注)この話は創想話の方に上げた血のヴァ(これ以上の羞恥プレイは勘弁してください)…のエピローグです。
――紅魔館
不思議な夜だった。
いつもは静かな夜の帳。
ときおり激しい閃光が走り、小さな星々が生まれては消え、消えては生まれる。
館の主、レミリア・スカーレットはそんな夜空の乱痴気騒ぎを興味なさげに眺めながら、深夜の優雅なお茶会を愉しんでいた。
「いったいなんなんですかねえ、あの夜空は」
「さあね。――まあ、あえて言うならどっかの馬鹿たちがくだらないお祭り騒ぎに便乗して暴走しまくってるんでしょうよ」
「お祭り……ああ! ヴァンアレン帯デーのことですね」
「……」
ヴァンアレン帯デー。瀟洒で完全な従者が口にしたおかしな電波。思わず突っ込みそうになるのをなんとか押さえ込んだレミリア。
自分の記憶が確かなら、毎年2/14は好意を寄せる相手に茶色くて甘い高カロリー食品を贈る特別な日であった筈だ。
……いったい、どこをどう間違えば『ヴァンアレン帯デー』なんて奇怪な言語が飛び出してくるのだろう。
咲夜を問いただしたい衝動を抑え(あとでパチェにでも聞いてみよう)落ち着いた物腰で何気ない風を装った。
「……あえて詳細は聞かないでおきましょう。兎に角、たまにはこんな騒がしい夜もいいものだわ」
「ええ、そうですね……あら、お嬢様」
「ん?」
「あれを」
紅茶の香りをゆっくり愉しむために閉じていた目を夜空に向ける。
「……ふぅん、紅いわね」
「紅いですねえ」
黒い空に縦横無尽に走った紅い帯。
とても綺麗なその帯の表面には絶え間なく流星雨が降りしきり、その度に帯は美しい輝きを放ち夜空は一瞬真っ赤に染まる。
「……」
「……」
ずずー
シネマチックな夜空に気を取られ、レミリアの啜るカップからはしたない音が漏れた。
幸いそんな不作法に気がついた者は居なかったので、大した問題にはならなかったのだが。
のんびり珍しい光景を眺め続ける二人。
その紅い帯のおかげかどうかは定かではないが、紅魔館のテラスには心地よい静寂が満ちていた。
ヒュゥオ… 常人には聴こえない程度の落下音
「!」 ――時よ
その音が従者の主を直撃する前に時が凍った。
咲夜が咄嗟に行使した時間停止能力。止まった時のなかを悠然とレミリアの側へ歩み寄り、彼女はスナイパーライフルの高速弾のように天から落下してきた、真っ赤な血の色をした宝玉をひょいっと手に取った。
「なにかしらね、コレ」
そして時は動き出す。
止まった時間の中で一部始終を認識していたレミリアは、些かも慌てた様子も見せずに従者に声を掛けた。
「……余計なことね、咲夜。この程度の弾丸なんて私にとっては何ほどのものではないのに」
「はい、申し訳ありません、お嬢様。ですが………これを」
「?」
「――ふぅん、綺麗なものね。なんなのかな、これは。ルビー? 紅水晶? いえ……この宝石にはなにか、別の気配を感じる。魔の気配。そう―――たましいの宿った、血の匂いか」
「そうなんですか? よくわかりませんが。なんでしたらパチュリー様に加工して貰ってアクセサリーにでも、と思ったのですけど。きっとこの真紅の宝石は、お嬢様によくお似合いですよ」
ついと咲夜が差し出した手の平の上で、夜空の赤い帯と同じように儚く輝きを放つ真紅の魔石をじっと眺めるレミリア。
やがてふっと微笑み、人というものに無意識の憧れを持つ彼女のために…最後まで人間であり続けようとする、健気な従者の瞳を柔らかに見詰めて告げた。
「………やめておきましょう。どうやらこの宝石には、もう誰かに繋がる運命の赤い糸が結び付けられているみたいだから。
先約があるものをどうこうするほど、私は悪趣味ではないわ。だいいち私にはもう、こんな宝石になんか負けないぐらい素敵な真紅があるのだから」
「はぁ、そういうことでしたら、この宝石は持ち主が来るまで大事に保管して置きますわ。
でも、お嬢様の素敵な宝石ってなんなんです? 私は一度も見たことがありませんよ?」
「ふふ……咲夜は鈍いね。――いいよ、教えてあげるから、こっちに来てみなさい?」
そう婉然と微笑み、咲夜を自らがつくテーブルに呼び寄せるレミリア。くすくすと悪戯っぽく微笑するあるじに一抹の不安を感じながらも、咲夜は言われたとおりにレミリアのすぐ間近に歩を進めた。
「もう、ほら。もっと傍に来ないと見せられないじゃないの。さ、こっちこっち」
「?」
レミリアに誘われるままに彼女の座る椅子の傍に跪き、不思議そうにあるじを見上げる咲夜。
互いの唇が触れ合わんばかりに近づいた顔と顔。
優しく自分の瞳を見おろすレミリアの紅い瞳に、咲夜の青い瞳が映りこむ。
………まさか
ちゅっ
「!?」
「―――くっ、ふふ、あはははは! もう咲夜ってば本当に可愛いなぁ。
そんなことじゃあ体がいくつあっても足りないわよ? ああ、愉快だわ。本当に……」
「………」
唖然として、唇に指を這わす咲夜。目に涙を浮かべながら心底愉しげに体を震わせるレミリア。
「お、お嬢様。こ、こここれはいったい……?」
「はー、可笑しいわ。これ程愉快な気持ちになるんだったら、もっと早くに教えてあげるべきだったね。
―――いい、咲夜? この世で最も高貴な真紅はなんだと思う?」
しばし黙考。やがてごく自然にその答えは紡ぎ出される。
「……お嬢様の、瞳」
「はい、良く出来ました。その通り。ノーブレスト・オブ・スカーレット―――最も気高き真紅の体現者、レミリア・スカーレットが心から気に入ってる瞳の色。それを間近で、互いの瞳が映りあうほどに近づいて愛でることが許されるのは、この世でただ一人。そう、永遠に幼き紅い満月に―――生涯の忠誠と愛を誓った、十六夜の月、貴女だけなのよ? ―――咲夜」
「………」
固まったまま、言葉も発さず身じろぎひとつもしない石像。
「……? ど、どうしたのよ。咲夜? ねぇ、おーい。聞こえてるのー?」
ぶ
「ぶ?」
ブシュウウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「きゃっ」
盛大な鼻血が勢い良く迸り、夜空に綺麗なアーチを掛けた。
「………はぁ、もー本当にだらしがないなぁ…。矢張りどこか抜けてるのよね、咲夜は」
ふぅ、と溜息をつき、テーブルに身を投げ出し頬杖をつくレミリア。天界を満たすロマンティックな赤い帯の煌めきが、地の赤い噴水に染まり、何故だかとても間抜けなものに堕してしまった気がした。でもまあ…それもいいかな、とも彼女は思う。
夢幻の存在である吸血鬼の時間は、限りある瞬き煌めく蝋燭の炎のような人間の時間と比べると――無意味な程に無限であり無謬であり無尽でもあり、残酷なまでに……自らの磨り減った心に、無間地獄の如き退屈をもたらす。
今、石畳の上にぶっ倒れて美しい紅き噴水を放出している彼女は、そんな自分の心を知ってか知らずか、「私はいつまでも死ぬ人間ですよ?」と人間のままでいることを選択し、共に永遠の緩慢なる滅びの道程を歩むことに抗ってくれた。きっと、咲夜が寿命を迎え死に到る時。生の呪縛から解き放たれて、久遠の安息を得るとき。自分は彼女のために泣くであろう。それこそ、数百年の永きに及ぶ存在の円環に、終止符を打ちたい……と思えるほどに、悲しみ嘆き、悲嘆の湖に身を沈めることであろう。だが、それでいい。それでいいのだ。それこそがこの自分の望んだ正解であり、彼女が望んだ永遠でもある。好きだから。好きだからこそ、相手の心に永遠に深く、深く、決して消えない傷痕を刻み込みたい。二人が過ごした刹那の記憶を、幸せな思い出を……未来永劫、変わる事無く憶えていて欲しい。それこそが―――共に永遠を歩むことでは得られぬ、真の永遠。
咲夜はあの通りの抜けた性質だから、そこまで考えて自分の誘いを拒絶したのかどうかは、本当のところわからない。改まって聞くのが恐ろしく思える程度には、自分にとって十六夜 咲夜という存在は大きなものだったのだ。だから「ふぅん、そう。じゃあ仕方ないよね」と心にも無い戯言を彼女に返すのが精一杯だった。いつかはこんな取りとめもなく、間抜けな日々に終わりの幕が引かれる時が、来るのであろう。だから、せめて――せめて今だけは、声を上げて笑い合える日常を楽しみたい。実のところ、運命を操る程度の能力を保持する―――レミリア・スカーレットは、自分の運命なんて、知ることが出来ないのだから。
「………ふふ、今夜も紅が……綺麗ね」
いまだ消える事無く夜空を彩る、大小二本の運命の紅い糸を眺めながら、レミリア・スカーレットは優雅に紅茶を含む。ティーカップの中身に満たされた紅に、小さな波紋がさざめく。格調高い芳醇な紅を嚥下する喉が艶めかしく揺れた。真っ赤な真っ赤な、身の内も外も真紅の夜。そう―――
―――二月十四日は、静なる日。一日や二日ずれた所でその意味が変わるものではない。愛しきあのひとに、日頃の感謝と最大限の敬意を。チョコなど、在っても無くても同じこと―――
「―――ねぇ、咲夜」
色々と終わっていた夜にフィナーレを。
紅魔の嬢が囁いた慈しみの篭った最後の言葉が――優しく世界に浸透した。
――紅魔館
不思議な夜だった。
いつもは静かな夜の帳。
ときおり激しい閃光が走り、小さな星々が生まれては消え、消えては生まれる。
館の主、レミリア・スカーレットはそんな夜空の乱痴気騒ぎを興味なさげに眺めながら、深夜の優雅なお茶会を愉しんでいた。
「いったいなんなんですかねえ、あの夜空は」
「さあね。――まあ、あえて言うならどっかの馬鹿たちがくだらないお祭り騒ぎに便乗して暴走しまくってるんでしょうよ」
「お祭り……ああ! ヴァンアレン帯デーのことですね」
「……」
ヴァンアレン帯デー。瀟洒で完全な従者が口にしたおかしな電波。思わず突っ込みそうになるのをなんとか押さえ込んだレミリア。
自分の記憶が確かなら、毎年2/14は好意を寄せる相手に茶色くて甘い高カロリー食品を贈る特別な日であった筈だ。
……いったい、どこをどう間違えば『ヴァンアレン帯デー』なんて奇怪な言語が飛び出してくるのだろう。
咲夜を問いただしたい衝動を抑え(あとでパチェにでも聞いてみよう)落ち着いた物腰で何気ない風を装った。
「……あえて詳細は聞かないでおきましょう。兎に角、たまにはこんな騒がしい夜もいいものだわ」
「ええ、そうですね……あら、お嬢様」
「ん?」
「あれを」
紅茶の香りをゆっくり愉しむために閉じていた目を夜空に向ける。
「……ふぅん、紅いわね」
「紅いですねえ」
黒い空に縦横無尽に走った紅い帯。
とても綺麗なその帯の表面には絶え間なく流星雨が降りしきり、その度に帯は美しい輝きを放ち夜空は一瞬真っ赤に染まる。
「……」
「……」
ずずー
シネマチックな夜空に気を取られ、レミリアの啜るカップからはしたない音が漏れた。
幸いそんな不作法に気がついた者は居なかったので、大した問題にはならなかったのだが。
のんびり珍しい光景を眺め続ける二人。
その紅い帯のおかげかどうかは定かではないが、紅魔館のテラスには心地よい静寂が満ちていた。
ヒュゥオ… 常人には聴こえない程度の落下音
「!」 ――時よ
その音が従者の主を直撃する前に時が凍った。
咲夜が咄嗟に行使した時間停止能力。止まった時のなかを悠然とレミリアの側へ歩み寄り、彼女はスナイパーライフルの高速弾のように天から落下してきた、真っ赤な血の色をした宝玉をひょいっと手に取った。
「なにかしらね、コレ」
そして時は動き出す。
止まった時間の中で一部始終を認識していたレミリアは、些かも慌てた様子も見せずに従者に声を掛けた。
「……余計なことね、咲夜。この程度の弾丸なんて私にとっては何ほどのものではないのに」
「はい、申し訳ありません、お嬢様。ですが………これを」
「?」
「――ふぅん、綺麗なものね。なんなのかな、これは。ルビー? 紅水晶? いえ……この宝石にはなにか、別の気配を感じる。魔の気配。そう―――たましいの宿った、血の匂いか」
「そうなんですか? よくわかりませんが。なんでしたらパチュリー様に加工して貰ってアクセサリーにでも、と思ったのですけど。きっとこの真紅の宝石は、お嬢様によくお似合いですよ」
ついと咲夜が差し出した手の平の上で、夜空の赤い帯と同じように儚く輝きを放つ真紅の魔石をじっと眺めるレミリア。
やがてふっと微笑み、人というものに無意識の憧れを持つ彼女のために…最後まで人間であり続けようとする、健気な従者の瞳を柔らかに見詰めて告げた。
「………やめておきましょう。どうやらこの宝石には、もう誰かに繋がる運命の赤い糸が結び付けられているみたいだから。
先約があるものをどうこうするほど、私は悪趣味ではないわ。だいいち私にはもう、こんな宝石になんか負けないぐらい素敵な真紅があるのだから」
「はぁ、そういうことでしたら、この宝石は持ち主が来るまで大事に保管して置きますわ。
でも、お嬢様の素敵な宝石ってなんなんです? 私は一度も見たことがありませんよ?」
「ふふ……咲夜は鈍いね。――いいよ、教えてあげるから、こっちに来てみなさい?」
そう婉然と微笑み、咲夜を自らがつくテーブルに呼び寄せるレミリア。くすくすと悪戯っぽく微笑するあるじに一抹の不安を感じながらも、咲夜は言われたとおりにレミリアのすぐ間近に歩を進めた。
「もう、ほら。もっと傍に来ないと見せられないじゃないの。さ、こっちこっち」
「?」
レミリアに誘われるままに彼女の座る椅子の傍に跪き、不思議そうにあるじを見上げる咲夜。
互いの唇が触れ合わんばかりに近づいた顔と顔。
優しく自分の瞳を見おろすレミリアの紅い瞳に、咲夜の青い瞳が映りこむ。
………まさか
ちゅっ
「!?」
「―――くっ、ふふ、あはははは! もう咲夜ってば本当に可愛いなぁ。
そんなことじゃあ体がいくつあっても足りないわよ? ああ、愉快だわ。本当に……」
「………」
唖然として、唇に指を這わす咲夜。目に涙を浮かべながら心底愉しげに体を震わせるレミリア。
「お、お嬢様。こ、こここれはいったい……?」
「はー、可笑しいわ。これ程愉快な気持ちになるんだったら、もっと早くに教えてあげるべきだったね。
―――いい、咲夜? この世で最も高貴な真紅はなんだと思う?」
しばし黙考。やがてごく自然にその答えは紡ぎ出される。
「……お嬢様の、瞳」
「はい、良く出来ました。その通り。ノーブレスト・オブ・スカーレット―――最も気高き真紅の体現者、レミリア・スカーレットが心から気に入ってる瞳の色。それを間近で、互いの瞳が映りあうほどに近づいて愛でることが許されるのは、この世でただ一人。そう、永遠に幼き紅い満月に―――生涯の忠誠と愛を誓った、十六夜の月、貴女だけなのよ? ―――咲夜」
「………」
固まったまま、言葉も発さず身じろぎひとつもしない石像。
「……? ど、どうしたのよ。咲夜? ねぇ、おーい。聞こえてるのー?」
ぶ
「ぶ?」
ブシュウウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「きゃっ」
盛大な鼻血が勢い良く迸り、夜空に綺麗なアーチを掛けた。
「………はぁ、もー本当にだらしがないなぁ…。矢張りどこか抜けてるのよね、咲夜は」
ふぅ、と溜息をつき、テーブルに身を投げ出し頬杖をつくレミリア。天界を満たすロマンティックな赤い帯の煌めきが、地の赤い噴水に染まり、何故だかとても間抜けなものに堕してしまった気がした。でもまあ…それもいいかな、とも彼女は思う。
夢幻の存在である吸血鬼の時間は、限りある瞬き煌めく蝋燭の炎のような人間の時間と比べると――無意味な程に無限であり無謬であり無尽でもあり、残酷なまでに……自らの磨り減った心に、無間地獄の如き退屈をもたらす。
今、石畳の上にぶっ倒れて美しい紅き噴水を放出している彼女は、そんな自分の心を知ってか知らずか、「私はいつまでも死ぬ人間ですよ?」と人間のままでいることを選択し、共に永遠の緩慢なる滅びの道程を歩むことに抗ってくれた。きっと、咲夜が寿命を迎え死に到る時。生の呪縛から解き放たれて、久遠の安息を得るとき。自分は彼女のために泣くであろう。それこそ、数百年の永きに及ぶ存在の円環に、終止符を打ちたい……と思えるほどに、悲しみ嘆き、悲嘆の湖に身を沈めることであろう。だが、それでいい。それでいいのだ。それこそがこの自分の望んだ正解であり、彼女が望んだ永遠でもある。好きだから。好きだからこそ、相手の心に永遠に深く、深く、決して消えない傷痕を刻み込みたい。二人が過ごした刹那の記憶を、幸せな思い出を……未来永劫、変わる事無く憶えていて欲しい。それこそが―――共に永遠を歩むことでは得られぬ、真の永遠。
咲夜はあの通りの抜けた性質だから、そこまで考えて自分の誘いを拒絶したのかどうかは、本当のところわからない。改まって聞くのが恐ろしく思える程度には、自分にとって十六夜 咲夜という存在は大きなものだったのだ。だから「ふぅん、そう。じゃあ仕方ないよね」と心にも無い戯言を彼女に返すのが精一杯だった。いつかはこんな取りとめもなく、間抜けな日々に終わりの幕が引かれる時が、来るのであろう。だから、せめて――せめて今だけは、声を上げて笑い合える日常を楽しみたい。実のところ、運命を操る程度の能力を保持する―――レミリア・スカーレットは、自分の運命なんて、知ることが出来ないのだから。
「………ふふ、今夜も紅が……綺麗ね」
いまだ消える事無く夜空を彩る、大小二本の運命の紅い糸を眺めながら、レミリア・スカーレットは優雅に紅茶を含む。ティーカップの中身に満たされた紅に、小さな波紋がさざめく。格調高い芳醇な紅を嚥下する喉が艶めかしく揺れた。真っ赤な真っ赤な、身の内も外も真紅の夜。そう―――
―――二月十四日は、静なる日。一日や二日ずれた所でその意味が変わるものではない。愛しきあのひとに、日頃の感謝と最大限の敬意を。チョコなど、在っても無くても同じこと―――
「―――ねぇ、咲夜」
色々と終わっていた夜にフィナーレを。
紅魔の嬢が囁いた慈しみの篭った最後の言葉が――優しく世界に浸透した。
居ないなんて-有り得ないよーーーーー