Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

そこにとどまれ

2005/03/15 02:28:59
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「もし、そこな氷精」

厳つく、しかしどこか深みの有る、
いわゆる老人の声が湖面に響いた。

「なによ、そこなお爺さん」

対して、真っ直ぐで、恐れるものなど無いような、
幼い声が木の葉を揺らした。

「尋ねたいのだが、ここらに人里はあったかな」

老人はその厳つい声を、できる限り柔らかくして言った。

「なによあんた。何者?」

氷精は警戒心を露わにした口調で聞き返す。


老人はふむ、と髭をさすった。

「旅人―――と云ったところか」

「旅人?旅なんてして何が面白いのよ」

氷精は続ける。

「どこへ行っても山、川、湖、妖怪だらけ。動き回るだけ疲れるだけじゃない」

カカ、と老人は笑った。

「その通り、疲れるだけじゃよ。
 ただ、行く当ても無いと、旅くらいしかする事が無いんじゃよ」

「ふん。変な爺さんね。湖のあっち側に小さい里があるわ。
 そこに行くのはお勧めしないけどね」

「何故か?」

「最近妖怪がよくそこを襲うらしいのよ。力の強い奴みたいで、人間も大変ね。
 人間なんてどうでも良いけど、私のこと無視してるのはムカつくわ」

好き勝手にあばれやがって、と不機嫌そうに里の方を向く。

「とにかく、そんな所行ったらあんたみたいな爺さん、すぐに食べられてお終いよ」

腕を組んで見下ろすように氷精は言う。

「心配無用。むしろ好都合じゃよ」

老人はまた髭をさする。


「なにさ。食べられたいの?」

「その妖怪を退治すれば、食い扶持ができると思うてな」

「食い扶持? 妖怪食べるの?やっぱり変な爺さんね」

「いやいや。その妖怪を退治して、
 その報酬に少々食物を頂戴しようということじゃ」

「できるの?結構強いよ? まぁ私程じゃないけどね」

「なに、わしも腕に自信は有る。これでも昔は名の通った剣士だったんじゃよ」

「ふぅん剣士? 剣持ってないじゃない」

「剣が無くとも、どうとでも成るものよ」

老人の自信は揺らがない。

氷精は納得いかない様子で言う。


「ほんと変な爺さんね。ふん。すきにしたら?」

そんな様子の氷精をみて老人は笑う。

「広い広い庭の番を、長い間わし一人でやっていたからの。
 小さな里なら楽なものよ」

「すきにして、食べられちゃえばいいわ」

「案内、かたじけなかった」




老人はそう言うと、湖の岸辺を歩き出した。
氷精は宙に浮き、釈然としない表情のまま、その老人を見送って―――

「―――あっ!!」

突然に、氷の弾丸を老人に放った。

む、と一言漏らし、老人は後ろに下がってそれを回避する。
氷弾は老人の居た地面に列を成して突き立った。

老人の前に立ち塞がるように、氷精が飛び込んだ。

「何をするか」

「あんたこそ、なんて事しようとしてくれるのよ」

何、と老人が氷精の背後を見ると、
氷精の背後の大きな岩の陰に、一抱えの雪が残っていた。

いや、残っているはずは無い。
季節は秋、冬の雪が残るには暑すぎる夏を越えねばならないからだ。

知らず、老人はその上を通ろうとしていた様だった。

「その雪は―――」

「私がここらの冷気集めて、残してるのよ。夏とか、大変だったんだから」

「それは、何故」

「ふふん。いいわ、特別に教えてあげる」

氷精は自慢げに言うと、背後の岩に飛び乗った。

「いい? 私の友達はね、冬にしか出てこれないの」

「ふむ」

「だから、冬の間しか一緒に遊べない。でも、冬は短い。そこで!」

びしりと指を突きつけて言う。

「こうして雪を残して、少しでも早く冬が来るようにするのよ。
 雪ってったら冬。いつもより早く、彼女も来てくれるかも知れないじゃない!」

「ほうほう。成る程のう」

「どう? この完璧な理論!」

岩の上で腕を組み誇らしげに胸を張る。

「しかし…暑さはその冷気で何とかなるやも知れんが、
 わしの様に其処を踏み荒らしてしまう者や獣が居るやも知れん。
 それは如何したのかの? 四六時中、張り付いているわけにもいくまいに」

「だから、四六時中張り付いてたのよ。冷気だって気を抜くと逃げちゃうし」

「なんと…」

「寝るときもこの岩の上よ。まぁ、あんまり遊べないし、ここらは蛙も少ないけど…
 ひつようなだいかってやつ?」

どれほど効果が有るやも分からないその理論に、
気の向くまま気の向いたままに動く妖精が、その時間を削るとは。

余程の一途か、莫迦か。

どちらにせよ、それは老人にとって眩しい物であった。

「…なんとも。いや、感服致した」

「ふふん。やっと私の凄さが分かったみたいね」

「お主には勝てぬ。そうか、ここでずっとのう…」

感慨深げに、氷精と、氷精の守る雪の塊を見つめる。

その、氷精の友人が、いつもより一秒でも早く来れば、
この氷精は自らの理論のお陰だと喜ぶだろう。
たとえ早く来ず、遅れてきても、その事など忘れて、
友人との再会を喜ぶのであろう。

「それで、あんたはやっぱりあの村に行くの?」

誉められて、機嫌が良くなった氷精が聞いてくる。
老人はああ、と応えて言う。

「腕に、自信が有るからの。棒切れ一本もあれば打ち倒して見せよう」

「ふぅん」




老人は岩を迂回して、村に向かって歩を進める。
氷精は岩の上に座ってその背中を見ている。

「最後に一つ問わせてくれんか」

唐突に老人が歩を止め、振り返って言う。

「守るとは、どういうことかの?」

半年以上、雪塊を守り続けた氷精は答える。

「今私がやってること。ずっとその傍に居ることよ。当然じゃない」

「そう、当然の事じゃったな。それではな」

老人は再び歩き始める。

眼前に深い森が見える。
これを抜ければ、氷精の言う村がある筈だ。

森の手前、老人は振り返る。
遠くなった湖の岸辺の岩の傍で、氷精が蛙を探していた。

老人は眩しいものを見るかのように目を細めて、言う。

「わしには、それが出来なんだ」

老人は三度、歩き始めた。


読んでくれてありがとう。

あのお爺さんは、白玉楼から出た後、どこへ行ったのやら。

あと、バカは可愛いよなぁ。
口調が分からず紅魔郷立ち上げたもののやっぱり分からず。
それ故少々違和感を覚えるかもしれませんが。
ひとの世夢なし
コメント



1.七七四削除
そう! あなたの言う通り「バカは可愛い」
(チルノ)=(凄いバカ)≒(凄く可愛い)コレ東方宇宙の真理
そこに気づくとは……中々侮れない人だ。

チルノの口調も違和感無く、とても楽しく読めました。
2.shinsokku削除
通り魔みたいに、爽快で気持ち良い御作で。
静かな北風が自分の皺の少ない脳味噌にも染みまする。
美味、美味。
3.無名削除
守る事はずっと傍にいること。
なんの捻りも無い言葉ですが、それゆえに深い言葉でもあり。
4.どこかで見る程度の能力削除
何と…最近萌え上がり始めたチルノ熱に油が注がれました。一生懸命なバカがよく書かれていて非常に可愛い…。
そしてもう一つ、爺さんまさにツボ。最後の一言が何とも…。

全体的にどことなく温かくて、こういう作品大好きです。
5.名無し妖怪削除
テルノ可愛いよテルノ
6.名無し妖怪削除
なんとも素晴らしい。爺様が素敵すぎです。
やはりお馬鹿には勝てませんなぁ……無敵だチルノ(笑)
7.しん削除
いいよぅ
8.名無し妖怪削除
バカじゃないと超えられない領域はあると思います。チルノは馬鹿じゃなくてバカだと思うとります。
9.名無し妖怪削除
ほんとカッコイイなぁ、チルノ(笑)
10.名無し妖怪削除
無駄だと思っていても精一杯抵抗するチルノが好きです。
11.名無し妖怪削除
バカはわるくない。バカはわるくない。
12.名無し妖怪削除
ちょっと泣く。(メガネをはずす)
いや……このバカは決して、ただのバカではないのだと…
13.名前が無い程度の能力削除
チルノかわいいなぁ
14.名前が無い程度の能力削除
もの悲しくもとても美しい物語ですね。
15.名前が無い程度の能力削除
ご馳走様でした
16.名前が無い程度の能力削除
なんとなくチルノで検索かけたらこんな名作が最初の方にあったなんて。これだからやめられない
17.名前が無い程度の能力削除
未だに見にきてしまう程好きです
18.絶望を司る程度の能力削除
チルノ・・・マジかっけぇ。