分がこの道をどれだけ歩いてきたのか、見当が付かなくなってしまうのだという。
この一本道を、人はこう呼んで怖れるのだと。
その名も、『人生の曲がり角』。
というか神さまぶん殴って足蹴にしてまで進むのか。
相変らずすげぇ巫女だ。