はぁ、寒いなぁ。
ここは寒いし、暗いし、一体どこなんだろう。
よくわからない。
ただとにかく寒い。
両手を合わせて息をはぁっと吐く。
ほんの数瞬だけほのかにあたたかくなる両手。
でもそれは一時凌ぎ。
もっとあたたかくなるためにはどうすればいいのかな?
…そうか、動けばいいんだ。
そんなことに気づけないなんて、寒さで頭がやられちゃったかな?
でも、今は暗いから動きたくない。
夜は恐ろしい妖怪たちが跋扈するって、前におばあちゃんが言っていたから。
…いつまでこの夜は続くのかな?
妖怪に見つからないように縮こまって身を隠している。
見つかっちゃダメだから焚き火はできない。
見つかっちゃダメだから木の実も採りにいけない。
はぁ、寒いなぁ。
あまりにも寒いから、あたりの風景を見て気を紛らす。
この世界の風景は面白くて、見ていて飽きない。
だってこの世界は、一夜の間に様々な季節を見ることが出来るから。
春夏秋冬。様々な姿を、見ることができる。
今はきっと夏。だって私はこんなにもの汗をかいてるもの。
…あれ?おかしいな。なんで汗をかいてるのに、こんなに寒いんだろう。
不思議だな。とっても不思議だな。
うんうんと考えていると、変な形をした生き物が私の目の前に現れた。
――ねぇ、あんたは食べられる人類かい?
おかしなことを聞く生き物だ。
そんなの見ればわかるじゃないか。それよりも、私に近づかないでよ。私は今、悩むのに忙しいんだから。
――ねぇってば。あんたは食べられる人類なのかい?
ねぇ、おかしなことを聞く生き物さん、私の言っていたことが聞こえていたかしら?私は今、忙しいの。
――ねぇ。お前さんは、私たちの食料かい?
蠢く影。
変な形をした生き物。
無数に点在する、闇そのものを纏う者。
――ねぇ。お嬢さんは人間かい?
――ねぇ。貴女は私のトモダチかしら?
――ねぇ。
――ねぇ。
――ねぇ。
――ねぇ!
あぁ、もう!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
私は今忙しいんだから放っておいてよ!
変な生き物の手を引きちぎる。
緑の液体が溢れ出て私に降り注ぐ。
すごく、べたべたした。
でもべたべたするのは夏の汗と同じ。
だから、気にしない。
それよりも気になったのは、この身も焼けるような熱。
べたべたした変な液体は、とてもとても、熱かった。
あはっ、あったかい。
ねぇ。もっとこの変な液体を、私にちょうだい。
私の体を、もっとあたためさせて。
ねぇ。あなたの液体は、おいしいかな?
ねぇ。あなたの液体は、どんな色をしているのかな?
ねぇ。あなたの液体は、私をどんな色に染めてくれるかな?
―― ね ぇ 。
変な生き物の変な声が聞こえる。
おかしいな。もう、声帯なんてとっくに潰したはずなんだけどな。
―― ね ぇ 。 ね ぇ 。
変な生き物の変な声。
高くもなく低くもない不思議な声が、響き渡る。
おかしいなおかしいなと思っていると、その変な声は私の頭の中から聞こえていることに気がついた。
おかしいな。私はなんで泣いてるんだろう。
おかしいな。なんだか私が私じゃないみたい。
…あぁ、そうか。
私はただの人間だし、妖怪を倒す術を持たない。
なら、今生きている私はきっとあの変な妖怪なんだ。
そ~なのか~。
私の周りはいつも闇だから、あの妖怪はきっと宵闇の妖怪だったのだろう。
まぁいいか。暗いのには慣れてるし。
それに私はもう妖怪なんだから、外を歩き回ってもいいんだよね?
木の実を探すために歩くんじゃない。
木の実は人間の食べるものだから。
だから、私は木の実じゃない食べ物を探して歩き回る。
――ねぇ、あなたは食べれる人類?
食べれる人類発見。
いただきま~す。