はじめに
このお話にはちょっと百合要素が含まれます。そういうのがお嫌いな方はご注意下さい。
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「ごめんなさい、どうやら私の勘違いだったみたい」
微塵も気持ちがこもっていない、形だけの謝罪をして霊夢は何処かへと飛び去った。
いきなり出てきて、いきなり仕掛けてきて、いきなり帰るなんて、博麗の巫女さんはいつの間にこんなにアグレッシブになったのだろうか?
「まったく、これでこの歪な月が元に戻らなかったら霊夢のせいだぞ……なあ?」
傷だらけの身体に気をつけて地面に座り込む。
本当はこの場で寝転びたい程消耗しているが、背中にも大きな怪我をしている以上それも出来ない。
はぁ…それにしても、2対1でここまでやられるとは、ホント妬ましい奴だ。
「御免なさい、私のせいで」
ずっと黙り込んでいたアリスがようやく発した言葉は、霊夢のそれとは違いひどく想いがこもっていた。
「…あー、別に問題無いだろ。いや、無い事は無いが、他にも気づいている奴はいるだろうし…な。そいつに任せよう」
「そうじゃなくて!……私を庇って、けが…したこと…」
解ってる。解っていてわざと検討はずれな返事をした。
霊夢との弾幕ごっこ中、アリスは何かに気を取られていたのか全く集中出来ていなかった。
そして直撃を受けそうになったアリスを庇い、私が被弾した。
ただそれだけのことだ。そんなに深く受け止められても困る。
「御免なさい。…自分から連れ出しておいて足を引っ張るなんて…わたし…」
「だから気にしなくていいって言ってるだろ?良い暇つぶしになったし、霊夢と久々に弾幕ごっこ出来たし楽しかったぜ?あ…いや楽しかったって言うのもアレだが…」
「ごめん…なさい」
…まいった。何故か解らないがアリスはひどく落ち込んでいる。
確かに、庇った時に出来た背中の傷はヒリヒリ痛むが、これくらい薬を塗って2日もすれば治る。
この服ももう着れないが、それも弾幕ごっこをしていれば決して珍しい事ではない。
それくらいアリスにだって解っている筈。
だというのにこの落ち込みようは一体なんだ?
「ごめんなさい」
私が考えに耽っている間もアリスは謝り続ける。
これは…良くないな。
「ごめんなさい」
「おいアリス、もう分かったから。もういいから、な?」
「…御免なさい」
「だから」
「御免ね…魔理沙…」
埒が明かない。
「ごめんね…」
「アリス。もう一度謝ったらキスするぞ。頬やおでこじゃなく、唇に」
「っ…!」
だから少し卑怯な手を使う。
アリスは私のことを好ましく思っていないはず。今私たちが一緒に行動しているのは『しかたなく』だ。
誰だって嫌いな相手にキスなんかされたくない。だから黙るしかない。
確実な、でもほんのちょっと汚くて、少しだけ心が痛い方法。
「……」
予想通りアリスは俯き、黙る。
彼女の、自分に対する感情が少しだけ見えた気がして、痛い。
「ほら!とっとと帰るぜ!もう泣く子も寝る時間だ」
必要以上に大声を出す。
――痛い
「………ぃ」
「ん?」
飛び立とうとした私を、アリスの呟きが止める。
「ごめんなさい」
「…え?」
「御免なさい」
一度目は俯いたまま
二度目は私の眼を見て
アリスははっきりと謝った。
「…おいアリス?」
「…御免なさい」
瞳を潤ませ、顔を真っ赤にしてアリスは謝り続ける。
その意味は――
「おい、お前……」
「ごめんね」
「ちょっと待てよ、だから許すって…」
「ごめんなさい」
「……」
「ごめんなさい」
「……」
「…御免ね、ごめんなさい」
「…」
「痛かったよね?ごめっ……っ!」
「…………………………」
「………………………ん」
「……」
「……」
「……」
「御免…ね」
「………分かったってさっきから言ってるだろ?」
「…うん」
「…まったく…月の魔力に当てられたか?」
自分の言葉に苦笑する。
――もしそうなら惑わされたのは一体どちらなのだろう
・
・
・
「うぁわぁ~~~~~~~~うわ~~~~~~~~!と、とんでもないものを見てしまったぁ!」
「……」
「ゆ、幽々子様早く行きましょう!私達は月を戻しに来たんです!決して覗きをするためでは!」
「ごめんなさい」
「はへ!?」
「ごめんね妖夢ぅ」
「ちょちょちょちょちょゆゆゆゆゆこさまぁ!?なななななななななななななな!」
「ごめんなさい妖夢」
「嘘!?ウソ!?ちょっと待ってください幽々子様!!何で謝っているんですか!?」
「解ってるくせに御免ね妖夢」
「い、言いませんよ!?言いませんからね!絶対に言いませんからお願いだから離れてください!」
「ごめんなさぁ~~い妖夢ぅ~」
「うわぁぁ許してください幽々子様ぁ~~!!」
「あら、妖夢はそっちの役の方がよかったの?」
「ひあ!?」
「それなら」
「うわぁぁ!!御免なさい!ごめんなさいぃ!!お願いですから!」
「妖夢。もう一度謝ったらキスするわよ。頬やおでこじゃなく、唇に」
「…」
「なんで黙るのよ」
「だ、だって…」
「おしおき♪」
「そんな!っ…………っ!!」
「…………………………」
「っ!!…………………」
「…………………………」
夜は終わらない
「で、何に気を取られてたんだよ?」
「ぅ……」
「霊夢とやりあってるんだぞ?集中してないとまずいなんて考えるまでも無いだろうに」
「そ…のぉ……魔理沙、すっと私の上を飛んでたじゃない?」
「ん?そうだったっけ?」
「それで…その……」
「……?」
「魔理沙、あなた今、スカートの下に何を穿いてる?」
「……!」
「ご、御免ね!私がいきなり連れ出したから飛ぶ準備出来なかったわよね!?」
「それであんなに謝ってたのかあああああ!!!!」
「ごめんなさい!」